望むのはただ一つ


あの人があの人でありますように――







カルマの坂 ―5―








 「姿をみせたらどうだね。」
 丸々と太った大人が声をあげた。
 全く腹筋に力の入っていないような声だった。
 それでも偉そうな態度からこいつがこの中での親玉か、ということが知れた。
(本当は屋敷の主人でもあったが、あまりの威厳のなさに、三上はそこまで考えつかなかった。)
 こいつは何の戦力にもならないだろうが、他の二人は違う。
 実際、気配を消して行なったはずの尾行に早々と気が付いていたのだから。
 隠れていても何の特にもならない、と判断し、三上は音もなく立ち上がる。
 三上の姿に、予想外とばかりに大人達は笑い声をあげる。
 「ほう。まだ小童ではないか。てっきりこのわしの命を狙った刺客かと思ったわ。」
 どこまでも迫力のないその声色に、三上は蔑みの笑みを浮かべる。
 「そりゃ、期待にそえなくて悪いことしたな。あいにくあんたみたいな肉饅頭には興味ねぇんだ。」
 だからあまり自惚れないでくれと、思い切り馬鹿にしたような態度をとった三上に、男は激昂し、顔を真っ赤にさせた。
 肉饅頭じゃなくてタコ饅頭かよと、せせら笑っていた三上も、男の発した言葉に凍りついた。
 「では、この少年がお目当てかな。しかし残念だな。この少年はこれからわしと、契りを交わすのだ。」
 なっ!!!と驚いた瞬間に後ろから両手を押さえつけられる。
 抵抗しようともがくともう一人の大人にナイフを突きつけられた。
 「お前はその光景をここでみているがいい。」
 にやりと気持ちの悪い顔を更にゆがめる。
 三上は自分の軽率さを呪った。
 こいつらは”大人”だということを失念していた。
 子供ではない。
 卑怯な大人だ。
 一人一人勝負をすれば勝てるとおもっていた三上も、こう不意打ちをくらっては動けない。
 こうなったら――
 「タクミ!!!逃げろっ!!!――グッ!!!」
 出せる限りの大声をだして叫んだ。
 せめてカサイだけでも逃がしたい。
 しかし、いきなり名前を呼ばれた笠井はとっさには動けず、三上はナイフを突きつけていた大人に鳩尾を思い切り蹴られた。
 がはっと嘔吐しながらも、潤んだ瞳で笠井を見つめる。
 笠井も三上から視線を逸らせずにいた。
 「―――っ!」
 三上と笠井の様子を一しきり観察していた男は、何を思ったのか更に醜く顔を歪めて、笠井を無理やり引き寄せた。
 「そうか。お前たちはそういった仲なのだな。面白い・・・。そんなに見つめあいたいのなら、逸らすでないぞ。」
 いい終わるとともに、笠井の衣服―――布を纏っていただけだが―――を力任せに裂いた。
 「ひっ!」
 いきなり肌に触れた冷気に、笠井は身を竦める。
 そして自分の体を見下ろし、身に纏うものがほとんどない状態に気が付き、暴れだした。
 しかし所詮は非力な子供の抵抗。
 すぐに押さえつけられてしまう。
 そして、何かを口に含まされた。
 必死に頭を振って、飲み込むことを拒んでいたが、口と鼻を押さえつけられ、結局飲み込んでしまった。
 げほげほと酸素を求めて咳き込む笠井を、地面に投げ飛ばし、それでも視線だけは三上に残るように仰向かせた。
 唇を奪われ、顔中を嘗め尽くされ、足を極限まで開かされる。
 笠井は嫌悪感を顔中に浮かべ、今にも吐きそうな状態だった。
 しかし、時間が経つにつれ、それがどんどんかわっていく。
 肌は上気し、吐く息は熱っぽくなった。
 まだ一度も触れられていない性器は勃ち上がりかけていた。
 先程飲まされたのはそういった類の薬だったのかと、三上は理解する。
 薬に侵され、喘ぎを押さえきれない笠井だったが、その濡れた瞳だけはいつまでも三上を捉えていた。
 初めて出会ったときのような強い瞳。
 「―――っ!!!」
 男が自身をズボンから引き摺りだし、笠井の後穴に押し当てると、笠井の瞳は大きく揺れた。
 浮かぶのは恐怖。
 「くっそ!!!」
 三上は渾身の力をもって暴れた。
 襲いくる暴力にも屈せず、ただ笠井だけを求めて。
 「カサイ!カサイ!!」
 バキッ!!!
 鈍い音が響く。
 大人の一人が放った右ストレートが三上の顔面を直撃した。
 「ぐっ・・・。」
 地面に叩き付けられ、痛みにもがいていた三上の耳に聞こえたくなかった悲鳴が木霊した。
 「・・・あー―――っ!!!あっ!あっ!」
 ろくに慣らしもせず無理やり挿入された笠井は、揺さ振りに合わせて断続的な悲鳴しかあげられない。
 「かさっ――ぐはっ!!!」
 起き上がり、笠井に駆け寄ろうとした瞬間、また鳩尾に蹴りを食らった。
 何度も何度も蹴られ、意識を失いそうになっても、笠井の悲鳴だけが聞こえていた。




 どれくらいの時間が経ってであろうか。
 最早、三上は自分の力で立ち上がることが出来なくなっていた。
 笠井も同じように血に塗れていた。
 男は満足したように、身なりを整えると、三上の前髪を引っ張り上を向かせる。
 「いいか、小童よ。冥土の土産に聞かせてやる。この少年はこれからわしの性奴になるのだ。お前のことなど忘れるくらい貪り尽くしてやる!!!」
 ひゃーはっは!と何処までも下品な笑い声を上げる。
 何度か三上を殴り、気が済んだのか、馬車のほうに戻る。
 そして、残りの二人に合図をする。
 二人は三上に歩み寄り、両脇から三上を支えあげた。
 「尾花沢様に逆らった報い、その身にうけよ。」
 ずるずると崖のほうに引き摺られていたのは分かっていたが、全く力が入らなかった。
 崖の面前に立たされる。
 後ろを向くと、笠井が虚ろな瞳をこちらにむけていた。


 この気持ちは何だ?


 捉えられた


 離れない


 離れたくない





 「タクミ!!!」
 最後の力を振り絞って叫ぶと、笠井はびくっと身を震わせる。
 それを視界に捉え、三上はにやりと微笑む。
 「絶対助けに行くからな!待ってろよ!!!」
 そう叫び、大人の手を振り払い、自ら崖の下へ飛び降りた。









 どうか、次にあうその日まで




 あなたのままでい続けてください――――















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