(番外編)新型スズキ アルト TURBO RSの試乗とチューニングの可能性
さっそく新型アルトターボRS(HA36S)に試乗。「やっぱり軽量な車はイイ!」を実感しました

●スズキから3/11に発売された「新型アルト ターボ RS」。軽量な車体(FFで670kg、4WDで720kg)
に「セミオートマ」とも呼べるシングルクラッチの5速AGS(オートギアシフト)を搭載した、久々に
走りの楽しそうな軽自動車となっています。 個人的には純粋なMT車が希望なのですが、とりあえずは
現車に乗ってみないとわかりませんし、初代アルトワークスで感じたあの「ワクワク感」がふたたび
味わえるのではないかと期待をして、現車が来た当日、勇んでスズキアリーナ綱島店に行ってきました。
●まずは車体外観全体

↑カラーリングなど明らかに「何かの影響を受けてるな」というのは見え見えですが、まぁ、そこは愛嬌
ということで。アグレッシブな感じでいいのではないでしょうか。 ヘッドライトもHIDが標準装備、さら
にレーダーブレーキサポートなども標準装備と、その価格帯(2WDで約130万円、4WDで約140万円)から
すればたいした装備だと思います。 顔つきは賛否両論でしょうけど、私は嫌いじゃないですよ、この顔。

↑サイド。さすがに3ドアはなくて5ドアオンリーですが、フロントウインドウもけっこう角度が寝ていて
案外と空力性能も悪くなさそうです。「カタマリ感」のあるフォルムですね。

↑リアビュー。後ろもなかなかデザイン的にはまとまっていて、引き締まっていると思います。赤いルーフ
スポイラーがアクセントになってますね。 ちなみにテールランプ下の四角い開口部のあるメッキパーツ
はあくまでガーニッシュであってマフラー出口ではありません。ただの飾りです。 本当のマフラー出口
は表からはあまりよく見えない奥の方に下向きについてます。 スポーツモデルなのだからマフラー出口
ももっと自己主張のあるデザインにすれば良かったのにという気がします。

↑タイヤサイズは前後とも165/55R15のポテンザ。コペンが165/50R16なので、1インチ小さいことに
なりますね。しかし、ブレーキ径はコペンに負けないサイズで、もちろんベンチレーテッドディスクです。
アルミホイールのデザインもなかなかカッコイイと思います。そういえばコンセプトモデルでは17インチ
を履いていましたが、実際に17インチもいけるのでしょうか。

↑リアはさすがに以前のワークスみたいに4輪ディスクとはいかずに通常のリーディング・トレーリング、
いわゆる普通のドラムブレーキです。 サスペンションはトーションビーム式(FF車)で、ちゃんとリア
にもスタビライザーが装着されます(というかトーションビームはそのビーム自体がスタビライザーのよう
なものなのですが)。
●運転席まわりおよび室内

↑運転席まわりは基本的には質素というかオーソドックスにまとめてある感じ。 過剰な演出もなくチープ
すぎずでよろしいのではないでしょうか。 ステアリングはなんと本革が標準装備!たいしたものです。
室内の収納はグローブボックスと、あとはポケットがいくつか程度。あまり実用性は高くないでしょう。

↑メーターパネルは悪くはないものの、もう少しスポーティなレイアウトのほうが良かったかなという感じ。
タコメーターのレッドゾーンは7000rpmから。 もうちょっと回ってほしい気もしますが、環境性能重視の
R06Aエンジンですから、DOHCのF6Aや旧規格K6Aみたいにブン回すタイプのエンジンではないのでしかた
ないところかと。 ちなみにエンジンスペックは64PS/6000rpm、10.0kg-m/3000rpmです。

↑シフトレバーとセンターコンソール。基本的にはオーディオレスです。 シフトレバーは左側に倒すと
マニュアルモードになりますが、変速方向が引いてシフトアップ、押してシフトダウンとレースカーと
同じなのは好感がもてます。コペンはこれが逆だったのが違和感ありまくりだったので。

↑リアハッチ(リアゲート)を開けたところ。 床はフラットでまぁまぁそこそこのスペースはありますね。
…とりあえず全体としてはこんな感じでしょうか。 私は基本的に走りに関する部分にしか興味がないので
あまり細部までレポートできていません(とくに後席とか)が、こんなもんでお許しください。
●試乗レポート&インプレッション
さぁ、ここからが本番です。 試乗車はFFモデル、なにより700kgを切る軽量な車体と低中速域を重視した
R06Aエンジン、そして注目の5速AGS。 はたしてその走りはどんなものか乗る前からワクワクします。
<さっそく試乗>
ブレーキペダルを踏んでエンジンスタートスイッチを押し、エンジン始動。 うん、さすが新型R06A、K6A
より振動が少ないです。 そしてまずはDレンジに入れてATモードでスタートします。このAGSは構造的には
完全にマニュアルミッションなのですが、通常のトルコンAT同様、1速でブレーキペダルから足を離すと
クリープ現象でジワジワと走り出します。 それはかなり滑らかで、ギクシャク感などは感じませんでした。
それで大通りに出て少しアクセルを踏むと2000rpmも回ってないのにけっこうなトルクが出て、どこからでも
充分に加速できます。 肝心のシフトアップですが、たしかにシングルクラッチなのでクラッチを切っている
間の「空走時間」はあります。 しかし、どこぞの出来の悪い同様のミッションとは違い、アクセルを戻さなく
ても踏みっぱなしでもシフトアップ時のショックは通常のトルコンATと同じ程度なので、妙な違和感はありま
せん。 少なくとも普段MT車を運転している人ならばこのくらいなら充分許容できるレベルだと思います。
軽量な車体に、2000rpmから充分なトルクを発生するエンジン、そしてシングルクラッチAMTとしては変速
の速いAGSとのコンビネーションは街乗りではまったく不満を感じません。 シグナルスタートで一気に全開
すれば余裕で他車をリードできるほどの加速をしてくれるのはおそれいりました。 やりますなスズキさん。
ちなみに、最近の車らしくアイドリングストップ機能も装備しています。私はあまり好きではないのですが、
この「アイスト」はDレンジでのみ機能するようなので、マニュアルモードで使っていれば機能しません。
<そしてやはり一番の注目はパドルシフトを使ってのマニュアルモードでの走り>

↑この5AGSはシフトレバーでも変速できます(しかもちゃんと引いてアップ、押してダウンという理想的な
操作方向)が、やはり楽しみはパドルシフトですよね。 試乗してコース半分くらい走ったところでMTモード
に切り替え、パドルシフトでの走行をテスト。 1速でスタートしてアクセル全開にしてレッドゾーン手前で
2速にアップ、うん、素早い! そして3速、4速への変速も違和感なくほんと「クラッチペダルのないMT」
という変速で「とにかく楽しい!面白い!」。 とくに変速時にアクセルペダルを戻す必要はなく、踏み
っぱなしのままバンバンシフトアップできます。 もちろんツインクラッチのDCTのような瞬時の変速はでき
ませんが、さっきも書いたように普段MT車に乗ってる人なら不満のないレベルの変速の速さだと思います。
シフトショックは前述したようにステップATと同程度。これが許容できるかどうかはその人次第でしょうね。
そしてとくに秀逸なのがシフトダウン。 アクセルオフ、あるいはブレーキを踏みながら左側パドルを操作
してシフトダウンすると電子制御スロットルとの協調制御で上手に自動でブリッピング、つまりアクセルを
あおって回転を合わせてスムーズにシフトダウンしてくれます。 なんか自分の運転が上手くなったような、
そんな錯覚を感じるくらい楽しくシフトアップ、シフトダウンできてほんとに面白いです。 R06Aターボ
エンジンのトルク特性もフラットでありながらきちんとレッドゾーンまでよどみなく綺麗に回ってくれて、
絶対的なパワーはないものの、やはり車体の軽さが活きているのでしょうね、高回転でトルクがタレてくる
ような印象はありません。 他車と比べるのはどうかと思いますが、去年試乗したダイハツの新型コペンと
比べても、車体、エンジン、ミッション、すべてにわたってアルトターボRSの「圧勝!」というのが私の
受けた印象です。
<ボディやサスペンション、ブレーキ、ハンドリングなど>
これだけ軽量化したのだからボディ剛性(剛性感)が心配なところでしたが、ぜんぜんそんなことはなく、
たとえばドアの開閉ひとつとっても重厚感とまではいかないものの、薄っぺらい印象はありません。
サスペンションも「硬すぎず、柔らかすぎず」でほんとうまいバランスで造ってあるなぁ、という感じです。
ハンドリングもバリアブルギアレシオのチューニングがちょうどよく、「思った通りに曲がってくれる」
非常に自然で良い感じです。 ただ、唯一気になったのはブレーキ。まぁ、これはコペンのときにも書いた
のですが、最近の車の傾向なのでしょうけど、とにかく軽く踏んだだけで利きすぎる「カックンブレーキ」
なんですよ。 これは個人的な好みの問題でしょうけど、私はこれは好きになれないですねぇ。
…以上がだいたい20分くらい乗った限りの私の受けた印象です。 総合的に評価するならば「想像以上に
よくできた車」と言えます。興味のある方はとにかく乗ってみてください。楽しい車であることは間違いない
と思いますので。 ちなみに試乗時の燃費計の平均燃費はけっこう回したのにもかかわらず27km/lでした。
<余談ですが>
去年、コペンを試乗したあとに自分のJA22ジムニーに乗ったときは「これなら私のジムニーのほうが速いな」
と感じましたが、今回のアルトターボRSに乗ったあとで自分のジムニーに乗ったら「うわっ、動きが重い…」
と感じました。 それくらいこのアルトターボRSはノーマルでも「俊敏、軽快」に走ってくれますよ。
●新型アルトターボRSの「エンジンチューニングの可能性」について
私にとってクルマというのは「いじるための素材」なので、ある意味ここからが本番なのですが、とくに
K6Aエンジンに比べ「非常に弱くなった」R06Aのチューニングポテンシャルが気になるところですね。
私が過去に書いたR06Aエンジンについての記事は以下のリンクを参照してください。
<参考> →スズキR06Aエンジンについて(縦置き+5MT登場時)
しかし、上記の記事を書いた時期から今までの間にR06Aはかなりの改良、変更を受けており、「別物」と
言ってもいいくらいに変わっているところが多いです。 主な変更点は環境対策なのですけどね。
●アルトターボRSのエンジンルーム

↑アルトターボRSのエンジンルーム。 吸気系パーツはほとんどが樹脂化されて大幅な軽量化がされて
います。向かって左のダクトはエアクリーナー、右のダクトはインタークーラーへのエアインテークです。

↑上置きインタークーラーももう今は昔みたいにボンネットにダクト(エアインテーク)をつけずにこの
ようにグリルから冷却風を取り込むのが当たり前になりましたね。 冷却効率はかなり悪そうですが。

↑これはR06Aデビュー当時からですが、ヘッドカバーもプラスチック製です。

↑左フロントフェンダー上のメインECU(ECM)。いかにも「弄ってくれ」と言わんばかりの場所に
メインコンピューターボックスが鎮座しています(笑)
●そしていちばんの問題がターボチャージャーの装着方法
近年のエンジンでは珍しくはないのですが、R06Aも初期は「エキゾーストマニホールド」が存在していた
のですが、現在のR06Aは「シリンダーヘッド一体型エキマニ」となっていて、このアルトターボRSも
「ターボチャージャーがシリンダーヘッドに直付け」となってしまっています。

↑遮熱板があるので見えにくいとは思いますが、シリンダーヘッドにターボチャージャーが直接くっついて
います。 これではもうエキマニ交換によるチューニングは不可能ですね。

↑このR06Aエンジンの写真はNAですが、このようにエキマニ部分はシリンダーヘッド内部に構成されて
いて、シリンダーヘッドには1本だけ直接エキパイが装着される構造になっています。 ターボの場合はこの
部分にターボチャージャーが直接取り付けられるのです。 この構造ではヘッド内部の排気抵抗が大きすぎて
大型タービンをつけてもほとんどその性能を活かせませんので、タービン交換による大幅なパワーアップは
望めませんね。 当然ですが、社外エキマニなんてものはこのR06Aエンジンにはありえません。 ただ、
唯一メリットがあるとすれば「エキマニが割れる心配がない」という点でしょうかね(笑)
●それではこのアルトターボRSのエンジンチューニングのポテンシャルは?
普通に考えればまずはブーストアップですが、圧縮比が9.1:1もありますから、あまり大幅にブースト圧を
上げるのはリスクが高いと思います。ノッキングも心配ですが、それ以上に前述のリンクにも書きましたが、
R06Aはエンジン内部の部品、たとえばコンロッドやクランクシャフトがK6Aなどよりずっと弱いですから。

↑左のK6Aコンロッドに対して右のR06Aコンロッドはあまりに軽量化を優先させているために、とくに
ベアリングキャップ部の剛性、強度がかなり落ちておりクローズインを起こしやすく、これがパワーアップ
チューニングおよび高回転化の限界の大きな壁になるのではないかと思います。

↑K6AエンジンとR06Aエンジンの各部の違い。 とくに注目はクランクシャフトのジャーナル、ピン
の直径。要するにR06Aエンジンのメインジャーナル径はK6Aエンジンのクランクピン径と同じしか
ないわけです。 当然、クランクピンはさらに細くなっていますので、クランクシャフトの剛性、強度
もK6Aに比べると大幅にダウンしているわけで、これもパワーアップおよび高回転化の障害となります。
さらにノーマルタービンも小径タービンなので、サージング限界や回転数限界がありますので、まぁ、
いいとこ80PSあたりが妥当なところではないでしょうか。 その先はタービン交換となりますが、
これまでのF6A、K6A用のタービンは流用できませんので、たとえばモンスタースポーツなどから
専用品が出るのを待つしかないでしょうね。 でもエンジン内部がノーマルのままで100PSを狙うの
は耐久性的に厳しいのではないかと私は考えています。 ちなみに、このアルトターボRSの計算上の
最高速度は5速7000rpmで201.46km/h、ピークパワーの6000rpmでは172.7km/hとなります。
しかし、このアルトターボRSの「最大の武器」はやっぱり車体の軽量さにあると思いますので、パワー
アップはそこそこでも充分サーキットでも街乗りでも「かっ飛べる」クルマに仕上がると思いますよ。
「やっぱり、クルマにとって軽さは武器になるなぁ」とあらためて感じましたね。

●でも、正直なところを言えばやっぱり私はマニュアルミッション車が出てほしいところですね。