ジムニーでのフロントネガティブキャンバー化について
走り方によってはかなり有効だと思われますが、安全上、製品品質には注意が必要です。
●最近、ジムニーでもフロントにネガティブキャンバー、つまり前から見た時にタイヤが「ハの字」
になるように角度をオフセットさせた「偏芯キングピン」が有名、無名、個人、業者いろんなところ
から販売されはじめているのを目にするようになりました。 ただ、使用するにあたって問題のある
製品もあり、また、ネガティブキャンバーをつけるメリット、デメリットについて充分に理解されて
いない方も多いと思いますので、今回はそのへんについてつっこんで書きたいと思います。

↑参考までに私のJA22で2.5°のネガティブキャンバーをつけたときの「イメージ写真」。 これは
あくまでもイメージでPhotoshopで写真加工して制作したものですので、現実にはおこなっていません。
●ネガティブキャンバーによる目的と効果
いわゆるマイナスキャンバー、ネガキャンにすることによって得られる効果はいくつかありますが、まず
は「アンダーステアを減少させる」ということにあります。 フロントタイヤにネガティブキャンバーを
つけることで、コーナリング時にロールしたり、タイヤのサイドウォールがたわんだときに路面に対して
対地キャンバーを立てることで、よりトレッド面積を多く接地させることができるので、フロントタイヤ
のグリップ力が上がり、結果としてフロントの滑りを抑える=アンダーステアを減らすことができると
いう理屈です。 さらに、このことはステアリングの切りはじめのレスポンスも向上することから、
コーナリングでのターンイン、つまりカーブの曲がりはじめの切り込みが良くなる効果もあります。
あと、もうひとつはネガティブキャンバーにすることでタイヤ上部がフェンダー内側に入りますので、
これを逆に利用してギリギリまでタイヤをボディ外側まで出して、実質的なトレッド寸法を広げることが
できるため、ワイドトレッド化したのと同等の効果が得られるので、これもアンダーステアの減少および
コーナリング時のフロントの安定性の向上に寄与することになります。 とくにジムニーのようなフロント
エンジン車はフロントマスが重いためコーナリング時にフロントに働く横方向への慣性力が大きいので、
アンダーステアを抑制する効果が大きいです。これは軽ジムニーよりも重量の重いエンジンを積んでいる
フロントヘビーな1300ccのジムニーシエラならよりハンドリングに与える影響が大きく効果的でしょう。

↑このように、仮に外径690mmの標準タイヤで2.5度のネガティブキャンバーをつけると、それだけで
タイヤのトレッド中心が片側15mm外側になりますので、両側で30mmワイドトレッド化したのとほぼ
同等の効果が得られます。 さらに、このことは同時にタイヤの上部は逆にフェンダー内側に15mmほど
内側に入りますのでこれをさらに利用して、たとえばロングハブボルト+10mmホイールスペーサーを
使えばさらに10mm外側にトレッド接地面を出すことができ、さらに10mmフェンダーモールを使って
車体幅を広げ、そのぶんさらに10mm厚い20mm厚のワイドトレッドスペーサーを使う(あるいは、
マイナスオフセットのホイールを使う)ことで、合法的な範囲内で最大で有効トレッドをなんと純正比
約70mmまで拡大することが可能となる計算になるわけです。
これだけトレッドが広がると相当なコーナリングでの安定性向上のメリットに繋がることと思います。
もちろん、トレッドを広げずにそのぶん幅の広いタイヤを履くというグリップ力向上手段もアリです。
●ネガティブキャンバー化によるタイヤはみ出しの法律上の限度はどこまでなのか?

↑法規上ではタイヤ上部の上図の赤い範囲さえフェンダーより出てなければOKという解釈なので、
ネガティブキャンバーをつけてタイヤ下部が車体幅より出っ張っていても車検は問題ありません。
なので、どうせネガキャンにするならめいっぱいトレッドを広げたほうが有利になるのです。
たとえば、JA22の場合で言えば-2度以上のキャンバーをつけ、さらに10mmフェンダーモールを
つけた場合、純正のオフセット+25のホイールからオフセット0のホイールにしても上図の範囲で
あればタイヤがフェンダーからはみ出さないため、車検でも大丈夫な計算になるわけです。
●実際のジムニーのアクスルホーシング構造図から見るネガティブキャンバー化の方法

↑これはジムニーのフロントホーシングの断面図ですが、ジムニーは4輪駆動ですので、中心にドライブ
シャフトとCVジョイントが貫通していますので、キングピンが上下に分離する構造になっています。
なので、ネガティブキャンバーにするためにはこの上下のキングピン軸の角度および軸を偏心させること
でおこないます。 現在、各社から出ている製品はどれもみなこの方法でおこなっています。 ちなみに
この構造は過去のJA71やJA11から私のJA22、現行のJB23まで基本的に同じなので互換性はあります。

↑このようにキングピンベアリングの嵌まる軸を偏心、偏角させることでキャンバー角をつけるように
なっているのです。言ってみれば「偏芯キングピン」ですね。
●ただ、品質(精度、材質)が粗悪で危険な製品も多いので注意!
上の写真で挙げた製品はクロモリSCM435素材から削り出し、HRc40程度の硬さで焼き入れ、焼き戻し
熱処理をおこない、引っ張り強度で100kgf/mm^2相当の強度を持たせることで十分に安全性を考えて
ある製品ですが、安価な商品の中には純正のキングピンを加工し、適当な市販のピンを圧入、溶接した
だけの粗悪な製品も多く見受けられますので、あまり安価な製品は安全上問題があると思いますので、
しっかりとした信頼できるショップの製品を選ぶようにしてください。 最悪、公道走行中にキングピン
が折れるなんていう事態になったら大事故に繋がりかねないことになりますので。 たとえば、市販の
ダウエルピン(ノックピン)を使用した製品などはSK材でHRc60以上の硬さのものもあり、これだけ
硬いと靭性がなく脆くなってかえって折れやすくなるので危険です。 逆に、充分に熱処理がされて
いないピンを使用した製品では逆に摩耗や変形、最悪は破断、折損するなどのリスクが伴います。
また、加工品質、精度の面でも粗悪な製品ではただピンを偏心させただけで、ベアリングのスラスト面
の当たり面の角度まできちんと加工していない実にいい加減な製品もあり、こうした粗悪製品を使うと
キングピンベアリングが片当たりしてしまいキングピンベアリングもすぐにダメになってしまいます。
様々な業者が同じような製品をリリースしていますが、キャンバーキングピンは見た目こそ似ていても
どれも同じではなく品質はピンキリですので、強度、精度にこだわって製作されている確かな製品を
購入しましょう。安全に関わる重要な部品ですので慎重に選ぶことが大切です。 この点については
詳しくは実際に販売されている商品を検証しながら後述します。

↑ジムニーの純正のキングピン。ベアリングの嵌まるもっとも細い軸がセンターにあることがわかります。

↑ネガティブキャンバー用社外オフセットキングピン。 こちらはベアリングの嵌まるもっとも細い軸が
センターからオフセットしていることが解ります。これによってキングピン傾斜角をずらし、結果として
マイナスキャンバーをつけるわけです。(もちろん、逆方向につければポジティブキャンバーも可能)
●具体的に市販されているキャンバーキングピンの良否を見分けるポイント
1)良い製品の例

↑このように、キャンバー角に合致するようにキングピンベアリングのはまるキングピン軸と、ベアリング
のスラスト面が傾けて加工されているものがベストです。 これであればキングピンベアリングに無理な
力がかからないのでキングピンベアリングの損傷の心配もなく、寿命にも問題は出にくいでしょう。
あとは、素材や熱処理が適切なものが使われていて、強度的に充分なものかどうかが気になるところです。
2)悪い製品の例 その1

↑これはジムニー界ではかなり有名なショップの製品ですが、とにかく手抜き加工が酷いです。 上の
良い製品例と比べればわかりますが、キャンバー角をつけるとベアリングが傾くのに軸もスラスト面も
まったく傾けられていません。 かろうじてキングピンにテーパーをつけることで力を逃がしていますが
これではキングピンとベアリングがガタガタになります。 スラスト面も均一に押さえ付けられないため
キングピンベアリングへ無理な力がかかり続けますので、ベアリングの損傷、寿命の低下に繋がります。
仮にも有名ショップなのですから、きちんと真面目に設計製作して手抜きしないでいただきたいです。
3)悪い製品の例 その2

↑これはもう最悪ですね。 角度などまったく無視してただキングピン軸を平行にずらして偏芯させた
だけという、もはや手抜きを超えた呆れた製品です。 これではキングピンベアリングは片当たりした
ままとなりますので、これもベアリングの損傷、短寿命になります。おそらくこれは純正のキングピン
を追加加工してピン部を入れ替えて製作したものだと思われます。ですので、このベアリングがはまる
ピンも充分な強度があるのか怪しいかぎりです。 私が見た中でも最低の製品です。
以上のように、市販されているジムニー用ネガティブキャンバーキングピンには「真面目に設計製作された
良い製品」と「コストダウンのために手抜き加工された悪い製品」が混在しています。 しかも、タチが
悪いのは有名ショップの製品で粗悪なものがあるのです。 ですので、購入を検討されている方は「有名
ショップ製だから大丈夫だろう」とは考えずに、きちんと現物を見極めることが大切です。 なお、価格
だけではこれはわかりません。 現時点ではだいたいどの製品も似たり寄ったりの価格で販売されている
ので、「高いから安心、安いから危険というのが通用しない」のが現状なのです。 さらに材質や熱処理
つまり、製品の強度も見た目ではわかりませんので、このへんのことがちゃんと公開、説明されている製品
でないと安心できません。現時点では「強度計算書」や「破壊試験成績書」などを添付、公開している製品
もありませんし。 そう考えるとどこの製品を選べばいいのか素人には難しいパーツと言えます。
まずは最低限「ピンとスラスト面にきちんと適切な角度がついている製品」を選ぶことでしょうか。
●オフセットキングピン使用上の注意点
「必ず上下セットで使用する」ことが大切です。 業者の中には上下のどちらかだけでもOKと書いている
ところもありますが、それだと上下のベアリングの当たりに無理が生じるためベアリングが早く傷んで寿命
が縮まったりするとともに、上下キングピン軸を通るCVジョイントの屈曲中心もずれてしまうため、
とくに四駆走行時にステアリングを切ったときにCVジョイントに無理がかかって異音が出たり、最悪は
ジョイントにガタが出たり、損傷してしまう危険性があります。
ですので、もしこのネガティブキャンバーキングピンを使うときは上下セット、つまり4個とも同じ製品
に交換することが理想です。

↑とあるショップのJB23ジムニーに偏芯キングピンを上下に組んでネガティブキャンバーをつけた時
の実際の写真。 この製品はだいたい-2度から-2.5度くらいのマイナスキャンバーだと思われます。
●ネガティブキャンバー化による「デメリット」
当然ですが、こういったチューニングパーツ、セッティングパーツには良い効果、つまりメリットと
同時にデメリットもあることは頭に入れておく必要があります。
まずは、角度にもよりますが、キャンバー角が2度を超えるとどうしてもタイヤの偏摩耗は避けられま
せん。 たしかに腕のいいチューナーならホイールアライメント調整でその悪影響を最小限にする技術を
持っていますが、それでもせいぜい-2度くらいが限度でしょう。 ですので、タイヤが片減りすること
は覚悟が必要です。 次に、直進安定性の低下もデメリットとして出てきます。ネガティブキャンバー
の角度を大きくすると、どうしても路面のわだちにタイヤを取られやすくなり、また、キックバックも
強めになりますので、直進路での安定性は悪化します。 また、車高を上げたジムニーの持病でもある
ハンドルシミーやジャダーが発生しやすくなる、またはそれらが増幅されることも考えられます。
さらに、あまりネガティブキャンバーの角度をつけすぎると、直進時にタイヤの接地面積(接地面圧)
が少なくなる(不均一になる)ため、ブレーキング時のグリップ力が低下し、とくにオンロードで
なおかつウェット路面でのブレーキ性能(制動能力)が大きく落ちてしまう危険性があります。
最後は、キングピンベアリングとハブベアリングへの負担の増大です。ネガティブキャンバーを強くする
と常にキングピンベアリングやハブベアリングには斜め方向への力、それも不均等な力(ストレス)が
かかり続けますので、これら各ベアリングの寿命は短くなると思った方がいいです。
また、このネガティブキャンバーを強くすることによりタイヤの転がり抵抗が増えますので、これは
即ちハブベアリング(ホイールベアリング)への回転抵抗が増えることも意味しますので、走行抵抗の
増加により、僅かとは言え、燃費の悪化、最高速度の低下を招くことにもなりますのでご留意ください。
さらに言えば、タイヤ下半分があまり車体からはみ出ると、これも高速走行ではけっこうな空気抵抗に
なりますので、やはり最高速度の低下や燃費の悪化などのデメリットを生むことになります。
●以上がジムニー用「ネガティブキャンバーキングピン」を使用する上での主だった留意点です。基本的
にこれは競技専用部品として考え、街乗り主体で乗るジムニーには不要なものです。 現に、私のJA22には
使うつもりはありません。 なにしろ私のジムニーは「高速直線メイン」ですから、ネガティブキャンバー
なんかつけたら直進安定性の悪化と、走行抵抗の増加によって最高速が落ちてしまいますからデメリット
しかありませんからね。 私のチューニング目的にはまったく合わないパーツなのです。 このパーツは
「コーナリング性能を少しでも上げたい」という人向けのパーツであることは十分に理解しておく
必要があります。 ただ「カッコだけ」でつけてもデメリットばかりでメリットなど何もありません。
<車検について>
このキングピンは「操舵装置」に関する重要部品になりますので、厳密に言えばきちんとした強度計算書が
ないと車検ではNGになるはずです。 ただ、見た目でバレなければ実際は…通ってしまうと思いますが。
<参考> 当時私が製作していたR32スカイライン用キャンバーアジャスタブルアッパーリンク

↑なにしろもう20年以上前のものなので良い写真が残ってないので申し訳ないのですが、当時、とある
チューニングショップと共同で開発、設計製作していたキャンバー角を無段階調整できるR32スカイライン
のフロントマルチリンクサスペンション用アッパーリンク(アッパーアーム)です。 これで最大4度ほど
のネガティブキャンバーまで細かい調整が可能でした。 この他にもZ32用なども製作していましたね。
開発当初は必要強度と軽量化とのバランスをとるのが難しく、幾度となく試行錯誤したのを覚えています。
実際、私自身も当時、R32 GT-Rでこの調整式アッパーリンクでキャンバー角を弄って一般道、最高速、
サーキットなどでいろいろ試しました。で、結論としては一般道、高速道路ではせいぜい-1.5度〜-2度
までですね。 それ以上のネガキャン角度はサーキット専用セッティングだと考えたほうがいいです。
<おまけ>「フロントのネガティブキャンバー」と言えばやっぱりグループA仕様のR32 GT-R!

↑グループAレース仕様のR32GT-R。 私の世代では「フロントにネガティブキャンバー」と言えば
やはりこのGT-Rが強く印象に残っています。 実際、このGr.AマシンのR32 GT-Rの初期の頃は自重
255kgと重いRB26DETTエンジンをフロントに積んでいたことと、アテーサE-TSによるフロントトルク
によってほんとに強烈なアンダーステアに悩まされ、かといってフロントのダウンフォースを増加させる
空力パーツが変更できないレギュレーションの中で、なんとかアンダーステアを抑え込もうと、見ての
ように強烈なネガティブキャンバー(約4度)とエアボリュームを増した大径タイヤなど様々な対策を
してやっとマトモに走れるようになったという経緯があります。 これだけタイヤが出っ張ると相当な
空気抵抗になりますが、そんなこと構ってられないくらいアンダーステア対策に苦労していたわけです。
しかし、これだけ空力的に不利であっても富士(当時のFISCO)のストレートでは余裕で300km/h以上
出してたわけですから、いかにエンジンパワーにモノを言わせていたかがわかります。 今も伝説的な
速さとして語られるグループAの常勝マシン、R32 GT-Rも決してはじめから盤石なマシンだったわけ
ではなかったのです。

グループAからJGTC、現在のSuper GTと変化してきたツーリングカーレースですが、やはり私の世代では
この「市販車をベースにし市販車の外観のまま、それでいて中身は現在のSuper GTなんかよりはるかに
モンスターなエンジンを積んでいた」グループAマシンこそまさに「羊の皮を被った狼」というイメージで
しかもそのチューニング技術には市販のチューニングカーにも通ずるものが多くあって印象深いですね。
ジムニーの話から脱線して申し訳ありませんが、当時グループA全盛の世代の私にとってはこのBNR32型
スカイラインGT-Rというのはやはり特別なクルマなんです。 なにしろ「全てがグループAレースで勝利
するために作られたマシン」ですからね。 R32 GT-Rはその生まれからして別格な車なのです。