(番外編)排気温度について
たまに排気温度についての質問があるので。
●排気温度計の数値は昔からエンジンのコンディションを見るひとつのデータとして重要視されています。
とくにターボエンジンの場合はエンジンブローを防ぐためにもブーストアップ程度でもしっかりと把握
しておいたほうが無難です。
NAエンジンの場合は通常は最高でも700度〜800度弱までしか排気ガス温度が上がらないのであまり重要視
されることのない排気温度ですが、ターボの場合はこの排気温度が非常に重要な意味を持ちます。 これは
高精度空燃比計が一般的になった現在でも同じことです。 と、いうよりも空燃比(A/F値)と排気温度を
同時に監視することで適切なセッティングに活かすことができるのです。
ですがそれだけに適切なセンサーの位置や、その排気温度が測定されるときの負荷や回転数など、エンジン
がどのような状況でその数値が出るのかをよく見極める必要があります。

●排気温度を左右するファクター
昔、まだ空燃比計が一般的でなかった頃は排気温度計が燃調を見るのに重要な役割をしていましたが、これは
それなりにノウハウのある人が見るのでわかることであって、燃調とは別に排気温度を上下させる要素は
たくさんありますので、今までまったくセッティング経験のない人が判断できるものではありません。
たとえば、空燃比を弄らなくても点火時期を数度進めれば排気温度は50度以上下がりますし、逆に点火時期を
数度遅らせるだけで50度以上は平気で排気温度が上がります。
これは、点火時期を遅らせるとそのぶん燃焼終わりも遅れることから、それだけ高温の排気ガスが排気ポート
から出てくるためです。 (これはたとえば、実際にデスビを回して実験するとよくわかると思います)
また、タービンの抜けの悪さや、エキマニの抜けの悪さ、マフラーの抜けの悪さも熱溜まりの原因となり、
これも排気温度の計測値の上昇に繋がります。 また、アフターファイヤーの発生も排気温度を上げます。
さらに、使用するガソリンの質によっても排気温度に影響を与えることもあります。 これはどういう理由
かと言うと、エンジンが要求するオクタン価より低いオクタン価のガソリンを使った場合、ノッキングを起こ
すとノックセンサーがそれを感知しECUが点火時期を遅らせることで排気温度が上昇するのです。
これら排気温度の上昇は当然ながら排気ポート周囲の温度を上昇させますから、シリンダーヘッド全体の温度
を上げることに繋がり、水温や油温の上昇に直結し、ノッキングやデトネーションの一因にもなります。
ですので、排気温度の変化がどのようなファクターによってなされているのか、それを解決するにはどうすれ
ばいいのか等を判断するにはある程度の知識、経験、ノウハウが必要になってくるわけです。
排気温度が高い=燃焼温度が高いということには必ずしもならないということに注意してください。
どんなに高価な計器があっても、どんなに豊富なデータがあっても、最終的にそれをどこまで許容し、判断し
セットアップするのはチューナーの腕次第です。 結局、最後は機材ではなく「人」ということになります。
●排気温度計のセンサーの位置
これはタービンハウジングの直前、エキマニの集合部がもっとも適しています。
エグゾーストポートにあまり近いと排気ポートから吹き出した燃え残りの炎の影響を強く受けることが
あるので、温度が上がりすぎて表示される可能性がありますし、タービンより下流ではエキマニ内部での
抜けの悪さによる温度の上昇を知ることができないので、危険を見落とす可能性があります。
また、センサーを目一杯差し込んだときに、反対側の壁面に当たらないようにすることも重要です。
蛇足ですが、ノーマルの短いエキマニから社外のやや長いエキマニに換えると、道中が長くなったことから
その間に排気ガス温度が低下し、計測部での排気温度の数値が下がることがありますが、これは即ちタービン
に入る排気ガスのエネルギーが落ちていることを意味しますので、決して良いことではありません。
こういった場合はサーモバンテージなどをエキマニに巻いて、できるだけ排気ガスの温度を落とさないように
してタービンに導いたほうがよりタービンを効率良く使用できます。
ターボチャージャー、即ち排気タービン式過給機というのは、排ガスのエネルギーを回収するシステムですの
で、できるだけ高温、高圧の状態の排気ガスをタービンに送り込むよう努力する必要があります。
社外のエキマニに換える場合は、可能な限り最短距離でタービンまで繋がっている製品を選んだほうが良い
でしょう。 また、エキマニのパイプ径もやたらと太くしても意味ないどころか、かえってパイプ内の容積が
増すことでタービンまでの排気ガスの充填遅れにつながりますのでレスポンスの悪化に繋がります。
ターボエンジンの場合、いずれにしても排気タービンという大きな排気抵抗になる部分がありますので、排気
マニホールド交換によるチューニング効果はNAエンジンほどは高くはなく、また自由度も少ないです。

↑私はタービンの排気ハウジングのこの位置に排気温度計のセンサーをつけています。
エキマニが薄くて割れる心配があるような場合などは、この位置でも問題はありません。
●適正な排気温度
これは非常に難しいです。 ですのであくまで私の車程度のレベルの仕様での話になります。
まず、排気温度については、あくまで「全開、全負荷時」の温度が重要ですので、たとえば街乗りや巡航時など
とくにパワーを出していない状況ではとくに意識する必要はありません。
(もちろん、このような状況ですでに900度とかに達しているような場合はあきらかに高すぎです)
つまり、原則的には4速以上の全開状態で確認する必要があり、できればトップギアで全開、まさに全開、全負荷
の状態で見る必要があります。 負荷の軽い状態、たとえば2速や3速の比較的負荷の軽いときに合わせてセッティ
ングすると、たとえば5速全開にしたときに排気温度が上がりすぎてエンジンブローすることがあります。
とくに、ジムニーのエンジン(F6AやK6A)のように圧力センサーで吸気量を擬似的に計測しているタイプの
エンジンは、エアフロタイプのエンジンよりもこの影響を強く受けますので、たとえば3速あたりのマッチングで
速くセッティングされたECU等の場合は5速での連続全開ではブローする場合がありますので注意が必要です。
極限時にどのくらい余裕を残すかが重要ですので、できるだけ負荷の高いギアで最高出力回転数まで回してやる
必要があります。
●それでは、適正な排気温度というのはどのくらいがいいのでしょうか。
これはまず、そのエンジンが物理的にどの程度の温度まで耐えられるかによって上限が決まってきます。
たとえば純粋なレース専用に設計されたレース用ターボエンジンの場合は最高出力時の空燃比がNAエンジンと同じ
くらいの12〜13前後というパワー空燃比で使用するために排気温度も1000度〜1100度あたりになります。
市販車のターボチューンドエンジンでは間違いなくブローするような温度域で常用するのです。
これはもちろん、レーシングエンジンであるゆえに、エキマニやタービン、バルブ、バルブシート、バルブガイド
などがそれだけの温度に耐えられるような材質や設計になっていることと、ヘッドを含めた冷却経路なども徹底的
に詰めて設計、製作してあるためにそうした温度での使用が許されるわけです。 その他、燃焼室やポート形状
など、メカニカル的にノッキング限界が高められていることもこうしたセッティングを許す要因でもあります。
しかし、市販エンジンの場合はたとえノッキングが起きなくても、このくらいの排気温度(たとえば1000度近辺)
になるとエキマニやタービンはもちろん、ピストンやバルブまわりなどのパーツがその温度に耐えられませんし、
発熱量に対する冷却も追いつかず(この場合の冷却が追いつかないというのは、単にラジエーターの放熱カロリー等
の問題ではなく、燃焼室で発生した熱がヘッドを流れる冷却水に放熱しきれないという意味です)大きなエンジン
トラブルに繋がり、最悪はブローします。
ちなみに市販タービンの常用できる排気温度の上限は頑張っても1000度が限界です。 純粋なレース用タービンは
ハウジングやタービンホイールの材質そのものが違い(インコネル[Inconel]やハステロイ[hastelloy]等、成分中に
ニッケルが40%〜70%を占める耐食耐熱超合金がよく使用されます)ますので1400度以上の耐熱温度を持っている
場合もありますので、とても一般に市販されているチューニングパーツとは比較になりません。
こういったところが純粋なレーシングエンジンと市販チューンドエンジンでは素性からして大きな差があります。
ですので、市販エンジンのチューンドの場合はこれらの耐久性を考えて、排気温度は最高でも900度程度に抑えること
が大切です。 そのため、燃焼温度ピークを下げたり燃料による冷却を促進させることが必要になることから、市販
ターボエンジンの最高出力時の空燃比というのはNAよりもはるかに濃いものとなっているのです。 つまり、市販の
ターボエンジンの空燃比というのは燃焼効率の面から出された数値ではなく、あくまでエンジンを壊さないようにと
いうエンジン保護の面から考えられているもので、本来の最適な燃焼から見れば濃すぎ、理想を言えばもっと空燃比
も薄めに、排気温度も上げたほうがいいのですが、それでは壊れてしまうため一般的には妥協してこのくらいにして
いるのです。 これらのことをバランスさせると、市販エンジンの場合は点火時期などが適切であれば全開、全負荷時
の空燃比は自然と11前後に落ちつくはずです。
そういうふうに考えると市販チューンドのハイパワーターボエンジンというのがいかにガソリンを無駄遣いする効率の
悪いものであり、こういった空燃比セットがいかに妥協の産物であるかということがよくわかります。
燃焼効率を突き詰めてチューニングするNAのチューナーがターボが嫌いだというのはこうした理由によることも大きな
要因ではないかと思いますが、それは私もよく理解できます。
また最近、世界的にターボ車が減っているのはこうした燃料の浪費があることから燃費の問題や排ガスの問題による
ものが大きいわけです。(ただ、最近になりガソリン直噴技術と排気系材質の進化により、高出力域でも昔ほど空燃比を
濃くする必要がなくなってきたことから、近年はまた実用車でのターボエンジンが復帰しつつあります)
ちなみに、エンジンというのは熱エネルギーを動力に換える機関ですので、排気ガスによって捨てられるエネルギーと
いうのは単なる「無駄」ということになります。 つまりエネルギーは「燃焼温度-排気温度」の差が動力として取り
出されるわけですので、燃焼温度が同じならば排気温度が低いほどエネルギーを有効に使っているエンジンと言うこと
ができます。 ターボチャージャーはこの捨てられるエネルギーの一部を回収してパワーに換える装置なのです。
なお、排気温度がもっとも高くなる空燃比は理論空燃比である14.6〜14.7になります。 これより濃くても薄くても
排気温度は下がっていきます。 ですのでミスファイアが起きず、冷却にも問題がない場合は理論空燃比よりも薄く
セッティングするという方法も燃費を重視する耐久レースなどでは一般的におこなわれているようです。
●それと、これは排気温度計のもうひとつの利用法ですが、よくターボエンジンの場合はエンジンおよびタービン保護の
ためにアフターアイドルというものをおこないます。 (ターボタイマーをつけている方も多いようですが私はターボ
タイマーの必要性は感じないです。 今までに乗ってきたターボ車にもターボタイマーをつけたことはありませんし)
アフターアイドルの効果はオイルライン内でのオイルの焼き付き、冷却水の部分的な沸騰、エキマニやタービンハウジング
の急冷による割れの防止などが主な効果です。
エキゾーストハウジングほどではないとはいえ、ターボのセンターハウジング部も最高400度くらいまでは温度が上がる
ものですので、もしハイブーストで走ってきてその直後にエンジンを停止すると、内部で停留したオイルが焼けて炭化
してそれが焼き付きやスラッジの原因になります。 また、エキゾーストマニホールドやタービンハウジングが赤熱状態
から急激に冷却されることでクラック(ひび割れ)の原因にもなります。 ですので、ターボを酷使した後には十分な
冷却(それもゆっくりとした冷却)が必要になってくるわけです。
街中の普通の走行ではほとんどアフターアイドルは必要ないのですが、高速をある程度負荷をかけて走ってからPAに
入って停めるときなどは、排気温度が下がるのにはかなりの時間が必要なことがわかります。 とくに全開で飛ばした
後などは3分経ってもなかなか下がりません。 それに、アイドリングでは充分な量のオイルや冷却水の循環量がありま
せんので、エンジンに高い負荷をかけて走行したときなどはできればPAに入る前からペースを落とす必要があります。
それでアフターアイドルの目安ですが、私はクルマを停めてから排気温度がだいたい450度以下、できれば400度以下
になってからエンジンを切るようにしています。
最後に、勘違いされやすいこととして、たとえば「排気温度が900度以上にならないようにしてください」と書いて
あったからといって「900度以下であれば安全です」という意味には捉えないでください。
エンジンを壊す要素はノッキングをはじめ他にもありますので、排気温度はあくまでもエンジンの状態を掴むひとつの
要素でしかないということです。 現に市販のターボ&ECUキットをそのまま組んだだけで、排気温度も正常範囲内
であったにもかかわらずエンジンブローに至った例は数え切れないくらいにあります。
また、これは排気温度計だけでなく市販のメーター全てに言えることですが、メーターはあくまでメーター(表示器)
であってゲージ(測定器)ではありません。 誤差というものは多かれ少なかれあります。
排気温度計もたとえばセンサーがダメになったときにセンサーを交換しますが、当然ながらそのセンサーにより少な
からず個体差が生じるものです。 排気温度計ならまだそれは気にしなくてもいいレベルですが、空燃比計(とくに
ワイドバンドの高精度なもの)の場合はセンサーを交換するときは必ず本体との調整(校正)をする必要があります。
ちなみに、もし「排気温度計と空燃比計とどっちを先につけたほうがいいか?」の場合ですが、ターボエンジン
の場合は間違いなく排気温度計です。 空燃比計はあとでも構いません。
なぜかというのはこのページに書いてあることでだいたい推測できるかと思いますが、この場合はなにより
「エンジンを壊さないこと」を前提に考えると、空燃比(A/F)だけでセッティングを合わせていくとブローする
可能性が高くなっていくからです。
前述のように、空燃比は一定でも排気温度は様々な要素で上下します。 つまり、空燃比計の数値では濃いめで
あったとしても、排気温度は異常に上昇しているということもあるわけで、これを管理しておかないととても危険
な状況になります。 ですので排気温度の管理は重要なのです。
前述しましたように市販ターボエンジンの空燃比というのは、エンジンの耐久性から導き出された「妥協の産物」
でしかないわけで、NAエンジンのようには理想的なパワー空燃比にはできないのですから。
逆に、排気温度計を先につけておけば、空燃比は適正になっていなくても、ブローする確率を下げることが可能
になります。 空燃比計でのセッティングはそのあとでも充分です。 まずはエンジンを壊さないようにすること
を最重視して考えたほうが良いと私は思います。
もちろん、排気温度や空燃比の数値が一般論で言う適正値であっても、様々な要因でブローするときはするのです
が、危険を知らせるワーニングメーターとして、排気温度計はそのリスクを確実に減らしてくれます。
<関連参考> →ガソリンとノッキングについて
<関連参考> →インテグラル空燃比計DM-05M 準備編
<関連参考> →インテグラル空燃比計DM-05M その1
<関連参考> →インテグラル空燃比計DM-05M その2
<関連参考> →インテグラル空燃比計DM-05M その3
<関連参考> →負荷の違いによる空燃比の差
<関連参考> →GRIDワイドバンド空燃比計 LM-1
(2009/10/2加筆修正)