K6AアルトワークスRカムとF6Aラッシュキラーについて

いくつか質問もありましたので


●私のJA22は今回のエンジンオーバーホール兼ファインチューンの際、HB21SワークスR純正

カムシャフトを組み込んだわけですが、今回はそれについていくつか質問などもあったため

トータルでの変化なども含めてまとめてみたいと思います。

旧規格K6AのエンジンOHついでにワークスRカムに興味のある方が多いものと思いますので。

なお、インプレッション的な部分については、カムだけでなく、エンジンのリフレッシュや

ポート研磨などのファインチューン、また、組み合わせるヘッドガスケットの厚みの違いなどに

よる圧縮比の差、さらには組み合わせるタービンや排気パイプの太さや触媒の有無などによって

大きく特性も変わってくると思いますので、記事の内容はあくまでも私の車の場合ということを

前提のうえで受け取ってください。

そもそも「カムだけ」で変わる程度はたかが知れています。やはりその他のパーツやチューニング

との相乗効果でその性能を発揮するものですので、組み合わせはかなり重要となります。

 

■私の車の現在の吸排気系の主な仕様

●純正エアクリボックス改+キノクニ製エアクリーナー+EA21R純正改サクションパイプ

●HT07-A/R12スペシャルタービン+ARC製インタークーラー

●オリジナルポート研磨

●圧縮比ノーマル(8.4)※現実には0.1mm面研してますので誤差の範囲で若干上がってます

●インテークチャンバー+大口径スロットルバルブ+スロットルスペーサー

●純正改エキゾーストマニホールド+純正タービンアウトレットパイプ

●45φフロントパイプ+R34GT-R純正メタル触媒+MRS製50.8φ砲弾マフラー

…このような感じです。

 

●ワークスRカムによる総合的な変化

今までにも書いておりますのでだいたいの特性はご理解いただけるものと思いますが、とにかく

下から上まで満遍なく使えるフレキシビリティのある「マイルドなハイカム」です。

街乗りでの発進時からトルクはノーマルカムと遜色なく、2000rpm程度の低回転域から充分に

使えます。 もちろんアイドリングがラフになることもありません。

また、中間域でのトルクの谷もなく自然なトルクの繋がりで5000rpm程度までは非常にフラット

な印象です。 ですので、普段の街乗りではこのあたりまでの回転を使っておけば充分走ります。

ですが、5000rpmを越えてくるとタービンとの相乗効果でそこから次第にトルクが盛り上がり、

6000rpmから上では一気に「パワーバンド」に突入したようなトルクの盛り上がりを見せ、その

ままレッドゾーンまで吹けあがるという乗っていて面白いトルク特性となっています。

そもそもこのワークスRカムはHB21SアルトワークスR用ですので、本来はクロスミッションと組み

合わせて競技では常に5000rpm以上を維持して乗りこなすのが本来の使い方なのでしょうから、

街乗りで普通に走ってるぶんにはほとんどこのパワーバンド域を使うことはないと思います。

結果として、低回転から扱いやすく、それでいて「ここぞ」というときにはブン回して楽しめるので

私個人的にはこういう性格のエンジンは乗ってて飽きのこないとても好きな特性です。 私はあまり

優等生的なよくできたエンジンよりも、ちょっと荒削り的な特性のエンジンのほうが好みなので。

また、実用燃費もノーマルカムと遜色ないどころか、かえって良いことさえ多くあります。

普段使いにまったく支障なく高回転ではそのパフォーマンスを発揮してくれるあたりはさすが純正

部品という感じがします。 ただそのぶん、レッドゾーンに入るほどの高回転域での絶対性能という

点ではさすがに社外のハイカムには及びませんので、このワークスRカムが有効に使えるのはあくま

でも「ノーマルのレッドゾーンの範囲内(8500rpm)程度まで」と考えたほうがいいです。

なので「ノーマルのレッドゾーンを越えて回したい」という人にはバルブ周りの高回転対策(バルブ

スプリングの変更等)をしたうえで社外ハイカムのほうが良いと思います。 さらにお金はかかりま

すがリフターを新規に造り変えてインナーシム式に改造、さらにバルブスプリングリテーナーも新規

に64チタン(Ti-6Al-4V)で製作し軽量化すれば動弁系の高回転対策はパーフェクトでしょう。

 

なおこのワークスRカム組み込みの条件としては、タービンは最低でもスズキスポーツのRHB31FWや

HT06、またはHT07相当の容量のターボと組み合わせることが必要です。 ノーマルK6Aのタービン

ではすでにタービンのピークを越えてからこのカムのパワーバンドになりますので、まったくオイシイ

ところが使えません。 ノーマルK6Aのタービンでは6500rpmも回すともう「フン詰まり」になって

しまいますので、そこから上でカムだけでどう頑張ったところでパワーなんか出ませんし、むしろ排圧

の異常な上昇によりエンジンやタービンに無理をかけて最悪エンジンかタービンがブローする可能性が

ありますので、ノーマルタービン(HT06-3)にはノーマルカムのままのほうが良いです。

それと、圧縮比については私は非過給域でのトルクを失いたくないこともあり純正の圧縮比(正確に

は0.1mm面研しておりますので0.1弱圧縮比は上がっていて、実質的には8.45程度だと思う)ですが、

ハイブースト(1.5k以上)かけたい人はワークスRと同等の圧縮比(7.6)あたりまで下げるのもいい

かと思います。これだけ下げればブースト1.7k〜2.0kあたりまでいけるのではないかと思います。

ただ、これだけハイブーストをかけるとメタルガスケットだけでなく鍛造ピストンも必須になります。

さらに、圧縮比を下げる場合は低回転でのトルクはかなり犠牲になることを覚悟しないとなりません。

軽量なアルトワークスやカプチーノではそれほど苦にならないかもしれませんが、重量の重いジムニー

やワゴンRなどでは低速トルクが痩せるのはけっこう街乗りで辛くなるのであまりお薦めはできません。

とくに「エアコンON+ヘッドライトON」のように大きな負荷がかかる状況ではかなり発進がモタつく

ようになりますので、圧縮を下げてしまうとストリート仕様ではかなり乗りにくくなると思います。


●ワークスRカムのスペックについて

まず、ワークスRカムの作動角など詳細については →こちらのページをご覧ください。

 

■バルブタイミングダイアグラム

これは上記ページに載せているワークスRカムのバルブタイミングダイアグラムですが、以前の記事

でもこのインテークのバルタイがなんか不自然と書きましたが、最近なんとなくその狙いがわかって

きたような気がします。

もちろん、排ガス規制などの問題もありますが、ひとつにはこのワークスRという車がハイブースト

を前提としていることにあるのではないかと思います。 要するに、通常は上死点前から予め吸気

バルブを開くところですが、ハイブースト下ではすでにインマニ圧が高まっているわけですから

仮に上死点と同時あたりで吸気バルブを開いても一気にシリンダー内に混合気が飛び込んでくるわけ

ですので、あまり吸気の遅れにつながらないというのがあります。 また、そのぶん吸気バルブの

閉じを遅らせて吸気バルブ開度の中心角を112度(標準K6Aの中心角は103度)とすることにより、

ピストンスピードがもっとも高まった直後に最大のバルブリフト点をもってくることができるという

ことで、吸入効率が最大限に高められているのではないかと想像できるのです。

このあたりが排ガスなどの環境に対する適応とパワーの両立点であったのではないかと思われます。

もっとも、最近のエンジンならVVTを使ってこのへんはいくらでもコントロールできますが、固定

バルタイのエンジンではこのへんの設定がなかなか難しいところです。

ですので、このワークスRカムはローブーストで使ってもあまり意味がないというか、オイシイところ

がないのではないかと思いますのでハイブースト(最低でも1.3k以上、できれば1.5k以上)で使って

はじめて面白いところが味わえるのではないかと思います。

 

■バルブリフトカーブ

これは標準K6A(旧規格)とワークスRカムのバルブリフトカーブの比較です。

実測値を元にしていますのでやや大雑把でズレもありますが、だいたいこんな感じの差になります。

リフトカーブで囲まれた部分の面積(時間面積)の差が視覚的にわかると思います。 それだけ

ワークスRカムのほうがバルブの開いている時間および面積が大きくなっているということです。

なお、新規格K6Aのほうはより低速トルク重視&排ガス規制になっている関係で、この旧規格K6A

ノーマルカムよりもさらに低速寄りのスペック(時間面積が少ない)になっていると思われます。


●ワークスRカムの組み込みについての質問があったのでここで書きます。

 

■ワークスRカムを通常のK6Aに組んでバルブとピストンがぶつからないのか?

これについてはワークスRカムのリフトが0.5mm大きいことによるものですが、通常のエンジン

設計ではピストンとバルブが最接近したときだいたい2mm〜3mmほど余裕をみているものです。

このひとつの目安にリフター(タペット)のシム厚さがあります。 K6Aはタペットの上にシム

が載るいわゆるアウターシムタイプですが、このアウターシムはバルブジャンプ時などに外れては

困りますから当然その分の余裕を見て厚みを設計してあります。

K6Aの純正アウターシムは厚さ2.2mm〜3.0mmまでありますので、そこから推測すると最悪2mm

程度はバルブジャンプしても外れないように余裕を見て設計していることがわかります。

ですので、0.5mm程度のリフトアップでは「極端なオーバーレブさせない限りは」問題ありません。

一般的にバルブリセスの刻んであるピストンでもそのくらいを目安に「逃げ」加工がしてあります。

よくエンジン組み込み時に静的に回転させてバルブとピストンが干渉しないかチェックしている人も

いますが、その時点でギリギリだと実際のエンジン稼動時はちょっとバルブジャンプをおこしただけ

でピストンとバルブが接触してしまう危険があります。

このバルブリセスというのはオーバーレブさせたときなどにバルブが勢い余ってカム山から離れて

バルブジャンプ(あるいはシートリングに着座したあとに弾む「バウンス」)した際にピストンと

バルブがぶつかるのを防ぐためのものなので、最低でも2mm程度は確保しておかないと万が一の

オーバーレブの際にマージンがなくなり危険です。

 

■バルブスプリングは標準のままで大丈夫か?

これはそのままで大丈夫です。 バルブスプリングは標準K6AもワークスRも同じものですので。

とくに強化しなくても純正のレッドゾーンの8500rpm、あるいはレブリミッターの働く9000

rpmまではサージングやバルブジャンプの心配はない(あるいは許容範囲内)のはずです。

それ以上の回転数まで回す場合は強化する必要があるでしょう。 ただし、バルブスプリングを

強化するとカムやタペット(シム)、バルブやバルブシートの摩耗が大きくなりますしタイミング

チェーンへの負担も増しますので、強化する割合は最低限にすべきです。

ちなみによく標準スプリングの下にスペーサーを入れてセット圧を強化する人がいますが、これは

バルブジャンプを防ぐ効果はありますが、サージングを防ぐ効果はありません。 サージングは

スプリングの固有振動数によって決まりますので、スプリングそのものを変えないとサージングの

起こる回転数は変わらないのです。 ちなみに旧規格K6Aは吸気側も排気側もバルブスプリングは

共通です。(新規格K6AはエンジンNo.によって吸排気でバルブスプリングが違うものがあります)

 

■このカムを組むにあたって他に用意すべきパーツはないのか、あるいは加工は必要ないのか?

とくにありません。 旧規格K6Aにはそのままボルトオンです。

(新規格K6Aにもスプロケットの入れ替えでワークスRカムが使用可能との情報もありますが、

バルブスプリングとのマッチング等も含めいくつか問題もありそうなので今のところ未確認です)

ただし、当然のことながらバルブクリアランス調整は必要になりますので、シムは新たに用意する

必要はあります。

↑K6Aエンジンのアウターシム

外径は24φあり、それなりの重さがあります。 GT-RのRB26のようにインナーシム式ならベスト

なのでしょうけど、K6Aはコストに厳しい軽自動車のエンジンですのでメンテナンス性重視で設計

している以上仕方のないところなのでしょう。インナーシム式はクリアランス調整が面倒ですし。

しかしそれでもF6A(DOHC)の油圧ラッシュアジャスターに比べればK6Aのソリッドリフターは

性能面では大きなアドバンテージです。 油圧ラッシュアジャスター(HLA)はどうしても高回転域

になるとオイルチャージが間に合わなくなったりオイル内に含まれる微細な気泡によりカムプロフィール

に追従しなくなりせっかくのカムの性能が活かせないという消しようのない構造上の欠点があります。

やはり高回転エンジンには高いバルブ駆動剛性を保てるソリッドリフターがベストです。

 

●<参考>F6Aラッシュキラー仕様

↑参考までに、私が過去に設計製作した「F6Aツインカム用ラッシュキラーセット一式」です。

スクリュー調整式ラッシュキラーユニット、カムカバー加工、クリアランス調整穴用のキャップ

などで構成されています。 これにより油圧ラッシュアジャスターを排除できるので、10000

rpmを超える回転数でもカムプロファイルに精確に追従するバルブ駆動が実現できます。

そのかわりクリアランス調整はやや面倒ですが、高性能化のためにはやむをえない労力でしょう。

これを作ったのはもう15年近く前になりますが、伝え聞いたところによるとまだこれを組んだ

エンジンはアルトワークスに載まれて現役で使用しているとのことです。

ちなみに、この写真には写っていませんが、64チタン製のバルブスプリングリテーナーも同時に

試作製作しました。 すべては10000rpmオーバーでの精確なバルブ駆動のためです。

ただ回すだけならラッシュアジャスターのままでも10000rpm以上回りますが「バルブを精確に

動かし確実にパワーを出す」ためにはラッシュアジャスターは邪魔者以外の何者でもありません。

ただ回ればいいというものではなく、そこでしっかりとパワーが出せるかどうかが問題なのです。

当時これを組み込んだF6Aエンジンはキャラ(AZ-1)に搭載し、ワンオフカムシャフト、TD-05

タービンなどと組み合わせて250PSほどの馬力を出していたと記憶しています。

例の谷田部で240km/hオーバーを記録したカプチーノ(このエンジンは約190PS)の記録を超え

るべく、より空力に有利なAZ-1の車体を使ったのですが、いざ谷田部で走らせたら200km/hを

超えてくるとフロントが浮き上がってしまい、ドライバーがあまりにも危険だということになって

結局、最高速チャレンジはできないまま企画が終わってしまったという残念な経緯があります。

馬力的には充分あったので、今から考えればAZ-1ではなくカプチーノに積んでアタックしていれば

250km/hオーバーは楽にいけたでしょうね。 単純に空気抵抗の少なさだけならAZ-1が有利です

が、200km/hを超える高速域の安定性ではフロントエンジンのカプチーノのほうがずっと良好です。

カプチーノではミッションが頑丈なので回転よりもトルクで馬力を出す手法でチューニングできたの

でラッシュキラーまでは必要なかったのですが、AZ-1ではミッションがやや弱いので、最大トルクを

抑えてそのぶん回転数でパワーを出すチューニング手法にしたため、こういった10000rpmオーバー

での高回転対策を施す必要があったのです。

↑最近とあるホームページで画像拾いました。 当方で作ったパーツのF6Aラッシュキラー仕様エンジン、

日本のどこかでまだ元気に動いているようで、嬉しいかぎりです。


●最後に

このワークスRカムにすることでたしかにK6Aエンジンの高回転特性は「面白く」なります。

とくに旧規格のK6Aはせっかくレッドゾーンが8500rpm(レブリミッターは9000rpm)もあるのに

ノーマルカム&ノーマルタービンでは7000rpmを越えると一気にパワー感がなくなりますから

もったいない気がしますので。

ただ、チューニングというのはあくまでトータルなものですので、このカムだけで劇的にパワーアップ

するとか激変するとかではありません。 総合的なバランスのとれたチューニングが必要になります。

それと、おそらく気になる人も多いと思うこのワークスRカムの価格ですが、数年前までは1本あたり

20000円以下ほどの価格でしたが、私が去年購入した際には1本26000円ほどに上がっていました。

これはスズキに限らずですが、自動車メーカーは生産終了からだいぶ経った古い車のパーツほど次第

に価格を上げていってますので、今後さらに価格が上昇することが考えられます。

(これはもちろん、部品の管理にかかる経費によるものもありますが、メーカーの本音としては「古い

車に金かけて直すくらいなら新しい車買えよ」という無言のメッセージも含んでいると思われます)

ですので、なおさら社外ハイカムにするかワークスRカムにするか悩むところだと思いますが、この

あたりはチューニングの目的をハッキリ持って使い分ければいいと思います。

ただ、社外のK6Aハイカムは私の知る限りではほとんど純正加工カムですので、どうしても表面の硬化層

を削って製作しますから耐久性(耐摩耗性)の低下が気になります。


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~