K6Aエンジンの目標馬力別インジェクターと燃料ポンプについて
私なりの考えではありますが参考になれば幸いです
●前回の更新「燃料配管のリターン式とリターンレス式によるチューニングの違い」でも触れたので、
重複する部分もあるのですが、数名の人から質問とかありましたので、K6Aエンジンのチューニングの
際、インジェクターや燃料ポンプのサイズ選択でどのくらいまでのパワーに対応できるのか、ちょっと
整理してみたいと思います。
●旧規格軽自動車のK6Aエンジンのインジェクター

旧規格K6Aエンジンの純正インジェクターサイズ(毎分噴射量)は標準車(JA22W、EA21R、HA21S、
HB21S等)は230cc/min.、競技ベース車両のHB21SアルトワークスRのみ260cc/min.です。
以前にも何度か書いてますように、インジェクター容量から馬力を計算するのには6気筒エンジンに置き換
えて考えるのがもっとも楽で、6気筒エンジンでは単純にインジェクター容量がそのままターゲットパワーに
なります。 たとえば380ccなら約380PS、444ccなら約444PSという具合です。
ですので、その半分の3気筒のK6Aエンジンではインジェクター容量の半分が目標出力となるわけです。
つまり、この純正230ccインジェクター容量から算出できる目標最高出力は単純計算で標準車が約115PS、
アルトワークスRが約130PSとなります。
●次に、社外の専用あるいは汎用インジェクターの場合はどうでしょう。
スズキスポーツ(モンスタースポーツ)は旧規格K6A用に260ccのものを出していますが、これはワークスR
純正インジェクターとまったく同じものですので(色のみピンクと赤の違いはありますが)、得られる馬力も
同じ約130PSまでとなります。

↑HB21SアルトワークスR純正インジェクター。1ホールの260ccです。
私の車でタービン交換(ワークスRタービン〜HT07タービン)以降装着し、トータル10年間ほど使用しました。
あとは、汎用のSARD(DENSO)製300ccおよび380ccがありますが、この場合も単純に容量(噴射量)の半分
ですので、300ccで約150PS、380ccで約190PSまで対応できることになります。
とくにこのサード製インジェクターは純正やワークスRインジェクターが1ホールなのに対して12ホールと
なっているので、ガソリンの霧化が良好なため、サイズが大きいわりにアイドリングから低回転域でも安定して
いて、点火プラグのくすぶりやかぶりもほとんど心配の必要はないというメリットがあります。(もちろん、
きちんとした空燃比セッティングとO2センサーのフィードバックを生かしていることが前提ですが)

↑私が現在使用しているSARD12ホールインジェクター。300cc、高抵抗タイプ。 すでにこのインジェクター
に交換して1年以上使っていますが、現在のところマッチングなどにまったく不具合はありません。
詳しくはこちらのページ参照 →SARD(DENSO)12ホールフューエルインジェクター
●その他の流用可能なインジェクターについては、私も現時点は確証のある情報は持っていませんので、純正ECU
ベースでそのまま使用可能な200PS以上に対応できるインジェクタはちょっと解りません。
社外フルコン(MOTECやHKS F-CON V Proなど)を使用するのであれば物理的(形状、寸法的)に取り付きさえ
すれば、コイル抵抗値や無効噴射時間などもいくらでもマッチング対応できるはずなのでどんなインジェクター
でも使えるはずです。
●次に、燃料ポンプ(フューエルポンプ)容量(吐出量)から考えたときに対応できる旧規格K6Aエンジンの
馬力上限を推測してみたいと思います。
まず、ノーマルの燃料ポンプですが、電圧によって、あるいは燃圧によって変動はしますが、旧規格K6Aの
燃料ポンプ容量はおよそ80L/h前後だと思われます。 これは標準車だけでなくアルトワークスRも同じです。

↑参考:JA22Wジムニーの純正燃料ポンプユニット。 吐出量約80L/h。
(基準電圧12.5V、基準燃圧2.5kg/cm^2の時の推測値)
前回の更新記事中にも書きましたが、フューエルインジェクター容量(噴射量)と燃料ポンプ吐出量の関係は
「インジェクター容量(cc)×気筒数×0.06×燃料リターン量(通常30L〜40L)=必要燃料ポンプ容量」
で計算できますので、この式から逆にインジェクター容量も計算できますし、さらにそこから出せるであろう
目安となる馬力も計算できます。 この式は簡単でなおかつ面白いと思うので各自でいろいろ試算してみて
ください。
たとえばインジェクタが300cc、シリンダー数が3、燃料リターン量が40Lの場合は「300×3×0.06+40=94」
ですので、必要なポンプ容量は約94リッター/毎時となるわけです。 ただし、これも以前にも書きましたよう
に、この式はインジェクターが全噴射100%でなおかつリターン流量にも余裕を持って計算していますので、
実際にはこの70%〜80%のポンプ容量でも充分に足りますので、これがギリギリというわけではありません。
「余裕をみて最低これくらいは欲しい」という感じで考えてください。
結論から書きますと、旧規格K6Aの純正燃料ポンプで出せる最高馬力はだいたい120PSから140PSまで対応
できるということになります。 案外、純正ポンプのままでも高出力に対応できるだけの供給量があることが
わかると思います。このへんはさすがワークスRに対応させた旧規格K6Aだけのことはあります。 ですので、
一般的に使われるボルトオン装着の社外ターボの日立HT06やHT07、IHIのRHB31FW程度の出力ならば、
よほどハイブースト(およそ1.5kg/cm^2以上)でない限りはノーマルK6Aの燃料ポンプでもそのままで対応
できます。
ちなみに旧F6Aエンジン車では純正燃料ポンプ容量は約65L/h前後らしいので、純正燃料ポンプのままでは
約100PSまでしか対応できない計算になります。(実際は余裕があるのでもうちょっといけるでしょうけど)
●社外の汎用、流用燃料ポンプについて
上記の計算でもわかるように、旧規格K6Aの純正燃料ポンプでもかなりのパワーに対応できるのですが
「もう少し余裕が欲しい」という方も多いと思います。 そこでよくアフターパーツの汎用の社外燃料ポンプ
や他車からの流用ポンプを使用される場合もあるかと思いますが、ここで注意していただきたいのは
「燃料ポンプは大きければ良いというわけではない」ということです。
どういうことかと言うと、たとえば燃料ポンプを人間の心臓にたとえて考えてみてください。 全身を流れる
血管の太さ、とくに大動脈の太さに対して、あまりに大きな心臓では送り出す血液量に対して抵抗が大きすぎ
てしまい、血圧が上がりすぎて心臓や血管に過大な負担がかかり、結果としてトラブル(病気)の元になって
しまいます。
燃料ポンプもこれは同じことで、燃料パイプやホースの内径、リターンラインのパイプやホースの内径、燃圧
レギュレーターのリリーフ流量の上限、さらにインジェクターの噴射量に対してあまりに過大な吐出量のポンプ
では燃圧が異常に上がったりしてポンプに負担がかかりすぎ、過負荷状態(オーバーロード)となって、ポンプ
のモーターの過熱や破損に繋がりかねません。 こと燃料ポンプに関しては「大は小を兼ねる」というわけには
いかないのです(これはインジェクターにも言えることですが)。
ですので、前述した計算式に基づいて、最低限必要な吐出量プラス余裕としておよそ1.5倍程度の容量をもった
燃料ポンプを使用するのが最もバランスとして合っているのではないかと思います。

↑よく流用として使われるSARD製の汎用インタンクポンプ。
寸法はごく標準的な外径38φ×長さ114mm(115mm)のサイズが適合します。
そのうえで、旧規格K6Aにはどのくらいの容量が好ましいかというと、例として上記SARD製のものですと、
130L/h(SARDカタログNo.58242)のモデルが最適かと思います。
130リッター/毎時もあれば単純計算で約250PSまで対応できるわけですから、かなりエンジン本体内部も
チューニングした上、RHF4やTD-04クラスのビッグタービンを装着したK6Aエンジンにも充分対応できます。
その上には全長が122mmとやや長くなりますが165L/h(SARDカタログNo.58241)というのもありますが、
使ったとしてもこれが上限でしょう。 165リットル/毎時も吐出量があるとこれも単純計算で約350PSまで
対応できることになりますから、一般的な軽自動車のエンジンチューニングではここまでパワー出ませんから、
かなりオーバーキャパシティなくらいです。 しかしさらに大きいRHF5やTD-05クラスのターボチャージャー
を使うなんて場合はK6Aでも250PSくらいまでパワーが出るポテンシャルがあるので、この165L/hクラス、
またはその上の235L/hクラスの容量の燃料ポンプを選択するのもアリかと思います。

↑SARD汎用インタンク燃料ポンプのWebカタログラインナップ。
※サード製の燃料ポンプはかなり偽造品、模造品、偽物が出回っているらしいので、信頼できるショップから
正規品を購入するように注意してください。 インターネット、とくにヤフオクなどで購入するのは偽物を
つかまされるリスクが高いので避けた方がいいと思います。
ここまでで考えていただければわかるように、よくヤフオクとかでK6Aエンジン向けに「255L/h」とかの
大容量燃料ポンプが出品されているのを見ますが、こんな大容量は宝の持ち腐れどころか、前述したように
ポンプに過大な負担をかけて無用なトラブルの元になるだけです。 255リッターと言ったらもう500PS
オーバーのクラスのエンジン向けですので、軽自動車にはまさに無用の長物、単なる無駄でしかありません。
燃料ポンプは「大きいことはいいことだ」とはならないことを十分に理解してください。 大きすぎる燃料
ポンプは前述したように異常な燃圧の上昇などでメリットどころか、むしろ背負うリスクやデメリットの
ほうが大きくなってしまいます。

↑ヤフオクでよく売られている汎用インタンク式255L/h燃料ポンプ。
いくらなんでも軽自動車にはあまりにオーバーサイズすぎます。 旧規格K6Aの場合、フルチューンして
200PSオーバーのエンジンでも前述したように165L/hあれば充分カバーできます。 255L/hなんて必要
ありません。
●燃料圧力とポンプ吐出量の関係
たまに「燃料ポンプを大容量なものに交換しても、燃圧レギュレーター(プレッシャーレギュレーター)で
調圧され、余分な燃料はリターンパイプからリリーフされるから、ポンプを交換しても燃圧は変わらない」
と考えてる人が案外多いのです。 しかし、これは大きな間違いです。
要は「燃料吐出流量とリターン流量のバランスで最終的な燃圧は決まってくる」わけで、たとえば基準燃圧
2.5kg/cm^2の純正プレッシャーレギュレータの場合、ノーマルの燃料ポンプ吐出量なら充分にリターン
できるだけの流量を確保できるので、結果として燃圧もキッチリ2.5kg/cm^2(+ブースト圧)で安定させる
ことができますが、大容量燃料ポンプにするとあまりにも大量に送られた燃料をリリーフさせることができず
にレギュレーター流量が限界に達し「ふん詰まり」してレギュレーターが全開にもかかわらずリターン量が
追いつかなくなってしまい、燃圧を抑えきることができなくなってしまうため、結果、異常に燃圧が上昇して
しまうのです。
ですので、もし過大な容量のポンプを正確に燃圧制御したい場合は、社外の大容量(高流量)な調整式燃圧
レギュレーターにするとともに、必要に応じてリターンラインのパイプ径を太くするなどの対策も必要になる
ことがあります。 ですので、燃料ポンプの容量選択はフューエルラインのキャパシティや燃圧レギュレーター
のサイズなどトータルバランスで決めなくてはならないということです。 ですから、いたずらに吐出量の
大きい燃料ポンプを考えなしに付けるのは愚行そのものなのです。

↑社外品(キノクニ/RUN-MAX製)の汎用調整式大容量燃圧レギュレーターの例。
吐出量が極端に大きい燃料ポンプを装着した場合は燃圧の異常な上がりすぎを抑えるためにこういった高流量
を確保できる本格的なレース用、チューニング用のプレッシャーレギュレーターが必要になることもあります。
純正流用の燃圧レギュレーターではリリーフ流量が足りなくて燃圧制御に限界があるためです。
●ただ、ポンプの吐出量は様々な条件で変化することも考慮が必要です。
これまで書いてきたポンプの吐出量はだいたい基準燃圧2.5kg/cm^2、最大ブースト圧1.5kg/cm^2、駆動電圧
12.5Vあたりを条件にした数値です。 たとえば、燃圧やブースト圧が高くなるとそれに応じて吐出量が減って
いきますし、駆動電圧も低下すれば同じく吐出量が減少します。
逆に、燃圧やブースト圧が下がれば吐出量は増え、よくあるバッテリーと燃料ポンプをリレーを介して直接繋ぐ
「バッ直」して駆動電圧が14Vくらいに上がればポンプの吐出量は増加する傾向になります。
ですので、実際のチューニングにあたっては、これまで書いてきた理論上の計算値をそのまま当てはめるのでは
なく、車両の条件に応じて適宜加減して最適と思われるインジェクター容量、燃圧設定、燃料ポンプ容量などの
数値を導き出して応用してください。
そう考えると、この燃圧やポンプ容量などの関係はほんと奥が深いもので、机上の計算だけでは最適解を一発で
導き出すのは困難で、まさにチューニングというのは理論考察と実践を試行錯誤しながら、その車にとっての
最適なバランスを見つけ出す作業なのだな、と感じます。
●(おことわり)リターンレスシステム燃料配管タイプについて
これまで述べたことは全て従来からの「リターン式燃料配管タイプ」に関しての話です。新規格K6Aエンジン
のような近年のリターンラインを持たないリターンレス式、いわゆる燃圧一定式のタイプのエンジンではやや
考え方を変えないとなりません。 詳しくは冒頭にもリンクしてあるので重複しますが、前回の更新記事を
見てください。
→「燃料配管のリターン式とリターンレス式によるチューニングの違い」
基本的にリターンレス式はハイパワー、ハイブーストターボチューンには向かないのですが、それでも様々な
事情でリターンレス式のままチューニングする場合は、ハイブースト時に噴射量が減少してしまうことを計算
に入れ、基本として「リターンレス式はリターン式よりもひと回り大きなサイズのインジェクターや
燃料ポンプを使用する、あるいはリターン式よりもひと回り高い燃圧でセッティングする」というのが
ポイントというか、必然になるのではないかと思います。 たとえば、K6Aエンジンで同程度の目標馬力でも
リターン式なら燃料ポンプは130L/hで十分でも、リターンレス式ではその上の165L/hにする必要があると
いう具合です。 つまり、リターンレス式エンジンではリターン式のように安易な考えで「チューニングECU+
ブーストコントローラーだけ」で手軽にブーストアップチューンすると最悪はハイブースト時に燃料不足に陥り
空燃比(A/F)が薄くなりすぎてエンジンブローする危険があるので注意が必要なのです。
あくまで目安ですが、リターンレス式で大幅にブーストアップする場合、最大ブースト時に吸気管内相対噴射圧
が最低でも2.5kg/cm^2を確保できるように燃圧をセットすることがひとつの目安となると思います。
たとえば、最大ブースト圧を1.3kg/cm^2と設定した場合は、最低燃圧が2.5kg/cm^2+ブースト圧1.3kg/cm^2
となりますので、燃料タンクから出た段階での基本燃圧は3.8kg/cm^2必要ということです。 この値になる
ようにプレッシャーレギュレーターや燃料ポンプの容量を選択、設定することになるわけです。 そのうえで
フルコンピューターやサブコンピューターでのセッティングをすることになります。
ただ、基本的にリターンレス式は「吸気管内圧力に対して常に一定の燃料噴射圧を保てないため、とくに
ハイブーストターボでは高過給圧時のガソリン霧化特性が悪化する」や「フューエルデリバリーパイプ内で
パーコレーション(ベーパーロック、気泡の発生)の危険がある」という打ち消し様のないデメリットが
ありますので私はあまり好きではありません。
実際、チューニングショップによっては新規格K6Aのリターンレス式の車両をリターン式に改造する場合も
あるみたいです。ただ、ここまで抜本的に燃料制御システムを変更すると、燃料噴射マップを根本から大幅に
書き換えないとアイドリングからフルパワーまでの広範囲な領域での空燃比(A/F)セッティングができなく
なるため、もう純正ECUにe-manageのようなサブコン(たとえe-manage Ultimateでも)をつけただけ
では誤魔化しきれずカバーしきれなくなります。 純正ECUの燃調マップそのものを直接書き換えて対応する
か、前述したHKS F-CON V Proのようなフルコンピューターでマップをゼロから書き込んで高度な制御をする
必要があります。 このくらいのチューニングレベルになってくるとまさにチューニングショップやチューナー
の真価というか、技術力、セッティング力など本当の腕が試されることになりますね。

↑やはりターボチューニングするなら従来からの燃料リターン式のほうが理にかなっており、リターンレス式
よりも性能面で有利で理想的だと私は確信しています。 リターンレス式は揮発ガス低減(HC低減)のためなど
と自動車メーカーは言っていますが、私には単なるユニットのシンプル化によるコストダウンのための手段と
しか考えられません。 NAエンジンならリターンレス式でもさほど問題はありませんが、ターボエンジンの
チューニングにはリターン式のほうが圧倒的にメリットが大きいです。