クランクデコンプバルブ(レデューサー)の改良
リードバルブに手を加えてみたところ、予想外の変化を感じました

●クランクデコンプバルブの基本についてはこちらのページをご覧ください。
●私はこのクランクデコンプバルブ(レデューサーバルブ)を自分のJA22ジムニーに使用して約1年弱
になりますが、現在のところとくにトラブルは起きていません。
ですが、他所ではどうもとくにクランクケース内容積変化および内圧変化の大きいエンジン(単気筒や
360度クランクの直列2気筒など)でリードバルブが割れて破損するトラブルが起きているようです。
これは、単気筒エンジンなどではピストンが上死点に向かう際にクランクケース内部が強力に負圧に
なるため、リードバルブがベース(バルブシート)に強く叩きつけられることでそれによる金属疲労の
蓄積によってリードバルブ端部にクラックが発生、最終的には破損するというプロセスだと考えられます。
逆に言うと、これはK6Aのような3気筒以上のマルチシリンダーエンジンではクランクケース内容積が
各気筒のピストン上下動により平滑化されるためさほど問題にはなりにくいと言えます。
メーカー(マエカワエンジニアリング)ではこれの対策のためにより厚い0.07mm厚のリードバルブを
使用することで対処しているらしいですが、果たしてこれで根本的解決になっているのかは疑問です。
結局のところ「バルブの寿命は延びるものの、いつ破損するかは時間の問題」であると考えるからです。
ちなみに、標準のリードバルブは0.05mm厚で、オプションで0.03mm厚もありますが、この0.03mm
バルブはいくらマルチシリンダーエンジンでも割れるリスクがあるので私はお薦めしません。 たしかに
リードバルブが薄いほうがレスポンスは良くなりますが、それと引き換えに耐久性を犠牲にします。
このリードバルブはおそらくステンレスSUS304でできていると思われますが、この材質自体があまり
疲労強度が強い材質とは言えませんので。
そこで、今回はこのリードバルブの耐久性アップと、以前に書いた「凍結によるバルブ閉塞の可能性」
トラブル回避のための加工を施しました。
●分解したところ

↑クランクデコンプバルブを分解します。
まずは第1ステップとしてこのリードバルブに「ショットブラスト」をかけます。

↑ショットブラスト(一般にはサンドブラストとも言います)を両面にかけたリードバルブ。
これにより疲労破壊限が向上します。 専門的には「残留圧縮応力」と言うのですが、要するに
金属が破壊されるときというのは基本的に表面が引っ張られる力が働いて破断するのが通常なので
それと反対方向の「圧縮」される方向の力を表面にあらかじめかけておくのがこの処理です。
同様の目的で使用される処理にWPC処理やショットピーニング処理があります。
なお、今回はあまり面そのものは荒らしたくないので、ブラストに使うメディアは粗いアルミナや
カーボランダムではなく、粒子の細かいガラスビーズ(#400)を使用しました。 この加工に
より、くり返し応力が加わっても疲労破壊しにくくなるわけです。 また、この残留圧縮応力は
金属疲労に強くなるだけでなく耐摩耗性も向上させる効果があります。
ただし、こういった薄板プレート状のモノのブラストは簡単そうに見えてけっこう気を遣います。
というのも前述しましたようにサンドブラストというのは金属表面に圧縮残留応力を付加します
ので、金属表面が伸びる方向に力がかかるのです。 その際、こうした薄板状の品物はブラストを
かけた側の面が伸びて「反りかえって」しまうのです。
なので、反らないように慎重に「軽く、両面を均等に」かけてやる必要があります。 あまり強く
かけすぎると今度は表面が硬くなる(これを専門的には加工硬化と呼びます)ため、リードバルブ
に必要な「柔軟さ、しなやかさ」が失われることになりますのであくまで軽くサーッとかける程度
にとどめておくのがコツです。
●第2ステップとしてリードバルブに「反り」をくわえ、バルブシートからわずかに浮かせます

↑ほんのわずか(0.5mm程度)ですが、リードバルブを全体にR状にして反らせ、バルブシートから
浮くように組み込みました。
これの狙いは、まず第一に「バルブ凍結による閉塞」をなくすためです。 こうしてわずかでも隙間
を開けておけば、仮に冬期に凍りついてもとりあえず最小限のクランクケースの通気は確保できます
ので、以前の「クランクケース減圧バルブの使用上の注意点」でも書いたようなトラブルが回避できる
というわけです。
もう一つの狙いは、よりバルブの効果を低圧から引き出す効果もあります。 レデューサーバルブは
ブローバイガス通路につきますので当然ながら内部をオイルミストや水蒸気などが混ざった気液混合
ガスが流れますので、バルブおよびバルブシートにはこれらの粘性液体(エマルジョン)が付着します。
このエマルジョンが表面張力や粘着力によってリードバルブをバルブシートに貼りつけようとする力を
持つため、バルブを開くためにはブローバイ圧力がこの力に打ち勝たないとなりません。 そのため、
ブローバイガスの圧力変動の非常に弱いごく低回転時にはリードバルブがその微妙な圧力変化に追従し
きれない可能性が考えられます。 なので、あらかじめ「僅かに」バルブとバルブシートに隙き間を
設けることで、この吸着力による抵抗を小さくしてやろうという考えなのです。 なお、ステップ1で
おこなったショットブラストにより僅かに表面を荒らしてやることもこの「バルブ貼りつき」防止の
効果ももちますので一石二鳥というわけです。
これを見て「リードバルブを浮かせてしまったらワンウェイバルブとしての効果が半減するのでは?」
と疑問を持つ方もいると思いますが、だからこそ「ほんのわずか」な量だけ浮かせるわけです。 この
浮かせる量(寸法)がカギです。多すぎても少なすぎてもダメなわけです。 実際にこの状態でバルブ
入口のホース側を口にくわえてほんのちょっと息を吸込んでみるとわかりますが、ほんとにわずかな力
(吸引圧)でちゃんとバルブは閉じますので、この程度ならば逆止弁としてまず問題ないと考えます。

↑バルブ部のクローズアップ。 ほんの僅かに浮いているのが解るでしょうか。 この微妙な浮き加減
を実現させるのに何度も組んではバラし、また組んでをくり返しました。 組み込んでホース側を口に
くわえて息を吐いたり吸ったりして「軽く息を吸い込んでバルブがちゃんと閉じるポイント」を探って
おこないました。 これよりもうちょっとだけ浮かせると、軽く吸い込んでもバルブはきちんと閉じて
くれないのです。コンマ数ミリの範囲で微調整します。 このへんはもう人間の感覚の世界です。
そして、最後にリードバルブを留めるネジにはロックタイト(ネジ留め剤)を塗って組み付けます。
●クランクデコンプバルブを再度組み上げ取り付けます

↑上記の細工、加工を施して再度組み上げたクランクデコンプバルブ。
●取り付け後の変化について
この「リードバルブちょい浮かし」加工はあくまでも「冬期の凍結時の安全確保のため」が主目的なので
これによって何か変化を期待していたわけではありませんでした。
ところが、実際に組み込んで走り出してみると「走り出しの動きが軽くなった!」のです。 私がこの
クランクデコンプバルブをつけた最初の記事で「2000rpm〜4000rpmくらいの領域では効果を感じる
ものの、もっとも効果を期待していたクラッチミート直後の1000rpm〜1500rpm程度の領域での効果
は殆ど感じられなかった」と書きましたが、今回この加工をしたことで、この普段の街中でのクラッチ
ミートでいちばん使う1000rpm〜1500rpmあたりのトルクも向上したような感じで、車が軽くなった
ように走ります。 たとえば、1000rpmちょっとでクラッチを繋いでアクセルを踏み込んだときのトルク
の立ち上がりが力強くなった印象です。 とくにエアコンをONにしているときなどにさらに大きな差と
して感じられます。 これは予想もしていなかったことで、私にとっては「大きな変化」と言えます。
おそらく、この極低回転域ではブローバイの圧力変動がすごく微妙なため、標準状態のリードバルブが
「貼りついた」状態ではワンウェイバルブとしての機能が充分ではないのでしょう。 それが今回のこの
「リードバルブちょい浮かし+サンドブラスト加工」によってバルブが「貼りつかなくなる」ことで
この微妙な圧力変動の領域でもワンウェイバルブとしての機能が発揮された結果であると思われます。
たぶんこれを読んで「そんな微妙な圧力の変化なんか感じ取れるわけがない」と笑う人も多いかと思い
ますが、軽自動車のようなトルクの低い小排気量エンジンだからこそ感じられる変化であると考えます。
ましてや私の車はタービンをやや大きめのHT07-A/R12サイズに換えているためにノーマルタービン車
より低回転域のNA状態でのトルクが痩せていますからなおさら小さな変化でも体感しやすいのもあるの
だと思います。 たしかにマルチシリンダーエンジンのクランクケース内部の圧力変動は微妙かもしれ
ません。 ですが、ピストンはその微妙な圧力の中を高回転時にはエンジンによっては平均秒速20mを
超えるほどのスピードで上下しているわけです。 これはたとえば自分自身で風速20mくらいの向い風
の中を歩いたりすれば、手のひらほどの面積でもその抵抗の大きさがわかると思います。ちなみにこの
ピストン裏側で受けるクランクケース内のブローバイ圧力を「バックプレッシャー」と呼ぶらしいです。
●このレデューサーの類の減圧バルブをオカルトパーツ扱いする人もいますが、私はこれをオカルトパーツ
とまでは考えていません。 たしかに効果は微妙ですが、いちおう機械的、機構的な理屈は通っています。
4輪の本格的なレーシングエンジンではドライサンプが当たり前で、スキャベンジングポンプで強制的に
クランクケース内を吸引、減圧する方式なのであまり参考になりませんが、2輪のMoto-GPマシンなどでは
ウェットサンプエンジンであるにもかかわらずクランクケース内を減圧するためのポンプを備えたエンジン
や、以前にも書いたようにエキゾーストパイプに繋ぎ排気ガスのブローダウン負圧を利用して減圧する機構
もあるくらいですので。 ただ、これらの「アクティブな」減圧機構に比べるとこのレデューサーの類の
バルブはクランクケースから排出されるパルス的な圧力の脈動(正圧波と負圧波のくり返し)を利用して
いる「パッシブな」機構なのでどうしてもその効果が弱く、結果として「疑わしい、オカルト的な」パーツ
として映ってしまうのは無理もないかもしれません。 つまり、理論ばかりが先行して実効が伴わない傾向
にあるということです。
また、現在の4輪用エンジンでは純正でクローズドタイプブローバイガス還元システムを備えており、この
システムの段階ですでにクランクケース内部は大気圧から若干の負圧になるように設計されているのです。
それ故、以前にも書きましたがその変化が人によって、あるいはエンジンのコンディション(ブローバイの
圧力や量など)によってはほとんど感じられない場合があることも事実です。 すべての人に、あるいは
すべてのエンジンに体感的変化が確実に出るかどうかは約束できるものではないため、値段なりの価値が
あるのかと聞かれると私には「NO」と答えるしかないのです。 それにこれも以前にも書きましたように、
この種の内圧コントロールバルブはNAGバルブにせよレデューサーにせよT-REVにせよ純正のPCV機能
(クランクケース内を強制的に換気する機能)を殺すことになるため、エンジンオイルの劣化を早めると
いうデメリットもあります。
なのでコストパフォーマンスを問われると他人にはあまりお薦めできない微妙なパーツであることは確かです
し、「値段に見合った効果がない=オカルトパーツ」という考え方ならばそれは正解かと思います。 よく
このレデューサーやNAGバルブ、T-REVの業者やユーザーのインプレッションで「絶大な効果があります」
とか「絶対お薦めします」とか「劇的に変わる」とか書かれているのを見ますが、私に言わせればこれらは
あまりにオーバーで過剰な表現(詐欺とまでは言いませんけどね)です。 この類のパッシブな機構の減圧
バルブ装着により得られる効果なんて理論的に考えてもたかが知れていますので、ほんとに微々たるもので
しかないのが現実です。 それ以上の効果はそれこそユーザー自身のプラシーボ効果でしかないでしょう。
一応つけ加えると、この「脈動波」を利用している関係でこのバルブの効果は多気筒なエンジンよりも少気筒
のエンジンのほうがブローバイ圧力の脈動変化が大きいので効果を得られやすいと言えます。 つまり6気筒
より4気筒、4気筒より3気筒、3気筒よりも2気筒…という具合で、いちばん大きな効果を感じることができる
のは単気筒のエンジンとなるでしょう。 ちなみにロータリーエンジンには理論上まったく効果はありません。
<参考までに>

↑90年代に活躍したホンダF1の3.5リッターV12エンジンのスカベンジングポンプ配置図です。
エンジンの各セクションごとにポンプを分け、合計7個もの吸引用ポンプをタンデムに繋げています。
一見すると「こんなにポンプつけたらその駆動抵抗のほうがパワーロスになるんじゃない?」みたい
にも見えますが、それよりもクランクケース内を強力に減圧すること(とオイルの素早い回収)の
ほうがパワーには有効だということなのだと思われます。 このへんはドライサンプならではです。
ウェットサンプでこんなに強力に減圧したら真空圧(バキューム圧)が強くなりすぎてオイルポンプ
がオイルを吸えなくなってしまいエンジンが焼きついてしまいます。
●結論として
今回のこの加工は現在このクランクデコンプバルブ、あるいはレデューサーを使用していて効果を感じて
いる方にはこの「リードバルブちょい浮かし」加工をすることでさらに低回転からの効果を感じることが
できると思います。 ブラスト加工まではしなくてもこの「浮かし」加工だけでも充分かと思いますので。
なにしろ自分でやれば工賃は「タダ」ですし。 ただし前述しましたようにこのリードバルブ反り加工は
かなり微妙な作業なので慎重におこなう必要がありますが、うまくいけば効果的(かつ凍結や閉塞に対する
安全対策にもなる)なので個人的には今回のこの加工はレデューサーユーザーにはお薦めできます。
●最後に、製造メーカーに言いたいこと
私がつけているクランクデコンプバルブには「セーフティーネット」がついていて、これは私もこの
パーツの記事を最初に書いたときに「けっこう細かい気遣いだと思います」と賞賛したのですが、現在
販売されているレデューサーにはこのセーフティーネットが標準ではついていないようです。
→マエカワエンジニアリング「セーフティネット廃止のお知らせ」

↑私のクランクデコンプバルブについているセーフティーネット
私はこれを標準装備から外すことは非常に残念かつ不安に感じます。 メーカーは「この2年の間に
問題発生の事例がなかった」ことを理由に挙げていますが、こういうのは「万が一」の際の安全対策
なので、私に言わせればたった2年で結論を出すのは早計ではないかと思います。 また外す理由として
「仮に破片をエンジンが吸い込んでも問題はない」旨の記載もされていますがはたしてそうでしょうか?
たとえ小さな砂や石粒程度のものでも、10万rpmを超える回転で回るターボのコンプレッサーホイール
やタービンホイールに当たれば羽根が欠けることは容易に考えられます。 宇宙空間で言えばスペース
デブリみたいなもので、たとえ微細なゴミでも超高速でぶつかったときの破壊力はかなりのものになる
のですから。 それにリードバルブの破損以外にも、万が一にもネジが弛んで振動が原因で内部のパーツ
そのものが脱落する可能性は充分あります。 とくにネジは小さいので、たとえば振動で頭部が金属疲労
でちぎれて脱落すればブローバイホースを通じてエンジン内部に吸い込まれてしまいます。 そういった
アクシデントに対する安全策として私はこのセーフティーネットを外すというのには賛成できないのです。
ですので、もしこれからクランクデコンプバルブ、レデューサーを新規購入される方はオプション追加で
このセーフティーネットをつけることをお薦めします。(ブローバイを大気開放している場合は除く)
いずれにしても、冒頭でも書きましたようにこのリードバルブ形式の減圧バルブはレデューサーにせよ
T-REVにせよ万が一にもバルブが破損する可能性があることは確かなので、定期的に分解し、内部の点検
メンテナンスをしたほうがいいと思われます。「完全メンテナンスフリー」というわけにはいきません。