K6Aのコンロッド長と連桿比とエンジン回転数上限について

K6Aエンジンの意外な真実


 

●今回は「コネクティングロッド長と連桿比」というかなり局部的な視点でK6Aエンジンの意外な

チューニングポテンシャルを考えてみたいと思います。

 

まずこの話題の定義として、コンロッド長とは大端部中心と小端部中心のセンター間距離(芯間距離)、

つまり穴ピッチのことです。 通常「コンロッドの長さ」とはこの芯間距離のことを言います。

連桿比(れんかんひ)とは、ストロークの半分、つまりはクランクシャフト中心からクランクピン中心までの

距離を1としたときに、コンロッド長が何倍あるかということです。 この数値がある意味でそのエンジン

の特性とか素性を物語るひとつの指標になるのです。

たとえば、ストローク86mmでコンロッド長が150.5mmのエンジンは150.5/(86/2)=3.5、つまり連桿比

が3.5ということになります。

 

↑コンロッド長(芯間距離寸法)とクランクアーム長(クランク半径)と連桿比の関係図です。

 

それで、この連桿比がエンジンの素性に与える影響ですが、当然ながらエンジンをできるだけ軽量コンパクト

にしたい場合はコンロッド長を短く(つまり連桿比を小さく)したほうが有利となります。

しかし、コンロッド長を短くするとピストンのストロークに対してのコンロッドの傾き角度が大きくなること

から、ピストンがシリンダーに押し付けられるサイドスラストフォース(側圧)が大きくなるため、摩擦抵抗が

増大します。 さらに、クランクの回転に伴うコンロッド大端部の横方向への加速度(加振力)が大きくなる

ため、とくに横方向への慣性力振動および偶力振動が増大する、簡単に言うとエンジンの振動が大きくなると

いうデメリットがあります。

逆に、コンロッド長を長く(つまり連桿比を大きく)すれば、上記とは逆にピストンのサイドフォースが減って

摩擦損失が少なくなり、エンジンの振動も小さく滑らかな回転となるというメリットがあります。 しかし当然

ながらエンジンのブロック高さが高くなりますからエンジンの寸法、重量が大きくなるというデメリットがあり

ます。 とくに、コンロッド本体についても長くなるということはそれだけ曲げ剛性に対する強度を上げなけれ

ばならないため、コンロッド自体も重くなり、それに対応したバランス率を確保するためにクランクシャフトの

カウンターウエイトも重くしないといけなくなるため、エンジン全体としても重くなってしまう傾向になります。

 

長所、短所を要約すると以下のようになります。

●連桿比の大きい(コンロッド長が長い)エンジン

ピストンの上下動に伴う無駄なフリクションロスが少なく、横方向への振動も少なくなるので高回転までスムーズ

できれいに回る素性がある。 ただしブロックが高くなり、エンジンが大きく重くなる傾向がある。

●連桿比の小さい(コンロッド長が短い)エンジン

ピストンの上下動に伴うサイドフォースが大きくフリクションロスが大きく、エンジンの横方向への振動も大きく

なりがち。 しかしブロックの高さが抑えられるため、エンジンを軽量コンパクトにできる。

 

ですので実際のレシプロエンジン設計においては上記のメリット、デメリットのバランスをふまえながら妥協点を

見出して最適と思われる数値を決めて設計することになります。 これはエンジン設計の初期の段階でしっかりと

検討することが非常に重要です。 なぜならば、コンロッドの長さを後から変更することはエンジンのシリンダー

ブロックの寸法から変更することになりますから、ほとんどシリンダーブロックを新設計するのに近い大掛かりな

改造作業になるため、そう容易に変えることはできないからです。

 

●それで、現実のエンジンの連桿比がどのくらいに設計されているかということですが、一般に日本メーカー純正

の市販スポーツ系エンジンの場合はだいたい3〜3.5未満と小さい傾向があります。 これはやはりエンジンを軽量

コンパクトにしたいという要求が強いためでしょう。 しかし、レーシングエンジンになるとこれはまったく逆の

傾向で、市販ベースのエンジンでもコンプレッションハイト(ピストンピン中心からピストントップまでの寸法)

を小さくしてできる限りコンロッド長を長く取って、連桿比も3.5〜4.0あたりまで大きくしたものが多いのです。

つまりそれだけ「フリクションロスを少しでも減らしたい」というのがエンジン開発者やエンジンチューナーの

本音というわけで、自然と連桿比を大きく取る傾向になっていくわけです。

 

この傾向はF1のV型エンジンなどではさらに顕著で、F1エンジンでは連桿比がさらに大きく4.5〜5.0を超えるほど

大きくなっています。

ただ、F1の場合は事情がちょっと特殊でして、F1のエンジンは超高回転(たとえば20000rpmあたり)まで回

したときの「平均ピストンスピード」を抑えるために超ショートストローク(超オーバースクエア)となっている

ので、もしこのストロークに合わせて連桿比を3.5とかに小さく設定すると、コンロッドが短くなりすぎてしまい、

向かい合う反対側バンクのピストンが干渉してしまうという物理的制約があるので、それほどコンロッドを短く

できないため、結果としてこういった大きな連桿比になっているだけのことです。

V型エンジンは市販車でも直列エンジンに比べ連桿比が大きい傾向がありますが、これは構造上そうせざるを得ない

ためです。 とくにボア径の大きいV型エンジンは自然とこういう傾向になることが多いので、直列エンジンの

連桿比とV型エンジンの連桿比を単純に較べて「どちらのほうが優れている」などと言うのはナンセンスです。

ですが、V型エンジンのこの大きな連桿比は結果的にはエンジン回転を滑らかにし、振動も低減するという良い方向

になります。

 

つまり、ここまででわかることは、エンジンの低フリクション化および振動低減などの基本性能を重視するならば、

コンロッド長はできるだけ長くして連桿比を大きく取ったほうが高回転型エンジンには有利と言えるのです。 実際、

日本車のエンジンよりも欧州車のスポーツ系エンジンのほうが連桿比は大きく設計する傾向があります。


●それではK6Aエンジンではこの「コンロッド長」と「連桿比」はどうなっているのでしょうか。

↑私のK6Aエンジンのオーバーホール時に取り出した純正ピストン・コンロッドASSY。

 

K6Aはボア68.0mm×ストローク60.4mmで、コンロッド長は113.9mmとなっています。 これで計算すると

113.9/(60.4/2)=3.772となります。この数字を見て「おぉっ、意外にも大きい!」と驚かれる方も多いと思い

ます。 そうなんです、普通に考えれば可能なかぎり軽量コンパクトに設計したいはずの軽自動車のエンジンで

あるにもかかわらず、K6Aエンジンはちょっとしたレーシングエンジンなみに連桿比が大きいエンジンだったの

です。とくに直列エンジンとしては世界的に見ても異例と言ってもいいほどの大きな連桿比をもっているのです。

 

つまりK6Aエンジンは素性として高回転、高出力時でもピストンのサイドフォースによる摩擦抵抗が小さく、

メカニカルロスが少ない、高回転化チューニングするには素性の良いエンジンと言えるのです。 これはK6A

エンジンの意外な真実と言ってもいいでしょう。 しかもK6Aはショートストロークなため平均ピストンスピード

も余裕があり、旧規格K6Aエンジンのレッドゾーンである8500rpmでもわずか17.1m/secしかありません。

通常のストリートチューンでは平均ピストンスピードの上限はだいたい22.5〜24m/secですから、そこから逆算

するとK6Aエンジンの場合は腰下のみで見た場合、約12000rpmまでレブリミットを引き上げることが可能なだけ

の余裕があるのです。

※平均ピストンスピードm/sec=(ストローク[m]×回転数[rpm])/30

 

ただ、なぜK6Aはこんなに余裕のある連桿比に設計したのかという疑問については、私個人ではこう考えています。

たとえば、スズキは過去、550ccのF5Aエンジンを拡大して660ccにしてF6Aエンジンを作ったように、軽自動車

の排気量規格というのはいつ突然変更になるかわかりません。 そうなったときに660ccでギリギリの設計にして

しまうと、万が一途中で法律が変わってまた軽自動車の排気量が拡大した際にエンジンを新設計するほどの大改造

しなければならなくなります。 これは自動車メーカーとしては大きなコスト損失となってしまいます。

そこでスズキはK6Aエンジン設計時にあらかじめ将来、軽自動車の排気量がある程度上がってもシリンダーブロック

などの主要な部品にはほとんど変更することなく対応できるようにと、予め長めのコンロッドにして設計したので

はないかと推測できるのです。

まあ、実際にはこの20年間、軽自動車の排気量引き上げはなかったわけですが、はからずもこのK6Aエンジンの

「余裕を持った設計」が高回転チューニングにおいては有利になったということになりますね。

ちなみに、先代のF6Aはどうだったかというと、ボア65mm×ストローク66mmでコンロッド芯間距離が109.8mm

なので連桿比は3.327と平凡な数値になっています。 最新のR06Aは現時点ではコンロッド長が不明なのでわかり

ませんが、シリンダーブロック高さはK6Aより低いうえ、ロングストロークなのでおそらく連桿比は3.5以下しか

ないと思われます。 こう見るといかにK6Aが特異なエンジンなのかがよくわかります。

 

↑K6Aエンジンのコネクティングロッド。 写真は今は廃盤となったスズキスポーツ製のアフターパーツです。

 

K6Aエンジンは軽自動車のエンジンながら、クランクケースの分割方法にラダービームロアケース構造を採用

したり、今回書いたような大きめの連桿比を採用したりとさりげなくレーシングエンジンのエッセンスを取り入れ

たけっこう贅沢な設計思想で作られたエンジンだったのです。

これで、さらにシリンダーのアッパーデッキがオープンデッキではなくクローズドデッキで、バルブリフターが

アウターシム式ではなくインナーシム式だったらチューニングベースエンジンとしてはまさに完璧であったと言え

るでしょうね。

 

↑K6Aエンジンの大きな特長のひとつ「ラダービームロアケース」。各メインベアリングキャップをラダービーム

で一体化した高剛性な構造。まるで本格的なレーシングエンジンを見ているような贅沢な造りです。 これはF1

のエンジンなどと同様の構造です。 しかし残念ながらこの構造はR06Aエンジンには引き継がれませんでした。


<おまけ> エンジンの最高使用回転数上限を決定づける3つの要素。

 

1つは、前述しました「平均ピストンスピード」

これはそのエンジンの使われるフィールドで上限値が変わってきますが、一般市販車ではおよそ21m/sec前後、

チューニングエンジンや耐久レース用エンジンでおよそ24m/sec前後、F1のような極限エンジンでおよそ

29m/sec前後が上限になるかと思います。 これはいわば潤滑の限界ですので、使用するエンジンオイルの性能

によっても許容される数値が大きく変わってきます。

2つめは「動弁系のクラッシュスピード」

これは一般にわかりやすい例で言えば、バルブスプリングがサージングを起こしたり、バルブジャンプなどを

おこしたりしてカムのプロフィール通りにバルブが追従してくれなくなって、結果としてバルブの破損などに

つながる限界の回転数です。 これは動弁系の徹底的な軽量化や、バルブスプリングの強化、スプリング設計の

工夫などの対策をすることで対処しますが、F1エンジンのようなエアスプリングを用いた「ニューマチックバルブ」

を使えば20000rpm以上もいけますが、一般的な金属のコイルスプリングではどんなに頑張って設計しても

15000rpm〜16000rpm程度が限界だと言われています。

3つめは「吸気ポートの平均吸気流速」

空気というのはポートのような狭まった空間を通り抜ける場合は音速(気温15度で約340m/sec)を超えられ

ないという特性があるため、エンジン回転数が上がって吸気ポートを通過する空気の流速が音速に近くなって

くると極端に吸気効率が低下して空気(混合気)を吸い込めなくなり「窒息」してしまい、それ以上は回転を

上げることができなくなってしまいます。 この吸気流速の限界の平均値はだいたい90m/secと言われています

のでそこから計算し、目標のエンジン回転数に対してポート断面積が小さいと判断される場合には吸気ポート径

(バルブスロート部面積)を拡大し、さらに吸気バルブ径も大径化してビッグバルブ化する必要があります。

 

以上の3つの要素のうち、どれがいちばん先に限界を迎えるかでそのエンジンの使用できる回転数の上限が自然

と決まってしまうわけです。

 

●ではK6Aエンジンの場合はどこまで高回転化が可能なのでしょうか?

 

まず潤滑の限界である平均ピストンスピードですが、前述したように一般的な上限である24m/secで計算すると

約12000rpmまでいける計算になりますが、ここ一発で引っ張ったときに短時間であれば26m/secまで許容

すると仮定すると、瞬間的には約13000rpmまで使えるということになります。

次に動弁系のクラッシュスピードですが、バルブ周りが完全ノーマルのままの場合、バルブスプリングがヘタって

ない場合は10000rpmあたりまではいけると思われます。 バルブスプリングがヘタってきていたら瞬間的であって

も9500rpm、安全をみれば9000rpmあたりまでにしておいたほうがいいでしょう。 しかし、バルブスプリング

を強化品にしてある場合は11000rpmあたりまでは可能で、さらにバルブスプリングリテーナーをチタン製にする

など軽量化すれば12000rpmまで、さらにさらにリフター(タペット)を新造してインナーシム式、あるいは最近

主流のシムレス式に改造して徹底的に軽量化、高回転対策をすれば13000rpmもいけると思われます。

つまり、これらから考えるとK6Aエンジンの機械的な理論上の限界回転数はおよそ12000rpm〜13000rpm

がレブリミットではないかと推測することができます。

 

最後に残った要素である「平均吸気流速」ですが、これは機械的要素とは異なり、音速は吸気温度によっても

変化しますし、ポート形状によっても大きく変わってくるので、一概には言えず難しいところです。

平均としては90m/secから95m/secといったところが上限でしょうけど、MAXとなるとはたしてどのくらい

までいけるのか、たとえば220m/secまでなのか250m/secまでいけるのか不確定な要素が多いです。

吸気流速は音速が限界と書きましたが、現実に理論上ある程度確信をもって計算できるのはせいぜい音速の70%

程度が限界と言われています。 ましてターボエンジンとなると過給されて高密度で、粘性も高くなった空気が

相手では温度、密度の違いによる限界も理論通りにはいかないと思われます。 なので、この平均吸気流速に

ついては理論計算値だけではなく、吸気ポートの形状や径をいろいろ変えて実験してどこまでピークパワーの

発生回転数を高めることができるか試してみるしかないでしょうね。

 

●しかし、こうやっていろいろな角度から考察してみるとK6Aエンジンは案外ベースポテンシャルの高い

エンジンであることがわかってきて面白いものだなと感じます。 あとは、そのポテンシャルをどこまで引き出

せるかはチューニングショップのチューナーさんの頭脳と技術力、腕次第ということになりますね。

今でもたまに「K6Aなんて弱くてダメだ、F6Aのほうが頑丈でいい」とか言っているチューナーもいますが、

私に言わせればこういうチューナーは理論的で緻密でデリケートなチューニングができない「自分は技術のない

チューナーだと自分自身で言っているようなもの」だと思います。 K6Aは繊細なエンジンなので、ヘボな腕の

チューナーが弄ればすぐ壊れます。 しかし、しっかりした腕のチューナーが弄れば素晴らしい実力を発揮する

エンジンになってくれる素性の良いエンジンなのです。

 


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~