今日みたいな日に、仕事の都合で会えないのはイヤだった。
「あ」


珈琲を。




走る。
走る。走る。
「ただいま!」
ばん、と。
玄関のドアが大声で『痛いよ』を叫ぶ。
靴がそれにぶつかって、どどんとよく響く音を奏でる。
でも構っていられなかった。私は走る。
どたばたと、大きな音を鳴らしながら。
目指すは。
がちゃん、と。
今度はリビングのドアが『痛いよ』を叫ぶ。
ふいに。
くつくつと、笑い声が耳に届く。
ようやっと、立ち止まる。
はあはあ、呼吸が乱れてみっともないような。
はっとした。
私、必死だった。
自分の行為を振り返り、猛烈にはずかしくなった。
「うそ、どうして?」
カーテンを片方だけ開けて、夜景を楽しんでいる彼。
ゆっくりと、こちらを向く。
珈琲の香りが、丁度この雰囲気にあっているような。
「来てたのね!」
「うん、お帰り」
勢い余って飛びつく。
彼の元へ。
おっと、と。声が届く。
ああそうか。珈琲持っていたのに体当たりしちゃったから。



こんなに嬉しいのは、理由がいくつかある。
本当は、5分前まで猛烈に落ち込んでいたのだ。
実は仕事が残業になってしまったから、誘われていた外食をドタキャンしてたの。
もう5日も会ってない。電話はかけようと思っても彼の喜ぶ話なんて得にないし。と。
言い訳をつけて、かかってくるのを待つ。
ずるい。
私は、毎日でも会いたいのに。と、願いだけメールにしたためて。
3日は未送信フォルダにいるけど、虚しくなって消す。繰り返し。
そんなわけで、今日久々に、の電話でも。
「ふぅん、ボクは会うの楽しみにしてたんだけどな」
と言わせてしまうし。
ヒソカより、仕事を選んだみたいで嫌な気持ちだった。
で、落ち込んで自棄酒覚悟で。
家の近くに来た時。
部屋の電気がついてたから、なんて、ベタな話。
それでも、こんな時間来る人って言ったら。
親はありえないし。兄弟には鍵を渡していない。
まさかとおもって、いや、勝手な確信をして。
期待して、期待して。
態度に出て、力の限り走った。そして。
求めていたものが、目の前に。
安堵。



「今日会えないなんて、言ってないだろ?」
やんわり笑って、頬に唇が落ちてくる。
顔が近いと、珈琲の香りが強くなる。
「そうなの…?」
思わず顔が赤くなってしまう。
てっきり、私はキャンセルだと。
外食、予約3ヶ月って言ってたのに。
「とりあえず着替えてくるね」
恥ずかしくて、ちょっと去りたかった。
なによ、来るとも言ってなかったじゃない。
嬉しいけど…
寝室に、向かうとき。
「ああ、コーヒー飲むかい?」
珍しい言葉に、思わず振り向く。
いいの?
「お願いします」



「カフェオレ」
が、置いてあるように見える。
ていうか、今ヒソカもカフェオレって言ったよね。
「なんで?」
思わず聞いてしまった。
だっていつも珈琲入れてとか言うから。
全くそう言うの、出来ない人かと。思ってた。勝手に。
「…イヤだった?」
「いや、いつもは」
あたし、ブラックだから。
ていうか、嫌そうに聞こえたの?ごめんね。
「今日、疲れてるでしょ」
え。うそ。
気遣いからだと知って、思わず泣きそうになる。
やばいやばい。
頑張った後に優しくされると、泣いちゃう。
そんな事、お見通しなのだろうか。
「ありが、と」
砂糖が、たっぷり入ってるみたいで。
とても甘かった。
ヒソカに会えたことと、このカフェオレで仕事の事なんてぶっ飛んじゃうよ。



「今日、会えないと思ってた」
ポツリと、こぼす。
メールみたいにうじうじしたくない、て思った。
まずは会ってる時だけでも、の練習。
ちょっと、後悔したけど。怒らせちゃうんじゃないか、と、思って。
「実はボクも」
「え?」
予想外の言葉に、顔を上げた。
ヒソカは珈琲を口に運ぶ。
しまった言ってしまった、だと思う。
いや、単に『焦らしてるつもり』なのかも。
私は、表情に出ている事を自覚しているし。
どういうこと?どういうこと?じゃあなんでいるの、って。
「でも、どうしても会いたくてさ。ついでに驚かせるかなと思って」
あ、やっぱばれてた。
で、不法侵入、になるのかな。と笑う。
あれ?
やだ。
どうしよう泣きそう。
「…っ」
あ、涙が落ちた。
「え?」
「…うれしい、のぉ〜」
一瞬、慌ててたけど。(予想外にかわいい)
今はちょっと冷静を装う彼。珈琲を口に運ぶ。
涙が止まらない。ああ、情けない…
「…電話、何度もしようと思ったんだけどね」
できなくて、と。
言い訳まで始める自分。止められないのはなぜ?
目を何度もこすっていると(ナイスウォータープルーフ)。
淋しい思いさせてごめん、と。
頭を抱えて抱き寄せられた。
何故彼が謝るのと思いながら。
「ボクも、かけようとしてたんだけどね」
毎日、と。
え?
顔を見ようとしたら、押さえつけられた。見るな、ということらしい。
同時に。
同じで、悲しくなった。
あの気持ちを、彼も持っていたなんて。
「ありがと」
いろんな必死でいっぱいいっぱいな私には、それをいうのでさえやっとのことでした。


朝が、来なければいいのに。
ずっと、一緒にいれたらいいのに。
涙が止まって、素直になる覚悟の決まった私は。
彼に、伝えれた。
そしたら、笑って。
そうだね、と。言ってくれた。


end...


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アトガキ。てか、反省?

何コレ。
名前変換ないんじゃん?!びっくり。
でも、自分的にはすごく、雰囲気好きなんですが。
なぜか主人公はC様なイメージで書かせて頂きましたが。
どないなもんじゃい?デス。
受け取っていただければ、光栄です。
170522 doppelt