RESISTANCE vol.2
見知らぬ男の背中をひたすら追うというのは不思議なものだ。
そう考えながらセリカは無言で追う。
男の歩く速さは意外とそれほど速くない。さりげなく合わせてくれているのだろうか。
それにしてもこの辺りを歩き慣れているようだ。速くはないものの、迷うことなくずんずん進んで行く。
段々周りの雰囲気が変わってきたようでセリカは安堵した。
助かった・・・。
見えてきたのは間違いなく駅だ。
もう先程よりも人はまばらだが、それでもたくさんの人が駅に吸い込まれていく。
さて、御礼をどうしようか。
いきなり名前や住所を聞くというのは失礼かもしれない。
第一会った場所が場所なだけに、怪しいと思われる可能性がある。
色々考えていたら目の前の男がピタッと立ち止まってこっちを見た。
頭の中でどうしようかまだ迷いつつ、とりあえず視線を合わせる。
「本当に助かりました。ありがとうございます。・・・御礼の事なのですが・・・・・。」
「気にしないで下さい。御礼なんてたいした事は何もしてませんから。
迷い込んだようでしたが、あそこは本当に危ないので気を付けて下さい。」
そう言って男は見た目だけには似合う煙草に火をつける。
どうやら怪しまれなくて済んだらしい。
やけに人の事をわかっている。
やはり見た目とは裏腹になかなかの好青年のようだ。
「でも本当に助かりましたので、是非御礼を。よろしければ名前と住所を教えていただけませんか?」
相手の口調は丁寧だ。自分の口調は丁寧でも顔がいつも無愛想だ。
とりあえず尋ねてはみるもののこれでは相手も話しにくいだろうと気付いた。
しかし表情はなかなか思うように動いてくれないものだ。
何しろ普段笑うことがあまりになさすぎる。最後に笑ったのは何年前だったろうか?
「それじゃとりあえず、紙とペンありますか?」
差し出すとサラサラと手の上で書き始めた。
そこで初めてじっくり男の顔を見た。
伏せた瞼からは長い睫が影を落としていて、その奥に見える薄い茶色の瞳は光っていて綺麗だ。
こうして見ると実はかなりの美形と呼ばれる部類に入るのではないだろうか。
肌も健康的な色をしていてできものも一つも見当たらない。眉毛は自然に整っているし鼻筋もスッと通っている。
無言で目の前に紙を差し出されてハッと気付くと、セリカもまた無言で紙を受け取った。
そこには口調通り丁寧な字で名前、住所、携帯の番号とアドレスが書かれていた。
「連絡方法はご自由にどうぞ。たいていは外にいますが。」
「ご丁寧にありがとうございます。後日必ず。では失礼させていただきます。」
セリカはそう答えてもう一度男の顔をちらりと見ると歩き出した。
男はお気を付けて、と言って煙草を吸いながらしばらくそこに留まっていたようだが、
ふと気配が動いた気がして振り返るとそこにはもういなかった。
不思議な男だ。
とりあえず少し歩くと前方に高級そうなホテルが現れた。
手持ちの金は多くはないがなんとか平気そうだ。
タクシーという手も考えたが早く休みたかった。
安全第一を考えて入ると幸い一つだけ部屋が空いていた。
すぐに案内された部屋は広く、大きな窓の外には人の絶えない明るい街が広がっている。
でもセリカには騒がしいだけだ。すぐにカーテンで世界を閉ざす。
さっそくお風呂に入りベッドにもぐりこむ。
疲れた身体を包む布団は優しく、外の明かりを遮断してくれる。
一瞬浮かんだ今日の男の顔など忘れるほど、すぐに深い眠りへと落ちた。