シリンダーブロックでいまだに「鋳鉄製を信奉」している古い頭の人へ
もう「鋳鉄だから強い、アルミだから弱い」なんて時代じゃないんですよ
●よくスズキのF6AエンジンとK6Aエンジンの話になると必ずと言っていいほど出る意見に「F6Aは
鋳鉄ブロックだから頑丈でチューニングに適している、K6Aはアルミブロックで弱いからダメだ」と
いうのがあります。 私に言わせれば「いまだにそんな古いこと言っているのか…」と呆れるばかり
でまったくお笑いでしかないのですが。

↑F6Aエンジンの鋳鉄製クローズドデッキシリンダーブロック
しかし、ブロックの強度というのはそんな単純に材質だけで決まるものではありません。 たしかに、
単純にシリンダーブロックの材質の丈夫さから言えばK6AよりF6Aのほうが強いのは否定しません。
ですが、その強さの違いの大きな理由はK6Aエンジンがアルミブロックだから、ではなく、シリンダー
上部が開放された「オープンデッキ構造」であることが最大の原因です。

↑K6Aエンジンの最大の「弱点」はその素材ではなく、このようにシリンダーライナー(シリンダー
スリーブ)周囲に支えのないオープンデッキ構造にあります。 このウェットライナーの支持剛性が
クローズドデッキのF6Aに対してのオープンデッキの弱点であるわけです。
逆に言うと、このウィークポイントさえ克服できればK6AエンジンでもF6Aに負けない200馬力オーバー
のチューニングさえ充分に可能です。その解決策、対策については、以前にも詳細な記事にしてまとめて
ありますので、以下のページを参照してください。
<参考> →K6Aエンジンのシリンダーライナー首振り対策について

↑私のJA22ジムニーでは写真のように「超高精度」な面研を施したうえでモンスタースポーツ製の
強化メタルガスケットを使用して対策をして組んであります。 K6Aエンジンはこれだけでも180馬力
あたりまでは十分に持ちこたえられます。 ただし、加工にあたり面精度はしっかり出すことが肝要で、
ヘッドボルトの締め方にも非常に高度なノウハウが必要です! サービスマニュアル通りの締め方では
まったくダメです。レーシングエンジンにはもっと高度な「ボルト締めの技術」が必要になるのです!
●逆に、クランクシャフト周りはかえってF6AよりK6Aのほうが高剛性な構造となっている
シリンダーブロックの構造には昔からの「ディープスカートタイプ」とクランクシャフト中心で分割した
「ハーフスカートタイプ」があります。 とくに、アルミブロックのエンジンはここが重要で、これを
昔ながらのディープスカートでやるとまず間違いなく「剛性不足」になります。 最近のエンジンで言えば
スズキのR06AやホンダのS07Aエンジンがまさにこれに当たります。
これに対して「ハーフスカート+ラダービームロアケース」というF1エンジンなどと同様な高剛性構造に
することは、メインベアリング周りの剛性が格段に高くなり、高回転でもクランクシャフトをガッチリと
支えることができるのです。K6Aエンジンは贅沢にもこのレーシングエンジンと同じ構造を採用しているの
です。今から20年も前にこの構造を市販車に採用したスズキはたいしたものだと思います。

↑K6Aエンジンのラダービームロアケース。このようにすべてのメインベアリングを一体化したロアケース
にすることで、ベアリングキャップの倒れや振動が抑えられるため、F6AやR06A、S07Aの分割タイプの
ベアリングキャップよりずっと高剛性なブロックにできるのです。

↑このように、コストはかかりますが、すべてのベアリングキャップを一体化したロアーケースは本格的な
レーシングエンジンでは常識な構造です。そういう意味ではK6Aエンジンは非常に贅沢な設計と言えるのです。
●クランクキャップボルトだけを強化してもまったく無意味です

↑ヤフオクで売られているF6A用強化クランクキャップボルト。 これは何のことはない、一般に売られている
市販の強度区分12.9のキャップボルトです。 売る側はこれを使えばクランクキャップの「倒れ」が減ると
説明されていますが具体的なデータなどは一切ありません。 そもそも、正直なところボルトだけを強化したり、
締めつけトルク(軸力)を高くしてもただキャップの「真円度」が狂うだけで何の強度向上効果もありません。

↑このように、独立したベアリングキャップではアルミブロックであろうが鉄ブロックであろうが、どうしても
ベアリングホルダー部全体が前後方向に倒れるように振動してしまうのです。これは「ただボルトを強化した
ところで抑えられるものではありません」。 エンジン設計者の話では、いわゆる「エンジン本体の騒音」
の90%はこのクランクメインベアリングまわりの振動が元になって発生しているとのことです。
やはり、クランクメインベアリングキャップの倒れや振動を抑えるならばすべてのベアリングキャップをつないで
一体化したラダーベアリングビーム構造にするしか方法はありません。 これはK6Aにも言えることで、どこぞの
ショップがK6A用強化クランクキャップボルトなどを販売していますが、ただボルトだけを強化して締めつけ軸力
を強くするとメインベアリング内径の真円度が変形して狂ってしまい逆効果なので安易に行うべきことではありま
せん。 もしやるなら再度ラインボーリング加工をしてメインベアリング内径の加工をし直さなければなりません。
安直で稚拙な強化策は他に弊害を生じさせるだけで何のメリットも生まないのです。
●今の時代「アルミブロックだから弱い」という古い考えは捨てよ!
たとえば、日本を代表するハイパワーエンジン、日産R35GT-RのVR38DETTエンジンだってアルミブロック
ですし、その構造もK6Aエンジン同様、ハーフスカートブロックにラダービームロアケースというまったく
同じ構造を採用しています。

VR38エンジンはシリンダー上部がクローズドデッキとなっていて、それこそすべてがレーシングエンジン
の思想で造られています。 そのため、このVR38DETTのブロックは1000馬力を超えるチューニングにも
ビクともしません。それでもこのエンジンを「アルミブロックだから弱い」と言える人がいるのでしょうか?

↑VR38DETTエンジンのアルミ製シリンダーブロック。シリンダー上部はクローズドデッキ構造と高剛性な
アッパーデッキとなっています。「K6Aエンジンもこうだったら良かったのになぁ…」と羨ましい部分です。

↑同じくVR38DETTエンジンのアルミ製ラダービームロアケース。 これもK6Aエンジンとまったく同じ
構造となっています。レーシングエンジンからフィードバックされた設計ですね。さらに強大なトルクを
受け止めるため、メインジャーナル部には鋳鉄製のベアリングホルダーが鋳込まれています。
●逆に「鋳鉄ブロックだから必ずしも強いというわけではない」という例もあります
ここでは私も昔乗っていたBNR32スカイラインGT-RのRB26DETTを例に挙げます。 このRB26エンジン
はR32型がデビューし、グループAレースで活躍していた頃は市販車のシリンダーブロックも非常に頑丈な
ものでした。 ノーマル86φのボアを88.5φまで広げて600馬力オーバーで谷田部テストコースで最高速
アタックしてもまったく耐久性に問題ないほどの強度を持っていました。私の記憶ではJUNの作ったBNR32
が330km/h以上の記録を出していたと思います。初期の頃のRB26は本当に丈夫な鋳鉄製ブロックでした。
いわゆる「元年式05Uブロック」「R32前期05Uブロック」が「最強のRB26ブロック」だったのです。

↑RB26DETTエンジンのシリンダーブロック
しかし、グループAレースが終了してからは格下のRB25との部品の共通化が進み、シリンダーブロックの
強度も次第に弱くなってしまい、私の記憶ではBNR32のV.specIIあたりからあからさまな「コストダウン」
の影響が出てきた感じですね。 とくにBNR34になってからは「0.5mmオーバーサイズ程度でもボア径を
広げるとウォータージャケットに亀裂が入る」ほど「軟弱なブロック」になり下がってしまったのです。
このように鋳鉄製ブロックだからといって無条件に強いわけではないのです。
そこで、NISMOからは補強リブが追加された通称「N1ブロック」や、さらに肉厚を増した「GTブロック」
などが販売されたのです。 しかしこのN1ブロックでさえ初期のR32GT-Rのブロックほどの強度はなく、
せいぜい500馬力程度までのパワーに対応するのがやっとなのです。 逆にGTブロックは強度を高める
あまりシリンダーの肉厚が厚すぎてシリンダー上部の冷却が悪化するという問題が生じるとともに「あまり
にも重すぎる」という大きな弱点が生じる結果となりました。

↑いわゆる「GTブロック」には「RRR」の刻印(モールド)がありました。

↑こちらは「N1ブロック」です。「24U」の刻印(モールド)があります。
<よもやま話> グループA仕様GT-Rのシリンダーブロックは市販ブロックとは「別物」だった?
これは当時から言われていたことですが、グループAレースで使われていたRB26エンジンのブロックは
市販とは異なる「特別な材質」で造られていたと言われています。しかし、つい最近聞いた当時のワークス
のエンジニアの話では、グループAで使っていたブロックは量産エンジンと共通のもので、量産ラインから
鋳造の際の「偏肉」が少ないものを選別して使用していたとのことです。 その「アタリのブロック」の
確率は4基に1基だったとのことです。しかし、これが本当かどうかは真相はわかりません。
そりゃそうです、まさか「市販車とは材質が違う特別なブロックを使用していました」なんて公言したら
レギュレーション違反になってしまいますからね(笑) しかし、前述しましたように初期のBNR32の
ブロックが非常に強かったことを考えると「量産車の段階からすでに材質そのものが違っていた」という
推測もできますね。これなら最初期の05Uブロックが強かった理由がなんとなく納得できます。なにせ
グループAのGT-Rは最高出力640PSまで想定されていたわけですから、ブロックもそれ相応の強度を
持っていたわけです。 ただ、実際のレースではそこまでパワー出さなくても余裕で勝てたため、かなり
抑えめなパワー(550馬力程度)で走っていたらしいです。

ちなみにRB26エンジンはヘッドこそ専用に設計されたものですが、ブロックは新規設計ではなく、RB24
のものをベースにしています。 本来は高さのあるRB30ブロックをベースにする案もあったそうですが、
重心高と重量の問題からRB24をベースにしたそうです。なので、RB26はストロークに対してコンロッド長
が短い、いわゆる連桿比(れんかんひ)の小さいエンジンとなってしまったのが弱点と言えば弱点です。
<関連参考ページ> →K6Aエンジンのコンロッド長と連桿比について
●本格的なレーシングエンジンだってすべてアルミブロックです

↑日産が90年代にル・マンやデイトナ24時間レースで使ったVRH35Zエンジン。 最高出力は予選時で
ブースト2kg/cm^2で1200馬力以上を叩き出すこのエンジンも「オールアルミブロック」です。 しかも
このエンジンはシャーシフレームの一部として使われるストレスマウント構造のため、エンジン内部からの
パワーやトルクだけでなく、車体外部から受ける大きな外力をも受けなければならない過酷な使用に耐えうる
強度、剛性を必要とされたのです。 その車体側から受けるねじれトルクの大きさは最大で1000kg-mにも
達し、エンジンが発生するトルクの10倍以上にもなるのです。 しかし、それでもアルミブロックでなんら
問題は生じなかったのです。 このことはつまり「素材の弱さは設計技術の高さでいくらでもカバーできる」
ということの証明に他なりません。

↑リアフレームとして使用されるVRH35Zエンジン本体。この「ストレスマウント」はF1マシンなどでは
常識ですが、F1よりはるかに重くトルクがあるグループCカーで、しかも24時間も走らなければならない
耐久性を求められる厳しい条件でもビクともしない強度と剛性を確保する設計技術は非常に高度なものです。
この過酷な使用状況をアルミニウムとマグネシウムで構成されたエンジンブロックで支えるのですから。
●結論として
最初のF6A、K6Aの話に戻りますが、今まで書いてきた通り、たとえ素材そのものの剛性や強度が弱くても、
それを克服できるだけの構造と設計、そしてチューニングのポイントをしっかり押さえればアルミブロック
のエンジンでも十分にハイパワー&高回転チューニングは可能なのです。
それでもなお「シリンダーブロックは鋳鉄じゃなきゃダメだ」なんて言ってるような人は「頭の中が
昭和の時代で止まってしまっているかわいそうな時代遅れの人」としか言い様がありませんね。 時は
すでに平成27年なのですから、さっさと四半世紀前の考えは捨てていただきたいものです。 そうしないと
どんどん時代に取り残されていってしまいますよ。 あなたは大丈夫ですか?

ちなみに、アルミ製のブロックにも「アルミ鋳造ブロック」と「アルミダイキャストブロック」があります。
前者はクローズドデッキ構造のブロックに用いられ、鋳鉄ブロックと同じ昔ながらの「砂型鋳造」によって
作られます。 対して後者は砂型ではなく「金型」を使って製造されます。オープンデッキ構造のシリンダー
ブロックはほぼすべてこのアルミダイカスト製法で造られています。K6AやR06Aもそうです。
これが進化していけば今後は「アルミ鍛造シリンダーブロック」なんて高強度なアルミブロックのエンジンも
そのうち出てくるかもしれませんね。

↑K6Aエンジンはきちんとツボを押さえてチューニングすれば、決して弱いエンジンではありません!
●おまけ1 「ブロックの砂落とし研磨」についてのひとこと
前述したように、一般に鋳鉄ブロックは砂型を使用して造られます。 もちろん、製造後には徹底的に洗浄
され、最後は超音波洗浄されて鋳砂が残らないようにされますが、それでもごく僅かに砂が残る可能性は
否定できません。 そこでよくチューニングショップでは「砂落とし」と言ってブロック内面を削り落とす
作業をすることがありますが、これは「やりすぎるとシリンダーブロックの強度を落とします」ので注意が
必要です。 なぜなら、鋳鉄というのは冷えて固まるときは当然もっとも表層から硬化していくわけですが、
その際、表面に「圧縮残留応力」という力が発生し、これがブロックの強度を増すとともに、金属疲労に
対しての抵抗力も高めてくれるのです。ですので、この「鋳物肌のザラつき」が完全になくなるほど削り落と
してはいけません。やるとしたら、せいぜい表面を軽くスコッチブライトのようなもので研磨する程度まで
で止めておくべきです。

↑これは砂落としの例ですが、ここまで削る必要はありません。 鋳肌の表層のザラついた肌はもっとも硬く
強い部分なので、それをすべて削り取ることはブロックの強度低下を招くだけです。さらにツルツルになる
まで磨くなんてことをするのは愚の骨頂、金属材料のことを何も勉強していないバカのやることです。

↑通常は砂落とし研磨などしないでそのまま組んでも何ら問題はありません。むしろそのままのほうがブロック
強度が活かされます。 本来ならシリンダーブロックがすっぽり入るような巨大で強力な超音波洗浄機があれば
それに入れて徹底的に砂落としできれば最高なのでしょうけど。
●おまけ2 「面取り、バリ取り(デバリング処理)」についてのひとこと
エンジンをバラしたならついでに各部のバリ取りや面取りをおこなうことも組んだ後に無用なゴミをエンジン
内部に出さないためにも有効です。ただし、以下の図のように「面取りしてはいけない場所」もありますので
注意してください。

↑基本的には各部の角、穴はすべて軽い面取り(C0.1〜C0.3程度)をして構いませんが、メインメタルの合わせ面
の角だけは面取りはしないでください。ここを面取りするとメタルの裏側にエンジンオイルが入り込みやすくなり、
メタルとの間でオイルが焼きついたりして、メタルからブロックへの放熱が妨げられ、最悪はメタルの焼きつきに
つながる恐れがあるからです(実際にレーシングエンジンではよくあることで、エンジンをバラしたときにメタル
裏側が焼けているようなら危険な状態だったという証拠です)。これは相手のベアリングキャップやコンロッドの
メタル合わせ面も同様です。 たかが面取りと軽く考えず、細心の注意を払って作業してください。 これらは
レーシングエンジンの組み立てでは「常識」となっていることです。