「プラグコードの抵抗は低いほど高性能」に対する反論について

この問題はプラグコードだけを見ていては解決しません。不具合の原因は他にあります。


●前回の記事「プラグコードの交換、挫折、失敗、驚愕編」に対してこういう反論が来ました。

「プラグコードの抵抗値は低ければ良いというものではない。実際、ロータリーエンジン

では極端に抵抗の低いプラグコードに換えるとノッキングの原因になる」という意見です。

↑ウルトラのブルーポイントパワープラグコード(K6Aエンジン用)

実測でわずか0.2kΩ程度しか電気抵抗がない超低抵抗ケーブルです。 これだけの低抵抗で

あってもノイズ対策も万全です。 現在、考えられる最も高性能なプラグコードでしょう。

 

しかし、私はこの反論意見には素直には頷けません。 確かに、一般的にはこの人の言う通り、

ロータリーエンジンではプラグコード「だけを」極端に抵抗の低いコードにすると不具合が

起きるというのは事実「らしい」です。 その理由として、とある有名ロータリーのチューナー

「ロータリーエンジンは燃焼室が大きく長いので、ある程度の着火持続時間が必要。それを

低抵抗のプラグコードに換えると持続時間が短くなり、確実に点火、着火できなくなる」

説明しています。しかし、この説明は理論的に納得できるものではありません。 そもそも、

これが原因とするならば、むしろ起こすのはミスファイアーのほうであり、ノッキングの原因

とはなり得ません。 「ノッキングとはそもそもどういう現象なのか?」をきちんと理解して

いれば簡単にわかることなのですけどね。ほんと世の中には無学な人間が多いと思います。

 

↑13Bレネシスロータリーエンジン。ご存知の通り、ロータリーエンジンには1ローターあたり

2本の点火プラグがついています。 上側がトレーリング側(後に着火)、下側がリーディング側

(先に着火)です。 点火のメインとなるのはリーディング側のほうです。


これについての私なりの見解および解釈はこうです

前述したチューナーさんが言っている「低抵抗のプラグコードに換えると着火持続時間(これを

デュレーションタイムと言います)が短くなる」というのは明らかな間違いです。 高抵抗なコード

であろうが低抵抗なコードであろうが着火持続時間は変わりません。 変わるとしたらそれは

「点火タイミング」つまり点火時期のほうです。 つまり、低抵抗なプラグコードに換えることで

点火に必要な大きな電気エネルギーがより速いタイミングでプラグにスパークを飛ばすことから

点火時期が早まるためにノッキングが起きるという理屈です。これなら辻褄があいますので納得は

できます。 しかも、何もこれはロータリーエンジンだけでなく、一部のレシプロエンジンでも

同様の現象が発生することがあります。ですので、プラグコードを低抵抗な高性能なものに替えた

結果、ノッキングをはじめ不具合が出たらそれだけで終わらせず、きちんと原因究明をし、点火時期

をセッティングし直す、あるいは後述する点火コイルを換える等の対応をしなければならないのです。

 

<補足説明> プラグコードの抵抗やプラグの電極が点火時期に与える影響について

「プラグコードの抵抗値が違うくらいで点火時期に影響が出るほど変わるわけないじゃん」と思われる

方も多いと思いますが、それは大きな間違いです。

 

ご存知の通り、電流の流れる速さは基本的には光速と同等です。これが電気の不導体であれば別

ですが、カーボン芯線であれ銅線であれ、電気の導体で、しかもプラグコードのたかが数十cm程度

の長さであればそう考えるのがむしろ自然でしょう。しかし現実は違うのです。スパークプラグの

電極ギャップ間は当然、ただの空間ですのでそのままでは電気を通しません。そこにスパークを飛ば

すためには大きな「ブレークダウン電流」が必要で、その後に続く持続電流も同様にそれなりの

エネルギーが必要です。よくテスターで計るような微弱な電流ではないのです。 こういった条件下

でスパークを飛ばす場合、プラグコードの数十kΩという抵抗や、プラグギャップのコンマ数ミリの

違い、また、プラグ電極の形状の違いだけでもスパークタイミングにズレが出て、点火時期にして

2度〜4度(時間にすると8000rpm時でわずか0.0001秒以下!)くらいの差は容易に生じてしまう

ものなのです。それだけ点火系セッティングはシビアであるということをご理解ください。

↑点火時期というのは実にシビアなもので、プラグの電極の形状の違いはもちろん、同じ電極のプラグ

でもプラグギャップを変えるだけでも点火時期は微妙にずれてしまうものなのです。当然、プラグコード

の抵抗値も場合によっては無視できないこともあるのです。こういった場合に再セッティングが必要に

なることもあるということです。 しかし、現実にはここまで考えて(と言うよりきちんと理解して)

セッティングしているハイレベルなチューナーさんなんておそらくほとんどいないでしょうね。

 

着火持続時間(デュレーションタイム)は点火コイルのほうで対応すべき

前述のチューナーさんが言っている「着火持続時間」を実際に制御し支配しているのはプラグコード

(ハイテンションケーブル)ではなく、イグニッションコイルの特性のほうです。もし、着火持続

時間を長くしたいのならば、コイル巻数が多く、二次電流の持続時間の長い点火コイルに交換する

などのチューニングが有効となります。 あるいは、永井電子のM.D.I.やHKSのツインパワーなどの

ごく短時間の間に複数回パルス点火するようなデバイスが有効でしょう。

↑様々な点火系デバイスの放電特性の比較。 純正の誘導式フルトラ点火システムは電圧は低いかわり

に火花の持続時間(ディレーションタイム)が長く、C.D.I.は逆に電圧が極端に高いかわりに持続時間

は短い高回転型の特性となっています。 それに対してM.D.I.やTwinPowerは両者の「いいとこ取り」

をするような特性となっています。

ちなみに、点火始めの一瞬の高電圧波形を「容量成分」と言い、その後に続く持続波形を「誘導成分」

と言います。 一般的なフルトライグニッションでは主にこの誘導成分の部分で混合気に点火しています。

対してC.D.I.では誘導成分がなく、ごく短時間の容量成分のみにすべての点火エネルギーを集中させ強力な

点火をしています。ですのでごく短時間で確実に点火しなければならない高回転型エンジンにはC.D.I.方式

が有効なのです。

 

ちなみに、ハイブリッド車のエンジンや、直噴エンジンでリーンバーン(希薄空燃比)で運転するような

エンジンは火つきが悪いため、一般に持続時間の長い点火特性となっています。 これは、空燃比(A/F)

が薄く一発の点火ではうまく着火してくれないためで、多少、最適な点火タイミングを逃しても長い時間

スパークを飛ばしてやって「なんとか着火させてやる」必要があるためです。

とにかく、点火系はトータルで考えなければダメで、どこか1箇所のパーツを変えて不具合が出たからと

いってそのパーツがダメだと短絡的に決めつけて考えないことが大事ではないかと思います。

チューニングというのは良い意味でも悪い意味でも相乗効果なのですから、まずはその理由を理論的に考え、

そして対策をしていくことが重要なのです。「変えたらダメだったから元に戻す」だけでは進歩がありません。

理論的考察が大切なのです。その結果、原因さえわかればあとは答えを出すのは簡単なことですので、根気

よくやることです。 このへんは探究心旺盛なDIYチューナーのほうがいろいろ実験できるでしょうね。

 

↑これは各種点火コイルを私のK6Aエンジンでテストしたものですが、点火コイルの種類によってエンジン

特性はけっこう変わるものです。 一次抵抗値、出力電圧、持続時間など、そのコイルがそのエンジンに

マッチしていないとチューンナップどころかかえってデチューンになりかねません。

 

↑私が使用しているのは和光テクニカルのブラックコイルC-110です。(現在はすでに生産終了品)

余談ですが、このイグニッションコイルのアースの取り方にもじつは性能を引き出す秘密があるのです。

普通にバッテリーのマイナスに繋ぐだけでは片手落ちなのですよ。 このあたりは皆さんもご自身で

よく考えてみてください。 ヒントは「二次電流はどうやって発生させているのか」にあります。

 

<参考ページ> →イグニッションコイルの交換


どうして「たかがプラグコード」だけで不具合が出るエンジンがあるのか?

まず、基本的に「燃焼室の形状が悪く、火炎の燃え広がりが悪い」エンジンであること。これはまさに

ロータリーエンジンに言えることですね。 しかし、前述しましたようにレシプロエンジンでも燃焼室

形状の悪いエンジンでは同様の現象が発生します。つまり、プラグコードを低抵抗なものに替えただけ

で何らかの不具合が起きるようなエンジンは「非常に悪い燃焼室形状をしている」エンジンであると

言えるのです。

次に「空燃比が濃すぎる、逆に薄すぎてなかなか着火してくれない」ことも要因としてあります。要は

セッティング不良ですね。また、仮に空燃比そのものには問題なくても、燃焼室内で混合気が均一に

ならずにプラグの電極まわりだけ濃すぎたり薄すぎたりしてムラがあると、同様に着火しづらくなります。

これは最初の燃焼室形状による原因のほかに、インジェクターの位置やポート形状が影響することが多い

です。 また、インジェクターの性能にも影響されますので、たとえば私のK6Aエンジンのように純正で

1ホールのインジェクターを12ホールのインジェクターに換えると改善する可能性はあります。

<参考ページ> →SARD12ホールインジェクターへの交換

 

<参考> 3プラグのロータリーエンジン

↑マツダがル・マンで優勝した787Bに搭載していた4ローターのR26Bエンジン。よく見るとわかるよう

に、通常のロータリーエンジンとは異なり、リーディングプラグとトレーリングプラグにもう1本プラグ

がある1ローターあたり3本プラグであることがわかります。 広い燃焼室をもつために火炎伝播速度が

遅く燃焼に時間がかかるロータリーエンジンの弱点を克服し、超高回転で回すためにいかに「急速燃焼」

させるかという工夫のひとつですね。 ちなみにこのR26Bエンジンの最高回転数(最高出力を発生する

回転数)は9000rpmとのことです。レース中の最高出力は700PS〜800PSほどだったらしいです。

↑1991年のル・マン24時間レースで日本車として初の総合優勝したマシン、マツダ787B。当時、私は

レースをテレビの生中継で最後まで見ていましたが(当時はF1はもちろん、ル・マンも地上波でテレビ

放送していたのですよ)ゴールのシーンは本当に心から感動したものです。 この時代はF1ではホンダ

エンジンが大活躍、デイトナ24時間レースではVRH35Zエンジンを搭載した日産のマシンが周回記録を

打ち立てて総合優勝、その後WRCではランサーエボリューションとインプレッサWRXの大活躍と、まさ

に日本車、日本のエンジンが世界を席巻していた「黄金時代」でした。 そして国内ではグループAの

R32 GT-Rの大活躍と、私はそういう時代に青春時代を過ごしてきたのです。 ですので、日本の自動車

メーカーさんにはもう一度この感動を今の若い人にも見せてあげられるよう頑張ってもらいたいのです。

「日本の技術力は凄いんだ」というところを世界のレースでまた見られる時代が来て欲しいと願っています。

そうしないと若い優秀な技術者、それも日本人としての誇りと情熱を持った技術者が育ちませんからね。

 

<余談ですが> せっかくロータリーエンジンの話題が続いたのでついでに

数年前から、私は仕事で「2ピースアペックスシールを3ピースアペックスシールに加工する」ということ

をとあるロータリー専門の有名チューニングショップさんの依頼でやっています。

↑上がRX-8純正の2ピースアペックスシール、下が3ピースアペックスシールです。 現在、もうマツダ

からは3ピースアペックスシールの供給は途絶えて、すべて2ピースのみになっています。 しかし、これ

がクセモノで、FC3SやFD3Sなどで350馬力程度までのエンジンならば2ピースでも大きな問題は出ない

のですが、400馬力あたりを超えてくると簡単にアペックスシールが欠ける、割れるなどのトラブルに見舞

われるのです。原因はおそらく過熱による熱膨張による反りなどが考えられますが、ハッキリとした原因

はいまだ掴めていません。 しかし、3ピースに加工したアペックスシールを使うとそういったトラブルは

起きないことから、やはりそのあたりに原因があるものと推測します。 それに2ピースではガスシール性

が悪く吹き抜けが多いなどの問題もあり、やはり高出力REには3ピースアペックスシールが有効なのです。

中には「2ピースになって焼き入れにバラつきが出てそれが原因で割れる」なんて根拠のないことを言って

いるチューナーもいますが、アペックスシールの材質は焼結合金の一種(研磨加工してみると解る)なので、

素材の均一性は保たれているはずですのでそれはありえないと私は考えています。

↑こちらはコーナーシール。 これはチューニングショップではなくマツダから直接試作を依頼されて製作

したものです。けっこう昔のことになりますが、様々な材質、熱処理、表面処理で何種類も製作しました。

なんだかんだで私もロータリーエンジンとはそれなりにかかわりがありますね。

 

ロータリーエンジンと4サイクルレシプロエンジンの「実効排気量比較」の考え方

よく13Bエンジンは「たった1300ccなのにターボチューンで簡単に400PS以上出るから凄い」などと聞く

ことがあります。 しかし、ロータリーとレシプロ(4スト)の排気量を比較するときは静的状態ではなく

「動的状態」で比較しないと無意味です。 たとえば、レシプロ2600ccのエンジンはクランクシャフト

1回転では半分の1300ccぶんしか燃焼せず半分しか出力に寄与しません。 対してロータリー1300ccは

エキセントリックシャフト1回転で1300ccすべてが燃焼し、出力に寄与します。(ちなみに、ローターは

エキセン3回転で1回転する) つまり、出力軸1回転あたりと条件を揃えて比較するとレシプロの2600cc

とロータリーの1300ccはイコールということになるのです。 下の動画でご理解いただけるでしょうか?

ですので、単純比較するならば「13Bターボエンジン=RB26DETTエンジン」というわけなので、

13Bターボエンジンがこの排気量で400PSオーバーを軽く出すことができるのは何ら不思議なことでは

ないのです。 これはレシプロの2ストと4ストの関係とまったく同じと考えてもらって構いません。

 

<追記>:このロータリーエンジンの「実効排気量」という考え方についての反論

上記のロータリーエンジンは実質的には4サイクルレシプロエンジンの倍の排気量で考えるべきである

いう意見に異論がきました。まぁ、これが理解できないような低脳な輩に何言っても無駄でしょうけど。

いいですか、エンジンというのは動いて(回転して)はじめて「仕事ができる機械」なのですから、

出力軸1回転あたりの実効排気量で比較することのほうが極めて合理的なのです。 むしろ、逆に回転

してない状態で燃焼行程にないシリンダーまでもすべて合計して総排気量とするレシプロと同じ考えで

ロータリーの総排気量を計算したならば、たとえば13Bロータリーエンジンは654cc×3気室×2ローター

となり実に3924ccと計算しなければならなくなりますよ? 私の言っていることが理解できますか?


<最後に> そういう意味ではK6AやF6Aは「ノッキングに強いエンジン」と言える

ちょっと誤解を招きそうな書き方ですが、正しくは「K6AやF6Aエンジンはノッキングが起きにくい

良い形状をした燃焼室を持っているエンジン」と言うべきでしょうか。

 

↑K6Aエンジンの燃焼室。バルブ挟み角が浅く、スキッシュエリアとのつながりもスムーズで、非常に

燃焼の広がりに優れた良い形状をしています。 これがK6Aエンジンがハイブーストでもノッキングの

起きる心配の少ない要素です。 さらに、軽自動車ということでボア径が小さいこともノッキングが起き

にくい要因のひとつです。中心の点火プラグからボアの外周までの距離が短いため、短時間で燃焼が広がり

「ノッキングを起こす暇もなく燃焼を終えることができる」ということです。

ですので、K6AやF6Aではよほどトチ狂ったチューニングをしない限りはまずノッキングを起こす危険性

は少ないと言えるのです。ましてや、プラグコードを変えたくらいで不具合なんて起きませんし、きちんと

ハイオクガソリンを使用している限りは点火時期をかなり進めてもまず問題はありません。 これは私の

JA22ジムニーでも今までいろいろ実験してきましたから。K6AやF6Aにはできるだけ低抵抗なプラグコード

を使用することをオススメします。(ここで私が書いたF6AとはあくまでDOHCヘッドのF6Aのことです)

 

↑私のイチオシのプラグコードはもちろん、ウルトラの「ブルーポイントパワープラグコード」です。

冒頭でも書きましたが、現在考えうる世界でも最高性能、最高品質のプラグコードではないかと思います。

 

<参考ページ> →スパークプラグの点検と点火系チューニングについて

<参考ページ> →K6Aエンジンの2種類の燃焼室形状について

 

↑とくに旧規格のK6Aエンジンはノッキングの起きにくい燃焼室形状をしていますので、2kg/cm^2近い

ハイブーストで最高速とかやっても空燃比と排気温度をキッチリ管理していれば、ノッキングとはまず無縁

です。 それよりもまず先にノーマルではヘッドガスケットが逝きますから注意してください(笑)

 

注)ここで私が言っているノッキングとは、街中でよく高いギアで無理に動かそうとしたときに起きるよう

な「カラカラ…」というような軽いノッキングのことではなく、全開、全負荷走行時に高回転、ハイブースト

で発生する「チリチリ…」という「高速ノッキング」のほうです。 これが非常に危険なのです。。

 

<お詫び> なんか今回はロータリーエンジンがメインの内容になってしまいましたね。脱線してすみません。


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~