(番外編)シリンダー配列とエンジンの振動、クランクのバランスについて

考えてみれば日本の軽自動車は直3エンジンのパイオニアです


●軽自動車のエンジンのシリンダー配列というと、現状では圧倒的に直列3気筒が多いです。

もちろん直列2気筒、4気筒というのもありますが、エンジンのコスト、サイズ、振動など

から総合的に考えて3気筒がバランスがよくメリットが大きいからです。 一般的には同じ

総排気量なら1気筒あたりの排気量が大きい(=シリンダー数が少ない)ほど低速トルクは出し

やすくなる反面、高回転は苦手となり、逆に1気筒あたりの排気量が小さい(=シリンダー数

が多い)ほど低速トルクは細くなるが高回転でパワーを出しやすい、という傾向になります。

そういうことから、軽自動車の660ccではそのバランスポイントとして3気筒が多いのです。

(ただ、今後はより「省スペース、低フリクションロス、低コスト」を重視していけばまた

360cc時代や550cc時代のように直列2気筒エンジンが復権してくる可能性はあります)

そこで、今回は軽自動車以外も含めて様々なシリンダー形式のクランク振動の特徴などを考え

てみたいと思います。

とはいえ、本来はいろんな数式を用いて説明する必要があるのでしょうが、ここではそういう

のではなくあくまで「感覚的にわかりやすく」書いていきます。 数学的な説明を知りたい方は

このページでも紹介している書籍などにも載っていますのでそういったものを参照してください。

実のところこれは難しく、私自身も充分には理解できていないところもありますので。

 

まず、「エンジン本体として理想」なのはなんといっても直列6気筒です。 よく直6エンジン

は「完全バランス」と言われますが、何がどう「完全」なのか考えてみたいと思います。

エンジンのアンバランスに起因する振動には大きく分けて「慣性力」と「偶力」があり、それぞれ

1次振動、2次振動などがありますが、現実に問題になるのは2次振動までです。 それ以上の高次

のモードの振動もありますが高次になるにつれ加振力は急激に弱くなるため、問題になるのは2次

までなのです。

 

●慣性力振動

この慣性力はピストンの上下動に伴う慣性力と、コンロッドの揺動による慣性力、そして

クランクシャフトのピンおよびカウンターウエイトによる各慣性力のアンバランスによって生じる

振動モードです。 これは主に縦方向(Y軸方向)と横方向(X軸方向)に発生します。

たとえば、直4エンジンではエンジンを前方から見たときに縦方向への2次振動が発生しますが、

これがなぜ発生するかというと、「ピストンスピードの変化が正弦波運動をしないから」です。

要するにピストンが上死点から下死点に向かう際、逆に下死点から上死点に向かう際のスピードと

いうのはキッチリ中心、つまりクランクシャフトが90度位置(横方向)に来たときに最大には

ならずに、少しずれた位置で最大速度になることに起因します。

 

↑長谷川浩之著「HKS流エンジンチューニング法」よりピストンスピードの変化の例。

このようにピストンの速度は綺麗なサインカーブを描かず、最大速度点もストローク中間ではあり

ません。 このため直4エンジンでは上死点から下死点に向かうシリンダーと、下死点から上死点

に向かうシリンダーとではその加速度差から左右方向に働く慣性力に差が生じてしまうため、これが

元で振動が発生してしまうのです。 これはクランク1回転で2回発生しますので「2次振動」と

呼ばれます。 そのため直4ではクランクピンが左右方向にきた際に振動が発生します。

これはコンロッドが揺動運動をするためですが、この振動を少しでも減らしたければコンロッド長

を長くすることが有効ですが、それはエンジン寸法および重量を大きくしてしまうことに繋がるので

そういった手法での対策には限度があります。 なので、とくに振動に気を遣う設計のエンジンでは

クランクシャフトの倍のスピードで回転する「2次バランスシャフト(2次バランサー)」をつけて

V8エンジン(クロスプレーンクランクのV8)なみの滑らかさにしているものも多いです。

ちなみにスバル車に多い水平対向(ボクサー)の4気筒では対向するピストンが同時に上死点または

下死点に向かうため、直4エンジンとは異なり慣性力振動が結果キャンセルされゼロとなります。

 

●偶力振動

これは、エンジンを真上あるいは真横から見たときにエンジン本体の中心を軸として「エンジン本体

を回転させようとする力」で、スリコギ運動のような振動です。

これはクランクシャフト自体で発生するエンジンと、ピストンやコンロッドの質量が合わさって

生じる場合があります。 

これも、直4エンジンで考えてみましょう。 直4エンジンでは通常180度クランクですので

1,4番、2,3番シリンダーが互いに逆位相なのでエンジンを真上および真横の中心から見たところ

では完全に左右(前後と言ったほうがわかりやすいでしょうか)のバランスが取れていますので

この偶力振動は発生しない、つまりゼロなのです。

ところが、直3、V6、V8クロスプレーン、水平対向4、水平対向6などのエンジンではクランク

長さ方向を中心としてエンジンを回転させようとするこの偶力振動が必然的に発生するのです。

直3やV6、クロスプレーンのV8は先頭のシリンダーと後端のシリンダーそれぞれのカウンター

ウェイトの質量を相殺する質量部分がないのでクランクが「暴れる」ためであり、水平対向は

一見すると偶力は発生しないように見えますが、左右バンクのオフセットがあるため、やはり

エンジンを上から見たときに回そうとする力、つまり偶力振動が発生するのです。 なお、これは

クランクの1回転ごとに発生するので1次振動となります。

たまに「ポルシェなどのフラット6も完全バランスだ」と言う方もいますが、水平対向エンジン

は前述したように左右シリンダーバンクがオフセットされていますので、そのせいでこの偶力振動

が微妙ながら発生しますので、水平対向エンジンは厳密に言うと完全バランスとはなりません。

 

●では、この「慣性力」振動も「偶力」振動も発生しないエンジンとは? …これがまさに直列6気筒

エンジンなのです。

↑林義正著「乗用車用ガソリンエンジン入門」より各シリンダー形式別の慣性力、偶力バランス。

これを見ても直6エンジンがいかに完璧なバランスエンジンであるかがよくわかります。 見ての

ように直6エンジンは慣性力、偶力ともに綺麗に「ゼロ」であり、文字通り「完全バランス」です。

直6(ストレート6、インライン6とも言う)というのはエンジンとしてみれば「理論的には」まさ

に完璧なバランスなのです。

ちなみに60度V12、120度V12、180度V12エンジンなどは、考え方としてはこの完全バランス

の直6エンジンを2つ組み合わせた形式となりますので、基本的な素性は完全バランスに近いのです

が、すごく厳密に言えば若干シリンダーオフセットがあるため僅かな偶力振動はあるので100%完璧

な完全バランスとは言えないのですが、現実には無視できる範囲なので「ほぼ」完全バランスと

言っていいでしょう。

 

●V型8気筒エンジンのクランクシャフトとシリンダー配列の関係

高級車などによく採用されるV8(バンク角90°)レイアウトですが、これは単にシリンダー配列

だけではその素性は決まらず、クランクシャフトのタイプによって大きく変わってきます。

V8エンジンのクランクシャフトには見た目が直4エンジンと同じ「シングルプレーンタイプ」と

正面から見たときにクランクピンが十字に配置される「クロスプレーンタイプ」があります。

細かいことは省略しますが、エンジンの性能だけから言えばシングルプレーンクランクのほうが

圧倒的に有利です。 これは、片側バンクでの排気間隔が直4と同じ完全に180°の等間隔なので

等長エキマニの効果と組み合わせることで排気効率を最大限に高めることができるためです。

(等長エキゾーストマニホールドの原理、効果についてはこちらのページを参照ください)

それに対してクロスプレーンのほうは点火順序はいくつかパターンはありますが、いずれの場合も

片バンクでの排気間隔がバラバラで、とくに90°間隔のところでは2つのシリンダーから出た排気

ガスが干渉する、つまりガスがぶつかりあうため排圧が上がってしまい、排気抵抗が大きくなって

パワー、トルクを出すのに不利となります。 このことは当然排気音にも現れて、シングルプレーン

クランクのV8は等長エキゾーストマニホールドと組み合わせることで整った綺麗な音を出すことが

できますが、クロスプレーンクランクでは片バンクで等間隔で排気されないためどうしても排気干渉

がおこり「ドロドロ」「ドコドコ」した音質になってしまいます。

しかし、市販車のV8エンジンはフェラーリを除きほぼすべてがクロスプレーンクランクとなってい

ます。 その理由は「慣性力振動がない」ためです。 シングルプレーンクランクは直4と同様の理由

で慣性力振動が発生しますが、クロスプレーンクランクはそれぞれのシリンダーがお互いの慣性力を

打ち消し合うため、慣性力振動が発生しないのです。そのため、とくに振動を少なくすることが求め

られる高級車にはクロスプレーンクランクのV8が採用されるのです。

逆に、フェラーリのように「とにかくエンジン性能最優先」という設計思想の車はシングルプレーンを

採用することになります。 だからフェラーリのV8はパワーもさることながら他のV8と違って高回転

であれだけ「いい音」を奏でることができるのです。 あの音はクロスプレーンのV8では絶対に出す

ことはできません。 やはりエンジン技術者の本音としてはシングルプレーンを使いたいでしょうね。

↑シングルプレーン、ダブル(クロス)プレーンクランクV8のそれぞれの長所と短所です。

これは私の個人的な思いなのですが、現行BMWのM3はV8ですが、これがクロスプレーンである

ことが残念でなりません。 M5なら車格から考えても振動の少ないクロスプレーンでもわかるの

ですが、もっともスポーツ性が求められるM3にはぜひシングルプレーンを採用してほしかった。

そうすれば排ガス規制をクリアーしながら4リッターV8ならNAで500馬力くらい楽に出せるはず

だし、高回転まで回したときの音質も今よりもっとクリアーな綺麗な音にできるはず。 BMWが

「エンジン屋」であるならば、クロスプレーンなんかに逃げずに「我々はシングルプレーンでも

これだけ振動の少ないエンジンが作れるんだ」という技術力を見せてもらいたいと思うのです。


●さて、本題の直3エンジンについてですが、上記でもありますように直3エンジンは単純に直6を

半分にしたエンジンですので、クランクシャフトの振動特性の基本には直6のエッセンスを持って

います。 ですので、「慣性力」については上図のように「0」でバランスが取れていますが、

エンジン前後を振り回そうとする「偶力」についてはアンバランスが残り、ここで1次モードの

振動が発生します。 これは直3クランクはピン配置が120度ごとなので、1番シリンダーと3番

シリンダーのウェイトを相殺する質量が存在しないためクランクが「暴れる」ためです。

これを消すためには上記の直4エンジンでも触れたようにバランスシャフトをつけることで振動を

消すことはできます。これはV6のエンジンでも同じです。 ただしこれは1次振動なので直4の

ようにクランクの倍速で回す必要はなく、等速で回せば事足ります。

 

ただ、私はこの「バランスシャフト」というのは大、大、大っ嫌いです。 性能的に何の役にも

立たないくせに無駄な重量とフリクションロスを増やすだけの存在が我慢できないのです。

それが直2にせよ、直3にせよ、直4にせよバランスシャフトのついたエンジンは生理的に好きに

なれません。 それならばまだ「シンプルイズベスト」の考えの元、多少振動が多くてもそれは

そのシリンダー形式の宿命として受け入れたほうがスッキリします。

そういう意味では日本の軽自動車の3気筒エンジンというのは本当によくできていると感心する

のです。 たとえばスズキのF6AやK6A、最新のR06Aでもバランスシャフトに頼ることなく、

振動をうまく抑え込んでいると感じますので。 もちろん、私も過去にRB26にも乗っていました

ので、こうした直6エンジンと比べれば明らかに滑らかさでは劣りますが、それでも出来の悪い

直4エンジンなどよりF6AやK6Aのほうがずっと滑らかに感じます。

 

たとえば、私は過去にSR20エンジン(ターボもNAも)も乗っていましたが、このSRというエンジン

は私に言わせれば「日産史上最低のエンジン」と言ってもいいくらいに酷いものでした。とにかく

振動が大きいのです。 3000rpm付近の共振とも思える振動は最悪でした。 これにくらべれば

スズキの3気筒エンジンのほうがずっと振動が少ないと感じるくらいですので。

この理由はシリンダーブロックの構造の違いによるものだと考えています。 SR20は日産では初の

アルミシリンダーブロック、K6Aもスズキ軽初のアルミブロックですが、その構造はまるっきり違い、

SRはそれまでの鋳鉄ディープスカート形式のブロックをそのままアルミにしただけなので、総合的

にスカート部およびクランクのベアリングキャップ周りの剛性が不足し、そのために振動が多く発生

したのだと考えます。

それに対してK6Aはアルミシリンダー化にあたって構造をまるっきり変えて、それまでのディープ

スカート形状からハーフスカートでなおかつラダービームロアケースというレーシングエンジンの

設計手法を用いてきたのです。このへんはやはりオートバイエンジンを作っているスズキのノウハウ

だと思います。 4輪エンジンしか作ってないメーカーと、2輪エンジンも作っているメーカーとで

ここで大きな差が出たのではないかと考えています。さすがはスズキだと思わせる部分です。

要するに「デキの悪い4気筒エンジンよりもデキのいい3気筒のほうがまだマシ」というわけです。

 

●なお、直3エンジンでこの偶力振動を消すために「180度クランクにしたらどうだろうか」という

方がいますし、私も特許公報か何かで目にしたことがあります。 これは要するに1番と3番の

クランクピンを同位相、2番を180度逆位相(つまりシングルプレーンクランク)にするということ

ですが、これでたしかに偶力振動は消えます。 しかし、これでは直4エンジンと同様の理由で2次の

慣性力振動が発生してしまいます。

しかも最大の欠点は1、3番の質量と2番の質量を同じにしなければならないため、極端な話、2番

シリンダーのピストン、コンロッド、クランクウェイトの質量を倍にしてやらないとならないの

です。 これだけでもエンジンに無駄な重量をつけてしまうことになるのに、これにさらに慣性力

振動を消すためのバランスシャフトなどをつけたらどれだけ重いエンジンになってしまうか、考え

ただけでもバカバカしいです。 さらにこの180度クランクの3気筒は「等爆でなくなってしまう」

という欠点もあります。120度クランクの直3エンジンでは240度等爆ですが、この180度クランク

ですと「180度→180度→360度」と不等爆になってしまうのでとくに低回転域、つまり街乗りで

もっとも使う回転域での不快な振動が起きます。なのでこの180度クランク直3というのは現実的

ではありません。


●クランクシャフトのダイナミックバランス時の注意

よくクランクシャフトのダイナミックバランス(動バランス)をとることがありますが、直4や直6

クランクではそれぞれ対向するクランクウエイトがあるのでクランクシャフト単体でバランスが取れ

ますが、単気筒、360度直2、直3、V6クランクなどは各クランクウェイトに対向する質量がない

ため(だから直3エンジンやV6エンジンは前述した偶力振動が発生するわけですが)、動バランス取り

をする際にはクランクピン側にピストンやピストンピン、コンロッドの回転運動部分質量を考慮した

「ダミーウェイト」をつけてバランス取りする必要があります。

↑ホンダのwebサイトにあったNSX-Rクランクのバランス取りの様子。 V6なので各クランクピン

にダミーウエイトをつけているのがよくわかります。

ですので、このようなエンジンのバランス取りは使用するピストン、ピストンピン、サークリップ、

コンロッド、メタル一式の重量を測定し、計算で必要な重量を出してダミーウェイトを作ってから

おこなうという面倒な作業が必要になってくるのです。 当然ながらそのぶん費用もかかります。

一般に直4エンジンや直6エンジンよりも単気筒や直3、V6エンジンのほうがバランス取りの料金が

高くなっていることが多いのはそのためです。

しかし、直3やV6エンジンでもこの方法でバランスが取れるのはあくまでも「慣性力」だけであり

「偶力」については仮に動バランスを取っても消すことはできません。 ですので、直3やV6の

エンジンではどんなに精密にバランスを取っても直6エンジンのような滑らかなフィーリングは得ら

れないのです。 残念ですがこればかりはそのエンジンのシリンダー形式の宿命ですのでどうしよう

もありません。(だから私のジムニーのK6Aエンジンオーバーホール時もクランクのバランス取りは

おこなわなかったわけです。 無駄に金かけてバランス取りしても直3エンジンでは偶力振動は絶対

に消えませんので、せいぜいピストンやコンロッドの重量合わせをおこなう程度で充分なのです)

現在においては車のパッケージング優先で「無駄に長く重くなってしまう直6エンジン」は淘汰され

つつありますが、エンジン単体で見ればやはり直列6気筒というのはたいへん魅力的なのです。

 

本当は直3の話のはずでしたがなぜか直6万歳!の話になってしまいました。 はい、私は現在主流と

なっているV6より直6エンジンのほうが好きですし、このページで書いたようにそれだけ直列6気筒と

いうエンジンは理論的には本当に素晴らしい素性を持っているのです。 しかしもう国産乗用車で直6

エンジン、とくにRB26のような高回転型の直6エンジンが復活するなんてことは考えられませんね。


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~