ピロボールラテラルロッドの製作
横方向の剛性を受け持つラテラルロッドをピロ化してみてどう変わるかを試してみました。

●この製品自体は各社から社外品が多種出てますので、それを買ってしまえばことが早い
のですが、実際のところ、ピロボールに信頼のおけるものを使用している製品はわりと少なく、
また、逆にガッチリ造りすぎてやや重さのありそうなものもあります。
私の使用用途や目的からすると、ノーマル相当の剛性は欲しいものの過度な剛性、強度は不要
なので、その中でできるだけ軽量にしたいというのがあります。
ただ、ピロボール自体がどうしてもノーマルのゴムブッシュよりも重くなってしまうので、残念
ながら、さんざん計算しましたがノーマルと同等の剛性を確保しながらノーマルよりも軽く造る
ことは難しく(もちろん予算に上限がなければ、ノーマルの70%程度の重量で造ることも可能
ですが)なるため、最低限の重量増で抑えることを重視しました。

↑製作したピロボールラテラルロッド。
以下にそれぞれのパーツについて書きます。
●ロッド本体
材質は秘密ですが、一般に使用されるSTKMなどの構造用低炭素鋼ではなく、やや高炭素な合金の
パイプ材を使用、外径はノーマルより2mm落しφ20mm、逆に肉厚はノーマルよりも0.75mm厚く
3mmとし、強度、剛性、質量のバランスを考慮しました。
また、応力のかかる外周部を重視して熱処理することで疲労性向上のために圧縮残留応力を残し、
3重の塗装をしてあります。 両端にはM16のメネジを切ってあります。 長さは710mmです。
ラテラルロッドは左折時には引っ張り、右折時には圧縮(曲げ)力を受けますが、問題なのはこの
右折時に受ける曲げに対するたわみ剛性です。 ここでロッド自体がたわんでしまうと、せっかく
ピロにして剛性アップしたことが活かせなくなりますので。
ただ、このバランスはけっこう難しく、いたずらに強く造ってしまうと過度な力が加わったときに
ロッドが破損せずにフレーム側マウントが破損してしまうことになります。
やはり、イレギュラーな力がかかったときにはロッドが曲がってくれるか、伸びてくれたほうが
フレーム保護になりますので、このへんのバランスはやはりメーカー純正が一番だと思います。
どこかを強化すれば、そのぶんどこかにシワ寄せがくるのが強化品の落とし穴ですので。
●ピロボールロッドエンド
NMB(旧日本ミニチュアベアリング、現ミネベア)の無給油型ロッドエンド、HRT16Eを使用。
以前に製作したスタビライザーブラケットではたいして強度は必要ないので、IKOの比較的安いピロを
使用しましたが、今回は用途が用途なので信頼と実績のあるものを選択しました。
このHRTの16サイズは当方でも日産マルチリンクサスのテンションロッドや、タイロッドエンドなど
に使用し、GT-Rなどでのスリックタイヤを履いてのサーキット使用実績が多数ありますし、実際に
引っ張り試験でも10t以上の耐久力を実証しています。
ちなみに、NMB発表の静破断荷重は12700kgfとなっており、通常の他の同じサイズのピロボール
ロッドエンドの約3倍から4倍の破壊強度を誇っています。
なお、ノーマルのロッドの引っ張り強さは計算上、約5600kgf(余裕をみて計算)ですので、それと
比較しても単純に倍以上の余裕があります。
ちなみに、ピロボールロッドエンドの破断する場所は、一般的にはネジの部分だと思われますが、実際
にはボール両脇の「耳」の部分が破断することも多いです。
全然関係ないジャンルの話になりますが、Fニッポンマシンのサスアームの支点に使用されているピロ
ボールは実は8mm程度のサイズの非常に小さなものです。 見た目に「こんなんで持つの?」と思える
くらいですが、これはわざとギリギリのサイズで設計しているためです。
つまり、クラッシュ時などにあえてすぐに破損するサイズを使用することで、高価なカーボンモノコック
を守っているわけです。 F1などでも、クラッシュしてないのにフルブレーキング時などにサスアーム
が破損するようなことがごく稀にありましたが、あれも取り付け部の強度をギリギリに設計しているため
に、たまたま起こることです。
つまり、あまり無駄に余裕がありすぎても重量がかさむだけなので、このくらいがちょうどいいと考え
ました。 (ちなみに単体の重量はHRT16Eが195g、その上のHRT18Eが250gになります)
このHRTおよびHRT-E型は、通常の2ピース構造ではボールをカシめる必要があることから本体に
あまり硬い材質を使用できないのですが、HRT型は3ピースで、ボール、レース、本体と3つのパーツ
から構成されていることからボールを直接カシめる必要がないため、本体に高強度な材料を使用でき
る(この場合はSCM435/HRc35〜/引っ張り強さ100kgf/mm^2〜)ことから強度的に優れています。
なお、このパーツは一度長さを決めてしまえば調整することはまずないので、あえてターンバックル式
にはしていません。 つまり、両端ともに右ネジです。

●ロックナット
これはアルミA2017を使用。 これも重量軽減のためで、1個あたりの重量は約4gしかありません。
表面は赤アルマイトを施してあります。
●ピロカラー
これもA2017を使用。 1個あたりの重量は約4.5g。
こんな荷重のかかる部分にアルミで大丈夫なのかと思われ方もいるかと思いますが、これについては
既に同じサイズのテンションロッドなどで充分実績があり、ここは引っ張りや曲げの力ではなく、
締めつけによる圧縮の力がメインでかかるところなので問題はありません。
これも表面処理は赤アルマイトです。
以上のような構成で、1本あたりの重量は約1300gとなります。 ちなみに、純正は1本あたり約1100g
なので、残念ながら200gの重量増加となりますが、限られた条件の中ではこれが限界でした。
ちなみに、このラテラルロッドやスプリングといったバネ下重量とバネ上重量にまたがる場合の考え方は
単純に半分バネ上、半分バネ下となります。
※なお、今回は私は自作しましたが、とくに大きな性能差の出る製品でもありませんので、普通は
素直に社外品の有名メーカー製を買われたほうが、結果として安上がりです。
とくにNMBのHRT型ピロボールは高価でかつ、あまり一般市場には流通しないので、一般の人が単品で
購入すると驚くほど高価なものです。
もともと、ピロボールロッドエンドは別名エアプレーンベアリングとも呼ばれることからもわかります
ように、本来は航空機の可動部分に使用されることから、インチサイズが主流で、むしろミリサイズの
こうしたシリーズは全体から見れば少数派なのです。
●取り付け
●フロント

●リア

↑取り付けたところ。
純正のラテラルロッドとそのまま入れ替えます。 長さははじめに合わせておきます。
なお、JA22のラテラルの穴ピッチ間の寸法は790mmです。 これはJA12およびJB23のフロント
も同じ寸法です。
※登録車(JB32、33、34など)のジムニーも構成は同じだとは思いますが、調べていません。
●インプレッション
まず、いちばんはじめに体感できるのは、サスの動きが軽いということです。
やはり、純正の柔らかいゴムとはいえ、ゴムブッシュのたわみによる抵抗よりも、ピロボールの
軽い動きのほうが明らかに軽快です。 また、ゴツゴツした不快感というのはありません。
普段の街乗りではそれほど大きくは変化しませんが、高速になるにつれその変化があらわれてくる
という感じです。 速度域が上がってくるとシャープになります。
横方向の剛性感のアップについてですが、たしかにサスの動きやタイヤから伝わってくるインフォ
メーションは向上しますが、個人的にはこれを剛性感と呼ぶのはちょっと異質なもののような気が
します。
ダイレクト感には違いないのですが、やはり基本的にシャーシ剛性の低いラダーフレーム車に、
部分的に剛性アップを図っても、それはシャーシとのバランスで考えると決して良好な印象になる
とは限らないと思います。 やはり高剛性なモノコックボディ車とは印象は大きく違いますね。
異音についてですが、走行中はとくにありません。 ただ、極低速、たとえば車庫入れのときや
すえ切り時などには、若干、キュッキュッという感じの音を出すことがあります。
●蛇足ですが
私のクルマは車高が純正のままなのでとくに変更する意味はないのですが、たとえば車高を上げたクルマ
などは、車高を上げたら本来はこのラテラルロッドのホーシング側マウント位置を、車高を上げたぶん
上方に上げるのが理想です。
(逆に、フレーム側のマウント位置を下げる製品もあるようですが、それでは逆効果です。 その意味
を以下で説明します)
よく、車高を上げた場合はこのラテラルロッドの長さを長くしてホーシングの横方向の位置ずれを
補正することが一般的ではありますが、理想論からいうとラテラルロッドの長さや角度は極力変えない
ようにして、このマウント位置で調整するのが筋なのです。
一般に車高を上げるとロールが大きくなりますが、もちろん、ショックやコイルのセッティングによって
もロールは変わりますが、実際のところコーナリング中などにかかる自動車をロールさせようとする力
は「重心高さ」と「ロールセンター高さ」のバランスによって決まっています。
例で言うと、メトロノームを思い浮かべていただければわかりやすいのですが、メトロノームの重りが
重心高さ、振り子の支点がロールセンターと考えてください。
つまり、ロールセンター位置に対して、重り(重心)が高くなればなるほど振れ幅が大きくなるとともに
揺れの収まりも悪くなるわけです。
逆に、ロールセンター高さに重りを近付ければ振れ幅も小さくなり、揺れの収まりも早くなります。
つまり、ロールを低減してコーナーの切り返しなどでのレスポンスを向上させるには、重心高さとロール
センター高さを近付けてやれば良いことがわかると思います。
つまり「重心が高くなったら、そのぶんロールセンターも高くしてやる」ことで、ノーマル車高と同等の
ロール量に抑えることができるのです。
極端な話、ロールセンターと重心が同じ高さになると「ノンロールカー」になります。 F1などの
フォーミュラカーなどはこれに極めて近いものです。
ただ、とくにハコ車の場合はロールさせることで外側のタイヤを押し付けることでグリップ力を得て
いますので、過度にロール量を減らすとかえって逆効果になります。
このロールセンター高さを決めているのが3リンクの場合、このラテラルロッドのマウント位置なのです。
つまり、車高を上げると重心高さが上がりロールセンターとの距離が伸びることから自然とロールが大きく
なってしまうわけです。 ですので、ロールセンター位置を上げてやることが重要になります。
こうすることでスタビライザーやスプリング、ショックの硬さに頼ることなくロールを抑えるセッティング
が可能になるわけです。
当然、前後別々にセッティングすることで前後サスのロール剛性の変化をつけることもできますが、これは
かなり上級者向けの調整となります。
また別の視点から見ても、ラテラルロッドの長さの変更だけで車高アップの左右ずれのつじつまを合わせる
ことは悪影響を生みます。 マウントがそのままでラテラルの長さで調整する場合、当然ノーマルよりも
ラテラルロッドの角度が大きくついてしまいますので、サスペンションのストロークに伴うボディの横方向の
動きが大きくなるため(ラテラルロッドは円弧運動をするため、角度がつけばつくほど同じストロークでも
横方向への変位が大きくなる)ボディの揺さぶられ感も大きくなり、安定性が低下しますので、こういう
意味でも良好とは言えません。
また、ジムニーの場合は滅多にないと思いますが、逆に車高を下げる場合は上記とは逆にロールセンターが
上がる方向にいくので好都合ではないかと思われますが、これもまた微妙なところで、今度は逆に縮み側
と伸び側のストロークバランスが崩れる可能性があります。
つまり、クルマがコーナリング時にロールするときは、外側が縮み、内側が伸びますが、このバランスが
崩れて、外側の縮みよりも内側の伸びが多くなってしまう、いわゆるジャッキアップ現象ということが
起きやすくなります。 こうなると、外側のタイヤに大きな荷重がかからなくなって、コーナリング限界
が下がってしまいます。
一見、単純に見える構造の3リンクサスペンションですが、純正サスのロッドのマウント位置というのは、
こうした様々な要素のバランスをよく考え、テストされて作られているわけです。
ちなみに、サス形式にもよりますが、一般的なスイングアームやウイッシュボーンなどの独立懸架のサス
の場合は多くは上記とは逆に車高を下げることでロールセンター位置が下がってしまいロールが増えるので
サスアームの角度を純正に近く修正してロールセンターを上げてやることが必要になる場合があります。
昔からあるロールセンターアダプターなどはこれを矯正するためのものです。