「あ」
切なげな声が、耳に届く。
口の中には、甘いチョコレートが溶けて広がっていた。


チョコ。


珍しく、彼の感情のこもった声がしたので振り向くと。
冷蔵庫のドア開けっ放し。
の姿勢のまま、奥をじっと見て固まっているイルミが目に入った。
「ない」
何がないんだろう?
イチゴならとうになくなっているけど。
いや、冷蔵庫状況を把握する位の頻度でこの家に来ているからそれは知ってるだろう。
こんな、なんか。うん。
慌ててる?ちがうな、動揺したイルミ見るのは初めてのような。
それにしても、何か探してるんだろうな。「ない」って事は。
「あ」
ぐりんと、首だけがこっちを向く。ひぃびっくりした。
でも、目が合わない。なんで?
ん?
目線の先には、なぜかゴミ箱。
え、なに?何でゴミ箱??
「どうしたのイルミ?なんか、変だよ?」
どうしちゃったのそんなゴミ箱なんてガンミするような人じゃなかったじゃない。
まるでどっかのピエロみたいよ??
なんて思ってる私。
一瞬、イルミの動きが止まった。
「もし、かして」
止まったまま、無表情で。
ツカツカこっちにやってくる。
ううぇえ!こういう時はキレてるんだよなぁ。
がしり、と肩を掴まれて前に引かれる。
首がかくんてなった。奥歯が噛み合わさってかちんて音がした。
、息。はーってして」
えぇぇえ。そんな趣味あったの?!
やっぱ友人なのね、と妙に納得したり。
「な」
んで、息?
て、言いかけてやめる。
肩を掴む力が弱くなった気がする。
それが逆に怖いのですが。
「…」
イルミは喋んない。
うう、すっごい見つめられてる気がする。むしろ、睨み?
でも、怖くて目が合わせられない。
さっきからずっと、フローリングの上に落ちてる新聞広告を見つめている。
分譲?ヘェスゴイネェ。担当者はさん?え、同じ苗字じゃん。
…。
うう、沈黙に耐え切れない。空気が重いよ。
よし!
イルミの手を振り解くように身体をひねって彼から離れる。
不意打ちのつもりが、彼は動揺の声一つも出さない。
ちょっと、物足りなく感じたりして。
「ちょ(っと待って)?ど、どう…(はーってすりゃいいの)?」
そのとき初めて、目を合わせた。
ひっ。
「やっぱりな」
後悔した。
ぞくっ。と、全身の立毛筋が収縮。するような感じを覚えたって言うか。
ああもっと分譲広告とニラメッコしてればよかったんだ。
怖い。
全身から怒りが伝わってくるって言うか。
髪の毛が風もないのに揺れてるし。きゃああ。

静かに名前を呼ばれる。
目の前に、右手てのひらを押し付けられるような仕草をされ。
ひぇえ!あたし何したっけ?!
ああ、もうダメだ。あたし殺されるのかな。
て、彼氏に『殺されるかも』って、思うのってどうよ?
「オレのチョコ食べたろ」
声と同時に、ぎゅっと目を瞑った。
は?
ぎゅむ。ほっぺを掴まれた。結構痛いんですけど。
思わず目を開けて、イルミを見た。
「ち、ちょこ?」
「食ったろ」
ぎゅぎゅぎゅむ。
力!入れすぎイタイイタイ!!
「いらいいらい!!はなしてへー」
「おかしいと思ったんだよね。さっき牛乳出したときにはあったのにさ」
なにやら呪文のように喋り続けるイルミ。
顔には影が落ちていて、それもあって怖くて表情を窺えない。
もはや彼の怒りは誰も止められないらしい。
「昨日オレ10枚板チョコ買ってきたんだけどさ、気付いたら8枚になってたわけ」
ぎくっ。
あ、あれ。やっぱイルミが買ってきてたんだ。
「明らかにオレその時1枚しか食べてなかったのにさ、何でないんだろうってまァ1枚くらいなら許すよ。許せたよ?」
ぱっと手が放された。
いったぁ。絶対赤くなってる。
「でもさ、寝る前見たら、残り5枚になってたわけ。」
コーヒーに入れたとしてもまず4枚も減らないよね。
と、はっと嘲笑混じりに吐き捨てる。
目が笑ってない、のはいつもだけど。
流石にあたしもやりすぎた。
『おかしいなぁと思って朝見たら案の定4枚になってたわけ。
その時点でちょっとムカッときてたんだけど流石にこういうので切れるのってみっともないじゃない?
それにまだ朝だし。
昼になったら買い足すつもりで食べたのかなあとかオレにしては寛容な台詞で落ち着けたよ自分自身をっ』
感情が昂ぶってきたのか、話す速度が上がり、語調が荒くなる。
うわぁあ。ピエロのお友達でも引くわ、コレ。
なんて、若干『輪の外』的になる自分も自分だけど。
反省します。
『今日ももう4時。買い足しに行く気配もないみたいだし?
じゃあしかたないな、一枚食べながらヒトコト言ってやろう。
そう思った矢先。
…ぇんだよ。
ないんだよね、チョコが!!一枚も!!!』
BGM代わりに、イルミさんの怖い声。
うう、ホント怖い。食べ物の恨みってホンッと怖い。



そうなの。実は生理中はチョコレートが異様に食べたくなる性質なの。
ホントにコレは何でなのか?
アドレナリン出させてさっさと終わらせちまおうぜっていう体の働きなのか?
全くわかんないけど。
でも、イルミも居てくれて、チョコもあったから精神的に落ち着けたのデス。
どうして家にあるのか。何で考えなかったんだろう。
考えつかなかったんだろう。考えもしなかったんだろう。
ああ、浅はかな私。ごめんイルミ。
あたし何枚食べたかすら覚えてないのっ…!



「で、ゴミ箱見たらやっぱり捨ててあるし包み紙と銀紙が。
オレが食ってないってことは、しかいないし?
それはまあ減った時点でわかってたことだけど。
いやでももしかしたら自分は夢遊病とか念で操られてるとかして無意識のうちに食ってたのかもしれない。
と思って一瞬落ち着いたから、疑った事謝ろうとしたら
から、チョコの匂いしたんだよね。
それでオレもうブチって。ハハハ。思わず頭の中で思ったね!
オレ、1枚しか食ってないじゃん。て。」
1枚しか食ってなかったんだぁ…
そりゃ私でも切れますわ。


***そしてその後板チョコ20枚買ってきて平謝り***
それでも3日間、口聞いてくれなかった。
ほんと、やりすぎた。私のせいです。ほんとごめんなさい。


end...


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アトガキ

あーあ。
こんなんしてもて。
アンタどないすんの。
ほんまごめんなさいやで。
17.05.06