エンジンの暖機運転とターボのアフターアイドルの必要性について

製造技術や制御技術がどんなに進歩しても適切なウォーミングアップは欠かせません


●最近よく聞く言葉で「今のエンジンは工作精度が高いから昔のエンジンのような暖機運転の必要はない。

むしろそんなのはガソリンの無駄遣い、環境への悪影響になる」という意見を頻繁に耳にします。

たしかに暖機運転をしなかったからと言ってエンジンが壊れることはありません。しかし、エンジンを

はじめ金属でできた自動車を永く良好なコンディションで使うためには今も昔も暖機運転の重要性は変わる

ことはありません。

 

↑JAF mateの記述の一部。

たしかに「環境バカの連中」の言うこともわかりますが、私はあくまで金属専門の機械屋なので、金属で

できた機械であるエンジンにとって暖機運転がいかに大切なものかということを理解していただきたいと

思います。 また同時にターボエンジンにとってのアフターアイドルの重要性も説明したいと思います。

とくに精度がシビアに組まれたチューニングターボエンジンにはこれはとても重要なことなのです。

 

※お断りしておきますが、このページはJA22ジムニーのページであり、なおかつK6Aターボエンジン、

それも「チューニングエンジン」をメインとして書いていますので、たとえば最新のハイブリッド車や

アイドリングストップ車など環境性能重視のエンジンには当てはまらないこともあります。


まずは「暖機運転の認識の誤り」

暖機運転というと多くの人は「エンジン始動して水温系の針が適温になるまでダラダラとアイドリング

をするもの」と思っているようですが、それは正しい暖機運転とは言えません。 正しい暖機運転という

のはエンジンだけじゃなくミッションやデフなどの駆動系、さらに言えばサスペンションのブッシュ類

まで含めたクルマ全体のウォーミングアップなので、走りはじめたあともしばらくはゆっくりと走って

各部が暖まって柔軟に動くようになるまで続けなければ意味がありません。人間の身体で言えばまさに

「準備運動」のようなものです。

 

私が普段から実践している暖機運転のやり方

そういうわけで、私が実際におこなっている暖機運転のやり方を書きたいと思います。 まずエンジンを

冷間始動したらそのまましばらくアイドリングさせます。そしてオートチョーク(ファーストアイドル)

が終わり、O2センサーのフィードバック制御が始まったらゆっくりと走り出します。この間、夏場なら

1〜2分程度、冬場なら3〜5分程度でしょうか。 そして走り出したら油温が70度位に上がるまでは

エンジン回転を3000rpm以上には上げないように走ります。 その後、油温が80度ラインを超えたら

もう気にせず回しても飛ばしても大丈夫です。この頃にはエンジンと同時に駆動系も充分に暖まっている

頃だと思いますので。これが私の普段の暖機運転のやり方です。

 

エンジン各部のクリアランスや形状は適温に暖まってはじめて「適正値」になる

暖機運転の一番の目的はここにあります。 エンジンの部品というのは適温に暖まって熱膨張してはじめて

設計上最適なクリアランスおよび形状になるように設計されています。 たとえばピストンは上から見た

とき冷間時はピンボス方向が短径の楕円形に、横から見たときには頭頂部が小径の台形(最近のピストンは

樽型のものも多い)になっています。これがエンジンがかかって熱膨張して適温になると上から見たときに

真円に近くなり、横から見たときにも円筒形になるのです。このような状態になるまでは無理な負荷をかけた

り、高回転までブン回したりしないよう注意することが重要です。そうしないとアタリの強い部分が局部的に

磨耗したり傷ついたりする可能性があるためです。とくに熱膨張率の大きい鍛造ピストンでは重要な事です。

↑ピストンの図面の例。機械設計に携わっている人じゃないとやや理解しにくい絵かもしれませんが、最近の

ピストンは昔ながらの「台形」ではなく、下端部径が若干小さくされた「樽型」になっているものが主流です。

これが熱膨張すると理想的な真円、円筒に近い形状、寸法になるのです。 これは何もピストンだけじゃなく

クランクシャフトやコンロッドのメタルクリアランスなどにも言えることです。

↑クランクシャフトやコンロッドのメタルクリアランスも熱膨張後にはじめて最適な数値になるよう設計されて

います。 とくにチタンコンロッドを使用しているエンジンは注意が必要です。と言うのはチタンは熱膨張率が

通常のスチールの半分ほどしかないため、冷間時はクリアランスがガタガタに大きくなるようできていますので、

しっかりとエンジンを暖めてから本格的な走行に入るようにしてください。

↑参考:ホンダNSX純正のチタン合金製コンロッド

 

エンジンオイルの「流量」も適温に暖まってはじめて充分な量が供給される

冷間時にエンジンを始動すると油圧計をつけていればよくわかりますが、オイルが冷えていると粘度が高い

ため油圧がすごく高くなります。これはつまりそれだけオイルの流れる抵抗(粘性抵抗)が大きいことを

意味しますので、エンジン各部には充分なオイルの量が供給されていないということなのです。 つまり

「圧は上がっていても量が足りない」状態なわけです。この状態でエンジンに負荷をかけるような走り方を

すると潤滑不足で摺動部各部を磨耗させたり傷つける原因になります。ですので、前述したように油温が充分

に暖まるまでは負荷をかけず、回転も上げず優しく丁寧に運転してあげることがクルマをより良好な状態で

永く使ってあげる秘訣となるのです。

↑その車の使用用途や地域にもよりますが、冬場と夏場で使用するエンジンオイルの粘度を変えることも有効

です。たとえばMOTUL 300Vの場合、冬場は5W-30、夏場は10W-40という感じです。 しかし、ターボ

エンジンには「0W」のオイルを使うのは絶対にやめましょう。あまりにサラサラすぎて油膜が薄くなりすぎ、

トルクの大きいターボエンジンでは「緩衝性能」が不足しメタル等を傷める原因になります。


ターボエンジンのアフターアイドルの重要性について

私はターボタイマーまでは必要だとは思いませんが、たとえ高速で飛ばしたあとでなくても普段の街乗りでも

エンジンを切る前に排気温度計とにらめっこして排気温度が400度を切るまではアイドリングを続け、400度

を下回ってからエンジンを停めます。 この理由はもちろんターボチャージャーのセンターハウジングを流れる

オイルと冷却水の温度を充分に下げることが目的で、これをやらないととくに高温になるタービンのシャフトや

メタル部のオイルが焼きついて炭化し、スラッジやデポジットとなって最悪はオイルラインを詰まらせて結果、

タービンブローの原因になります。 また、その他にもエキマニやターボのエキゾーストハウジングの温度を

ゆっくり下げ、これによりエキマニに多いクラックや割れるのを防止する意味もあるのです。なぜなら、金属が

割れるときというのは赤熱した高温状態から急冷されたときに発生するためです。 だからアフターアイドルを

することによってゆっくりと温度を下げてあげるのです。

↑私はアフターアイドル終了の目安としても排気温度計を活用しています。 エンジンを切るときは排気温度が

400度を下回ってから切るようにしています。

↑最近はあまり見ませんが、ちょっと前まではターボ車はバイザー裏などにこのようにアフターアイドルを励行

するような注意書きがあったものです。今でもターボエンジン車の取扱説明書にはこのように書かれていること

が多いはずです。ターボエンジンにとってアフターアイドリングがいかに重要かということです。


<おまけ>

クラッチスタートシステムはクランクシャフトのスラストメタルを傷める

最近のマニュアルミッション車にはクラッチスタートシステムという、クラッチペダルを踏んだ状態じゃない

とエンジン始動ができない「余計なお世話」システムがついています。が、これはエンジンにとって良くあり

ません。 なぜかというとクラッチペダルを踏むとその力はクランクシャフトのスラストメタルにかかります

が、エンジンが停止した状態では充分な潤滑が得られないため、この状態でエンジンを始動するとスラスト

メタルの磨耗を促進させてしまうからです。ですので、エンジン始動時はクラッチペダルを踏まずにギアを

ニュートラルにしてフリーな状態でおこなうのが理想です。なので本来ならこんなクラッチスタートなんて

つけずに、オートバイみたいにギアがニュートラルに入っていることを感知するセンサーなりスイッチをつけて

「ニュートラルスタートシステム」にしたほうが良いのではないかと思います。ただ、この方式だと発進時に

エンストしたときにもいちいちギアをニュートラルにしなければならないという面倒な一面もありますが。

いずれにしても個人的にはこのような余計なシステムはつけないでいただきたいですね。

↑K6Aエンジンのクランクスラストメタル。クラッチスタートシステムや強化クラッチを組むとこのメタルに

大きな負荷(圧力)がかかるのです。

 

↑チューニングターボエンジンを永く良好なコンディションで使用するためにも、毎回の「適切な」暖機運転と

アフターアイドルは地味な作業ながらも重要なポイントなので習慣づけるようにしましょう。


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~