文章を読み書きさせる。
ある年の春でした。私の知り合いの方から、
「私のところの娘の勉強の面倒を見てくれませんか。」
とご依頼がありました。その後日、その方の家へ伺いました。
「うちの娘は、来年に高校受験を向かえるんや。ちょっと見てくれたらええんや。」
「実力は、どの程度ですか。」
「下から数えて、三番や。一番と二番の子は、不登校か病気で休んだ子だけやから、学校に来てない子しかおらんのや。塾には行かそうと思っているけど。」
「まあ、近くの有名進学塾では成績は上がらないでしょう。授業のレベルが高いし。授業のレベルについていけないかもしれませんね。お金をドブに捨てるようなものになるかもしれませんね。」
「実は、他の人に頼もうと思ったけど、できそうな人はあなたしかいませんでした。だから、一週間で1回だけでも良いので、面倒を見てください。」
「はい、わかりました。できる事はやってみましょう。」
「その代わり、うちの子、悪いから。学校では女番長だから。」
その娘さん(以下Rとする)の勉強の面倒を見ることにしました。
ただ、勉強の面倒を見るにしても、どの程度の学力を持っているのか、性格などの情報がわからないのです。R本にと話をしないと、手の内ようがありません。そこで、翌週に私はRと面接を行い、簡単な学力試験を行うことにしました。
翌週になり、Rとの面接を行いました。面接の内容は名前・生年月日・好きな芸能人・漫画・食べ物など項目は十以上にのぼりました。Rは女ヤンキーですから、このようなふざけた質問をして、Rのことを知ることにしました。面接を実施してわかったことは、この年頃の女の子は男性アイドルにのめり込む傾向があるのですが、どうもその傾向や話も出ない。好きな漫画といっても、漫画の単行本をすべて揃えているのかと思えば、そうでもない。以上のことから、どうも年頃の女の子が興味を持つようなものは持っていないということがわかりました。
次に学力試験を行いました。教科は、国語・数学・英語です。最初に国語の試験ということで、音読テストをしました。音読の内容は、中学二年生の国語の教科書に載っている「小さな労働者」でした。Rにその文章を読んでもらいました。
「☆*@・・・え〜、@☆△でした。」
Rには悪いのですが、何を言っているのか・何が書かれているのか、聞き手である私が理解できないのです。そんな音読ですから、聞き続けるのは自分にとって拷問だと思いました。文章の最初の2行でこの状態ですから、全部で4〜6ページぐらいある文章を読んでもらうとなると、日がくれてしまいます。だから、私の遊びの時間も確保しなければいけないので、素早く国語の試験を終了させました。結果は、わずか2行だけ読んでもらって分かったことですが、助詞・名詞・動詞などの言葉、つまり単語の区別ができない。漢字は読むことができないことがわかりました。
次に数学のテストをしました。公文教育研究所の方から教えていただいた方法で、数学の力を診断することにしました。教えていただいた方法とは、計算一問にかかる所要時間と正当数で判断するという方法でした。そのときに使った教材は、小学2年生で学習する九九の内容でした。最近の子どもたちは九九の計算ができにくい傾向があります(九九ができにくい理由は割愛させていただきます。)。もしかして、その傾向が出てくるのではないかと睨んで、九九のテストをしました。よくRの顔の表情やペンの動きを観察していると、7の段や8の段で困った顔をするのです。どうも、九九をすべて覚えていないようで、きっちりと覚えていないようでした。記憶を辿りながら、何とか時間をかけて九九の計算を終了させることができました。次に、引き算のテストをしました。最近の子どもたちに見られる傾向で、引き算が苦手な子が多くなっているのが現状です。その傾向にぴったり当てはまるのかな、と思って観察をしていると、繰り下がりの計算、「15−8」のような計算に四苦八苦していました。
最後に英語の音読テストをしました。もう、これ以上言うことのない素晴らしい成績を修めました。中学一年生で学習する「Nice to meet you」が読めませんでした。ちなみに「Nice to meet you」は、中学1年生の1学期に習います。
そして、私が行った学力試験の診断結果を保護者に伝えました。
「Rは、文章を読むことができません。だから、テストでも低い点しか出ないのです。つまり、字が読めないことが原因です。数学は、プラスマイナスの計算の前に、小学生が習う九九などの計算の復習が必要になります。英語ですが、全く読めません。」
「まさか自分の子がこんなになっているとは夢に思いませんでした。ニュースとかでは、学力が低いと言われていたけど・・・」
保護者の方は、とてもショックを受けて言葉を失っていました。
「文字が読めないということは、テストとかの問題文が読めなく、どう答えたら良いのかもわからないはずです。まあ、数学テストだけが1桁なら計算ができないと言い切れますけど、国語も社会も1桁だと、問題文を読むことができません。だからその練習からしないといけません。」
そして、大まかに勉強計画を説明しました。Rが二年生の3月の春休みの真っただ中のときの話です。これから約1年間、1週間に1度だけRの勉強の面倒を見ることになりました。
最初の3回は、3月に勉強会を行いました。最初ですから、私の宿題はきちんとしてきましたが、3月の3回目の勉強会のとき、Rは宿題をするのを忘れてしまいました。それは、私の中では予想通りのできごとでした。そこで、何をさせたかというと、「昨日、勉強が終わってから行動したことを書く」ことでした。なぜ、それをさせたかというと、Rはどれだけ文章が書けるのか知りたかったからです。実際に文章を書かせると、「ともだちと買い物にいきました。たのしかったです。」で終了しました。
「お前に反省文を書けと言っているのではない。楽しかったできごとを、どれだけ楽しかったのか文章にして欲しかっただけ!かわいい服を買いました。とか書いて、文章をわかりやすくて面白いものになるだろうが。」
Rは作文を書けないという事実を掴むことができました。
桜の花びらが散ってしまった時期に始業式が行われ、1学期がスタートしました。それから、1週間もしないうちに、大問題が起きました。それは、4月に入って2回目の勉強をするときでした。どうも、目の色が、変なのです。どのような状況だったかというと、雄ライオンが、獲物を、狙うような、目つきをし、いつ人を襲って、暴行事件を起こしても不思議でない目をしていました。これはちょっと勉強ができる状態ではないと判断し、
「今日は、勉強を教えない。この状態なら、しないほうがいい。Rが勉強をわかるようにはすることはできない。今回をもって、お前の勉強を見るのを辞める。ただし、お前が本当に勉強しようと考えているのなら、世話はする。勉強するのかしないのかは家族に相談せず、自分の意思で判断しろ。もし、勉強をしようと考え、教えて欲しいという考えがあれば、保護者の方に私のところの電話番号を聞いて、自分で私のところに電話をし、自分の口で、勉強しますと言え。そしたら、今後、勉強の面倒は見ます。」
なぜ、このような意思の確認をしたのかというと、今回の勉強の依頼は、保護者の方がしたのであって、R本人がしたのではありません。だから、何らかの方法で、本人の意思を確認しようと考えていました。
「実はこの前、うちの娘がガスを吸って、危うく補導されそうになった。」
「それって、昔で言えばシンナーを吸って薬物依存になることと同じですよね。一つ間違えれば、警察と裁判所に行って少女院に入りますよね。」
ガスを吸う薬物依存症になります。その薬物症状がガスを吸ったことが原因で出たものだとわかりました。とにかく、ガスを吸うと人体に悪影響が出ます。Rは女の子ですから、出産のときにも大きな影響が出るかもしれません。
「今日、近くのコンビニでガスを買って、家で吸っていた。様子が変やったやろ。」
「目がライオンのように、草食動物を襲うかのような、非常に危険な勉強会でした。で、本人の状態が、そうなので、勉強の面倒は見ないと本人に言いました。勉強についての相談があっても、無視をしてください。本人に勉強の意思を問いただしてください。もし、勉強すると言ったら、僕のところに電話して勉強すると言わせましょう。」
「こんなことやって、大丈夫なん。」
「大丈夫です。本人は絶対に勉強をすると言いますから。自分を変えたいと考えていますから。」
この日の学習会は終了しました。
それから、10日後にRから電話があり、「勉強をする」ということを本人の口から聞くことができました。再び、1週間に1度だけRの勉強の面倒を見ることになりました。まあ、勉強の意思を表明したとしても、生活の行動はなかなか変わりません。今後2ヶ月は、深夜俳諧など人に迷惑をかけるような行動が続きました。
実はこの頃、国語の教材は何を使ったらいいのか悩んだ挙句、朝日新聞に掲載されている天声人語を使用することにしました。なぜ、天声人語かというと、ある時、男性からこんな話を聞いたからでした。
「昔は宿題とかで、天声人語の書き写しをよくしたものだ」
私は国語の教科書などは持っていませんから、何か良いものはないかな、文章の書き写しをさせるのに相応しいものはないかと悩んでいたときに、その天声人語ということばが耳に引っかかったのです。そして、天声人語についていろいろとインターネットで調べたのです。そうすると、ほとんどの大学で天声人語を題材にした問題が多数出題される傾向にあったのです。そのため、今後の入試対策として、天声人語を選びました。
さらに、過去の「天声人語」を集めて書籍にしたものが出版されていることを知りました。天声人語は、日本語のみが書かれていて、約半年分の内容が掲載されているものがあります。もう一つが、英文と和文が一緒になり4か月分もの内容が掲載されているものもあります。個人的にお勧めは英文と和文があるものではないでしょうか。私は、たまたま天声人語の本を捜したとき、書店に陳列をされていたものが、英文対照の天声人語でした。
更にインターネットで調べていくと、朝日新聞の天声人語ともう一つの新聞社の1面に掲載されているコラムが、文章表現のレベルが非常に高いという話がありました。そういう経緯があり、教材として天声人語を選択させていただきました。
天声人語を使った勉強を再開してから約1ヶ月後に3年生最初の中間テストがありました。このとき、公文教育研究所のかたに、Rの勉強方法についてについて相談をしました。
「今度、中間テストがあるんですけど。ここで、結果を少し出さないと、やる気の導火線に火を消すようなものだと思いますが、どうしたら良いですか。」
「あまりあせらず、ゆっくりと確実に力を身につけさせたら良いですよ。」
あまり結果を気にせず、今の方針でゆっくりと進んでいくことにしました。
Rは5教科の合計得点が100を超えることがありませんでした。苦手な教科は一応、数学。2年生のときの数学の得点は0ばかりだったそうです。さらに、文章も読むことができません。しかし、数学以外のテストには記号問題があります。その記号問題で何とか○を貰った結果、0にはならなかったのです。例えば英語だと、聞き取りの記号問題と、発音に関する選択問題で偶然○を貰うのです。
このときの方針について説明をしておきます。国語は追い読みと音読をさせて、宿題として文章の書き写しをさせることにしました。数学は、計算練習が必要で、小学生の低学年レベルの復習が必要でした。私が国語に力を入れすぎ、数学を少しおろそかにしたために、成績が思ったほど上がりませんでした。ほとんどできなかったのが私の指導の失敗です。次に、英語は、国語と同じ方法で、追い読み・音読・書き写しをさせることにしました。実質は、国語と英語の二教科を強化することになりました。
中間テストの時期が来ました。この時期、数学は何をさせたかというと、ワークの答えの書き写しです。3年生の数学は最初に「式の計算」の展開の計算をします。その内容と、2年生に習った確率の問題が範囲でした。書き写しをさせる前に、展開の方法と文字の計算方法だけを説明して、後は、学校から言われている提出日に間に合うように、ワークを仕上げなさいと指示をしました。
中間テストの結果が返ってきました。どれだけ伸びているのか私もRも不安です。その結果を見せてもらいました。そしたら、数学で30点を取ることができました。この点数は、数学ではほぼ初めてだそうで、数学の先生から、
「お前、よく頑張っている。」
とお褒めの言葉を頂きました。私は、この出来事がRにとって第1のターニングポイントだと考えています。それは、今まで、0点しか採ったことのない数学のテストで、30点を取れたことでした。内容は「展開」でしたが、つまり、やれば点数に表れることをRが知りました。この後に、もっとビックリすることがおきました。このころ、数学の計算問題の計算式とその過程の書き写しをさせていたのです。
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上記のような計算を、何もなかったかのようにスラスラと計算をしているのです。3年生の「展開・因数分解」の計算では、上記のような文字の計算ができなければいけません。それができなければ得点にはつながりません。だからテスト前に文字の計算方法を「xの係数どうしを足したり引いたりしたらいい」とだけ教えていたのです。それが、スラスラと計算するとは夢にも思いませんでした。連立方程式の計算をさせてみました。問題は以下のようなものでした。
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これらもスラスラと解けるのです。自分自身、こういう光景を見たことが無く、ただ見つめることしかできませんでした。そこへ、たまたま家族の方がRの勉強の様子を見に来ました。
「お母さん、大変や。Rが連立方程式を解けるようになっとる。信じられん。私はできなかったのに。」
「それは嘘やろ。冗談もほどほどにし。(実際に見て)何が起きたの。」
何か因果関係があるではないでしょうか。どうしてこんなにはやく解けるようになったのかわかりませんでした。このことを、知り合いの塾の先生や公文教育研究所の方にこの現状を説明しました。
「数学ができなかった子が、2ヶ月で連立方程式が解けるようになることってありますか。」
「そんなのは聞いた事が無い。」
「国語の勉強のときに、音読と書き写しをさせました。数学は、問題と解説の書き写しをさせました。数学に関しては、正負の計算は少しできるようにしたけど、それ以外は何も力を入れていません。」
「その事例は、研究の余地がありますね。一つの成功例として、ストックしておきます。」
「なるほど、音読か。そして数学と国語をリンクさせるか。」
それから一ヶ月も経たないうちに、1学期の期末試験がありました。Rは勉強したのかと言われると、そうしていないと思います。今まで、勉強を1分もしたことが無いような子が急に勉強するなんて考えられません。テスト期間中は、とにかく提出物を出すことはしようということで、内申点対策と言われても仕方がないのですが、そのようなことをRにさせました。
それから1週間後に、テストの結果が返ってきました。そして、はじめて国語のテストで60点近くを取れるようになりました。残念ながら、漢字の書き取り問題では半分しか得点ができていなかったので、漢字があえば60点台後半の得点が出たことでしょう。
7月になり1学期が終わろうとしている時期に、学校で期末懇談会がありました。Rは懇談会で通知表を貰いました。2年のときの評価は1ばかりだと聞いていたのですが、
「1が減って2が増えた。」
と保護者の方がえらく喜んでいました。そして、1ヵ月半にも及ぶ夏休みを迎えることになりました。1学期は、深夜俳諧・授業抜け・非行など素晴らしい行動が目に付いていました。この夏休みは、恐怖の40日と位置づけ、覚悟を決めて6回分の勉強に取り組むことにしました。
では、Rの夏休みの行動はどうだったかというと、特に何も無い日は、朝起きる時間が昼ごろになる程度である。また、学校では夏休みの始めと終わりに課外補習を行ってくれました。Rは学校で行われていた国語・数学・理科・社会・英語の補習学習に自ら参加するようになり、遅れずに参加したそうです。また、Rは補習をサボりたい友達を誘って参加していたそうです。数ヶ月前では考えられない行動がはじまりだしました。
そして、9月を向かえ2学期に入りました。このときに、Rの保護者からトンでもないことを耳にしました。それは、「高校に行きたい」という言葉でした。保護者の口からは「高校に行って欲しい」と言っていたものの、Rの口からは「高校」という言葉が出なかったのです。半年前のRではあれば「高校?何で行かないかんの?」と返事をしそうですが、このときはびっくりしました。「高校に行きたい」と言ったのですから。この発言をきっかけに、Rの家族の皆さんもRを応援するようになりました。しかし、まだ成績はアップしませんでした。だけど、アップしそうな芽が少しずつ開花しそうな予感を感じさせるようになりました。
私も、指導者の立場ですから、Rの面倒を見ているとき、保護者に対していつも、「1学期は、個人差があるから、結果が出ないときもあります。」と言い聞かせていました。でも、もう2学期ですから、そろそろ結果が出てほしいなと私自身考えていました。
Rにとって第二のターニングポイントが、10月だったと思います。10月に中学三年生を対象とした診断テストが行われました。相変わらずの点数で、どうも伸び悩んでいて、私自身どうしたら良いのか判らなくなり、指導に自信をなくいているときでした。10月に、診断テストの解答用紙がRに返却され、その結果を見せてもらいました。国語の点数は、相変わらずの点数でしたが、作文でかなりの高得点をマークしていたのです。Rの保護者から、
「Rの作文、これはうまいよ。いつの間にこんな作文が書けるようになったの?私、Rの作文を読んで感動した。学校の担任の先生がRの作文は非常に感動する内容です。親御さんもその内容を読んでくださいと連絡があったくらいで。ビックリした。」
と嬉しそうな声で言うので、本当にそんなにうまい文章が書けているのだろうか疑いながら読みました。
「確かにこの文章はうまい。家族の作文の入選作品みたい。この文章のレベルはかなり高いぞ。これは、絶対に強くなる。絶対に大きくなる。私、身体が震えた。」
私自身も作文のあまりのも素晴らしいできと、あまりにも感動的な作文に興奮をしてしまいました。自分自身、作文の添削などの指導やその技術は持っていませんでしたが、一緒に勉強をしてきたRが、ここまでできるようになるとは想像もつきませんでした。この作文を読んでから、月日が経った今だから言えることですが、「作文はおもしろいことを書け」「人が読んで感動するようなものを書け」と春先に言ったのですが、その通りのことができたのではないでしょうか。
たまたま、影でRが私と保護者の会話を聞いていたので、
「この作文は、学年トップレベルだから自信を持ちなさい。これで目星がついた。絶対に力がつくぞ。」
とRに声をかけました。それからすぐに、私の元からRは去りました。
「R、目が涙目やったな。結構、嬉しかったみたいやった。嬉しそうな顔、久しぶりに見た。」
「やはり、今まで何も持っていない、0の状態から1つの武器を持つことができました。何も無いのと何か一つあるのとでは、全然違いますから。今回は、とても大きな武器を手に入れましたね。Rも相当自信がついたと思います。今度は、11月に診断テストがあるんですよね。そのテストで、同じレベルの作文が書けると、今回の作文の力は偶然ではなく、実力で書いたことになります。これは、Rにとっておおきなことですよ。自信ではなく確信に変わりますね。」
11月、第3週に診断テストが行われました。その結果が返ってきた次の日のことです。作文の力はどのくらいついているのか、自分の目で確認することにしました。やはり、作文では高得点を出せるまでになっていました。当然、満点です。
「これで、作文は問題ないでしょう。どの国語のテストでも、作文では絶対に満点が取れるということですから、後は、他の分野にも大きく点数を伸ばせるようにしていきましょう。」
実は、作文の練習で大きな成果が出た教科がありました。それは、数学の図形の証明に関する分野です。このときの2学期末テストの範囲が、「三角形の相似」に関する問題でした。「2組の角がそれぞれ等しい」「1組の辺の比が等しく、その間の角が等しい」「3組の辺の比がすべて等しい」「∽」など、数学の証明と言われると寒気がして、鳥肌がたつ人も多いでしょう。その証明の内容が範囲だった試験でも、60点くらいの得点をだすことができました。この得点は、Rにとって3年間で一番成績が良かった数学の得点だったそうです。
さらに、Rはさらに勉強に対する意識が変化しました。数学の平方根の計算(√)でも、友達や先生に質問をしていたそうです。数学が苦手な子は平方根の計算に四苦八苦するものですが、国語の文章表現能力と少しずつ続けてきた計算練習のおかげで、平方根の計算ができるようになったそうです。でも、平方根で√のなかを簡単にする、つまり
⇒2
にする方法ですが、説明を聞いただけで、すぐに理解できるほどまでになっていました。友達や先生から能力が高いと評価をされ、応援をされるようになりました。
2008年1月、3学期にはいると入試が始まります。ここから、戦いが始まるのですが、結果を先に言うと、Rが受けた高校は全敗を期しました。やはり、2年の春先に起こしていた非行などの悪行が原因だったと思います。
「私が落ちた理由は、勉強はしなかった。そして悪いことをしたから」
と、堂々といっていました。それはR自信も理解し納得できる結果だったそうです。
3学期にあったエピソードを紹介します。3学期ですから、入試に向けて応用問題や入試の過去問題を学校でどんどん解いていくのですが、たまたま、国語の時間に作文のテストがあったそうです。私が知っている限りでは、2回ほど作文のテストがあったと聞きました。
一回目の作文に関しては、
「結構書けました。テーマも簡単だったみたいだから、クラスでも多くの人が満点だった。」
と聞きました。
実は、もう一回の作文のテーマは、内容が難しかったらしいのですが、
「この前の国語で作文のテストをしたらしいけど、各クラス満点は2〜3人のテストしかおらんので。」
「作文でも、そういうことがあるんですね。Rは書けたの」
「その2〜3人というのがすごいことなんや。その満点やった子は、進学校(偏差値65以上)に進む予定の子なんや。その数少ない満点の中にうちのRがはいっとんや。」
「ということは、文章を書く力は約100人抜きを達成したわけですよね。ほとんどの子は、作文の点数は上がらないと嘆きますからね。春先は、文章も書けませんでしたから。それを考えると大きく成長しました。」
このころになるともう一つ大きな出来事がありました。それも学校でのことですが、
「この前、Rが学校でちょっとした口喧嘩を友達としたらしいんや。その原因は何かといったら、授業中、友達が私語をして騒がしかったらしいんや。そこでRが友達に怒ったらしい。それで、喧嘩になったんやけど、先生はそのRが怒ったことに感動したんや。Rの考え方、間違ってないけんな。」
「Rは友達に何を言ったの?」
「どうも、私は勉強をしたいし、集中したいから黙ってと怒ったらしいで。」
何かの学園ドラマのようなシーンですが、実際にそういう行動をとれる様になったみたいです。
2月になると、私とRの保護者があるおもしろいことに気がつくようになりました。それは、「ドラゴン桜」という漫画がありますが、その漫画の最後の方になると、悪かった生徒が自分から進んで勉強をするようになるというシーンがあります。そのシーンと同じような光景、行動がRに見られてきました。私がRの家に行くと、
「今日は、理科と社会の勉強をするから」
「そう。ではしっかり勉強してな。」
この二言で、会話が終わるようになっていました。Rは主体的に勉強をするようになっていました。
「こんなに勉強をするようになるとは、夢にも思わなかったな。」
「こんなに自立するとは思いませんでした。」
「入試は駄目だろうな。」
「大丈夫でしょう。特に二年生のときは大変でしたけど、入試の結果はどうであれ、自分で可能性を広めてきましたから。よくここまで構成したと思います。うまくいけば大学まで行きたいと言うと思いますよ。悪いことはしないはずですから、家族の皆さんも安心してください。」
先ほどにも書いたように、Rは高校入試で全敗を期しました。
その後、Rは「もう一度、高校入試をする」と家族の前で意思を表明したそうです。中学3年生の3月から2、3ヶ月経ってからRの家に行きました。保護者の方から、
「あの1年間でRは精神的に強くなりました。家の手伝いや畑仕事もこなすようになりました。」
「去年の今頃とでは、雲泥の差。」
勉強面では私自身いい結果を残させることはできませんでしたけど、別の方向でいい結果が出るようになりました。私自身、Rの保護者に申し訳ないという気持ちから、いい種まきをすることができたと思えるようになりました。
それから、4ヶ月後、たまたまRの家に行く機会があって、保護者の方とお話をすることになりました。
「毎日、書き写しをして勉強をしているよ。やっぱり、書き写しが一番いい方法だとR自身わかってきたみたい。」
更に、その半年後には、
「Rの友達が高校を辞めたいと相談に来るけど、Rはいつも何で高校辞めるのと友達に説教しているよ。高校中退者の人生相談をしているよ。いつも、高校に入るのは難しいと言っているよ。」
また、
「毎日、書き写しをしているよ。また成長をしたよ。自分でバイトして稼いだお金で塾に通っているよ。それとな、家の仕事の手伝いをしてくれるんやけど、自分で給料の計算をしてお金をもらっているんで。実働2時間なら、2時間働いた分だけ給料をくださいというようになったよ。」
つまり、実際に働いた時間だけお金をもらうということです。
労働は「付加をつける動き+付加価値がつかない動き」をあわせたものと考えます。ここで言う「付加価値をつける動き」とは、物を作ったり売ったりサービスを行っている動きを指します。そして、「付加価値がつかない動き」とは、待ち時間のことを指しています。
この場合Rの考えていることは、付加価値をつける動きをした時間だけお金を貰うということです。だから、店の客待ち時間は労働ではないと考えているのです。中学校を卒業してすぐの子が「付加をつける動き+付加価値がつかない動き」を区別して行動をしているのです。
「その行動は、15歳や16歳の子どもがするような行動ではないですよ。会社の経営者のような考えですよね。大人でもなかなかできないですよ。それとですね、普通の高校生は、バイトで稼いだお金は物や遊びとなって消えるけど、まあ、貯金することもあるかな。でも自分の勉強代に使うとは、あの当時であれば誰も想像できませんね。やっぱり、勉強で人は変わりますね。将来は有望ですね。」