青学の天才さんは、本日非常に虫の居所が悪いらしい。
未成年
「わ、次除光液私にも回して!」
「やだ!どうしよう?メイク落とし用コットン部室っ!」
「3組の山野さん、長いスカート二枚あるって!」
「ちょっと、除光液〜〜…」
ただいま3年6組は大わらわです。
というのも今朝方、抜き打ち風紀検査の告知があったため。
女の子はあっちに行ったりこっちに行ったり大忙しだ。
大変だねえ〜。
そもそも何だって怒られるのを承知でそんな面倒な事をしてくるんだか。(マニキュアとか)
どうせあと6、7年もしたらいやでもしなきゃならないんだし、今くらいのんびりしとけばいいのに。
全くもって疑問。
女の子って謎。
それでも皆さん大忙し。ぱたぱた、ぱたぱたと。
そんな中極寒オーラを醸し出してる方が約一名。
その名も、我らが天才・不二周助。
それはもう周りが凍り付いて氷河期になっちゃうんじゃないかってくらい寒い。
季節は初夏だって言うのにおかまいなしに寒い。
それでも抜き打ち検査で大忙しの女の子達は
いつも自分らがきゃーきゃー言いながら見つめてる不二クンが
そんな北極みたいな顔をしているのに気づいてないらしい。
知らぬが仏、ってね。
窓からいっそ清々しいほど雲一つない青空を仰いで軽ーく笑った。
「ちょいと菊丸の兄貴、」
ん?
「なんだい、朝倉のアネゴ」
ひそひそ声で話しかけてきたのは学年一の美人と名高い朝倉淳。
正確に言えば魔性系の朝倉と清純派の柏木美帆サンで
人気を二分しているのだが、まあそんなことはどうでもいい。
ただ、誰に対してもかざらない体当たりな朝倉は、少し他の女の子よりも好ましい。
「不二の旦那は何であんなにご機嫌斜めなんですかね?」
もう背中が寒くて寒くて、と不二の斜め前の席の朝倉は腕をさする。
ああ、やっぱり気づいてましたか。さすがはアネゴ。こんな時でも周りへの注意は怠りません。
ちなみに俺も背中が凍りそうです。
なんてったって朝倉の隣、つまり渦中のお人、不二の前の席は俺なんです。
「本人にきいてみたら?」
そう切り返したら朝倉はもともとでっかい目(マスカラ&アイライン&アイシャドー使用中)をますますでっかく見開いた。
あ、黒目でかっ。
「とんでもないっ!私まだ石にはなりたくないわよ。」
不二はメドゥーサですか。
確かに今あの目に射られたら石になっちゃうかも。
いつもは穏やかに微笑みをたたえる瞳が今日はバッチリ開眼されて、
おまけにその眉根にはどっかの鬼部長みたいに見事な皺がよっている。
良かったね、不二。今日が抜き打ち検査で。
みんなが大忙しで。
じゃなきゃ今頃優しくて親切でテニスの上手な不二クンのイメージもろ崩れだったよ。
いや、テニスの上手な、は残ったかもしれないけど。
「朝練の時からこうなんだよな〜」
そうなのだ。朝からもう不二はこんな調子でコートに、部室に、ブリザードを吹かせまくってた。
その雰囲気と眼光だけならいざしらず。
ラリーでもサービス練習でもバッシバッシと容赦なくハリケーンを起こしまくってたので、
練習の最後の方は後輩は誰一人と不二に近寄らなかった。
あの人を食ったような生意気ルーキー越前リョーマでさえも、だ。
「まあ、原因の予想ぐらいはつくけどねん」
うう、青空が目に染みる…
ははん、と朝倉は意味ありげに笑った。
「コレ関係ですかい、兄貴」
真っ直ぐで長い小指を立てる。綺麗に整えられた爪がつるんと光った。
さあね、っと肩をすくめた俺に、可愛いとこあるじゃん、と朝倉がにやりと口角をあげた。
相変わらず教室の中は喧噪で包まれている。
「時にアネゴ、聞きたいことがあるんですが」
「なんだい、色男。」
「なんでこう、めんどくさいことになるって分かってて違反するんですかね。」
女の子ってやつは。
朝倉はまた目を丸くした。
「君からそんな言葉がでるとは。てっきりあーゆーコ達が好きなのかと思ったよ。」
「好きだよ?可愛いよね。朝倉のことはもっと好きだけど。。」
「うわぁお!大胆な告白をありがとう。私も君のことは結構好きよ?」
「それはそれはこちらこそどーも。って結構かよ?じゃなくてただ単純に不思議に思っただけ。」
「あらあらごめんなさいね、私年上専門なの。ただ単純に不思議に、ねえ。」
ん〜、と朝倉はその形の良い眉をひそめた。
あ、飛行機雲…
「自己主張、かしらね。」
自己主張?
「ん。中学三年ってさ、なんだか色々と芽生えちゃったりするじゃない?
恋愛なんかもしてさ。中途半端に色々できたりするから背伸びしたくなる。
無性に自分はこうなんだぁぁぁぁぁーーー、こうしたいんだぁぁぁぁーーーって叫びたくなっちゃうワケですよ。」
朝倉は唇をわずかにとがらせて言った。気だるげに頬杖をつく仕草がなんとも色っぽい。
「でも現実には何にもできない。良い例が金ね。中学生じゃバイトもできないじゃない。」
「だから化粧やマニキュアやスカート丈でささやかに主張してみるワケ。
私はこういう子なんです、こうなりたいんです、こういう風に自分をみせたいんですってね。」
なるほど。
「君だってそうでしょ?わざわざ朝起きて洗面所で時間費やして髪セットするのは
こういう風に菊丸英二を見せたいからじゃないの?」
そう…かも。
「私だってそう。私は自分の鼻が嫌い、口が嫌い、ほお骨の高さが嫌い。でも目は好き。
だから最大限自分の目は生かすし、鼻や口はできるだけ自分の理想に近くしようと努力する。
だって人に可愛いって言ってもらいたいもの。綺麗だって言ってもらいたいもの。
朝倉淳は綺麗で可愛くて、ちょっと魔性テイストでアネゴ肌で。そんな風に思われたいワケ。
そういう風に相手の中に自分を定義づけたいワケ。だから、こうしてるの。」
人に良く思われたいって気持ちに伴う行動は、主張なのよ。外見的なことなら特に。
朝倉はこちらに視線を向けるとすっと目を細めて微笑んだ。
彼女はよくこういう笑い方をする。
そんなわずかな仕草に朝倉の大人っぽさや色っぽさが滲み出る。
きっとこれも朝倉の言う、自己主張のうちのことなんだろう。
「にゃるほどね〜。じゃあなんであんなに慌てふためいてるわけ?良いじゃん、自己主張なら。」
コンコンと指先で机をたたく。
朝倉は肩をすくめた。
「だって、停学も反省文もイヤじゃない。怒られるのも体力使うしね。」
なるほどね。主張はしたいけれどたたかれるのはイヤなわけだ。
たたかれる面倒は避けたいけど、主張することでかかる面倒は目に入らない。
難しいな、と思う。
難しい。
もっと大人だったら、たたかれてもどんなに面倒でも「主張」を貫き通すことができるんだろう。
もっと子供だったなら、「主張」だのなんだのって言う前に大人に丸め込まれてしまうんだろう。
難しい。
中地半端に色々とできるからもどかしい。
中途半端にしか何もできないから悔しい。
そんな風にガラにもなく真面目に考えていた俺は、後ろの誰かさんの極寒オーラが割り増しになったのに気づかなかった。
と、言うか、気づいた時にはもう遅かった…
「そんなんでしか主張できない自己なんてとっとと捨ててしまえ」
ズズズッ…
とそんな効果音が付きそうな、まるで地を這うような声がビーンと響く。
うわー!大地震!?核弾頭投下!?
大わらわだった我が3年6組は水を打ったようにしん…と静まりかえった。
震源地は…そう、我らが天災・不二周助。
「だいたいさっきからひとの周りをうろちょろうろちょ…」
「わぁぁぁーーー不二!!」
俺は二の句を継ごうとした不二の口をあわてて塞いだ。
このままコイツ発言させたらとんでもないことになってしまう…っ!!
優しくてフェミニストな不二クンのイメージが!!
青学のプリンスのイメージが!!
全校生徒の約半数を占める女の子の夢が!!
乙女の希望が!!
ついでに言うならこの友人の名誉のためにもこの先を言わせるわけにはいかない!(ついでかよ)
と言ったってコレどうしよう!?勢いに任せてこんな暴挙に出ちゃったけど、これからどうしよう!!
腕の中の不二が小刻みに震えてるのが分かる。もちろん怒りで、だ。
思わず朝倉に目を向けた。
た、たすけろっ!
朝倉の答えは非道にも
がんばれ〜!
だった。(しかも口パク)
俺はおそるおそる不二を見た。なるべく刺激しないように、なだめるように。
今、自分の顔は引きつった笑みで素晴らしいことになってるんだろう。
「ふ、不二…」
不二はギンッっと俺に眼光を剥いた。それはそれは音がしそうなくらい鋭かった。
うっわ、まずい。これはとってもまずい。
思わずさっきの朝倉との会話を思い出した。
い、石にされてしまう…っ!!!!
ガラッ
「3年6組女子、視聴覚室まで移動……どうしたんだ?」
救世主ってのはいるもんだ。
絶妙なタイミングで教室に入ってきたその人物を見て、俺は本気でキリスト教に改宗しようかと思った。
良く来たペルセウス!!!命の恩人!
俺は不二の背中を思いっきり(それはそれは思いっきり)いきなり現れた救世主の元へと押した。
ドンッ
「手塚!ちょっとそれあずかってくんない?」
「は?な…っ不二!?」
いきなり飛んできた不二を(てゆーか俺が飛ばしたんだけど)それでも手塚は受け止めて
疑問符のオンパレードだって顔で俺を見た。
「いったい何のつもりだ、菊丸。」
「ん〜?適当にどっか連れてってやってよ。」
にっこりと笑ってやる。
「ちょっと英二…っ!」
やっと不二は自分に起きた事態に気づいたようだった。
しかし時既に遅し。
う〜ん、やっぱり今日の不二はおかしい。いつもならこの程度のことはさらっとかわせるのに。
「ちゃんと主張しろよ〜!」
そんな言葉を激励に変えて、俺はピシャリと扉を閉じた。
外ではまだ何か言ってる声がしたけど、それもしばらくすると遠のいていったってことは
手塚がどこかへ連れ出したんだろう。
ふうっ…世話のかかる友人を持つと苦労するね。
くるりと振り返れば教室中があっけにとられた顔ばかり。
朝倉が一人、腹を抱えて笑っていた。
「さぁて、移動だよ!女子の皆さん、いってらっしゃ〜い。」
軽い調子でそう言うと、にっこりと、それは言うなれば太陽のように笑ってやった。
その一声でまた教室は喧噪を取り戻す。
「やだ、どうしよう?スカート!!」
「2組に借りれば!?通り道じゃん!」
「コロンの匂いとれないんだけど!」
「うわ、パンダ目だよ。モロバレ!!」
そんな中さっそうと長い足を運ぶ一人の女。
「あれ?朝倉それで行くの?」
メイクはバッチリ。片ピアス。マニキュアにグロス。
頭のお堅い先生方の大目玉をくらうことは間違いないだろう。
そういえば、さっきから皆さん大忙しだったのに朝倉だけがやけに余裕だった。
朝倉はぱちぱちとその無駄に長いまつげ(マスカラ二度塗り済み)を上下させると、ふふんと妖艶に微笑んだ。
「当ー然っ。素顔晒すくらいなら腹を切るわ。」
――それに、あんなこと言われちゃ引けないでしょ?――
彼女のその微笑みに、男子はおろか女子でさえも絶句して見とれたのは言うまでもない。
さっすが、アネゴ!!!
雲一つない嫌みなくらい清々しい青空を仰いだ。
今頃あのプライド高き友人は、愛しい人にちゃんと自己主張できてるだろうか。
END
あとがき
未成年を書きたかったんです。サイト名もあれですし。せっかくの未成年企画(勝手に命名)ですし。
もっと言えば未成年な、等身大な手塚と不二が書きたかったんです。
…ごめんなさい。(土下座平謝り)
出てないじゃん!二人ともほとんど出てないじゃん!!なんなんだコノヤロー!
違うんだ、書きたかったのはこの先なんだっ!手塚が不二くんを連れ出したあとなんだ…っ!
とゆーわけで塚不二編もいつか公表したい…と…思い…ます。(多分…)