クランクデコンプバルブ(レデューサー)
デメリットもありますが、モノは試しで変化をみてみました
●以前の記事でも書いたことがあるのですが、クランクケース内圧を下げることを目的と
したブローバイホースにつけるワンウェイバルブが数種類市販されています。
製品名としてはクランクケース内圧コントロールバルブ、NAGバルブ、レデューサー、
クランクデコンプバルブ、T-REVなどと呼称されています。 基本的な機能はまったく同様
ですが、今回はその中で個人的にもっとも性能的に優れていると思われるORSタニグチ製
(正確にはマエカワエンジニアリングのOEM製品)の「クランクデコンプバルブ」を購入して
試してみました。
なお、前もって書いておきますがこの類のバルブは装着することによって長期的にみたとき
のデメリットも生じますので、下記リンクにある以前に書いた記事を参考にしてください。

↑オフロードサービスタニグチ製 クランクデコンプバルブ JA22用
いちおうJA22用として売っているものを購入しましたが、私のエンジンはブローバイホースの
出口からホースを引きなおしていますので、何も専用品である必要はありません。 ホース内径
が14φ〜15φで合うサイズであれば汎用品で問題ないのです。 ですが、せっかくJA22用と
してキット化されてますし、価格も本体のみとほとんど変わらないのでキットを購入しました。
キットにはこの本体の他にホース、ホースバンド、PCVバルブ用メクラ栓がついています。
本体はアルミのオール削り出し、内部のバルブは0.05mm厚ステンレス(オプションで0.03mm
厚のバルブもある)、シールの必要な各部にはOリングもついていて、バルブシートにもシール
が施されておりけっこう凝った造りになっています。
なお、このバルブは前述しましたようにマエカワエンジニアリングのレデューサーという製品
のOEMですが、この本体には3種類あります。 もっとも小さいSサイズ(シングルバルブ)、
その次のMサイズ(ツインバルブ)、いちばん大きいLサイズ(クアッドバルブ)となります。
それぞれシングルはリードバルブが1枚、ツインは2枚、クアッドは4枚構成となっています。
ジムニーのF6AエンジンやK6Aエンジンあたりではもっとも汎用性のあるMサイズが適合します。
タニグチのこのバルブもそのMサイズ(ツインリードバルブ)です。

↑バルブ内部構造。 見ての通りダブル(両面)のリードバルブ式ワンウェイバルブ(逆止弁)と
なっています。
この構造がレデューサーの特徴であって、その他のNAGバルブ等ではピストン式のスライドバルブ
によるワンウェイ構造になっているのですが、小刻みかつ微妙な圧力差により高速で作動するこの
内圧コントロールバルブのようなものの場合はリードバルブ式のほうがレスポンスが早く、また
微妙な脈動でも作動するため、こちらのほうが性能的に優れていると言えます。 今回、私が
この製品を選択したのもこのリードバルブ構造であることが決め手となりました。 リードバルブ
のほうが摺動摩擦する部分がなく、また可動部の質量も軽いため理にかなっていると言えます。
さらに開弁時の流路抵抗もリードバルブのほうが抵抗が少なくブローバイガスの流れが良いです。
また、もうひとつのメリットとして、このバルブはブローバイ経路につきますので、長期の使用に
よりオイルスラッジなどが付着します。 こういうとき、スライドバルブ式では動作不良になりや
すい(なので定期的に分解、洗浄したほうがいいと思います)のですが、リードバルブ式はこのよ
うな動作不良は起こしにくいと言えます。 このバルブは万が一動作不良をおこしてスティック
(固着)してブローバイガスの流れが悪くなるとクランクケース内圧が上がって各部オイルシール
からオイルを吹いたり、とくにターボの排気側オイルシールからオイルを吐いて白煙の原因にも
なり最悪は「エンジン内圧上昇→タービンからのオイル戻りラインからオイルが戻れなくなる→
タービンシャフトにオイルが流れなくなる→タービンシャフトのベアリング焼きつき」という
プロセスでタービンブローに繋がりますので、固着しにくいということはけっこう重要なのです。
以上のような理由から、私個人的にはNAGバルブよりこのクランクデコンプバルブ(レデューサー)
のほうが性能的、機能的に優れていると考えるのです。
<追記>寒冷地で考えられるこのバルブの問題点について
これはレデューサーでもNAGバルブでもT-REV共通の問題ですが、とくに寒冷地において凍結による
バルブの閉塞が問題になることがあるのではないかと思います。 ブローバイガスには水分が含まれ
ますので、わずかでも水分がバルブに付着したままの状態でエンジンを停め、時間が経つとこれが凍り
ついて次回エンジンをかけてそれが溶けるまではバルブが閉じたままになってしまう危険性があると
いうことです。
もしこのバルブが閉じたままエンジン回転を上げた場合、上記でも書きましたように最悪はタービン
ブローなどに繋がる可能性があります。 これを防ぐ意味では、バルブをできるだけエンジン直後に
設置する(エンジンから遠いとバルブが暖まるまで時間がかかる)こと、冷えた状態からのエンジン
始動後はアイドリング状態で暖機運転を充分にしてバルブを温めてから車を動かすなどの対応が必要
かと思います。 そう考えるとこの手のバルブはじつはけっこうリスクの高いものと言えるのです。
私が購入したクランクデコンプバルブにはこうした注意書きは一切ありませんでしたが、PL法対策と
してこうしたリスクがあることを記載しておいたほうが良いのではないでしょうか…と思います。

↑OUT側のニップルを外したところ。
金網によるフィルターがついていますが、これは万が一内部の部品が脱落した際にエンジン内に
吸込まれないようにするための安全対策だと思われます。 けっこう細かい気遣いだと思います。
●具体的なこのバルブの効果について
ひとことで言えばエンジン作動中のクランクケース内圧を下げることで、ピストン上下動やクランク
回転時に発生する「空気抵抗」を低減することにより、パワーロスを減らすことが目的です。
これによってとくに発進時や低回転時、わずかとはいえトルクの向上効果が得られます。 逆に
高回転になるとサクションパイプのバキューム(真空圧)が強くなるので、この類のバルブがなくても
充分にクランクケース内圧は下がります(きちんとブローバイをサクションに戻している場合)ので
こういったバルブは必要ではなくなります。
つまり、このクランクデコンプバルブは全域で効果が期待できるものではありません。 あくまでも
実用域、アイドリングからせいぜいターボがフルブーストに達するまでの領域の効果がメインです。
なお、本格的なドライサンプのエンジンではスカベンジングポンプという大容量のポンプで吸込むこと
でクランクケース内圧を下げていますが、ウエットサンプ式エンジンの場合はそういった独立した
アクティブな減圧機能は持っていませんので、このようなパッシブな減圧機構でおこないます。
ただし、減圧するとはいっても負圧は強ければいいというものではなく、とくにウエットサンプでは
あまりにクランクケース内圧を下げ過ぎるとオイルに気泡が混じりやすくなって、最悪はオイルポンプ
がオイルを吸ってくれなくなり、結果としてオイルラインでエア噛みをしてしまい、潤滑不良が生じて
メタルが焼き付くなどのトラブルを生む場合があるので過度な減圧は避け、適度な減圧(若干の負圧程度)
に留めるべきです。このへんはドライサンプに対してウェットサンプの劣るところでもあります。
具体的には本格的なドライサンプ形式のエンジン場合は最大出力時で標準大気圧(760mmHg)に対して
-0.1〜-0.15kg/cm^2(-76mmHg〜-114mmHg)あたりまで減圧(F1エンジンなどはもっと強力らしい)
しますが、ウエットサンプの場合はその1/25程度の-0.005kg/cm^2(-4mmHg)程度と、大気圧に対して
ほんとにごく僅かな陰圧に留めておくほうが潤滑トラブル回避の意味では無難なところです。
ちなみにバイクのレース用エンジンの一部では排気ガス排出時のブローダウン負圧でブローバイを吸わせ
るために排気管にブローバイホースを繋げている例もあります。 ただし前述しましたようにウェット
サンプエンジンの場合はクランクケース内負圧が強くなりすぎると潤滑トラブルの原因になりますので、
ホースの中間にオリフィスを入れたり電子制御バルブで吸引力を適度にコントロールしているようです。
●装着

↑装着そのものは非常に簡単です。 ヘッドカバーからサクションパイプに向かうブローバイ
ホースに噛ませるだけです。 ワンウェイバルブですので、当然ながら向きに注意です。
なお、本来のタニグチの付け方では、付属の長いホースを介してバルブをつけるようになって
いるのですが、このバルブの性能を活かすためにはなるべくエンジンからの距離を短くしたほう
がレスポンス面で有利なので、私は純正パイプの直後に取り付けました。 そこから耐油ホース
を介してオイルキャッチタンクを中継してサクションパイプに繋ぐという経路になります。

↑付属のPCVバルブ用メクラ栓をPCVバルブホースに挿入し、PCVバルブを殺します。
このメクラ栓にはご丁寧にも抜きタップがついているので、挿入時はもちろん、取り外しもM6の
ネジを使って簡単に抜き差しできるようになっています。なかなか親切な設計だと言えます。
ただ実際はこのクランクデコンプバルブをつけることによって自動的にPCVバルブは機能しなく
なるので、メクラ栓はつけなくてもそのままでも問題はありません。
ですが、せっかく付属していますのでメクラ栓をホース内に押し込んだあとにPCVバルブを元
通りに取り付けます。これによりPCVバルブの機能は完全に死にます。
なお、PCVバルブは法規上取り外すことは認められていませんので、このPCVバルブを取り去って
しまうと車検には適合しなくなります。 ですのでこのように物理的な機能は殺したとしてもPCV
バルブ本体はそのままつけておかないと車検に通らなくなりますのでご注意ください。
●ついでなので書いておきますが、私はお薦めはしませんがたまにブローバイを大気開放にしてる
人がいます。 その場合、このPCVバルブを殺しておかないとアイドリング時やエンジンブレーキ
時にはその大気開放したホースから外気がそのままエンジン内に取り込まれますので、細かいゴミ
や砂、ホコリなどでエンジンオイルの汚損やエンジンの異常摩耗の原因になり結果としてエンジン
の寿命を縮めますので注意が必要です。 私はブローバイの大気開放によるシリンダーへの新鮮な
空気の取り込みよりもブローバイをサクションに戻すことによるクランクケース内圧の減圧のほう
がパワーアップには効果が高いと考えています(数値的な確証はないです)ので、たとえストリート
じゃなくてもブローバイの大気開放は今や時代遅れだと思っています。 実際、ブローバイガスの
主成分は未燃焼のHC(炭化水素、つまりガソリン)であり、ブローバイをインテークに吸わせても
それほどパワーダウンには繋がりません。排気ガスを吸わせるEGRとはまったく違うのです。
なお、このレデューサー等のワンウェイバルブをつけている場合はこうした外気からの「逆流」は
ないのでブローバイを大気開放にしてもゴミを吸込む心配はありませんが、それでも私は大気開放
よりサクション戻しのほうがよりクランクケース減圧にはより効果的だと考えています。
●インプレッション
装着して走り出してすぐに感じ取れることは想像した通り、車が若干軽くなったような感じに
なりました。 ただ、私がもっとも期待していた普段の信号などでの発進時のクラッチミート直後
(エンジン回転数にして1000rpm〜1500rpm程度)の領域のトルク不足によるモタツキの改善は
残念ながらほとんどなされませんでした。これはちょっと期待外れでした。
ただ、そこから回転を上げて2000rpm〜4000rpmあたりまでのトルクについては明らかに上がった
ことが体感できます。 今までよりもアクセルを開ける量が少なくてもすんなり加速してくれるよう
になりますので、この領域での効果はそれなりにあるかと思います。
とは言ってもその変化は決して大きなものではなく、しばらく乗っていると慣れてしまう程度のもの
ですので「まぁ、こんなもんか」というレベルです。 感覚的にはKUREのスーパーパワーブースター
を入れたときのような変化がそれに近いと言えます。
逆にフルブーストに達したあとの高回転域ではまったく変化は感じられません。この領域では前述
したようにサクションパイプからの吸引圧(サクション負圧)だけで充分クランクケース内の減圧は
できますのでこのバルブは何の効果もない(むしろブローバイパイプの流路抵抗になる)のです。
実際、5速全開走行もやってみましたが、パワーメーターの数値も以前と変わりありませんでした。
あとは、よく言われているように明らかにエンジンブレーキの効きが弱くなります。2輪の場合は
これがメリットになることもありますが、4輪の場合はこれはデメリットになる場合もあります。

↑これはパッケージに載っていたノーマルJB23ジムニーのシャシダイでのパワーチェックグラフ。
本来はこうした変化はローラーシャシダイよりもダイナパックで見たほうがわかりやすいのですが
(ローラー式だとどうしてもローラーの慣性質量が邪魔をして微妙なグラフは苦手なのです)。
で、トルクピーク以降の差はほとんど誤差の範囲ですので無視していいと言えます。やはりもっとも
変化があるのは2000rpm〜4000rpmの実用域です。 この変化は理屈通りだと思いますし、実際
に乗ってみてもこのあたりの回転数でのみ変化が感じ取れます。つまりこのクランクデコンプバルブ
は低回転域でのトルクアップにはある程度の効果はあるものの、最高出力を上げるような効果は殆ど
ないということです。 このあたりは製品の原理と特徴をよく理解する必要があると思います。
●<重要> この類のバルブのデメリットについて
最近、この類のバルブがよく売られるようになりましたが、個人的に気になっているのはこれらの
製品を売っている業者はメリットは説明するものの、デメリット面についてはほとんど触れられて
いないことです。(唯一この製品のデメリットを正直に説明しているのはORSタニグチくらいです)
この手のバルブは純正でついているPCVバルブの機能を殺してしまうため、クランクケース内部の
換気(ベンチレーション)ができなくなってしまいます。 そのことによりエンジンオイルの汚染
が早まり、エンジンオイルの寿命が短くなってしまうのです。 ですので、この類のバルブをつけた
場合はエンジンオイルの交換サイクルを早めにおこなう必要があります。 具体的にはメーカーが
指定している交換サイクルの半分〜1/3くらいでオイル交換してやったほうが良いと思います。
とくにアイドリングや低回転での運転が多い場合は短いサイクルで交換してやるほうがいいでしょう。
ですので、よくこのバルブを燃費改善目的でつける人もいるようですが、経済的な面から考えると仮に
若干燃費が改善されたとしても、前述しましたようにエンジンオイルの交換をそれだけ頻繁におこなう
ことになるわけですから、結局トータルでかかる経費としては変わらないか、かえってお金がかかって
しまうことになる可能性があることをよく考えて使う必要があります。
※なお、PCVバルブのついてないブローバイガス循環システム(シールドタイプ)のエンジンでは
はじめからクランクケースベンチレーション機能はありませんのでこうしたデメリットはありません。
上記はあくまでもPCVバルブを装備したクローズドタイプブローバイガス循環システムを装備した
エンジン(ここ15年〜20年くらいのエンジンに多い)での話です。 とくに近年のエンジンでオイル
交換サイクルが15000kmとか20000kmとかロングライフなエンジンは注意が必要で、この類の
バルブをつけた場合は極端にエンジンオイルの劣化が早まりますので、早め早めの交換が必要です。
●最後にコストパフォーマンスについて
また、このバルブ自体も30000円近くするものですが、たしかにこの製品の「造り」そのものは金額
相応の手間はかかっているものと言えますが、実際のその効果から考えると正直なところこの価格に
見合うだけの効果があるかと聞かれるとハッキリ言うと「NO」です。 得られる効果はわずかなもの
ですので、コストパフォーマンスはそれほど良くないパーツと考えたほうがいいです。 TANIGUCHI
はわりと控えめで正直な宣伝をしているほうだと思いますが、その他の同様な製品および類似品を売って
いるメーカーは誇張とも思えるような過剰な宣伝しているものが目につきますし、ネット上でのユーザー
インプレッションでもややオーバーな表現が目立ちますので、それを期待するとがっかりすると思います。
現時点では個人的には同じ30000円ならまず他のパーツに回したほうが賢明かなと考えます。
ですのでこの製品はお小遣いに余裕のある人、あるいはもうひととおり手を入れてしまって他にやること
がないというような人が試してみるのがいいかと思います。
※これはあくまでもJA22のK6Aエンジンでの話で、なおかつ私の個人的な印象です。 他のエンジンでは
もっと効果が大きく出るものや、逆に全く効果が感じられないエンジンもあるかと思います。
たとえば、走行距離が多くピストンやシリンダーの摩耗が進み、結果ブローバイガスの吹き抜けが多い
エンジンや、もともとシリンダー精度の悪いエンジンなど、クランクケース内圧力が上がりやすいエンジン
ほどこのバルブの効果は大きく感じられるかもしれません。 逆に私のエンジンは精度よくオーバーホール
したばかりなのでブローバイの吹き抜けが少ないためにそれほど効果を感じ取れなかったとも考えられます。
要するにこのバルブは「シリンダーの良い状態のエンジンほど効果を感じにくい」と言うことができると
思います。 このバルブの効果が大きく感じられるということはそのエンジンはそれだけブローバイガスの
吹き抜けが多いエンジンだとということになりますので、実はあまり喜ばしいことではないわけです。
●当サイト内のこの製品についての関連ページ
●この製品についてのメーカー参考ページ
★OFF ROAD SERVICE TANIGUCHI
★マエカワエンジニアリング