クイックピットマンアーム製作
ロックトゥーロックを約30%短縮しました。

●ジムニーのステアリングシステムは昔は乗用車でも一般的だったリサーキュレーティングボール式
(ボールナット、ボールスクリューとも呼ばれます)です。
現在は乗用車のほとんどがラック&ピニオンになっているので、今ではこの形式のステアリングは
トラックなどの実用車にしか見られなくなりました。
このタイプの特徴は、ウォームギアとウォームホイールの非可逆特性を利用していることから、キック
バック(路面からの衝撃でステアリングにかかる反力)をラック&ピニオンなどと比べて構造的に低減
させることができること、ギアの減速比が大きくとれることにあります。 ジムニーのような車には
適していると言えるでしょう。
ただ、非可逆特性があることは逆に言うとホイールの側から直進に戻ろうとするセルフセンタリング性
に乏しいということになりますので、たとえば、ラック&ピニオンなどではカーブを曲がったあとに
ハンドルから力を抜いた際、キャスター角によって生じるトレール効果によって勝手にタイヤがセンター
を向こうとしますが、ジムニーではこのセルフセンタリング性が弱いので、素早く戻すためには積極的に
ステアリング操作してやらないといけない場面が多々あります。
普通のラック&ピニオンの車からジムニーに乗ると、慣れるまでは戸惑う部分でもあると思います。
●それで今回の試みですが、まずはロックトゥーロック(右あるいは左いっぱいにハンドルを切った状態から、
反対側にハンドルを切ってストッパーに当たるまでにハンドルを回す総回転数)を減らして、より乗用車ライク
にレスポンスの向上を図ろうというものです。
ちなみにジムニーのロックトゥーロックは3.5回転ほどあります。 最近の乗用車はだいたい3回転程度です。
スポーツモデルなど一部の車種で2.5回転ほど、中にはホンダS2000のVGSのように1.4回転、あるいはBMWの
アクティヴステアリングの1.7回転というものもありますが、これらはまだ特殊な部類のものになります。
と、言うわけで、このロックトゥーロックを乗用車なみの3回転程度かそれ以下ににしたいというのが今回の
「クイックピットマンアーム」です。
当然、これは単に総回転数の低減だけでなく、同じ角度だけハンドルを回してもより多く前輪が切れるので、
それだけクイックなステアリングレスポンスになります。

↑イメージです。
原理は単純で、要は角度あたりの円弧長を増やしてやるということです。
より枝の長いアームにすることで、同じ角度でもドラッグリンクの横方向の動作距離を伸ばすことによって
結果としてタイヤの切れ角が増えます。
この図では仮に40度アームが動いたときの差を示していますが、当然ながらアームは円弧運動しますので
角度によってそのストローク増加率は変化しますのでご了承ください。
ちなみに、このことによって当然ステアリングは重くなりますが、もともとJA22の電動パワステはかなり
軽いので、ちょっと重くなるくらいがちょうどいいです。
ただ、ノンパワステでしかも太いタイヤを履いているジムニーだとちょっと辛いでしょう。
なお、JA22の電動パワステはいちおう速度によってバリアブルにアシスト力が変化しますが、この特性
が人によっては好まれないこともあるようです。 私はとくに気にしたことはないのですが。
ちなみに、速度を上げていくと40km/h程度でアシストが解除されることがわかります。
昔のアルトなどの電動パワステはこの40km/hで明らかにON/OFFするのがすごく気持ち悪かったのですが、
今のシステムはそれに比べればかなり改善されたものとなっています。

↑製作したピットマンアームアダプター
当初は丸ごと製作することを考えておりましたが、ギアボックス側のスプラインがテーパースプライン
のため、寸法採取が面倒なのでやめました。 もちろんできないことはないのですが、規格スプライン
ではないので投影機で20倍〜50倍図を作成し、そこから現物合わせで寸法を採らないといけないので、
仕事ならおこないますが、自分で使用するのにあまり手間かけてもしかたないですので。
ですので、もともとアームに空いている3箇所の穴を活用して、延長アダプターを作成しました。
これだと取り付けの際にも車輌からピットマンアームを外す必要もなく、作業上も簡単ですので。
なお、このピットマンアームはJA22専用のもので、他のジムニーとは異なります。
ちなみに、純正ピットマンアームはSF材(鍛鋼品)で造られており、安全上、それなりに強度が必要な
ことはよく解ると思います。
なお、今回製作したピットマンアームアダプターの材質はあえて秘密とさせてください。
これはレース界を含め自動車業界ではあまり知られていない材料および熱処理で製作しております。
この材料および熱処理は私が昔から得意としているもので、私はこの材料をレース用ミッション部品や、
アクスルシャフト、高強度が要求されるボルト等に使用しており、通常使用されるSNCMなどとは比べ物
にならない強さ、硬さ、耐疲労性、耐摩耗性、耐久性、耐衝撃性、高温強度特性を持つことが実証済みです。
ちなみに硬さはHRc38〜43ほど、表面はタフトライドを施すことで疲労破壊に対する耐性を上げています。
●取り付け

↑取り付けたところ。
基本的にはドラッグリンクのロッドエンドを外し、純正ピットマンアームに製作したアダプターを
取り付けたあと、外したロッドエンドを取り付けるだけです。
必要に応じ、ステアリングセンターがずれた場合はロッドエンドのアジャストをおこないます。
ボルトは強度区分12.9のボルトを使用します。 実際のところ、破損するとした場合はアダプター
本体よりもボルトのほうになりますので、できるだけ高強度なボルトを使用します。
なお、このボルトは表面処理が黒染め(四三酸化鉄皮膜)のため、そのままでは錆びてしまいます
ので、取り付け後に軽く全体をシャーシブラック等で塗装しておきます。
強度区分10.9まではメッキボルトもありますが、12.9になるとメッキすると水素脆性の影響を受けて
強度が低下するため、基本的にはメッキはしてはいけません。
●インプレッション
やはりかなり印象は変わります。
結果としてはノーマルのロックトゥーロックが3.5回転ほどだったものが、クイックピットマンアーム
にしたことで約2.7〜2.8回転ほどとなり、大雑把に言って約30%のハイギアード化となりました。
街乗りで、たとえば交差点などを曲がるときもハンドルを切る角度が少なくて済むので、本当に乗用車
的な感覚になります。
とくにジムニーの場合はホイールベースが2030mmしかなく、重心も高いので、ちょっとした切り角の
増加にも車は敏感に反応します。
ですが、慣れるとこれは楽しい感じですね。 ステアリングを切った瞬間のグニャッとした感覚は仕方
ありませんが、このことが逆に切りはじめでの過度なシャープさを抑えてくれるので、緊張感のない
運転ができるという意味ではいい方向に働いている感じです。
ステアリングの重さについてですが、個人差はあると思いますが個人的にはやや重くなった程度で、この
くらいのアシスト力のほうがむしろ自然ではないかと思います。
昔乗ったことのある車で言うと、パルサーGTi-RやセリカGT-FOURのような、パワステにもかかわらず
あえて重めのセッティングが施してあるような感じです。
すえ切りではやや重めの感じはありますが、ちょっとでも動いていればまったくノーマルと変わりません。
●最後に
この手の製作部品には必ず「製作していただくとしたらいくらくらいになりますか」というメールをいただ
きます。
もちろん製作は可能なのですが、私の製作する部品はブレーキやステアリング系など、もし万が一トラブル
を起こした際には直接大事故に繋がるパーツばかりを造っています。
部品そのものの製作についてはもちろん可能なのですが、いくつか問題があることも事実です。
まず、このページで製作している製品はあくまで私の趣味で製作したものであり、たとえば公道走行での
安全性、耐久性、社外のその他の部品との相性などについては一切の検証をしていないということなど、
製品として販売するには不確定要素も多いので、そういったリスクに対する確認がとれていないのが現状です。
もちろん、私自身はそのへんに関しては材質面、構造面、設計面については充分に検討、考慮していますが、
それを「商品」としてプロデュースするにはやはり実際のテストデータを積み重ねるなどのことをおこない、
理論的考察と実際の結果を確認し、提示できることが製作者としての社会的責務であると考えております。
残念ながら現時点では当方ではそれが出来ないのです。
ですので、お約束として「競技専用部品につき公道使用不可」というのが製作の前提条件となります。
とは言え、これも実際には法的に効力があるとは思えず、もし万が一のことがあって人身事故などに結びつき
裁判になった場合は、この文句は通用しないと思っております。
よく「競技用部品のため、一切の保証はできません」という表記をしているメーカーも多いですが、実際に
それが元で事故になったりして裁判になった場合、こうした文句は免罪符にはならないでしょう。
購入時に会社とユーザーで誓約書を交わすなど、書面による承諾がないと裁判では「ユーザーが公道で使用
することが充分考えられるのにもかかわらず販売した」とみなされることは容易に考えられます。
私といたしましては「なんでも造れるからなんでも売っていい」とは考えてはおらず、たとえ趣味の延長線
であっても、他人様に販売するからにはそれなりに覚悟が必要なものと考えております。
自動車は決しておもちゃではなく、公道を走る凶器でもありますので、とくにこうした保安面で重要な部品
については、気軽に製作したくないというのが本音ではあります。
逆に言うと、こういったパーツを使用するユーザーにも自動車について、あるいは機械についての知識、経験、
技術が必要なことと同時に、何か起こった際に「すべての責任を自らがとる覚悟」も必要であると思います。