RESISTANCE vol.4





あぁ…体が熱い。
熱いのになんだか寒くて。
この感じは知っている。
あの、最後の日の自分。
どこかへ浮かんで、このまま自分は消えるんじゃないかと思う。
けれど同時に図太いほどしっかりここにある自分に気付く。
今ここに自分を温めてくれる腕はないのに。
あの日から、もう何もないのに。











目を開けると世界は真っ白だった。
いや、真っ白な天井を見ているのかと気付く。
ぼんやりと見える汚れが目にとまった時、間横から低い声が聞こえた。


「あ、気がつきましたか。具合、いかがです?」

「ったく、急に倒れてきたからマジびびったし。」


御礼を言わなければ。
相手が誰なのかもわからずにそう思って、声の聞こえた自分の右側に顔を向けると、セリカは目を見開いた。
そこには昨日の御礼を届けようとしていた男-もらった紙には<高瀬槇斗>と書いてあった-と、
その隣にやけに派手な金髪にアクセサリーをじゃらじゃら着けた男がいた。



傷んだ髪が、大きな目が、じゃらじゃら鳴って動くアクセサリーが、ある人物を思い出させる。



無意識に顔を顰めると、それに気付いて彼はニヤっと笑った。



「本物だぜ?お前を追いかけてわざわざ来たんだ。」



その言葉にセリカはがばっと起き上がる。
夢でも見ているのか?
あの男が、ここにいる?
しかし感謝しろよとでも言いたげにこっちを見ている男は紛れもなくトウキョウで見た男だ。
その髪も、その目も、肌の色も。
あの日のまま、変わらない。
唯一違うのは、血飛沫を浴びていないことだけ。

知り合いだったんですか。
そう言って僅かに首を傾げる高瀬という男は今セリカの目に入っていない。



あの…
あの男がここに。
今、目の前にいる。


焦点が定まらない。
発狂しそうだった。
考えただけで。
まざまざと蘇るあの世界。
赤い、赤い、世界。
自分にはどうしようもなくて、茫然と涙を流していた、あの世界。



セリカ!!


俺の目的?当ててみてよ。


セリカ!!待って!!助けてよ!!!


お前、なんでここにいる!?


セ…リカ…逃げろ…
逃げて…東京へ…


必ず行くよ。


情報収集なら君にも出来るだろう?


期待してるわ、セリカさん。


最後に…言わせてくれ。
セリカ…愛して…た…




我を忘れて突然悲鳴を上げ始めたセリカに、高瀬は肩を支え二言三言呼びかける。
落ち着けようと懸命に囁く言葉はセリカには届かず、戸惑って医者を呼びに走った。

残された男の目には心配の欠片もない。
むしろ楽しそうに目だけで笑っていることに、気付く者はいない。
少しだけつり上がったその目が少しずつ、少しずつ、色を変えていく。



慌しく駆け込んできた医者や看護婦や高瀬には見えていない。
壁寄りにひっそりと佇んでいたその姿はあまりにも不気味で、得体が知れない。

するりとドアから這い出た男の耳には叫び続けるセリカの声。
懸命に支える医者の必死な声。
気持ち良さそうにしばらく廊下で聞いていたが、
急に無表情になり、病院を後にする。

もう、何にも関心を持たないかのような足取り。
その派手な外見に道行く人の目が集まっていることも気にしない。

目指すは、小さな廃墟。
悪魔の叫び声が響く地下世界。


暗闇は今、東京にも近付いて来ていた。