理由なんてない



あるのは身の焦げるような熱さだけ




それを理由と呼ぶのなら――――










カルマの坂 ―4―











 藤代と別れてから、三上は尋常でないスピードで自転車をこいだ。
 ゆっくりと走っているとはいえ、モタモタしていたら所詮は馬と自転車、カサイタクミを見失ってしまう。
 早く早くと、自分自身を急かしながら、ぺタルを持てん限りの力でもって、まわし続けた。

 何故自分はこんなことをしているのだろう。
 幾度となく自身に問い掛ける。
 そしてその度に壁に突き当たった。
 もともとカサイタクミをしっていたのなら簡単だ。
 しかし、つい数十秒前に出会い―――そう呼ぶのは相応しくないかもしれない。お互いに認識さえしていないのだから―――瞳をかわしただけなのだ。
 仲間と呼ぶには相手を知らなさ過ぎる。
 何が自分を動かす。
 こんな危険を犯してまで、カサイタクミを追いかける理由は何だ?
 脳裏に渋沢や藤代、中西が浮かぶ。
 彼らのような恋心なのだろうか?
 ということは一目惚れ?
 いや、違う。
 自分の考えを否定するかのようにブンと頭を振る。
 自分にそんな殊勝な感情はない。
 それは自分がよく知っているし、誰に聞いても肯定される事実だろう。
 
 三上に親はいない。
 最も一緒に共同生活をおくっている仲間達も同じように家族をしらない。
 その空虚を埋め尽くすかのように、彼らの連帯感は強い。
 裏切りは許されないし、仲間が傷つけられたらすぐに報復にでる。
 性モラルはないに等しく、男であっても女であっても気が向いた同士、毎夜のように交じり合う。
 そんな中でも相手を限定する、三上にしてみたら酔狂な者達もいた。
 渋沢と藤代がいい例だ。
 彼等は愛し合ってると公言して憚らない。
 それを悪いとはいわないが、何故一人に限定するのかが三上には理解できないでいた。
 更に理解できないのは中西だ。
 彼は根岸を愛している。
 そのことをしらないのは、当の根岸だけだ。
 彼の愛し方は一方的だ。
 根岸からの見返りは求めない。
 何も望まない。
 ただ傍にいるだけでいいらしい。
 それが、仲間に対する気持ちと何が違うのかよく分からないかったが、中西は「三上もいつか分かるようになるよ。」と、いつも飄々としている中西には珍しく、悲哀に満ちた瞳で語っていた。

 このように、三上は誰か一人を愛したことがないし、その原理もよく分からないでいた。
 どこからが愛なのか、どういった感情を愛と示すのか。
 そんなものを知る必要はないし、知るつもりもないと思っていた。
 だから、今、戸惑う。
 何が今、自分を動かしている?



 カサイタクミにもう一度会った時に、その答えが出ると思った。











 馬車は街を離れ、森のほうへ入っていった。
 流石に野道を自転車で走るわけにもいかず、森の入り口で乗り捨てた。
 森を走り回るのは慣れている。
 馬車がガタガタと進むそのすぐ後ろについていくことができた。
 しかし・・・
 この先に屋敷などあっただろうか・・・?
 三上の記憶が正しければ、何もない。
 ただ崖があるのみだ。
 (気付かれたか・・・?)
 ちっと舌打ちをする。
 しかし、まだ分からない。
 もしかしたら知らないだけで、隠居用の屋敷でもあるかもしれない。
 どうする?と自分に問い掛ける。
 答えはすでに決まっていた。









 随分下のほうから、ざざ―っと波が岩場にぶつかる音がする。
 音としては近いので、崖の高さがかなりあるということだ。
 森をかなりはしったところで、馬車は止まった。
 周りには家ばかりか、生き物の気配すらしない。
 そのうちにがちゃっと馬車の扉が開く。
 馬車の中からは3人の大人と、カサイタクミがでてきた。
 カサイの瞳にもはや涙は浮かんでいなかった。
 その代わり、何も映していないかのように、何処ともなく視線を彷徨わせていた。
 三上は猛烈な焦燥感に襲われた。
 隠されてしまった瞳。
 隠さざるを得なかった少年。

―――絶対に連れて帰る

 その気持ちだけが三上を支配した。












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