神様がいるとしたら、何故僕等だけ愛してくれないのか
カルマの坂 ―6―
目にうつるは赤。
全てが真っ赤だった。
「・・・渋、沢?・・・・・・」
かつての友であろうその固まりの前に三上は立ちすくんだ。
面影などない。
赤。
ただ、着ているその服と体格だけで―――。
腕(と思われるモノ)の中には同じような固まりが。
「・・・藤代。」
こちらはすぐにわかった。
ずっと腕の中にいたのだろう。
その表情も読み取れた。
「・・・・・・何、笑ってやがる。」
満足そうに微笑んでいるその顔が、何よりも三上の心を抉った。
これは、制裁だという。
大人に歯向かった、その罰を仲間達はうけたのだと。
近隣の地区の子供達の姿は見えなかった。
とうに逃げたのだろう。
情報すら残さないで。(最も彼等は三上が生きていることすら知らないのだから当たり前といったら当たり前だろう)
ここで何が起きたということは、皮肉にも大人の口から語られた。
一人残された三上を哀れむような視線をよこし、淡々と語るその口調に、三上は何度も我をなくしかけた。
―――何もしてやらなかったくせに
助けを求める声から、何度耳を塞いだのだろう。
子供達はいつだって叫んでいたのに。
それでも必死に激情を押さえ、仲間達の最期を聞いた。
ことが起こったのは二日前。
何の前触れもなく、大人たちの軍がこの武蔵森地区に攻め入ったらしい。
突然のことに何の抵抗もできないまま、彼等は死んだのだ。
三上が笠井の姿を追って、藤代の前から姿を消したのは四日前のことだ。
崖から落ちた三上は体の回復を待っていた。
漸く動けるようになったあと、仲間達に別れを告げようと、戻ってきたのだ。
体の回復など気にせずに、その足で真っ直ぐ帰ってきていれば間に合ったかもしれない。
幾度となく後悔が襲う。
それでも。
今自分が死んでしまったら誰が笠井を救う?
大人など信用できるわけもない。
自分しかいないのだ。
自分しか笠井を守れないのだ。
仲間も帰る場所も消えた。
今三上を支配するのは笠井への思いだけ。
それだけが三上を支えていた。
この国に埋葬の習慣はない。
死者の為に何かしてやるといった気持ちがないのだ。
しかし。
三上は仲間全ての体に毛布をかけてやった。
安らかに眠れといった気持ちなどない。
ましてや天国にいってほしいとも思わない。
三上は天国など信じていないし、神の存在も信じていない。
いるとしてもそれはくそっくらえな存在だ。
そんなものに願いなどかけたくもない。
死んでしまえば何もない。
何も残らない。
ただ、そのままでは寒いと思ったから。
それは生きている三上だけの感覚だったけれど。
淋しいだろうと、仲間を一箇所に集めた。
渋沢と藤代は動かすのが悪い気がしたので、そのままにしておいた。
それに目がとまったのは何故だろうか?
藤代が体で覆い隠すようにして、握り締めていたもの。
(・・・手紙?)
仲間内で文字の読み書きができるのは渋沢と三上と中西と藤代だけだ。
だから手紙なんて全く書かない。
だからこそ気になった。
普段なら人の持ち物を勝手に見ようなんて思いもしないけど、この時だけは迷いもせず、それを手にとった。
――三上へ
―――守りたい人を守れ。
―――誕生日おめでとう。
――――――笠井竹巳っすよ!
乱雑な藤代の文字と、几帳面な渋沢にしては珍しく走り書きのような文字。
事実、走り書きだったのだろう。
それをしっかりと藤代に握らせて。
「・・・な・・・っだよ・・・。」
じわりと文字が滲む。
天国でも地獄でもない。
ただ一つの帰る場所。
「・・・何・・・ちゃっかり守ってんだよ!・・・」
藤代を守って。
手紙も守って。
この場所すら守ってくれた。
―――守りたい人を守れ
守りたい人。
「・・・笠井、竹巳。」
藤代の文字を指で辿る。
「・・・かさい、たくみ。」
その名を心に刻む。
くしゃりと紙を丸めてズボンの中にしまった。
帰る場所は此処。
次に帰ってくるときは笠井も一緒だ。
「・・・・・・じゃ、行ってくるわ。」
短い挨拶だけして、三上は走りだした。
第7話へ→
第5話へ→