スパークプラグの点検と点火系チューニングについて
若干くすぶることがあるのでプラグ電極の状態をチェックしました
●現在の点火プラグ、デンソーのイリジウムレーシングIXU01-27に換えて約3000km走ったので、
外してチェックしてみました。 というのも最近わりと街乗りのみで低回転での走行が多いせいか
アイドリングで若干ですが回転がふらつくことがあり、アイドリングでのバキューム(負圧)も
若干弱めで-420mmHg前後をふらふらしている感じなので、どうもプラグがくすぶっているんじゃ
ないかと考えておりました。 なにしろ純粋なレーシングプラグですからね。
ちなみに「くすぶり」とはプラグの電極周辺のガイシなどにカーボンが厚く付着した状態で、この
カーボンは導電性があるため、火花ギャップでスパークすべき電気がカーボンへ流れてリークして
しまいきちんと火花が飛ばずにスパークが弱まったりミスファイアする現象で、言わば漏電みたい
な現象です。 プラグの「かぶり」はさらにガソリンやオイルが付着して電極周辺が湿った状態を
指します。これも同じくミスファイア(失火)の原因となります。

↑外した直後の電極の状態。 右から1番、2番、3番シリンダー。
熱価の選定はまず問題ないと言えます。 濃いめの空燃比ですのでカーボンはそれなりについています
が、デポジット(オイルやガソリンの堆積物)の付着もなく、スパークの飛ぶ電極部先端はきちんと白く
焼けていますし、ガイシも白い状態ですのでそれほど酷い状態ではありません。 この中心電極の周り
のガイシにまでカーボンが堆積するようになるとミスファイアなどの問題が起きるようになります。

↑クリーニングしたあとのプラグ。
とは言ってもほとんど綺麗になっていませんね。 たまたま手持ちでカーボンを落とせるようなケミカル
を持っていなかったので、パーツクリーナーとナイロンブラシだけでちょっと洗っただけですので。
エンジンコンディショナーやキャブクリーナー、ガスケットリムーバー等があると簡単に落とせますが。
(ただ、ケミカルによってはガイシを傷めるおそれがあるのでプラグには使わないほうがいいものもある
ので注意が必要です)
なお、このようなイリジウムやプラチナの電極の細いプラグはワイヤーブラシや真鍮プラシ等の金属製の
ブラシで擦るのは電極を傷める可能性があるのでNGです。 電極周辺はけっこうデリケートなので
ナイロンブラシや竹ブラシなどの柔らかいブラシを使用し、歯を磨くように丁寧におこなったほうが
いいでしょう。 NGKでもプラグの清掃は歯ブラシなどで優しくおこなうことを勧めています。
また、金属製ブラシはその金属の粉が表面に付着することで絶縁が悪化して火花がリークすることもある
ので、そういう意味でも昔ながらのプラグであっても金属製のブラシは使うべきではありません。
昔からよく言われている「プラグをワイヤーブラシで清掃する」というのは今や迷信であると言えます。
プラグクリーナーなるもの(要はサンドブラストですが)もありますが、これもプラチナやイリジウム
の電極の細いプラグには角が丸くなるなどのダメージがありそうなので使わないほうがいいのではないか
と個人的には思っています。
●プラグ再取り付け後

↑暖機後のアイドリング負圧。
この程度の簡易なクリーニングでもけっこう効果はあったようで、負圧も-450mmHgあたりまで回復
し、また回転も負圧も安定するようになりました。かなり変わるものです。
やはり純粋なレーシングプラグで街乗りだけのトロトロ走行を続けるのはあまり良くないようです。
たまにエンジンを回してカーボンを飛ばしてやってコンディションを維持してやる必要があります。
それも低いギアではなく、高いギア(できればトップギア)で最高回転数まで引っ張ってやることが
大切です。 ただ漠然と高回転まで回すのではなく、負荷をかけてやることが大事なのです。
プラグというのは自己清浄温度というのがあり(450度〜650度あたり)、最低でも電極がそのくらい
の温度になっていないとカーボンが堆積してくすぶり、かぶりの原因になったりします。 ですので
高熱価のプラグではたまに負荷をかけてエンジンを回してやって、カーボンを焼き切ってやりましょう。
とくに空燃比(A/F)を濃いめにセッティングしているターボのチューニングエンジンではなおさらです。
●点火系チューニングパーツ(チューニングデバイス)について
世の中には点火系を強化するという謳い文句で様々なデバイスが売り出されています。
私もHKSのツインパワーとWAKOのブラックコイル、ULTRAのブルーポイントプラグコードと
つけています。

●ただ、この手の点火系強化パーツは複数のデバイスを重複してつけることが可能なものもある
反面、全体のバランスを考えておこなわないと思わぬダメージを与えることがあるので注意が
必要です。 たとえば、ノーマルの誘導式フルトラの点火系をCDI式(容量放電式)にして
高回転での点火パワーを強化するというのはよく行われていることですが、これに追加して
さらに一次電圧を上げる装置(昔からよくある12Vの電圧を16Vや18Vに昇圧する装置)を
つけると、CDIやイグニッションコイルがパンクする危険性があります。
点火コイルも同じです。 一次コイルの抵抗のあまり小さなコイルをそのまま純正のコイル
とつけ替えるとイグナイターがパンクする可能性があるので、こういった場合は適切な抵抗値
をもったレジスターと併用しなければなりません。
また、当然ながら強化した末端となる点火プラグの電極はより消耗しやすくなりますのでプラグの
寿命が短くなりますし、最悪の場合はあまりにスパークが強くなりすぎてプラグの電極が溶けて
しまうなんてことも起こり得ます。 なんでもかんでも「強化、強化」すればいいというわけでは
ないのです。
■また、この「強化する」という方法にも2種類の方向性があります。
まず、電圧そのものはそれほど強くしなくても放電時間をある程度持続させて着火の機会を増や
してやろうというチューニングがあります。 これは主にノーマルの誘導式に準じた方法で、主に
街乗りなどの低回転、低速トルクに効果のあるやりかたで、この放電持続時間(デュレーション)は
だいたいノーマルと同じ0.002秒〜0.003秒か、それ以上となります。
その昔、日産が「プラズマスパーク」という名称で放電時の逆起電力を利用してこの持続時間を
増やす装置を装備していた時期がありましたが、これもやはり主に低回転でのトルク増強を目的
としたもので、実際3000rpm程度までの制御しかしていなかったという話です。 メーカーが
純正でも採用していたぐらいですから、それなりに有効な方法のひとつではあるわけです。
ですが理論的にはこれは正しいチューニング方法とは言えません。 点火は毎回決まったタイミング
(点火時期)で瞬間的に火がつかなければいけないのに、ダラダラといつまでも火花を飛ばして
その間のいつ火がついたのかわからないようでは困ります。 たとえば7000rpmで0.003秒と
いうとクランクシャフトはその間に123度も回ってしまうのですから、その間のどのタイミングで
混合気が着火したのかわからないのです。 こんなにバラついては何のためにわずか数度という
精度で点火時期を追い込んだECUセッティングしても意味がなくなってしまいます。
ですのでこの持続時間を伸ばすというやりかたは正攻法ではないのですが、エンジンにはどうし
ても過渡期(加速時や負荷変動時)には混合気の状態が理想的にならず着火しにくい状態になる
ことは避けられないので、こういったときには持続時間を伸ばして、多少最適なタイミングを
逃したとしても、少しでも着火の機会を増やしそれに頼らざるをえないときもあるのが実情です。
そういった事情によりこの「放電時間を伸ばす」というチューニングはある程度意味を持ちます。
また、リーンバーン(希薄空燃比)エンジンなどのように空燃比が極端に薄く火がつきにくい
エンジンの場合もこの持続時間を伸ばすやり方でなんとか着火させるというメリットがあります。
もうひとつは一次電圧を大幅に高くして短時間に一気に点火エネルギーをプラグから放電させる
方法で「容量放電式」と呼びます。この代表がCDI(コンデンサーディスチャージイグニッション)
です。
この場合の放電時間はだいたい0.0001秒という極めて短時間であり、上記誘導放電式のわずか1/20
〜1/30程度の短時間でしかありません。 この短時間に全エネルギーを一気に注入するのです。
前述した誘導放電式が「長い時間でダラダラと放電する」のに対してCDI式は「一瞬で一気に放電
する」というわけです。
これは高回転で一発で確実に点火するためには必要な性能です。 高回転ではクランクシャフトの
回るスピードがとても速いため、ごく短時間に点火を終わらせないと意味がないからです。
たとえば、エンジンが8000rpmで回転しているとき上死点前30度で点火して最高燃焼圧力が上死点
後15度であったとすると、その間の時間は僅か0.0017秒ほどしかないため、誘導式点火システムで
は燃焼のピークがすぎてもまだダラダラと火花が出ているという余計なエネルギーの放出が続くこと
になりますのでこれは完全にムダであり、せっかくの点火エネルギーをロスしています。 すでに
混合気に火がついているのにバチバチとスパークを飛ばしたところで何の意味もありません。それが
CDI式では無駄なく適切なタイミングでごく瞬間的に一気にエネルギーを放出、点火できるわけです。
たとえば上記8000rpmでの例で言えば、CDI式の場合は0.0001秒、クランク角度でわずか4.5度程度
で全ての点火エネルギーを注入することができるわけです。 つまり仮に燃焼開始タイミングがバラつ
いたとしても最大でもこの短い範囲内に収めることができるというわけです。
なのでCDI式はオートバイのエンジンをはじめとする高回転重視のエンジンに採用されることが多い
のです。 クルマの場合も8000rpmが常用域に入ってくるようなチューニングをした場合はCDI
にする効果がある程度出てくると思います。 逆に7000rpm程度までしか使わないようなエンジン
の場合はCDIにする効果は期待するほどは出ないでしょう。 純正の誘導式フルトラのままで十分です。
その他、低速トルク重視のエンジンとか、空燃比のセッティングが悪く一発の点火できれいに着火して
くれないエンジンなどではむしろC.D.I.式はミスファイア(失火)の原因になりかねないので、それ
よりも純正の誘導放電式のメリットである持続時間を伸ばしながら強化したほうが実用的な性能では
有利なこともあります。 CDI式は一発で確実に着火してくれなければ意味がないので空燃比が合って
いることはもちろん、混合気が着火しやすい理想的な状態になっていることが大前提なのです。
●それならこの上記2つの要素「CDIの高電圧と誘導式の放電時間を両立すれば最強の点火システム
になるじゃないか」と考えられる方もいるかと思いますが、たしかにそれで「最強の」点火システム
にはなります。 しかし「耐久性」を考えないとなりません。 いたずらに電圧を高めたり、電気
エネルギーを増強したり、火花持続時間を延ばしたりすると注入されるエネルギーが高くなりすぎ
てオーバーチャージになってしまい、各デバイスの耐久性を超えてしまうことから、たとえばプラグ
などの寿命が極端に短くなってしまう危険性があります。
まず、点火系に送り込まれる総エネルギーには限度があります。 市販車でだいたい通常50mj(ミリ
ジュール)から100mjの間くらいだそうで、これだけあれば充分すぎるくらいです。
それ以上の大量のエネルギーを流すとそれこそプラグ電極やコイル、パワートランジスターなどが
持ちません。 なので、あくまでも限られたエネルギー量の範囲内でその放電特性をその回転域
に適したやり方で制御してやるのがいちばん利口なチューニング方法となるのです。
耐久性を無視すればそりゃいくらでも点火の強化はできます。 しかしそれは正しいチューニング
とは言えず、とくにストリートチューンでは耐久性も考えて必要最低限にとどめるべきです。
ドラッグレースやスプリントレースのようにごく短時間だけ持てばいいのであれば思いっきり強い
点火システムにすることも有効ですが、ストリートチューンや耐久レースなどの場合は点火プラグ
の電極の消耗による寿命などの耐久性とのバランスを考えるといたずらに点火エネルギーを強化する
わけにはいきません。 なにごとも「ほどほど」が大切です。
つまり、もっとも適している点火系チューニングとは、いたずらに点火エネルギーを増やさずに、
低回転域から中回転域では誘導放電式のある程度持続時間を重視した放電特性をもち、高回転では
CDI式のごく短時間で一気に大電圧を放電させる特性を持たせるというわけです。
この制御を実際におこなっているのがHKSのTwinPowerや、永井電子(ULTRA)のM.D.I.などで、
高回転では1発の大きな電圧を短時間で注入する本来のCDIと同様の作用をし、低回転では極短時間
にパルス的に点火(3回〜6回)をすることで結果として持続時間を伸ばしたのと同じ作用をするよう
にできています。 アメリカ製のMSDイグニッションシステムなども同様の制御をしています。

↑各デバイスの放電のイメージ。 CDIは一瞬に大電圧を放電するのに対して、純正式は長い時間を
かけて放電する様子がわかります。 M.D.I.やTwinPowerは回転域によって制御は変えますが、
だいたいこんな感じで両者の「いいとこ取り」のような制御をするものと考えて良いと思います。
ただ、この間に注入される電気エネルギー量はどれもさほど変わりありません。 要するに同じ
電気エネルギー量を放電電圧と持続時間でどのように振り分けるかの違いだと解釈してください。
いずれにしても点火系はただ強化すればいいというものではありません。全体のバランスを考えて
チューニングすることが大切ということです。
●おまけ
NGKが最近「ルテニウム」なる新素材を電極に使ったプラグを新しく発売したようです。

↑ルテニウム電極プラグ。 NGKプレミアムRXシリーズ。
このルテニウムはイリジウム同様、白金族の一種ですので、それほど目新しいという素材では
ないとは思いますが、イリジウムよりは耐久性(寿命)があるようです。
ただ、こういう新しいものが出るとすぐに使いたがる人も多いと思いますが、イリジウムプラグ
が出始めの頃、品質が安定せずに当たり外れが多かったことを考えるとこのルテニウムプラグも
少し様子をみてからにしたほうが良いのではないかという気がします。
また、電極の形状を見てもわかる通り、電極がかなり突出した「超プロジェクションタイプ」
となっています。これは従来のプロジェクトタイプのプラグよりさらに電極が突き出してい
ますので、かなり電極やガイシ部の強度に不安があります。このプラグを使うとしたらあくまで
ノーマルエンジンのみにしたほうが安全です。 実際、このプレミアムRXプラグの熱価は7番
までしかないことからも対象はあくまでも「ノーマルエンジン」であることがわかります。
(そもそもこんなに電極が突き出していると電極の温度が上がってしまうので高い熱価のものは
つくれないので、現実的には8番あたりまでが限度ではないでしょうか)
このように電極が大きく突き出したタイプ(プロジェクトタイプ)のプラグは、点火ポイントが
より燃焼室の中心に近くなるので燃え広がりがよく、始動性、アイドリングの安定性、低速から
のトルク特性、レスポンスや燃費など、街乗りでよく使う領域での性能は格段に優れているのです
が、反面、高度にチューニングしてハイパワー化したエンジン、とくにターボチューンエンジン
に対してはその高熱や燃焼時の衝撃波によって電極やガイシのトラブルの原因になりやすく、
電極が溶けたり折れたりする危険性があるので使うべきではないと考えます。
ターボエンジンの場合でも、純正状態より若干ブーストを上げた程度のエンジンであれば問題
は少ないかと思いますが、ノーマルタービンでも大幅にブーストを上げたり、ましてやタービン
交換をしてノーマルの倍以上のパワーにチューンナップしたようなエンジンにはこのプラグは
絶対に使うべきではありません。 そのようなエンジンにこのような超プロジェクションタイプ
のプラグを使用するのは電極の折損や溶損、ガイシ割れなどトラブルのリスクが大きいです。
プラグの電極破損やガイシ割れなどのトラブルは単純に熱によるものだけでなく、エンジンの
振動や燃焼時の衝撃、圧力などによるものも多いのです。 とくにチューニングしたエンジン
は燃焼圧力や燃焼時の衝撃も大きくなるため、プラグ電極に対するストレスも大きくなります。
なので、これらによるプラグトラブルを防止する意味でも、チューニングしてパワーアップ
したエンジンには番手(熱価)は同じでもレーシングプラグを使用したほうがより安全です。
たしかに街乗りでよく使う実用域でのトルクやレスポンスはレーシングプラグは劣りますが、
それよりも保険の意味で過酷な運転時の耐久性、信頼性を優先すべきだと思いますので。
プラグはそのエンジンの仕様(チューニング度合い)や使い方(用途)によって「どれが最適か」
が変わってきますので、よく考えて選択するべきものです。