K6Aターボエンジンの新旧2種類の燃焼室形状の違いについて
どちらの形状にも優劣はありますがチューニングベースという意味では旧型のほうが向いています
●K6Aターボエンジンの燃焼室形状には大別して2種類あります。

↑右は、旧規格の時代から使われているシンプルで典型的なペントルーフ型燃焼室。 左は、新規格
の最近になって変更された吸気バルブ周辺をグルっとスキッシュエリアがまわりこんだハート形燃焼室
(ペントルーフ型の変形版)です。
●最大の違いは「スキッシュエリア」の形状

↑スキッシュエリアとは、燃焼室のくぼみの外側に設けられたシリンダーヘッド合わせ面と同一面の
部分で、燃焼室の一部を構成する平坦な部分のことを指します。

↑スキッシュエリアはこのように、ピストンが圧縮上死点にきたときに燃焼室外周にある混合気を
点火プラグ付近に押し出し撹拌し、確実に、かつ急速に点火、燃焼させるのに重要な役割をします。
そのため、このスキッシュエリアの幅、ピストンとの間隙(スキッシュクリアランス)の寸法などは
非常に重要で、エンジンの性能に多大な影響を与えるのです。

↑ピストンが上死点にきたときにスキッシュエリアとで挟まれるクリアランスは狭すぎても広すぎても
燃焼に悪影響を及ぼし、最悪はノッキングを起こします。
良い燃焼室形状と最適なスキッシュエリアをもつ燃焼室では、急速に燃焼し、ノッキングも起きず、
大きなトルクを引き出せますが、悪い燃焼室形状と悪いスキッシュエリア(たとえば無駄に厚すぎる
ヘッドガスケットを入れたりして必要以上に厚いスキッシュクリアランスを作ってしまった場合など)
をもつ燃焼室では、充分なスキッシュ効果が得られず、ノッキングが起きやすかったり、燃焼速度が
遅かったり、燃焼ムラが出たりして燃焼がバラつくというデメリットがあります。とくにチューニング
エンジンでは高回転域でその燃焼室の良し悪しが顕著に現れ、最悪はノッキング発生からピストンの
棚落ちなどのトラブル、エンジンブローにつながることになります。 それほどこのスキッシュエリア
を含む燃焼室形状というのはエンジンのベースポテンシャルやチューニングによるパワーアップ上限を
左右する重要なポイントなのです。
と言うより「燃焼室形状こそエンジンの原点である」と言っても過言ではありません。 どんなに
他の部分に高度なメカニズムを持ったエンジンでも、燃焼室形状の悪いエンジンは絶対に高性能エンジン
にはなり得ません。
●実際のスズキK6Aエンジンの新旧2種類の燃焼室の比較

↑旧規格K6Aのシンプルなペントルーフ型燃焼室。 オーソドックスなストレートのスキッシュエリア
が両サイドに形成されています。これはレーシングエンジンなどでもNA、ターボ問わず多く見られる
形状です。 バルブ挟み角も浅く無駄の少ない形状で、なおかつ表面積が最小限になっているため、
熱の逃げ損失(冷却損失)が少なく、急速燃焼に適しているためノッキングも起きにくく、高速回転型
エンジンやチューニングエンジンに向いている良い形状です。私のJA22のK6Aエンジンもこの形状です。

↑新規格K6Aのハート形ペントルーフ燃焼室。 吸気バルブ周囲がグルっとまわりこんだスキッシュ
エリアをしています。 このため、燃焼室形状が複雑化していて、表面積も増え、吸気バルブ周囲の
マスキングエリアも多くなってしまっているため、およそ高回転、高出力エンジン向きの燃焼室形状
とは言い難いです。 私にはなぜこんな形状にしたのかちょっと理解しかねるというのが正直なところ
ですが、メーカーの狙いとしては火炎伝播速度の遅い吸気側の燃焼室容積を小さくし、排気側との燃焼
の広がりのバランスを取りたかった(燃焼スピードは点火プラグを中心として、温度の高い排気側のほう
が速く、吸気側のほうが遅いため)のかなと考えています。 たしかに燃焼室としてはコンパクトには
なりますが、そのせいで燃焼室の形状が複雑化して、表面積が増えて冷却損失が増えては意味がありま
せんし、後述するインテークバルブのマスキングエリアも大きくなってしまっているのもマイナス要素
となってしまいます。 結果としてスキッシュエリアが広くなりすぎてしまっているのもノッキングの
原因になりかねません。 総じて、あまりチューニング向けの燃焼室形状とは言い難いです。
●どちらの燃焼室形状のほうが優れているのか?
高回転、ハイパワー重視なら旧型のほうが有利、実用域のトルク重視なら新型のほうが有利と言えます。
ですので高回転重視&ハイパワーのチューニングベースとするのならば間違いなく旧型K6Aの燃焼室の
ほうがノッキングが起きにくいためハイパワーチューニングに向いていると言えます。
燃焼室形状で大切なことは大きく分けて2点あります。 ひとつは、できるだけシンプルな形状で、
表面積が少ないこと。 これは、圧縮時に燃焼室内で起きる「混合気の渦」、いわゆるタンブル流や
スワール流、スキッシュによる撹拌流ができるだけ満遍なく、偏りなく全体にムラなく起きるように
したほうが、点火後の燃焼による燃え広がりが急速にかつスムーズになることで、急速燃焼しやすく
パワーが出しやすい上、ノッキングを起こしにくいからです。
さらに、表面積が少ないということは、燃焼室表面から放出、冷却され奪われて熱損失となってしまう
熱量が最小限になるため、熱効率が高くなることで、より、パワーを出すのに有利となるわけです。
ちなみに、この燃焼室表面積と燃焼室容積との比をS/V比(サーフェス/ボリューム比)と呼び、この値
が小さいほど高性能で優秀な燃焼室と言うことができます。
これらの意味では、新規格のハート形燃焼室よりも旧規格のシンプルなペントルーフ型燃焼室のほうが
すべての面で優れているわけです。
新型のハート形の吸気バルブの間にある凸形状は燃焼室の形状を複雑にし、混合気のスムーズな渦の流れ
を阻害しますし、この部分での無駄な表面積の増大は燃焼にとってもネガティブ要因にしかなりません。
つまり、旧規格および新規格前期のK6Aエンジンの燃焼室のほうが、ノッキングを起こしにくく、急速燃焼
しやすく、S/V比も優れるため、高回転&ハイパワーチューニングという観点では向いているのです。
対して、新規格現行のハート形燃焼室は形状がやや複雑で表面積も旧規格の燃焼室よりも多く、S/V比と
してはむしろ悪化しており、スキッシュエリアの形状も悪いためノッキング、とくに高回転、高負荷時に
発生するとピストン棚落ちの原因となる高速ノッキングに対してはやや不利な形状と言わざるを得ません。
もうひとつは、バルブ周りにマスキングエリアをできるだけ作らない形状であることです。 バルブの傘
周囲に充分な隙間、空間がないととくにインテークバルブの開きはじめにおいて、混合気が入るのに抵抗
が大きくなるため、吸気効率が低下してしまうのです。 この意味で両者を比べると、旧規格のシンプルな
ペントルーフ型燃焼室では、2つの吸気バルブの傘の外径部周囲はほぼ3/4は解放されていますので、低い
バルブリフト時から抵抗が少なく吸気できますが、新規格のハート形燃焼室では、見てもわかるように、
吸気バルブ周囲の半周、1/2近くががグルっと燃焼室の高い壁で囲まれてしまっていて、これが邪魔になり
吸気バルブ開きはじめの低バルブリフト時にはかなりの通気抵抗、障害となってしまうので性能上、不利と
なってしまっているのです。

↑このように、右側の旧型燃焼室よりも左側の新型の燃焼室のほうが吸気バルブ周囲を囲む「壁」となる
マスキングエリアの範囲が大きいため、新型のハート型燃焼室ではとくに吸気バルブ開きはじめの吸気抵抗
が大きくなってしまっているわけで、これは性能的には不利と言わざるを得ません。
つまり「チューニングベースとして考えるならば」新規格K6Aのハート形燃焼室よりも、旧規格K6Aの
シンプルなペントルーフ型燃焼室形状のほうがすべての面で(燃焼の面と吸気効率の両面で)圧倒的に
優れたポテンシャルを持っているというわけです。
●ではなぜ新規格K6Aはこんなハート形燃焼室をしているのか?
私もいつからこの燃焼室形状になったのかは知りませんが、その理由は圧縮比を上げるためではないかと
思います。 K6A(ターボ)エンジンの圧縮比はかなり頻繁に変更されてきており、旧規格では8.4:1、
新規格では当初8.6:1でしたがすぐにまた8.4:1になり、最終的にはジムニーだけが8.4:1、その他の横置き
K6Aは8.9:1となっています。 そこで、このハート形燃焼室形状をしているのはこの8.9:1の圧縮比をもつ
K6Aのみではないかと考えたのですが、調べてみるとジムニー(JB23)でも5型か6型以降のシリンダー
ヘッドではやはりこのハート形燃焼室になっているようです。 これは憶測ですが、おそらく生産コストの
関係で、シリンダーヘッドを共通化するためにJB23ジムニーもハート型燃焼室になったのだと思います。
ではなぜジムニーだけが低い圧縮比のままなのかというと、これは推測ではありますが、ジムニーという車
は他の乗用車と違って酷使されることが多く、重量の重さや駆動系の負荷の大きさなどからエンジンにかかる
負担が大きいため、よりノッキングなどに対しての安全マージンを多く取りたいということから、あえて低い
圧縮比のままにしたのではないかと考えられます。
なお、燃焼室の底面を形成するピストントップ(ピストンクラウン部)の形状も同じK6Aエンジンシリーズ
でも今までに何種類も存在します。 K6Aは細かいところでほんとに微妙な変化が見られます。
●以上の理由からハイパワー、高回転チューニングには旧型燃焼室のほうが有利と言えるのです
結局、総合的に見ると、新規格よりも旧規格K6Aエンジンのほうがやはりもともと高回転型ということもあり、
パワーアップチューニングするには適した燃焼室形状をしていると言えます。 これはやはり旧規格K6Aには
競技ベース車の「HB21SアルトワークスR」の存在が大きかったためでしょう。
ワークスRは「改造することを前提とした」車でしたから当然、エンジンも大幅なパワーアップに対応した
ベースポテンシャルを与えられていたわけで、結果として旧規格K6Aは燃焼室形状も高回転でパワーを出し
やすい形状になっているわけです。 ですので、結論としては「チューニングするなら旧型K6Aエンジン
の燃焼室形状のほうが有利である」とハッキリと断言できます。

↑私のK6Aエンジンの燃焼室。 やはりチューニングベースエンジンの燃焼室はオーソドックスなストレート
のスキッシュエリアを両サイドに持つペントルーフ型燃焼室が現段階ではベストだと言えます。 実際、本格的
なレーシングエンジンでもみなこの形状をしていることでもそれは証明されています。 旧規格K6Aエンジンの
燃焼室はバルブ挟み角度も浅く、4バルブのペントルーフ型燃焼室としては理想に近い形状をしています。
●スキッシュエリアを削除する燃焼室加工についての疑問
ちなみに、よくターボチューニングエンジンでは片側、あるいは両側のスキッシュエリアを削り取って
無くしてしまうケースもあるようですが、私はやはりスキッシュエリアは残し、圧縮の最後の最後で
一気に混合気を点火プラグ付近へ押し出し、そこで一気に着火、急速燃焼させるべきだと思います。 実際、
本格的な高性能レーシングターボエンジンの燃焼室を見てもみなスキッシュエリアは両側についていますので。
よく「スキッシュエリアはノッキングの原因になる」などと言っている人がいますが、正しいチューニングが
おこなわれていればそれはあり得ないと私は考えています。
たとえば、単にスキッシュを有効に利用する最適なピストントップとヘッドのクリアランスや、スキッシュエリア
の幅、スキッシュエリアの角をスムーズにつなげるなどの要点を押さえたチューニングができていないだけじゃ
ないのではと思います。 そのへんをよく考察しないで単純に「スキッシュエリアがノッキングの原因だ」みたい
な短絡的な結論を出しているだけなのではないかと。 一例を挙げれば、たとえば圧縮比を落とすために純正より
厚めのヘッドガスケットを入れた結果、スキッシュエリア下部が厚くなり、本来の設計よりも多くの混合気がそこ
に残留した結果、そこを起点にしてノッキングが発生するなどのプロセスによるものです。 つまり、スキッシュ
エリアが悪いのではなく、そのスキッシュエリアを適切に活かす合理的なチューニングができていないだけだと
言うことです。
ピストンが上死点にきたとき、ピストントップとスキッシュエリアで挟まれた隙間は狭すぎず広すぎずの最適な
範囲というのがあります。 狭過ぎればスキッシュ流が強すぎてかえってノッキングの原因になったり、隙間に
カーボン等を挟み込み、最悪はカーボンノックという音を発することがあり、逆に広過ぎればスキッシュの力が
弱まって充分な混合気の撹拌ができなくなるうえ、スキッシュエリア部分に閉じ込められた混合気の量が多くなる
ことでそこに封じ込められた混合気が燃焼圧によって加圧、自然着火しノッキングの原因になる危険性があります。
ですので、スキッシュエリアのクリアランス設定はそのあたりをよく考察しながら燃焼室のチューニングをする
必要があると考えます。私が考えるに最適なスキッシュクリアランスはピストンが上死点時に0.7mmから1.2mm
の間にあると思います。 ですので、シリンダーヘッドやブロックの面研や、ヘッドガスケットの厚みの変更、
またピストンを別のものに交換した際にはこのスキッシュクリアランスが最適値に収まっているかを充分に検討
する必要があるのです。 だから私はターボエンジンで圧縮を落とすために安直に厚いヘッドガスケットを入れて
それでおしまいみたいな考えのないチューニングは嫌いなのです。 それでノッキングが起きて「これはスキッシュ
エリアの存在が悪い」なんて短絡的な答えを出すのはバカもいいところです。 理論的で正しいチューニングが
おこなわれていれば、決してスキッシュエリアの存在そのものがノッキングの直接の原因になることはありません。
●本物の純粋なレーシングエンジンの燃焼室を見るとよく解ります

↑日産のグループCカー、VRH35Zエンジンの燃焼室。 旧規格K6Aエンジンとほぼ同じ形状のシンプルな
ペントルーフ型燃焼室をしています。 スキッシュエリアも両側ともストレートになっています。
4バルブではまさに理想的なペントルーフ型燃焼室です。 このエンジンは予選ではブースト圧2.0kg/cm^2、
最高出力1200馬力、1気筒あたり150PS近くものパワーを出すのですが、こんなハイパワーターボエンジンで
さえ、このように吸気、排気の両側にはちゃんとスキッシュエリアが設けられています。 ですので私には安直
にスキッシュエリアの存在がノッキングの原因だと悪者扱いし、浅はかな考えで削除するというチューニング法
の理由が理解できません。正直、そういう思考のチューナーはただ頭が悪いだけなんじゃないかとさえ思います。
きちんとスキッシュ部分の面積、形状およびピストントップとのクリアランスを考察、設定し、むしろ積極的に
スキッシュエリア有効に活かせるようチューニングするのが正しい燃焼室チューニングではないかと考えます。
●理想的なピストンヘッドの形状
それと、あと見落としがちなこととして、燃焼室の底面を構成するピストンヘッド(ピストントップ、ピストン
クラウン部)の形状も重要です。 理想は完全なフラットトップか、あるいは若干の皿型に浅いおわん状のくぼみ
をつけたシンプルなものが混合気の撹拌やアンチノック性が高いため理想です(ただし、高圧縮のNAエンジン
では圧縮比を稼ぐためそうも言ってられないので、中央部が盛り上がって凸状になっていることが多いです。これ
は燃焼室形状やS/V比では不利なのですが、目標としている圧縮比を得るためには致し方ないところでしょう)。
あと、バルブリセス(バルブの傘の逃げ)も無いほうが理想です。 バルブリセスがあるとそこに応力が集中し
クラックの発生、ピストン棚落ちなど、ピストントップランドの強度を低下させますし、燃焼室空間の形状の
複雑化、S/V比の悪化など、なにひとつ良いことはありませんので。 どうしてもバルブリセスを刻む場合は
可能な限りピストン強度を落とさないようできるだけ浅く、かつ隅Rを大きくとって悪影響が最小限になるよう
にする努力をする必要があります。 実際のレーシングエンジン設計ではバルブリセスをできるだけ浅くする
ために、バルブオーバーラップ中のバルブリフト量を減らすなどの工夫をすることさえあるくらいなのです。
それくらいバルブリセスというのは百害あって一利なしの「害悪な存在」なのです。

↑私の旧規格K6Aエンジンの純正ピストントップ形状。 滑らかなおわん状の浅いくぼみをもち、バルブリセス
もまったくないスムーズな形状で、ターボエンジン用のピストンヘッド形状としては理想に近いものとなってい
ます。 このおかげでノッキングも起きにくくパワーが出しやすい本当に良い形状をしています。

↑これはモンスタースポーツのK6A用鍛造ピストンの頭部。 基本形状は良いのですが、バルブリセスが刻んで
あるのが残念なところ。 ピストンの棚落ちはこういう切り欠きに応力が集中して発生するので、できれば
バルブリセスは入れて欲しくなかったですね。 K6Aエンジンは純正ピストンでリセス刻んでないのですから、
よほどのハイカムを使わない限りはリセス必要ないはずなんですが。 現にワークスR純正の鍛造ピストンには
バルブリセスはありませんからね。 いくら鍛造とは言えトップランドの強度を高く保つためにはバルブリセス
はないほうが絶対に良いのです。

↑こっちは過去にスズキスポーツが出していたK6A用鍛造ピストン。 基本的にはHB21SアルトワークスR純正
ピストンと同等のものだと思いますが、上記モンスターのものとは違い、無用なバルブリセスがないシンプルな
ピストントップ(ピストンクラウン部)の形状をしていてノッキングにも強そうな形状となっています。個人的
には上記モンスターのものよりもこっちのピストンのほうが優れているのではないかと思います。
<注記> 今回取り上げた例は基本的にターボ付きのK6Aエンジン(直噴のDIターボは除く)についてです。
NA(自然吸気)のほうは私はよく知りませんし、そもそもNAのK6Aエンジンには私はあまり興味がないので。
<おまけ> 5バルブ燃焼室と放射状バルブ燃焼室について
●5バルブ(吸気3バルブ、排気2バルブ)燃焼室
1980年代後半から1990年代にかけて国産、外車問わず5バルブエンジンというのが流行りました。 市販車
だけではなく、F1でもフェラーリやヤマハが採用してました。 もちろん、その一番の目的はより吸気バルブ
の面積を稼ぐということにあるわけですが、一方で燃焼室の形状はあまりコンパクトにはできず、燃焼効率と
いう点ではほとんどメリットはありませんでした。 また、その主な目的であった吸気抵抗の低減についても、
3つある吸気ポートが均等に吸気せず、真ん中のポートの吸気が悪化してしまうことから、トータルで見て
エンジニアが狙ったような性能は出せず、結局、どのメーカーも「5バルブを試行錯誤するよりもまず4バルブ
を極めることのほうが良策である」と考えたのでしょう、現在ではすっかり下火となりました。とくにヤマハ
は多バルブ化の研究に熱心だったようで、最多で吸気4、排気3の「7バルブ」エンジンまで試作したようです。

↑これはトヨタ4A-GEの5バルブ燃焼室。 フェラーリなどはこの5バルブを放射状に配置するなど凝った
メカニズムを採用してましたが、結局のところ、4バルブに対しての目立った優位性はありませんでした。

↑これは三菱の3G83エンジンの5バルブ仕様。ミニカのダンガンなどに搭載されていました。 これの前身
である550cc時代の3G81エンジンが世界初の量産5バルブエンジンだったのです。

↑90年代初頭にHKSが設計、開発していた試作F1用エンジン「300E」。 これも吸気3、排気2の5バルブ
燃焼室を採用していました。 もちろん実戦には使われませんでしたが、この時代はスズキやいすゞもF1用
エンジンを開発していたまさに「F1エンジン開発ブーム」でした。 ちなみに3.5リッターのV型12気筒です。
●放射状4バルブ配置燃焼室
ホンダが昔から単気筒のバイクに採用している放射バルブ配置。 一番の目的は、燃焼室のS/V比向上のため、
半球形燃焼室とすることができるというもの(同じ体積なら球体がもっとも表面積が小さいという理屈)です。
ですが、一方でポートの配置から燃焼室に吸入される吸気の角度があまり理想的ではなく、燃焼室内での混合気
の渦のでき方に問題もあることから、高回転、高出力という見方からするとあまり理想的とは言えない部分も
あります。

↑ホンダの放射状4バルブ配置燃焼室。 燃焼空間としては理想に近いのかもしれませんが、こと吸排気という
点からするとストレートフローとはならないため、やや吸気、排気の抵抗が大きいというデメリットがあります。
●現時点で考えられる理想的な燃焼室とは
結局、燃焼室の形状とバルブ配置というのは、吸排気効率面と、燃焼効率面のどちらか一方だけを見ていたの
ではダメで、互いを両立しようとすると発生するジレンマをいかにバランスさせるかということが重要なの
だろうと思います。 現在、そのもっともバランスの良いのがオーソドックスな4バルブ、垂直センタープラグ
配置のペントルーフ型燃焼室なのだと言うことができます。 シンプルイズベストということでしょう。
また、吸気バルブと排気バルブが成すバルブ挟み角も昭和の時代のDOHCエンジンでは30度以上と大きいものが
多かったですが、ここ20年ほどのエンジンはこのバルブ挟み角がだんだん狭くなっており、これに伴って燃焼室
もコンパクトになり、急速燃焼に適した燃焼室形状になりました。 このことはシリンダーヘッドの幅も昔の
DOHCエンジンに比べて現在のDOHCエンジンのほうが狭くなったことからもよくわかります。

↑あくまで現時点での話ですが、吸入混合気のシリンダー内での撹拌および渦のでき方、および良好な燃焼を
考えた場合の最適と思われるバルブ挟み角はだいたい24度から28度の間になるのではないかと個人的には
考えます。 それと同時に吸気ポートの角度もより立つ方向になって、いわゆる「ハイポート化」もエンジン
性能に大きな影響を与えていると言えます。 とにかく、燃焼室形状は高性能エンジンの「要」です。
