ホイールナット交換とホイールナットについての考察
リフレッシュも兼ねて交換しました
●私の車のホイールナット(ハブナット)は以前の「ホイールナットのスーパーハードアルマイト処理」
でも書きましたように、市販のアルミ(A2017ジュラルミン製)ナットを再処理したものを使用
してきました。 もちろん、そのまま使用を続けて問題はないのですが、そろそろ今の色にも飽き
てきたので、見た目で色気のあるものに替えたいなと考えておりました。
そこで「現在のホイールナットを改めて再処理してカラーにする」か「新たに購入するか」と
いう選択肢があったのですが、最近はヤフオクとかでもやたら安いものが多く出ているので
そういった製品が本当に信頼できるものなのかどうか興味もあったので、新たに購入してみる
ことにしました。

↑購入したホイールナット。 全長35mm、外径23mm、六角対辺19mm、重量20g/個です。
材質は売る側では「A7075」と謳っていますが、実際には怪しいところでしょう。
なにしろ20個セットで3000円(1個たった150円!)という安さですので、当然、中国製だと
思いますのでロクな材料は使用していないと思われます。 アルマイトも硬質なものではなく
単純なカラーアルマイトだと思われます。 でも仕上がりだけはけっこう美しいです。
なお、色に紫を選んだのは、以前使っていたのが青と赤だったので、単純にその中間というか
混色であるパープルが新鮮でいいかなと思ったからです。

↑クローズアップ。 いちおう鍛造成形で、テーパー部は切削加工が施されています。
さらに安いものはこのテーパー部も鍛造しっぱなしで旋削加工さえされてないものもあります
が、この製品はいちおう最低限の手間はかけてあるようです。
なお、このテーパー部とネジ穴部の精度については場合によっては走りに違いが出ることさえ
あるようですが、それについては後述いたします。
●装着

↑取り付けたところ。 どうでしょうか、これだけでもけっこうイメージが変わったと思います。
ただ、やはりこのアルマイトはまったく硬質ではありませんね。 一度ソケットで規定トルクで
締めただけでわずかとはいえ傷が入ってしまいました。 やはり値段なりの品質のようです。
超硬質アルマイトであるスーパーハードアルマイトなら数回の脱着をしてもそんなことはないですし、
本当にA7075の熱処理品を材料に使用しているのならこんなに簡単に傷も入らないはずです。
結論として今回、私が購入したような「安物」は軽自動車やコンパクトカー程度なら問題ないと
思われますが、重量車やハイパワーな車には安全性の観点からやめておいたほうがいいと思います。
ちなみに私はホイールナットの締めつけトルクは10kg-mでおこなっております。これはスチール
(鉄)ナットでもアルミ(ジュラルミン)ナットでも同じです。
そういえば過去にAPIOがジムニー用にチタンホイールナットを出していましたね。 今は廃盤に
なっているようですが。 さすがにジムニーユーザーであの金額を出す人は少ないのでしょう。
●ホイールナットについての考察
ネットを巡回していたらおもしろい記載を見つけました。
(株)ベータチタニウムという会社の「ホイールナットをチタン製に変えると走りが変わる」と
いうものです。 くわしくは「こちらのページ」をごらんください。
これを見て多くの人が「ほんとかよ?」って疑問に思うのは当然だと思います。 私も正直なところ
かなり懐疑的です。 ただ、これはまったく理屈として通ってないわけではないとも言えるのです。
これは私の見解ですが、もしホイールナットで何かしらの変化があった場合、それは材質によるもの
ではなく「加工精度」によるものだと考えます。
これについてできるだけわかりやすくするために以下のような図を描いてみました。

↑ホイールナットとホイールのテーパー(60度)の様々なケースの嵌め合いのパターンです。
1)はナットのネジセンターとテーパーのセンターの「同軸角度」がずれているためにナットを締めた
ときにテーパー全周が均一に当たらずに、偏って当たってしまうケースです。
2)はナットのテーパー角度の精度が悪く、きっちり60度ではなく1度〜2度程度ずれているために
テーパーの外周部のみが強く当たってしまうケースです。 もちろんこの逆もあるかと思います。
3)は純正ナットなどに多い、比較的低価格のものでテーパー部分が切削仕上げでなく、鍛造そのまま
のために正確な直線となっていないために、これも部分的に強く当たってしまうケースです。
4)はまさに理想的な精度で加工されたナットで、ネジとテーパーの同軸、同芯がしっかり出ており、
また60度の角度もしっかりしているため、ホイールのテーパーと全面でがっちり接触するケースです。
鍛造成形後、テーパー部とネジ穴部をNCマシンで「同時加工」することでこの精度を出すことができます。
これらで何が違ってくるかというと、ひとことでいえば「ハブとホイールの締結剛性」が変わってくる
ということです。 つまり、1)〜3)のような点接触や線接触ではハブボルトの弾性変型などにより
無駄な「ブレ、ビビリ、微振動」が発生することからそれが微妙なホイールのブレに繋がる可能性がある
ということです。 これが4)のようにテーパー部が「全面接触」することでハブボルト(スタッドボルト)
に無駄な横方向(回転方向や上下方向)の力がかからず、純粋に引っ張り方向の軸力だけがかかることから
よりホイールとハブがガッチリと固定され一体化することで「結合剛性」が確保でき、これが結果として
走りにも影響を与えるという理屈なわけです。
つまり、私の考えでは上記ベータチタニウム社のデータ(グラフ)の違いは材質による違いではなくこの
「純正ナットと製品ナットの精度の違い」によるところが大きいのではないかと考えるのです。
もしこれが材質によって違いが出るのであれば、チタン材はたとえ64チタンであってもその剛性そのもの
はスチール(たとえばS45C)には及びません。 これは剛性を決定づけるヤング率(縦弾性係数)が素材
によって決まっているためです。なので仮に同じ形状、精度で製作したナットで比較すれば、むしろチタン
よりもスチール材(市販品であよくあるSCM435熱処理品など)のほうが剛性は高くなるはずです。
ちなみに最近この「βチタン(βチタニウム)」という言葉をよく聞きますが、これは高力チタン材の一種
です。チタン材には大きく分けて3種類あり、αチタン、α-βチタン、そしてβチタンとに分類されます。
αチタンは比較的純チタンに近いもので比較的安価でそれほど強度はありませんが、加工や溶接がしやすい
ためにマフラーなどによく利用されます。 α-βチタンは高力チタン材の代表格であるTi-6Al-4V、所謂
64チタンで、機械強度を求められる部品によく利用されます。 しかしこの64チタンは加工性が悪いのが
欠点で、とくに圧延性や引き抜き加工といった変型加工はかなり難しいです。 そこでこの64チタンの強度
をほぼ保ったまま加工性を向上させたのがβチタンであるTi-15V-3cr-3sn-3Alと呼ばれる材料です。
●取り外したホイールナット

↑私の車で今まで使っていたナット。 見てのようにテーパー部の向かって右側はほぼ全面が接触して
いますが、左側は外周部のみが当たっていて「片当たり」していたことがよくわかります。 これは
上記の図で言えば1)のケースに該当するパターンかと思われます。
もちろんこれにはホイール側のテーパー座面の精度も大事なのですが、ホイール側は一般的にエンドミル
加工(あるいはブッシュは旋盤加工)されるので、ナットほど精度のバラツキは出ないと思われます。
ちなみに一般的にこうした量産ナットは「鍛造」で造られることが多いですが、問題は外形部が鍛造で
あっても内径の「ネジ」が鍛造であるかどうかで強度が変わってくるということです。 一般的な機械
加工ではこうしたメスネジは「切削タップ」という工具で「切削加工」することが多いのですが、より
ネジ山に強度を求める場合は「転造タップ(フィレットタップ)」という種類のタップを用い、ネジ山
を「鍛造」で成形するのです。 これはオスネジではよく「転造成形」と呼ばれるもので、ネジ山を
「切り出す」のではなく「押し出す」成形法のため、ネジ山の金属組織が圧縮されてグッと強度が増す
加工方法です。大きな応力がかかるコンロッドボルトなどは必ずこの転造でネジを切る必要があります。
●ホイールナットの材質
このホイールナットの材質は何がベストか、と言えばそれは使い方によって変わってくると思います。
私のようにとくにハードな走り方をせず、ホイールの脱着もせいぜい年1〜2回程度という場合はアルミ
(ジュラルミン)ナットでも問題ないでしょう。 ただ、サーキット走行を頻繁におこなうなど、年に
何回とホイールの脱着をおこなう人はアルミナットでは消耗が大きく「使い捨て」になってしまう可能性
があるので、そういう人はスチール製のほうがいいと思います。
ただ、よく売られているクロモリ製(SCM435の焼き入れ品など)までは必要ないと考えます。 これは
ハブボルトの材質との兼ね合いなのですが、生産車のハブボルトの材質の多くは強度区分6T〜8T程度、
キャップスクリューで言えば強度区分6.8〜8.8程度なので、このボルトより硬く強い材質を使ったナット
ではまさにオーバークオリティとなってしまうわけで、くり返しの着脱でボルトのほうを磨耗させてしまい
ます。 もしハブボルトをクロモリ製の強化品に交換している場合などはナットもそれに合わせて強いもの
にする意味もありますが、それでもナットはS45CやSCM435で、HRc30程度に焼き入れ(調質)をした
程度の素材で充分でしょう。それ以上強くしたところで意味ありません。
64チタン製のナットはとくにデメリットはないかと思いますが、カジリやすいのでインパクトレンチで
締めることは避けるべきです。 ホイールナットでステンレス製というのは見たことがありませんが、
これもとくに素材としてデメリット少ないとは思いますがSUS304などではやや軟らかく、カジリやすい
という傾向があるのでホイールナットにはあまり適しているとは言い難い面があります。
●まとめ
前述した「ホイールナットの精度の違い」が実際に「体感できる違いがあるのか?」という点については
なんとも言えません。 少なくとも多くの市販車では体感できるほどの違いは出ないものと思います。
もし体感できるとしたら、一部のスポーツカー、たとえばサスペンションやナックル、ハブベアリング
の剛性が高く、ブッシュも硬く、走りにシビアな車種だけでしょう。 たとえばフルピロのサスペンション
を組んだスポーツカーやレースカーなどでは差が感じられるのかもしれませんが。
ただ、テーパー座にせよ平面座にせよ球面座にせよ、できるだけ多くの接触面積を稼げたほうが理想的な
のは言うまでもありません。 そのほうがネジの「弛み対策」にも効果的ですので。
もしお金に余裕があるなら「たかがホイールナット、されどホイールナット」ということで、より品質に
こだわった製品を使用してみるのも悪くないかと思います。
そういえば、車高を上げたジムニーではよくステアリングのジャダー(シミー)が問題になることがあり
ますが、この対策品として「ジャダーストップナット」なる製品が売られています。 実際にこれが効果的
なのかどうかは別として、このジャダーストップナットの考え方も今回のホイールナットによる締結剛性を
上げることと同じ理屈で、ナットの座面の接触面積を増やしてタイロッドエンドの「ブレ」を低減してやる
ことでジャダーを抑えてやろうというものです。

↑<参考> 左がジムニーのノーマルのタイロッドエンドナット。 右がジャダーストップナット。
ジャダーストップナットはフランジ形状にして座面積を広げることで締結剛性を上げるという考え方です。