ハイオクタンガソリンについて
よく気になる記述を目にすることがあるので。
●よくハイオクガソリンの説明などで目にする記述に「ハイオクは燃えにくい」などと書か
れていることがありますが、これは非常に誤解を生む書き方です。
ここでまず理解していただきたいのは「着火性」と「引火性」の違いです。
「着火性」というのは温度をどんどん上げていったときに、燃料が自然着火することで、
低い温度で着火する燃料ほど「着火性が良い」といいます。
(圧縮熱で着火させるディーゼルエンジンには逆にこの着火性の良さが求められます。
そもそもディーゼルエンジンというのはわざと自然着火させて、ガソリンエンジンでいう
ところのノッキングの連続で動いているようなものですから)
「引火性」というのは、たとえば燃料にマッチの火を近付けていったときに、どれだけ離れた
位置で火がつくかを指したもので、当然、その距離が遠いほど「引火性が良い」と言えます。
ガソリンエンジンはスパークプラグの火花によって点火しますので、わずかな火花でも確実
に引火、燃焼してくれないとなりませんが、ここで重要なことは、これについてはハイオクも
レギュラーも変わらないのです。
逆に、プラグのスパーク以外の局部的な高温部、赤熱部などによる自然着火を起こすと、適正
な燃焼ができずにプレイグニッション(早期着火)、デトネーション(異常燃焼)、ノッキング
の原因になりますので、非常に危険です。
これら局部的な温度上昇による自然着火を防ぐ性能が高いのがハイオクガソリンであり、
わかりやすく言うとハイオクガソリンとは、引火性はそのままに着火性をできるだけ抑えた
ガソリンと言えます。そのことでノッキング限界を引き上げる=アンチノック性を上げている
わけです。
つまり、ガソリンエンジンに求められる理想的な燃料とは「引火性が良く、着火性が悪い」
燃料ということになります。 ガソリンは自然発火(着火)してはいけないわけです。
ハイオクとレギュラーの違いはあくまでも「点火プラグのスパーク以外の要素による自然着火
性、自己発火性」の差であって、点火しやすさについてはハイオクもレギュラーも変わらない
のです。
ですので、ハイオクはレギュラーより燃えにくい(火がつきにくい)ということはありません。
●オクタン価とノッキング
オクタン価というのは前述したように「アンチノック性」のことで、上記でも触れたように
点火プラグのスパーク以外での自然着火を防ぐ性能のことです。
ガソリンエンジンはプラグのスパークによって点火、燃焼することによって正常な回転を
しますが、たとえば他に高温になる部分(プラグの電極や堆積したカーボンなど)が生じて
そこが点火源となってプラグの点火前に勝手に燃焼をはじめてしまうことがありますが、
これをプレイグニッション(早期点火)と言います。
オクタン価の高いガソリンはこのプレイグニッションを防ぐのにも効果があります。
また、正常な燃焼時の燃焼速度よりもはるかに速い異常な燃焼が起きると音速を超える速度で
燃焼が広がり、この際に生じた衝撃波が音を出すことがあります。
こういったアブノーマルな燃焼のことをデトネーション(異常燃焼)と言い、これがさらに
酷くなると衝撃波による音が出ます。 これがノッキングです。
(ノッキングというのは必ずしも人間の耳に聞こえるものばかりではないです。 とくに高回転、
高負荷で起きる「高速ノッキング」は非常に微妙な音で耳に聞こえないことが多く、ノックセンサー
によるフェールセーフも有効に働かないことがあるのでとても危険です。 街中の走行でよく聞く
カラカラ…というようなノッキングはじつはあまり危険ではなく、本当に危険なのはこうした高速
ノッキングのほうです)
つまり、ノッキングを防ぐには「自然着火しにくい燃料にする」ことが燃料側でできる対策に
なるわけで、それが高オクタン価燃料となるわけですが、このことが上記で述べた「ハイオク
は燃えにくい」という間違った認識をする方が多い原因でもあるのかなと思います。
(これに対してエンジン側の設計でおこなう機械的なアンチノック性ももちろんあります)
逆に言うと、燃料のアンチノック性が高ければ、それだけ点火時期をMBTに近付けた最適値に
進角させることができる、ターボの過給圧や風量を上げることができる、圧縮比を高くする
ことができる…等、エンジンのトルクおよびパワーアップへのチューニングの自由度が広がる
わけです。
なお、よく勘違いされている方もいますが、レギュラーガソリンで問題なく動くエンジンに
ハイオクガソリンを入れただけでは何も変わりません。
エンジン自身をハイオクガソリンに最適化することで、はじめてその意味をなすものなのです。
●日本車の場合、ハイオク仕様のエンジンでもたいていはハイオク用のマップの他にレギュラー
用のマップも持っていますので、レギュラーガソリンでも問題なく動くようにはできていますが、
外国車や国産車でも一部の車両、また、コンピューターチューンなどを施したクルマの場合は、
ハイオクガソリンを使用しないとエンジンが過熱状態(オーバーヒート)したり、また、排気温度
も異常に上昇することから、最悪はエンジンを破損する、場合によっては車両火災につながること
もありますので、ハイオク使用が指定されている場合はレギュラーガソリンを使用することは避け
て、素直にハイオクガソリンを使用してください。
まれに「このエンジンは鍛造ピストンを使用しているから丈夫なので多少ノッキングがおきても問題
ない」などと言う方もいますが、仮に強度に優れたピストンを使用したとしてもそれはあくまで正常
燃焼でのパワーアップによる燃焼圧力上昇に対しては余裕はできますが、ノッキングを起こすという
ことは異常燃焼ですので、こうした異常事態に対してのマージンなどというものはありません。
正常燃焼では燃焼ガスとピストン表面や燃焼室表面の間に「境界層」というものがあり、それによって
保護されるのでピストンや燃焼室表面は溶けませんが、デトネーションやノッキング時はこの境界層
が破壊されて、燃焼温度が直にピストンや燃焼室表面に作用するために、アルミでできたピストンや
燃焼室の表面が溶けてしまうのです。
実際にデトネーションやノッキングによって破損したエンジンのピストンや燃焼室を見たことがある
人ならば、これはよく解っていることと思います。
●なお、ノッキングにはその程度により呼び方にいくつか種類があります。
1)トレースノック …ごく微細かつ衝撃波も弱いノッキングで、ほとんど耳では聴こえないレベル。
このトレースノックがたまに起きるくらいがエンジンはもっともトルクが高くなる。
2)ライトノック …トレースノックよりやや衝撃が強いが、耳で聴き取るのはまだ難しい。 この
レベルのノッキングが頻発するようになるとオーバーヒートなどの症状が出てくる。
3)ミディアムノック …ライトノックと後述するヘビーノックの中間。 このレベルのノッキング
になると明らかに耳でも聞き取れる。 これは避けなければならない。
4)ヘビーノック …文字通りの明らかなノッキング。 これはエンジンの破損に直結するので絶対
に避けなければならない。
●最後に
一部には「ハイオクよりレギュラーのほうが燃焼速度(火炎伝播速度)が速い」ということを
言う方や、燃焼エネルギーが大きいという方もいます。
これが本当ならばノッキングが起きないことを前提のうえでレギュラーガソリンを使用した
ほうが有利ということになりますが、化学的なことが解らない以上私にはなんとも言えません。
また、ハイオクには清浄剤が入っていて、レギュラーには入っていないという方もいますが
現在はそのようなことはないはずです。 ただし、このへんの添加剤のブレンドについては各社
各様なので一概には言えません。 これらはハイオクとかレギュラーとかではなく、ガソリン
そのものの品質によるところです。
ですので、これらはオクタン価(アンチノック性)とはまた別の話になりますので、今回のテーマ
とはやや外れた部分でもありますのであまり深くは考えないでおきます。
●なお、JISではハイオクガソリンの最低オクタン価を96、レギュラーガソリンの最低オクタン価を
89と規定していますが、悪質なスタンドでは灯油の混入などでこれを下回るオクタン価のガソリン
もあるらしいので注意が必要です。 →詳しくはこちらのページでも触れています。