デートの帰り道、近所に新しくできたドラッグストアに行くことに。
マニュキア。
そもそも、今日の私たちの目的のひとつに『シャンプーを買うこと』というのがあったのに。
某テーマパークでのデートはとても楽しくて。
ふたりして、忘れていた。
「ほんと、あの乗り物びっくりしたあ」
「はびびり過ぎだよ。あれくらいで」
帰りの電車は4時ごろ。
高校生たちがたくさん乗っていて、車内はにぎやか。
興奮気味に話す私たちの会話も、まるで自然なもののようである。
ふと、髪のきれいな女子高生が私の隣を通った。
ふわりと香る、いいにおい。
「「あ」」
声を上げたのは一緒の時間。
「忘れてた」
「あたしも」
ホント、似たもの夫婦とはよく言ったものだ。
まさに、私たち。
改札を出て、ふうと一息つく。
シャンプーはコンビニでもスーパーでも買えてしまう。
どこで買おうかと話しながら二人、帰路をたどる。
思いがけず話に花が咲いて、結構家に近くなってきてしまった。
そこで目に飛び込んだのは大きな看板。
「そういえば、この間出来たんだっけ」
「ドラッグストア、か」
シャンプーあるよね?と目で話しかけるシャルに、微笑んで返す。
彼も笑ってくれた。伝わったかな?
「まだ一回も来たことないや」
足をドラッグストアに向かわせて、二三会話。
意外といつでも行けると思ってるとこには行かないものなのかもしれないな。
と、頭に思い浮かんで消えた。
「俺なんて出来たことすら知らなかったよ」
あはは、と毒気なく爽やかに笑う。
あまりの爽快さに顔がふやける。
この人は私の彼氏さんだよ。
ちょっと心の中で自慢してみた。
ういんと、自動ドアが開いて。かごをひとつ。
まだ新しい店内から、接着剤の様な独特の香りを感じた。
新しいにおいがするね、と目でシャルに話しかける。気づいてくれるかな?
目線に気づいてくれて、にっこり微笑んでくれた。
うれしくなって、えへへと声に出して笑ってしまった。
年がいもなく、ちょっとはずかしい。
「広いね」
きょろきょろ、と店内を見渡すシャル。商品ではなく、誘導版を見てるみたい。
目線が高いから、ちょっと不思議に思ったけど。
「うん」
手早く探しているコーナーを発見した彼は、ふわりと私をそちらへ誘導してくれる。
飾ることなく、誇示することなく。ホント、スマートなエスコート。
陳列棚に近づくにつれ、独特の香りが鼻に届いた。まざったような、それ。
どちらともなく、香りがきついねとこぼし、笑いあう。
中には、消耗品にしては高価なものもあり、買う?と真剣に悩んだり。
こうした時間って、すごく大事だよなあ。と、さっきから顔が緩みっぱなし。
けっきょく一番高いものを探して、それを大事に使うということでシャンプー探し終了。
ほかに見たいものある?と聞いてくれるだろうから、一通り店内まわろうよ、と。
言うつもりでいた。が。
シャルを探した目線が、彼以外のあるものを捕らえた。
「あ」
はと気づいてあわてて口を押さえた。
もちろん、シャルは気づいてる。
先ほどの私の目線をたどって、首を動かせて。
「マニュキア?」
振ってきた声にしまった!と思った。
と、彼は見に行こうといった雰囲気でこちらを振り返り、そのコーナーに足を向けた。
あたしのばかばか。
男の子がマニュキアのコーナーで楽しめるわけないじゃないか。
とはいえ、彼についていってしまうあたり私も結構なあれである。
まあいいか、ちょっとくらい甘えちゃえ。
…撤回、だいぶ。
「いろんな色があるんだ?」
子供のような、純粋できらきらした目。うう、まぶしいぃ。
オレンジの、パールの入ったマニュキアを手に持ってる。
手、出してと言われ、右手を出すとつめの辺りにビンを近づける。
ううん、これじゃないな。とビンを戻す。
シャルの左手には、私の右手が残ったまま。
ビン相手ににらめっこしてる彼に、ちょっと申し訳なくなった。
「ねぇシャル、退屈じゃない?」
コレだと思う色があったのか、薄い桜色のビンを手にとって爪に合わせる。
「は退屈なの?」
下を向いたまま。顔が見たいよ、表情を少しだけ読ませて。
女の子なら誰でもマニュキアには興味があると思う。
その中でもちょっと度が過ぎるのが私だ。
1時間くらい、悩む。一本350円のマニュキアでさえも。
それくらい、こだわりがあって好き。
だけど、それはあくまでも一人で来た場合。
そうじゃないなら話は別。
相手に気を使うというより、普通にそんな逸脱した行為できない。人間として。
まして、彼氏の前でそんな失態見せられない。女として。
「うんと、違うんだけどね」
どう説明しよう。
退屈な筈は全くないが、そうさせるのは忍びないとでも言うか?
「?」
「シャルが楽しくないなら、やだなって思って」
率直に、思いが言葉になる。
と、不思議なことにシャルが一瞬驚いた顔をした。
「楽しくなさそうに見えた?おかしいな」
楽しいのに。たのしすぎるのかな?と考え始めちゃったりする。
拍子抜けの合間合間にたまらなく愛しくなる。
私、被害妄想先走っちゃってた。
それに、似た者夫婦なんだし(笑
嫌ならいやって言うのが、伝わるはずじゃあないか。
「まあいいや。にはこの色がいいと思う」
ビンは、きれいな液体で満たされていた。
どきんと、懐かしい感覚が体に流れる。
幸せすぎて怖い。明日から不幸の日々が続いてしまうのかしら?
そんなことはないと打ち消して。
「この色、シャルみたい」
あったかい、そんな色。
シャルが私のために選んでくれた、特別な色。
そのあと、レジで。
シャルが選んでいたときに戻すのが面倒になったマニュキアがかごに残っていて。
レジフォローを訴えかける店員さんの姿と。
何度もバーコードを読み取られるマニュキアと。
見たこともない長さのレシートを、初めて見ることが出来ました。
「記念にあげるよ」
と、30センチはあるレシートをもらう。
なんか、こういうのうれしいってどうかしてるかな?記念記念。
「これも」
ちゃんと、つけてね。という微笑とともに。
25本のマニュキアを、もらいました。
end...
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アトガキ
シャルはあんま漫画中でも喋んないから
ほとんどオリジナル人格になっちゃうのがやだな。
操作系だから、イルミっぽいのかなとかおもいつつ
…どうでしょう?
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