RESISTANCE vol.3
ねぇ、どうしてこうなったのですか?
空は醜く視界はどこまでも緑色。
奇妙な緑色の光。
目の前に広がっていく鮮やかな赤。
クリスマスのようだ。
不謹慎にもそんな事が頭をよぎる。
走って。走って。どこまでも走って。
ねぇ、この扉の向こうには何があるのですか。
頭が痛い。
目覚めてからか、眠りの中でか、よくわからないが頭が痛む。
思わず顔を顰めて自分が起きたのだと気付いた。
久しぶりに見た夢はあまりにリアルで気持ちが悪かった。
体が重い。
とりあえず身を起こしてカーテンを開けると昨夜とはまた違った明るさが目に痛い。
といってもまだ夜が明けたばかりだ。
相変わらず人の絶えない街を見下ろしてすぐに洗面台へ歩く。
冷たい水で顔を洗ってしゃんとしようと思ったが、いまいちスッキリしなかった。
服の替えなど持っていないので昨夜の少し汚れた服を着直し、
荷物など財布とペンとメモくらいなのでポケットにしまってすぐに部屋を出る。
セリカは早く帰ろうと思った。自分の家に。
もともと朝食は食べないし、今から行けば始発に乗れそうだ。
帰っても、安心できる場所なんてないけれど。
チェックアウトを済ませてふとポケットの中のメモに気づく。
そういえば御礼はどうしようか。
顔もすでにあやふやになった男の事など考える気分ではないが放っておくわけにもいかないし、
早めに済ませるべきだろう。
ズキリと頭が痛んだ。
やはりとりあえず一度帰りたい。それからすぐに買い物に出よう。
そう決めてセリカは丁度来た電車に乗り込んだ。
4駅先の駅は東京にしてはこじんまりとしている。
いつも通り改札を出て自宅へと歩き出す。
ここへ来ても頭はズキズキ痛んで明るくなった空を睨む。
いつも思うが自分には夜が合うらしい。
空は太陽よりも星が見えた時の方が優しいと感じた。
10分程歩いて古いビルの前で立ち止まる。
いつ来てもボロボロのこのビルがセリカの家だ。
いや、正確には家への入り口だ。
取り壊されないのが不思議なこのビルは誰も出入りせず、周りの大きなビルに隠れてひっそりと佇む。
地下への階段を下りて暗い道を歩くと目の前にやけに新しい白い扉が見える。
暗闇の中でぼうっと光るその扉をそっと開けると狭い部屋があってコンピューターと小さなダンボールの台だけが置いてある。
今はここがセリカの家だ。
とりあえずコンピューターの電源を入れれば狭い室内はだいぶ明るくなる。
コンピューターは元の家に繋がっていてこの場所で電気を使うことが出来るようになっている。
普段は眠る為だけに帰ってくるこの部屋で独りでいることはさほど苦痛ではない。
本当の苦痛は本当の家のあの光景だ。
・・・・・・。
ふと今日久しぶりに見た夢の光景を思い出して吐き気が襲ってきた。
トイレはいつも外の公園にあるものを使っているので適当にビニール袋を手に取った。
自分の吐く音だけが響いてまた気持ち悪さが増す。
吐けるだけ吐いてその場に崩れ落ちた。
気分は最悪だ。世界がグルグル回っている。
それでも早く買い物に行かなければ、と頭の中で考える自分が滑稽だ。
セリカは明日に引き延ばす事を嫌う。
出来ることは出来るだけやってしまいたいのだ。
明日なんて来るのかわからないものだから。
それでも今のところ明日は来ているのだけど。
しばらく動けずにいたがだいぶ落ち着いてきたところで立ち上がる。
ダンボールの低い台の上に置いてあるゴムで髪を結う。
昨日探索した所をコンピューターに書き込み、すぐに電源を切ってセリカは再び家を出た。
とりあえず御礼を済ませよう。そしたらまた探索だ。
今の生活にはそれしかない。
それしか、出来る事がない。
外の陽射しに嫌悪感を覚えながら歩く街は明るい。
セリカは駅の反対側にある賑わう店の並びに沿って歩いた。
とりあえずちょっとしたお菓子やお酒を見てまわる。
はっきり言ってどれでもいい。
結局手頃な値段の洒落たお酒を買った。
彼は今どこにいるだろうか。
出来るならすぐに会って済ませたい。
短い文章を教えてもらったメールアドレスに送る。
きっと少し待たなければいけないだろうと思い、通りにあるベンチに座って一息ついた。
返事は10分程待つとすぐに来て、ちょうど暇が出来た所だから来ると言う。
本来御礼だから自分が行くべきだろうが、今は具合が悪いので甘える事にした。
返信してすぐ眩暈が襲う。
しっかりしなければ。
そう思った瞬間、世界はぼやけて見えなくなった。
あれ?
考える暇もなくセリカは意識を失くした。