(番外編)大容量オイルポンプについて
意外に誤解されている方が多いようなので。
●今回はK6Aではなくて恐縮ですが、ネタがないので過去によく作ったF6A用の容量アップ
オイルポンプ(強化オイルポンプ)の製作について書くと同時に、話を聞いていると大容量
オイルポンプの必要性と容量アップの弊害について誤解されている方が多いので、それに
ついて書きます。

↑F6A用大容量オイルポンプ。
これのプロトタイプを最初に作ったのはもう10年以上前で、谷田部で240km/hオーバーを記録した
カプチーノに使用したものです。 もちろん、寸法採取から設計まですべてオリジナルのものです。
ご存知かとも思いますが、仮に高速道路などでメーター読み200km/h以上出るようなクルマでも
谷田部に持っていけば実測180km/hも出ません。 谷田部ではそれほどクルマに対しての負担が
かかり、しかも全開、全負荷のまま1周5km以上を数周走るという過酷なもので、これはエンジンに
とってはサーキットでもまずないくらいのものです。
このオイルポンプはその後、そのデータをもとにした改良型を数十セット一般向けに製作した実績
があります。 なお、現在はもう他でも一般的に多く売られるようになったので製作しておりません。
簡単に言うと他のエンジンのトロコイド(ギア)を流用しF6Aのポンプハウジングを加工して組み込んだ
もので、厚みの違いにより2種類作りました。 それぞれ以下のような増加割合になります。
●吐出量 約133%増(計算値) ←通常はこれで充分です。
●吐出量 約157%増(計算値) ←ここまでは必要ありません。
この2つのギアは歯形や偏芯量はまったく同一で、単に厚みが異なるだけです。
ただ、注意しておかなければいけないのは、ポンプ吐出量は多ければ良いというものではありません。
この理由については後述しますが、そのエンジンに最適と思われる容量アップにしないと単なる負担
にしかなりません。 通常は200馬力を超えるハイチューンなエンジンでも133%増で充分です。
もちろんワイヤーカットでギアそのものの製作も可能ではありますが、クランクシャフトとの勘合部
も含めて簡単に流用できるパーツがある場合はそのほうが信頼性が高いです。
もちろん流用とはいっても、そのままでは組み込めませんので、ハウジング側は外径、深さ、偏芯量
を変更して純正以上の精度で加工します。
ただ、オイルポンプハウジングはキャスト品ですので、ものによって鋳物にはつきものの「巣」が
出てきます。 通常は問題になりませんが、あまり大きなものは気をつけたほうが良いでしょう。
なお、加工についての寸法精度についてはここでは書けません。 自分で加工されようという方は現物
から寸法を計測して算出してください。

↑F6Aトロコイドと流用トロコイドの比較。
右側からF6A純正、133%増量、157%増量のギアとなります。 純正とは外径、歯形、厚みすべて
が異なります。 なお、K6AのポンプギアとF6Aの純正ポンプギアはまったく同じものです。

↑厚み方向の比較。
見て歴然ですが、右側からF6A純正、133%増量、157%増量のギアとなります。
●オイルポンプの強化(容量アップ)について。
誤解されている方が多いのですが、こうしたものは大きければ余裕になるというものではありません。
結論から言ってしまえば、オイルポンプの圧送量をただ増やしてもそのぶん低い回転数でリリーフバルブ
が開いて規定油圧に達しオイルパンにオイルが戻る量が多くなるだけで、そこから上の回転数では実質的
なオイルの供給量が増すわけではありません。
オイルポンプの大容量化が必要になるのは、たとえばオイルラインを拡大した、イレギュラーなサイズの
大きなオイルクーラーを使用した、オイルジェットの追加加工をした…などの場合で、ノーマルよりも
エンジン本体を流れるオイル要求量が増した場合です。
当然、本来はその改造内容によっても最適な吐出量が変わってきますので、実際はそのエンジンのチュー
ニング内容によって吐出量が異なるものを数種類用意し、選択するのが良いと言えます。
ちなみに、前述した最高速カプチーノの場合は、オイルジェット(ピストンクーラー)を追加したために
よりオイル量が必要になったことから大容量化した強化ポンプが必要になったために製作したのです。
逆に、ノーマルエンジンやボルトオンキットに多い比較的小さなオイルクーラーを装着した程度のエンジン
には大容量(強化)ポンプは不要です。その程度のエンジンにこうした大容量ポンプを装着してもかえって
無駄な抵抗ばかりが増えて逆効果です。
実際のところ、圧送量という意味では純正オイルポンプの容量にはけっこう余裕があるものです。 これは
油圧とエンジン回転数の上昇関係を見ればわかります。
重要なポイントとして、オイルポンプの吐出量はエンジン回転に比例して上昇しますが、エンジン本体
が要求するオイル供給量はリリーフバルブが開いた以降は回転数とは関係ないということです。
問題なのは油圧のピークに達する回転数、いわばインターセプトポイントでして、たとえば、ノーマル
状態のレギュレーターリリーフポイント(最高油圧に達する回転数)が3000rpmだと仮定した場合、
前述した改造、加工などでオイル必要量(循環量)が増大した結果、リリーフポイントが4000rpmまで
上がってしまったとしたら、強化ポンプを装着することで、それをまた約3000rpmまで戻してやること
が可能となり、その場合、まさに最適な油量アップとなるわけです。
ちなみにエンジン各部、たとえばカムやタペット、シリンダーやピストンリングなどの磨耗がもっとも
進行するのはアイドリングから低回転域がメインですので、この領域での油量が減るのはエンジンの寿命
に大きく影響を与えることになります。
逆に、油圧が一定になってから上の回転数では、ポンプから吐出された過剰なオイルは前述しましたよう
に、ひたすらオイルパンにリリーフされていくだけなのです。
つまり、吐出圧が一定になった以降は、オイル流路の体積を大きくしない限りそれ以上は供給量は増加
しないのです。 つまり、リリーフして油圧が一定になったあとはエンジン回転数は関係ありません。
ここまで書くとわかると思いますが、油圧レギュレーターがリリーフして一定圧になった後はノーマル
ポンプであろうが、大容量ポンプであろうがエンジンに送られる油量は同じなわけで、決して大容量
ポンプにしたからと言って高回転時の油圧、油量の余裕が生まれるなどということはありません。
このことが、必要以上に大容量にしても無駄にしかならないという理由なのですが、これを理解されて
ない方がプロでさえ案外多いのです。
むしろエンジンが要求する必要量よりも過度に大容量なポンプギアになると、リリーフ後はポンプ内部
の圧力抵抗が上がりすぎてしまうことで、パワーロスになるだけでなく、ギアやハウジングの異常磨耗
やクランクシャフトのポンプギア噛み合い部の磨耗、最悪はギアの破損など、不都合の原因となります。
一例ですが、バイクのレースエンジンなどで6000rpm以下は使わないなどという場合は、むしろオイル
ポンプの圧送量を減らして、リリーフポイントを上側にずらし、すこしでもオイルポンプ駆動による
抵抗を減らす場合もあるほどです。

↑視覚的にわかりやすくするとこうなります。
図の斜線部分以上の回転数では、純正オイルポンプでも大容量オイルポンプでもエンジンに循環する
オイルの量は変わらないのです。
結局のところ、オイルポンプ容量アップはあくまでも適切な範囲というものがあり、過度の容量アップを
すると前述のように今度は圧送したオイルのリターンが追いつかなくなったり、ポンプ内部での抵抗が
上がりすぎてしまい、その抵抗によって最悪はポンプそのものの破損に繋がる恐れがあるなど、リスク
ばかりが増えてしまうことから思わぬトラブルの元になりかねないのです。
当然ながら高回転になればなるほどクランクシャフトに対しての回転抵抗も増えることになります。
軽自動車のエンジンは排気量が小さいので、少しでもオイルの抵抗を減らそうとして、粘度の低めの
オイルを使用することがありますが、せっかくそれによって抵抗を減らそうとしても、ポンプの駆動
抵抗が増えてしまったら、まさに本末転倒です。
また、これが案外みなさん見落としているのですが、大容量のポンプギアにすると当然ながらオイル
パンからオイルを吸い上げるオイルストレーナーからオイルポンプまでのサクションパイプの吸引負圧
も高くなります。
ですので、この部分の径がノーマルのままで、過度に大容量のポンプギアにしてしまうとこのパイプ内
およびポンプ内の圧力が下がりすぎてキャビテーション(気泡)が発生、オイル内にエアが混入すること
で、エアの混入したオイルがエンジンに送られてしまい、これがメタルのかじりや、最悪は焼きつきなど
のトラブルに繋がってしまうことがあります。 この点は非常に見落としている人が多いです。
ですので、オイルポンプ強化による吸引量の増加に見合うよう、サクション部分の大径化、ストレーナー
の大型化なども併せておこなわないといけません。
強化オイルポンプはただポンプの大容量化をすればそれで終わりというような単純なものではなく、総合
的に考えておこなわないといけないのです。
こうしたパーツはこのへんのことをよく計算して製作する必要があるわけですが、どの程度のオイルポンプ
が適切かどうかの判断基準が、前述したレギュレーターリリーフポイントの回転数になるわけです。
重複しますが、たとえば純正で油圧MAX5kg/cm^2に達するのが3000rpmである場合、オイルラインの拡大、
オイルジェットの追加などによって純正ポンプでは油圧MAX5kg/cm^2に達する回転数が4000rpmに
上がってしまった場合、それをまた3000rpmに戻してやれるだけの容量のポンプがあれば充分なわけです。
それ以上のサイズのポンプは単なる無駄にしかなりません。
もし、過大な容量のポンプをつけて、この油圧MAX5kg/cm^2に達する回転数を2000rpmにしたからと
いってまったくメリットはなく、むしろ高回転になったときに前述したようなポンプ自体のトラブルに繋が
るリスクが増えるだけです。
このへんのバランスポイントを考えると、よほどチューンしたエンジンでも上限はせいぜい1.5倍程度では
ないかと思います。 それ以上は無意味ですし、逆に本当にそれ以上オイルの循環量が必要になった場合は
オイルパンそのものの大容量化や前述したオイルサクション系の大幅な見直し、オイルリターンの拡大など、
大幅な潤滑系統全体の見直しをしないとバランスがとれなくなります。
ただ、F6Aエンジンの場合は油圧ラッシュアジャスターを使用しておりますので、より確実なバルブ駆動の
ためには、たとえばK6Aよりも多少は余裕が欲しいというのもあります。 ただ、これは油量よりも油圧
の問題ですので、ポンプの吐出量ではなく油圧レギュレーターの調整で制御する問題です。

↑<参考>これは過去にワンオフ製作したF6A(DOHC)用のラッシュキラーユニットです。
F6Aのツインカムは4輪エンジンとしてはかなりの高回転まで実用可能ですが、高回転になると油圧
ラッシュアジャスター(HLA)がネックとなり正確なバルブ駆動ができなくなるばかりか、ラッシュ
アジャスターが固着して機能しなくなってしまいます。 実際、ラッシュが固着したF6Aをいくつも
見ています。 ラッシュキラーにすることでより高回転まで正確なバルブ駆動が可能となります。
よく「強化○○」などというパーツはそのイメージから「やらないよりやっておいたほうが良い」と思って
いる方も多いのですが、チューニングというのは「現在の仕様に本当に必要なパーツをつける」というのが
基本ですので、そのパーツが本当に必要なのかどうかしっかり勉強し、吟味することが必要です。
どんなパーツでもメリットとデメリットは共存します。 人間の造るものにメリットだけがあるものなど
存在しませんので、重要なのは機能を理解しこうした影に隠れたデメリットをきちんと認識することです。