籠の鳥(04年8月 TSミュージック)
菊…里見瑤子
綾…鏡野有栖
N 昭和20年初夏、太平洋戦争はいよいよ大詰めをむかえ、アメリカ軍による本土襲撃は日に日に激しさを増していった。国民生活は一段と厳しくなり、「欲しがりません、勝つまでは」のスローガンの下、日本からは娯楽というものが姿を消していった。もちろん男達の遊び場所・遊郭も例外ではない。だが、軍隊の基地に近い遊郭は、人目を忍ぶようにひっそりと営業を続けていた。そこでは明日の命をも知れぬ若い軍人達が、娼婦の身体を慈しむように抱いていたのである。これはそんな遊郭で働く二人のオンナの物語である…(※1)
〔戦闘機・爆撃音〕
♪ お国のためとはいいながら、人の嫌がる軍隊に 志願で出てくる馬鹿もいる、可愛いスーチャンと泣き別れ by「可愛いスーチャン」(※2)
〔蝉の鳴き声〕
菊、登場(襦袢姿)
菊 (独り言)まったく今日も暑いねぇ。いつまで続くのかしら…
菊、お客さんに向かって
菊 ね、お兄さん、どこから来たの? どこ?教えてよ〜。柏?それどこ?日本?
菊 こっち来て私と遊ばない? そうねぇ、お兄さんだったら五百万でいいわ。
菊 お腹空いたわねぇ〜 なにか買ってきてよ。そうね、伊豆栄(いずえい)の鰻が食べたいなぁ…。ダメ? 私、明日もここに出てるから。待ってるわよ。
等々、お客さんと会話。
菊 それにしても暑いねぇ…。ちょっと、綾ちゃん! おもてに水まいたのかい? 綾!
綾、登場(浴衣姿)
綾 なんか呼んだ?
菊 呼んだ?じゃないわよ。お店の前、水はまいたんだろうね?
綾 ちゃんとまいたよ
菊 そう、ならいいんだけど…
綾 あ〜、お菊姐さん、綾ちゃんのこと信用してないなぁ〜
菊 そんなことないわよ。ただ暑いからさぁ…
綾 (一気に)この店に来て3ヶ月。お店の前に水をまくのは綾ちゃんの大事なお仕事です! 今日も女将さんから言われました。「綾、そろそろ日が暮れるから、お水をまいてちょうだい」「ハイ!」元気よく返事した綾ちゃんは重た〜い桶を持って、お外に飛び出しました。綾ちゃんのか弱い身体を太陽がギラギラと照りつけます。全身からじわじわと汗がしみ出し、それはいつしか滝のようになって流れ落ちて行きます。それでも綾ちゃんは負けません。桶の水を柄杓ですくい、それを「えーい!」と力一杯道路にまきました。「えーい!」「えーい!」ところが、です。三度目にまいた水が、道路を歩いていた他の店のお姉さんにかかってしまったのです。「きゃー」「どうもスイマセン」「やったわねぇ〜」お姉さんは綾ちゃんから柄杓を奪い取り、「お返しだよ!」と言って、水を引っかけてくるのです。綾ちゃんも負けじと反撃!「なにするんですか!エイ!」「きゃー」「きゃー」「きゃー」(※3)
菊 わかった、わかった。ほんとにうるさい子だねぇ。もういいから、晩ご飯の手伝いでもしてきなさい。あ、それから冷やで一本持ってきてくれないかい。こう暑くっちゃ酒でも呑まなきゃやってられないわ。
綾 OK牧場!
綾、退場
菊 (独り言)もう夏かぁ…季節のたつのは早いわねぇ…あの人が初めてこのお店に来たのは、ちょうどあの桜の花が満開の頃だった…
菊 ここには何人もの若い軍人さんが遊びにやってくる。いちいち覚えちゃいられないけど、あの人だけは覚えているわ。山田一義…ふふっ…なにしろ私のことを抱こうとしないんだもの。こっちから布団の中に誘おうとしたら、いきなり「菊さん、好きです!結婚してください!」だって!
菊、吹き出して笑う
菊 結局、一義さんは何回遊びに来てくれたんだろう…最後に来たのは、そう、嫌な雨がしとしと降り続く梅雨の夜だった。「菊さん、いよいよ僕にも出撃の日が近づいて来ました。この基地から飛び立っていく特別攻撃隊のことを菊さんはご存じですか?」なんて…こんなところで働く女だって、それくらいのことは知ってるわよ。爆弾を抱えて飛行機ごとアメリカの船に体当たり…
菊 「僕は立派に任務を果たしてみせるつもりです。でも、軍隊にいる僕には分かるんです。この戦争はもうそう長くは続きません。万が一、万が一、出撃する前に戦争が終わるようなことがあったら…僕は菊さんをここから連れだして結婚したいんです…」だって…変な人だよ…
菊 ♪貴方の呼ぶ声忘れはせぬが、出るに出られぬ籠の鳥…一義さん…
菊、ゆっくりと着物の中に手を入れ、胸を愛撫していく。
菊 ああっ・・・
オナニー、盛り上がっていく
菊 ああっ、イク〜!
綾の声 お菊姐さん〜!
菊 お菊姐さん〜! ん? えっ?
綾 (お銚子を持って登場しながら)お菊姐さん!
菊 (着物の乱れを直しながら)ど、どうしたんだい?
綾 綾ちゃんねぇ、今日からお店に出るんだって。
菊 おや、そうなの。
綾 うん、今女将さんに言われた。今からお風呂入って、身体を綺麗にしておきなさいって。女将さんがお化粧してくれるんだって!
菊 ふぅん…。でも、このご時世によくそんなお金をポンと出せる人がいるもんだこと。お客さんの名前は聞いたかい?
綾 えっとね、石動のおじ様だって言ってた。
(舞台袖に石動三六登場)(※4)
菊 あぁ、あの人かぃ。だったら心配いらないよ。お金持ちだし、優しいし…ただ、あの人、馬鹿だからねぇ…
(石動三六コケる→退場)
綾 ねえねえ、お菊姐さん、さっきなんか唄ってなかった?
菊 あぁ、聞いてたのかい。あれはね、大正の頃に流行った「籠の鳥」という歌さ。私のお母さんも小さい頃からこういう場所で働いていてね。子守歌は知らないからって、いつもこの歌を唄ってくれたのさ… ♪貴方の呼ぶ声忘れはせぬが、出るに出られぬ籠の鳥(※5)
綾 籠の鳥かぁ…。ねぇ、お菊姐さん。私たちって籠の鳥なのかなぁ。
菊 そうだねぇ、そうかも知れない…さ、綾ちゃん、早くいかないと女将さんに怒られるよ。
綾 うん。
綾、退場
菊 また一人、かわいそうな娼婦が誕生か…。おや?夕立かい?
菊、お銚子から酒をついで呑む。
〔雨の音だんだん激しくなり、雷が落ちる〕
一義の声 菊さん、菊さん(※6)
菊 一義さん? どこ?
一義の声 菊さん、僕は出陣することになりました。たくさんの戦闘機を積んだアメリカ軍の航空母艦が、日本のはるか沖合に停泊しています。その空母に奇襲攻撃をしかけます。そう、特別攻撃隊です…
菊 一義さん、まさか体当たりを!
一義の声 菊さん、大変お世話になりました。僕はもう戻って来られないでしょう。
菊 一義さん…
一義の声 「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」…晴れの出陣です。笑って見送ってください。菊さん、さようなら!
菊 一義さん!!
〔鳴り響く空襲警報〕
菊 大丈夫、私は防空壕なんか入らないよ。一義さんが命がけで守ってくれてるんだ。アメ公の戦闘機なんか、ここまで飛んできやしないんだ!
菊、ヤケになって酒をあおる
綾 (襦袢一枚で登場)お姐さん…
菊 あんた!逃げなかったのかい?
綾、崩れ落ちる。
菊 (綾を抱きしめて)綾ちゃん、もう女になったんだね。
綾、うなずく。
菊 そうかい。綾ちゃん、女というのはね、強く生きないといけないんだ。
綾 お姐さん…
菊 確かに私たちは籠の鳥さ。でも、たとえ籠の中だって鳥には違いないんだ。私はもう長いこと入っていたから飛べなくなったけど、綾ちゃんはまだ籠に入ったばかり。羽を大事にするんだよ。この間来た軍人さんが言ってたよ。こんなくだらない戦いはもうすぐ終わるって。そうしたら、きっと籠も壊れる。いや、壊さなきゃいけない。そのとき綾ちゃんは自分の羽で大空に飛んでいきな。(※7)
綾、うなずく。
菊 綾ちゃんは綺麗な小鳥だねぇ…
菊、綾の後ろに回って、襦袢に手を入れ、胸を愛撫する。
うつむいていた綾の顔が上がり、二人の唇が重なる。
〔同時に音楽流れる。曲のラストまでカラミ〕
綾 お姐さん…
菊、ゆっくりと綾の襦袢を解いていく。露わになる胸。菊、舌先で乳首を転がす。
綾 ああっ…
菊 さ、綾ちゃんも
綾、菊に促され、同じように乳首に口を近付ける。
菊 ああっ…
二人、上半身裸でしっかりと抱き合う。
やがて、菊の手が綾の襦袢の間から股間へと伸びていく。
綾、見よう見まねで手を菊の股間に。
二人の声が徐々に激しくなり、重なるように倒れ込む。
〔曲終了。暗転〕
―完−
※1…ナレーションは元星座の藤吉浩二クンでした。
※2…これ、仲本工事さんが唄ってます(時間の関係でカットした回多し)。月蝕歌劇団の公演で『練鑑ブルース』を使用していたので対抗してみました(メロディは同じ)
※3…水族館劇場の時のミミちゃんキャラで演じてもらったのだが、千穐楽まで台詞を覚えなかった(^_^;
※4…麻生翔子姐さんのチワワをお借りして連れて出たこともありました。翔子姐さんが引退してしまった今では懐かしい想い出…
※5…時間の都合でカット多し。
※6…この声も藤吉クンです。
※7…芝居のヤマ場です。久保新二さんの提案で大衆演劇のようなクサい芝居にしましたが、それが大好評で、里見瑤子の絶叫に拍手が巻き起こった回もありました。