どんな時でも、陣地を守り抜く。

それが守護神というもの。




守護神







東京都の中心部を少し離れたところに武蔵森学園はある。
都心ではないにしろ、そこは流石文明の中心都市。
情報機器は発達し、生活面に関しては不自由することがない。
勿論、全国区であるサッカー部への設備投資はおしまれない。
最高の講師に最新の照明機器に広大な練習グラウンド・・・。
サッカーをするにはもってこいの環境だ。

中学生には勿体無い・・・それがサッカー界での定説だった。







しかし・・・。







そんな武蔵森にも欠点はあった。









それは・・・












***







ドンドンドンッ!!!
静かな湖畔の森の影から〜なんて歌にそぐわない騒音をたてているのは、武蔵森学園サッカー部一年にしてエースの藤代誠二。
素晴らしく名誉な肩書きを引っさげている彼だが、腕を振り上げドアを叩くその表情は険しく、余裕の欠片すら見当たらない。
すぐ脇に備え付けられた小窓からは優しい木漏れ日が差し込んでいるが、藤代がそれに気づくことも癒されることもない。
彼の神経全ては、目の前のドアの向こう側に注がれている。

「ちょっと!そこにいるのはわかってるんですよっ!!!さっさと出て来て下さい!!!」

「・・・・・・。」

「聞いてるんすか?!!」

これだけ聞くと藤代が優位にたっているように見えるが、実際は逆だ。
藤代の眉間からは脂汗が流れ、体は小刻みに震えはじめている。
ついでにいうと右手でドアを叩き、あまった左手は下半身のほうへ持っていっている。


そう、藤代が叩いているドアはトイレのドアだった。







武蔵森は文武両道ということもあり、部活動毎に寮が設けられている。
基本的には入寮は自由なのだが、全国区でもあるサッカー部員は一軍三軍問わず、強制入寮だ。
サッカー部の歴史は深い。
つまりサッカー部寮である松葉寮の歴史も深い。
所々リフォームはされているものの、全体的な配置は昔のままだ。
つまり・・・トイレは寮の外に備え付けられている小屋の中にある。
しかし一部屋に一つずつトイレが備え付けられているのだから、それ自体に不便を感じることはない。
小屋はいい隠れ場――同室の人間の目を逃れて自身を慰めるなど、使用用途は色々だ――になっている。
それでも・・・本気でトイレに行きたいときに、部屋のトイレを占拠されていたらどうしたらいいのだろうか・・・?


外のトイレに行く、気力はない。
行く途中で力尽き、中学生にもなって恥ずかしい思いをするかもしれない。
大体目の前にトイレがあるのに外に行くのは馬鹿らしい。
近隣の部屋に借りに行くなんて考えは極限状態の人間には思いつかない。
前に突き進むことしかしないこの男だったら尚更だ。



そんなこんなで藤代は渋沢――と三上の部屋だが、三上は笠井と藤代の部屋にいる――の部屋のトイレのドアを叩き続けているのだ。
しかし限界は近い。
波のように襲い掛かる便意の間隔がだんだん短くなってきた。
自分の体だからこそ痛いほど分かる。
もう十分ともたない。
ドアの向こう側にいる人間が出てこない理由は分かっている。
謝る気など全くなかったがこうなったらなりふり構っていられない。


「キャプテン〜。」


得意の涙声作戦だ。
これに渋沢は弱い。
くらっとくるというよりも父性本能をビンビンに刺激されるのだろう。
計算ではなく、本能で藤代はそれを知っていた。

「・・・っ!!!」

ドア越しに渋沢が息を呑む。
やはりこの作戦は有効だ。
よし!と藤代は小さくガッツポーズを作る。
もう一押しだ!

「キャプテン〜。お願いですからでて来てくださいよ〜!!!じゃないと俺・・・俺・・・。」
「・・・っ!藤代っ!!!」
バタンッ!!!
「漏れちゃうじゃないっすか〜!!!」
バタンッ!!!!!!
「あれっ?キャプテン?何で閉めちゃうんすか?!!キャプテン!!!」
「うるさい!お前なんか漏らしてしまえばいいだろう?!!!」
「キャプテ〜ン!!!」





エースストライカーvs守護神の戦いはまだ続く・・・。







***




「朝っぱらからうっせ〜な!」
「まぁいいじゃないですか。」
笠井と藤代の部屋。
笠井のベットの上で二人はくつろぐ。
言葉こそ荒いものの三上の瞳は優しげだ。
それにやっと気づくようになってから、笠井は少しだけ自身がもてるようになった。
「それにしてもキャプテン、あんな可愛いキャラだったんですね。」
「あぁ〜あいつな。」
言い難そうにボリボリと頭をかく。
それとともにフケが落ちてくるなんてナッスィングだ。
「あいつ、実は甘えたい気質なんだよな。」
「そうなんですか?」
それには少し笠井も驚いたというように目を見開く。
普段の渋沢からは考えられないようなことだ。
「ガキの頃から甘えたことなんてなかったからな。気を許すとつい甘えたくなんだろ。」
何か思い出したことがあるのか、くっと三上が笑う。
「・・・。」
「竹巳?」
先ほどまで笑いかけていた笠井がうつむく。
オーラが黒い。
「ってことは、三上先輩・・・キャプテンに甘えられてるんですね・・・。」
「たっ竹巳・・・???」
「別に気になんてしませんよ。あんたが誰に気許されてようが俺には関係ないですもん。」
そういってがばっと布団を被る。
「おい!竹巳?!!」
「・・・。」
返答はない。
身じろぎすらとらない。









最後の詰が甘い。
これが武蔵森最大の欠点なのかもしれない。











これぞヤオイ!!!












ヤマなしオチなし意味なし・・・。
そんな自虐的なことも言ってみたり・・・。
いや、たまにはいいでしょう(たまには?)

トイレで話を考えたのでトイレネタです。
ちなみにキャプはふんばっているわけではありません。
ただ拗ねているだけなのです(そんなんわかってるわ!)

キャプがとても愛しいですね。
がっくん(氷帝)とおなじくらいです。
寧ろ無我の境地の解説を試合中たらたらし続け、余裕ぶってたくせに結局は負けてしまった、
自称武士らしいが試合中に全く違うこと(愛しの部長の)ことばかり考えているという、
全然武士らしくない某大学附属中の副部長のようだ。



040823