ホイールナットのスーパーハードアルマイト処理
リフレッシュも兼ねて再処理しました。
●私の車のホイールナット(ハブナット)は社外のジュラルミン製で、もともとは赤と青
のカラーアルマイトがしてあるのですが、これが経年劣化でだいぶ色褪せてきたことと、
くり返しの脱着でだいぶ痛んできたこともあり、今回、再処理してリフレッシュしました。

↑再処理前のホイールナット。 既製品ですが、どこのメーカーかは覚えておりません。
正確な装着時期も覚えていませんが、少なくとも8〜9年は使用しているため、ホイールの
脱着のくりかえしによりテーパー部や六角の角部などだいぶアルマイトが剥げてきており、
全体にかなり色褪せ(褪色)もしています。 この色褪せはカラーアルマイトの宿命なので
仕方ありませんが、これだけの年数でこの程度の色褪せならば優秀なほうと言えるでしょう。
ちなみに私は右側に赤、左側に青を使っていました。とくに意味はありませんが(笑

↑アルマイト剥離後、サンドブラストをかけた状態。
酸で旧アルマイト皮膜を剥離後、サンドブラストをかけることで表面に残留圧縮応力が発生
しますので若干の耐疲労性に対する改善効果が出ます。 これで再処理前の下地が完成です。
なお、もともとの材種が不明でもこのアルマイト剥離の工程途中でジュラルミンの場合は黒く
変色しますのでジュラルミンかそうでないかくらいは判別できます。
●表面硬化処理「スーパーハードアルマイト」

↑再処理後のホイールナット。
処理は「スーパーハードアルマイト」をおこないました。
このスーパーハードアルマイトというのは通常の硬質アルマイトよりさらに硬い「超硬質アルマイト」
です。 <参考> →スーパーハードアルマイトについての詳細ページ
このスーパーハードアルマイトを施すことで、テーパー部やレンチのかかる六角部の耐摩耗性を著しく向上
させることができ、さらにネジ山部の対カジリ性も向上しますし、ネジ山そのものの強化にも
繋がります。
どこのメーカーかは書きませんが、市販のアルミナットの中には超硬質アルマイトと称しながら
実際は通常の硬質アルマイトと同等の硬さしかないアルミナット(ジュラルミンナット)も市販
されていますので注意が必要です。
「超硬質」と呼ぶためにはヴィッカース硬さで最低Hv350以上はないといけないと私は考えますが
市販のものには硬さがHv330程度しかないのに「超硬質アルマイト」などと誇大表示しているもの
もあります。 Hv300〜350程度では通常の硬質アルマイトの範疇でしかありません。
その点、スーパーハードアルマイトは通常のジュラルミンであるA2017でもHv400程度、超々ジュラルミン
であるA7075であればHv500程度と、焼入れ鋼にも匹敵する硬さの超硬質皮膜が得られる処理で、
本当の意味の「超硬質アルマイト」です。
材質の話のついでに、これもよく市販されているホイールナットにあるのですが、材質がA2017
やA7075のようなジュラルミン系ではなく、A6061のようなアルミを使用しているものも見受け
られます。 A6061はたしかに高力アルミではあるのですが、この類の強度部品にA6061は適し
ているとは言えません。 やはり機械的強度を考えると選択肢はジュラルミン系が常識です。
理想はやはり超々ジュラルミンであるA7075ですが、市販のものはコストを考えて多くがA2017
になっていると思います。 ただ、2000番台のアルミ(ジュラルミンA2017やA2024等)は
機械的強度は高いのですが、被アルマイト性が悪く、硬質皮膜の硬さが他のアルミ合金に比べて
上がりにくいという欠点もあります。 ですのでやはり理想を言えばA7075になります。
ただA7075にも弱点はあり、くり返し応力による疲労破壊に対してはやや弱いという性質があります
ので、軽量化を重視するあまりに肉厚を極限まで薄くするような設計には配慮する必要があります。
たとえば、M12サイズのホイールナットの場合、21HEXや19HEXのナットにA7075は問題ないと
思いますが、肉厚が薄くなる17HEXのナットにはA7075は使用しないほうが賢明でしょう。
結局、ひとことにジュラルミンといっても単純に強い、弱い、硬い、軟らかい以外にもそれぞれに
特性があるため、それぞれのメリット・デメリットに応じた設計が必要になるということです。
一例ですが、ジャンボジェットの主翼の外板材料は、上面がA7075(超々ジュラルミン)製ですが
下面はA2024(超ジュラルミン)が使用されています。 なぜ両面にA7075を使用しないかという
と、主翼の下面は飛行するときに引っ張りの応力を受けるため上面に比べ金属疲労しやすく、その
ため疲労破壊に敏感なA7075をあえて下面には使用していないのです。 いくら強いからといって
もA7075が「万能ではない」というわけです。
●なお、このスーパーハードアルマイト処理はアルミの表面硬度向上には非常に効果的な処理ですので、
今回のようなホイールナット以外にも、たとえばフローティングタイプのディスクローターベルや、
アルミ製クランクプーリー、アルミ製バルブスプリングリテーナー、オートバイや競技用自転車に
多いアルミ製スプロケット(ギヤ)等にも有効です。
スーパーハードアルマイトはとくに耐摩耗性については硬質クロームメッキ(ハードクロームメッキ)以上
の数値を示すことも試験上では得られていますので、上記以外にも耐摩耗性が要求されるアルミや
ジュラルミン部品への応用は有効です。 ただ、それだけにスーパーハードアルマイトは他の硬質アルマイト
に比べると費用がやや高価になることが唯一の欠点とも言えますが、値段相応の性能は持っている
表面硬化処理だと思います。

↑これはK6Aエンジンのものではありませんが、アルミ製プーリーにスーパーハードアルマイトをかけた例です。
耐摩耗性の向上に大きな効果があります。
なお、今回のナットのようにすでにアルマイトがかけてあるものをスーパーハードアルマイトへかけ直すのは
可能ですが、いくつか注意しなければならない点があります。
アルマイトのかけ直しというのは実際には、まず旧アルマイト層を剥離するのですが、その際にアルミ
素材表面を若干溶かしますので、0.01mm〜0.03mmほど表面が痩せますので、とくに高精度な部品の
場合は注意が必要です。(たとえばノックピン穴やベアリング穴などはガタになる可能性があります)
それと、再処理後の表面が粗くなる(ザラつく)ことがあります。
ちなみに今回のようなアルマイト済みホイールナット20個をスーパーハードアルマイトにかけ直す場合の費用
ですが、結論から言うと市販の既製品ジュラルミンナット20個セット(実売価格で1万円〜1万5千円程度)を
新品で買うのと同等か、場合によっては若干高くつきます。
ですので、普通は旧くなって傷んだアルミナットは新しいものに買い直すほうが利口でしょう。今回私があえて
再処理してまでスーパーハードアルマイトにこだわったのは試験的な意味と個人的な満足感のためと言えます。

↑取り付けたところ。 以前のカラーアルマイトと比べてかなり地味にはなりました。
色ですが、スーパーハードアルマイトは基本的に「自然色」なので、その素材によって色合いや濃さが
変わります。ジュラルミン系の場合はだいたいこのような少し緑がかったグレーになることが多いです。
これはカラーアルマイトのように染料で着色した色ではなく、硬質皮膜そのものの色です。
市販の一部のアルミナットでは硬質アルマイトではないのに、着色することで硬質アルマイトっぽく
見せているだけのものもありますので、とくに安価な製品には注意したほうがいいでしょう。
ちなみにスーパーハードアルマイトでも着色は可能ですが、もともとの皮膜に色がついているため、通常
のカラーアルマイトのような鮮明な発色にはなりません。 ちょっとくすんだ感じの色になります
ので、黒以外はあまり鮮やかとは言えない仕上がりになります。
ちなみに私はホイールナットは袋タイプよりも貫通タイプのほうが好きです。 とくに大きな理由
はないのですが、貫通タイプのほうがネジがどのくらい入っているかが目で見てわかりやすいという
のがなんとなく安心感に繋がることと、あとは貫通のほうが若干軽量になるというところでしょうか。
ただジムニーのような車の場合、オフロードで泥に浸かるような走りをすると貫通ナットだと泥や砂
がネジに入り込んでホイール着脱時にジャリジャリと砂を噛んだりすることがあるので、そういう意味
では袋ナットのほうがオフロードユースには合っているかもしれません。
●最後に締めつけ時の油の塗布について
まれに議論されることに「ホイールナット(ハブボルト)」にオイルを塗布すべきかどうかというのが
あります。 これもメーカーによって、また、整備書によって記載が異なるので一概には言えないの
ですが、少なくとも私の場合はネジ山部をクリーンにした状態で薄くオイルを塗布した状態で締めて
います。 ですが、テーパー部には油脂類は付着させないほうが安全でしょう。
たまに「油を塗るとオーバートルクで締まってしまう」という方もいますが、「ねじハンドブック」
では締め付けトルク規定に「薄く油を塗布した状態で」という記載がありますので、ネジ山をクリーン
な状態にしたうえで薄く油を塗布して規定トルクで締めるのが正しい締め方だと私は考えています。
とくにアルミ(ジュラルミン)ナットや、チタンナットはカジりやすいので、薄く油(スレッドコン
パウンドでもいい)を塗布してから締めたほうがいいのではないかと思います。
なお、いくら表面硬化処理してあるからといってこのような軽合金(アルミやチタン)ホイールナット
をインパクトレンチを使って締めるのはネジ山のカジリの原因になるので基本的にNGです。