何を見ているんだろう。

何を考えているんだろう。



その光に私は映らない。





未成年






その日は私にとって特別な日になった。蒸し暑い初夏の昼下がり。蝉の音が五月蝿くてイライラが止まらない。おかげで電車に乗った瞬間はひたすら涼しかった。クーラーの効いた車内に入ってすぐ左のドアの傍に立つ。ふと見た先には右側のドアの傍に立つ人がいた。「美しい」と思った。「美しい」なんて普段使わない言葉が自然と思い浮かんだ。きっと美形タイプではないけど、何より瞳が綺麗で。私はしばし魅入っていた。彼は何をするでもなく立っていた。
おそらくは高校生。その澄んだ瞳が長めの真っ黒な前髪に隠れて私は我に返る。漆黒の闇に消える光。そんな感じだった。



次の日もその次の日も同じ時刻、車両に同じように彼は立っていた。お昼は私だけの観賞会になった。



いつもいつもその瞳に魅入っていたけど、不思議と声をかけようなんて思わなかった。彼は私にとって生きた芸術品で、日課となった観賞会はいつまでも続くだろうと思った。不気味かもしれない。けどやめる気にならない。



突然日常は壊れるものだ。すでに季節は秋。びっくりするほど続く日課は実際は何の違和感もなく、驚くことはなかった。でもさすがに驚かざるをえない。
彼はある日髪を金に染め、すぐにピアスをつけた。サングラスをかけた顔にあの光は見えない。代わりに光る髪は空虚だった。何の感動も私に与えてくれない。




訴えたい。叩きたい。でも今行動をおこしたら私が映るのは黒いサングラス。だから嫌だった。私は彼の光に映りたい。





それからしばらくして彼はパッタリ姿を消した。




私は光を見失った。




その光に私は映らない。