カルマの坂をのぼる
カルマの坂 ―7―
醜い悲鳴が響く。
その脇を駆け抜ける少年の姿は風のようで、誰の目にも止まらない。
少年の手にはしっかりと、大人から奪った剣が握られていた。
偶然だった。
それはあまりにもこの街ではありふれた光景で。
何故、今、目にとまったのかわからない。
多分、大人に組み敷かれている子供の瞳が光を失っていたからだろう。
路地裏で犯されている子供。
助けをこう気すら失せてしまったのか、人形のように揺さ振られ、断続的な喘ぎをあげていた。
その光景が眼に入った途端、何かが三上の中で弾けた。
――笠井。
気が付いたら子供諸共殺していた。
許せなかった。
当たり前のように子供をおもちゃにする大人も、為す術なく大人のおもちゃになりさがる子供も、それをみていることしか出来ない自分も。
何もかもが許せなった。
お前等の守るものは何だ?
金か?名誉か?
そんなものくそっくらえだ。
子供達が守ろうとしているものに比べたら、そのなんて小さいこと。
そんなものの為に子供達は犠牲になるのだ。
それを、三上は識った。
知っていたけど、今日はじめて識った。
――笠井。
三上は気が付いているだろうか?
自分の瞳がどんどん狂気に満ちていくのを。
守りたいもの。
ただ一つのものを守ろうとする、その真っ直ぐな、一途な思いはやがて狂気になる。
先ほど奪った剣の切っ先をを走りながら日に透かす。
夕日に照らされたそれは赤く、三上の瞳も染めた。
綺麗だ、そう思った。
不意に笑みが零れる。
走る速度を少し、あげた。
「武蔵森壊滅だってよ〜。」
唐突に耳に飛び込んできた単語に、思わず足を止めた。
「驚きだよな〜。あそこはぜってぇ潰れないと思ってたんだけどな。」
まだ年端いかない子供の声だと確認すると、三上はゆっくり声の方向に近づき、息を潜めた。剣の鞘はとうに捨てていた。
「ってかさ、なんでわざわざ武蔵森なわけ?あそこに下手に手ぇ出したらやばいって大人だって分かってるだろうに。」
「あれだろ。100人以上の兵だしたって噂だぜ?」
「マジで?!そりゃぁ渋沢といえども太刀打ちできんわな。」
「尾花沢の家の兵士らしいぜ。やったの。何か制裁の旗掲げてたって。」
「尾花沢ぁ?あぁ、あれか。町外れのでっけぇ館の豚饅頭。」
「制裁って何やったんだろうな、奴等?」
「しらね。尾花沢の前で不純異性行為みせつけちゃったんじゃね〜。」
「不純同性行為だろ。」
「違いねぇ〜!」
「ってかまじうけるよな。子供のくせして操立てだぜ?」
「あぁ、渋沢だろう?あれじゃん。息子がおったってくんねぇから操をたててたっと。」
「うまい!」
ぎゃははは、と響く笑いが唐突に途切れた。
不思議に思ったが、自分の手元を見て合点がいった。
夕日から逃れたはずの剣先が、再び赤く染まっていた。
お前等に何がわかる。
最期まで自分を貫き通した彼らの何が。
町外れのでかい館は三上も知っていた。
制裁の旗。
それは大人が子供に対して行なう制裁の際、必ず掲げる旗だ。圧倒的な力の差をみせつけ、周囲の子供にも恐怖をうえつける為だけに掲げる。
それが武蔵森に対して掲げられたということは・・・
あのときの笠井を連れ去った大人は、笠井を犯した大人は、尾花沢で間違いないということだ。
そして三上への制裁のために武蔵森を襲った。
仲間にはなんの罪も無い。
自分のために仲間は死んだ。
三上の心を黒いものが犯していく。
――笠井。
町外れに向けて、三上は走り出した。
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