イルミとの情事は。
まさに、チョコレートを溶かしたようだ。
と、思った。
彼。
だん。
「え…?」
急なことだった。
床に、打ち付けられた。のかと思った。
体が軽くはねて、戻る。
びっくりして、声も出ない。
体が痛い。
一瞬、負の力で気持ち悪いと思った。重力。
ふと、覗き込んだ彼によって視界が暗くなり。
彼によって平常心へもどされて。
「大丈夫?」
「なわけない、でしょ」
いてて。
何でこうなったのか、というと。
うちのソファはベットになるタイプのもので。
私がもたれているのに、イルミが。
倒すレバーを引いたから。だと思う。いや、まちがいない。
「ぃしょ」
彼が、ソファごと私を起こしてくれた。
いや、それは表現が正しくないなぁ。
ソファを起こしたら、ついでにあたしも起きれたみたいな。
起こすくらいならはじめから倒さないで。
マイペースな彼に、一言言いたかった。
と、ソファの正面に回ってくる、彼。
左手はソファの背もたれを掴み、右手を私の首にひっかける。
ゆっくり、私と向き合うように。どきどきどき。…近いよ。
横に座ればいいのに、なんて言わなかったのは。
久しぶりの兆しに気づいたからで。
ひざの上に、彼がまたがる。
えええ?!
今日に限って、どうしたのかしら。
こんなこと、しないのに。普段。
まさかほんとに?
「どうしたの?」
腕をイルミの首に絡める。肩を抱き、ぎゅう、と。
彼の鎖骨に顔をうずめる、私。
脈が速い。やっぱり。
「…口、切った?」
頓狂な台詞に、一瞬ぶっ飛んだ思考を引き戻して。
口の中を舌でごそごそ。うん、異常なし。
「いんやぁ?ほら」
口をあけてみる。と、
「わぱ」
ぐんと顔が近づいてきて、がっと後頭部を掴まれた。
自分のものではない舌が、ああ。
なんて不意打ち。不覚。
ちょっとうれしい。
やっぱり、今日彼は様子がおかしかった。
長いことしてなかったからたまってたのでしょう、ね。
やだ、もう酔ってきた。
今更ながら思うことは。彼はキスが上手だということ。
「んぅ…ぇあん、むっ」
舌の方向を変えるたび、絡めるたび。
口から、鼻にかかったため息のような。
それでいて切ないような、声が出る。のがわかる。
私は、外ではこんなに激しいキスはできない。
家で、しかも夜で。
止めるものなど何もない。そんな中ではじめて。
私は安心して、淫らに崩れ落ちることができる。
イルミの前で、恥ずかしげもなく。
悶え、叫ぶ自分。想像しただけで顔から火が、いや、マグマが噴きだしそう。
「、はっ」
息を吸う音、イルミのもの。
ほっぺが赤くなってる。じゃああたしは、真っ赤でしょうね。
なんておもって、火山の噴火を思い浮かべる。
ちゅ、ちゅ。
淫靡な水音が。聞こえる。
イルミはいつも、キスをはじめる際。
歯茎の辺りを唇で一度二度、ついばむような愛撫をする。
癖なのかしら?今日は不意打ちだったから、それがなかったけれど。
そして、そこに舌が這ったら「口を開けて」の合図。だと、解釈している。
開くと、ぐっと。
上あごの喉側から、そうっと舌が這う。それを何度か繰り返して。
ぞわあとする、快感。身をよじる。こそばゆいような。
もっと、もっと、奥、も。奥から、お願い。
そう思うけれど、口にできない。
行動で示そうと、イルミの顔を引き寄せてみたりする。
手のひらの中。髪の感触が、さらさらしていて。ひんやりしていて。
彼のほっぺの温度であったかくなってくる髪、はずかしい。
「んん」
下肢が、むずむずする。
ちゅ、っぱ。
ちゅく。
っちゃ、ちゃ。
顎にしたたった混じりあう液体が、音を奏でる。
私は自分の体を支えるので精一杯。お腹にさっきから。…。
長い、長いキス。こんなの、はじめて、なの。
息が上がる。
目が潤む、頬が熱い。身体も、あつい。
そんな、私を知ってか知らずか。
手が。胸に。
やだ、待って。
「やぁ」
置かれた。
ここで、するつもりなの?
お風呂にも入っていないのに?
「待ぁ、ていぅ…み、ぃぁや!」
キスをやめないままなので、必死に声を上げる。
目を開けると、イルミと目があった。
瞬間、彼は軽く口をすぼめて。私から舌を抜く。
ばっと。
ブラウスの胸元が開く。
ああ、お気に入りだったのに。引きちぎられちゃった。
ぺた、と。首に感触を感じて。
考えている暇ではないと思い。抵抗。
「いや、いやだぁって、ばぁ」
彼の肩を押す。動かない、全然。
「んん…ぅっ」
やだよ、舌が。熱くて、気持ちよくて。
どうでもよくなりかける、頭、で。
考えた。
もしかして、私彼を煽っているのかしら。
だとしたら、何も言わずに抵抗を示すほかないのかしら。
白いソファ。
シミができたらどうするの?
座るたびに思い出してしまうでしょうし。
ああ、そんなの耐えられない。
よし。決意。…そんな大層なと、頭の中で声がしたけれど。
「ここじゃ、やだ」
彼の頬を両手で挟んで、顔を上げさせて。
目を、見て、言った。
「は…は、」
見つめ合う。
お互い、肩が上下する。
「はぁ、は」
うう、そんな目で、見ないで。
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