フロントショック上部ブッシュのピロボール化

フロントショックアッパーブッシュの芯振れ対策品として製作しました。


●JA22/12/JB32のフロントサスは設計的に無理があることはよく言われていますが、

通常の街乗りで使用している限りはまず致命的になるほどの問題は生じません。

ですが、この型の車体もすでに生産が終わってから7年を経過する頃ですので、走行距離

も延びた車が多くなってきた頃と思います。

どんな車もそうですが、やはり距離を走るとその車固有の「弱点」というのが顔を出してきます。

まさに今回はそんな部分のひとつである、フロントショックアブソーバー上部のブッシュの

「芯振れ対策」をしました。

 

↑これはパーツリストの図ですが、今回問題となるのは「16」の部品です。

これはブッシュの受けとシャーシ側の穴にガイドとしてはまり込みリテーナーとしての役目を

しており、ショックの同芯を支持しているパーツです。

 

↑これが私の車から外した「16」の部品ですが、見ての通り、ショックのシャフトが干渉している痕が

わかります。 実際に測ってみると、0.3mmほどですが磨耗していました。

酷い車両になると、この磨耗がさらに進行し、ついにはフレーム側の穴までも削って拡げてしまうのです。

ですのでそこまで症状が悪化する前に、このリテーナーの磨耗の時点で何らかの対策をする必要があります。

 

↑こっちはシャフト側。 こちらは擦られた箇所が光っている程度で、寸法にあらわれるほど磨耗

しているわけではないので実際には問題にはならないのですが、干渉している部分が光っています

ので状態はよくわかると思います。

 

↑これは上側ブッシュ(上図の15、上側)の下面から見たところ

このように上側ブッシュの下面側の穴が長穴に広がっていることからもわかるように、この部分

でショックの揺動運動を吸収していることがわかります。

フレームのプレートを挟んで下側のブッシュはこの変型はまったく見られませんので、上側ブッシュ

に集中して揺動の力が働いていることがよくわかります。

これらは構造的な問題なので根本的な解決は難しいのですが、実際には多少干渉している程度では

これといって問題になることは少なく、とくにサスペンションがノーマルな車では問題が出たとして

も若干の「キュッ、キュッ」音が出る程度で済むことが多いと思います。

ですが、たとえば車高の上がるサスを組んだりしている車の場合はサスストロークが増えてショック

のマウントに対しての角度変動がノーマルより大きくなってくることから当たりがさらに偏り、局部

的により強く当たることがあります。 これは長期的に見ると無視できない問題となります。

とくに走行距離の進んだ車両の場合は一度チェックしてみると良いと思います。

とりあえず、定期的に(と言っても30000kmから50000km程度おきでいいと思いますが)この

リテーナーをブッシュとともに新品に交換していけば問題はないと思います。

ただ、今回は折角の機会ですのでこのリテーナーに以前から考えていた「自己調芯機能」「揺動機能」

を持たせた新しいパーツ、「ピロボールブッシュアダプター」を組み込んでみました。

 

●対策のポイント

この現象のプロセスを解析すると、この「上部ブッシュの揺動運動→穴の広がり→ショックのシャフト

の芯がずれる→リテーナーとショックのシャフトが接触する」という手順になるものと思われます。

つまり、一番の問題はこのゴムブッシュにショックのシャフトの「同芯支持」をさせていることに

あり、ゴムブッシュにシャフトの同芯をおこなわせている構造である以上、仮にブッシュを強化して

も遅かれ早かれこの現象は発生してくるものと思います。

ですので、対策としてはこの同芯の位置決めを他の部品でおこなわせ、ブッシュには純粋に上下方向の

力のみを負担させることで、ブッシュに対しての軸の揺動運動による芯ずれの影響を与えないように

することにあると結論付けました。


↑製作したピロボールブッシュアダプター。

本体およびピロボール、その上に載せるワッシャー(上側ゴムブッシュの受け)とで構成されます。

ピロボールはNMBのSBT10を使用。

この部分はピロボール自体にかかる最大の力はショックの作動時にかかる伸び方向の減衰力の力だけ

ですので、それほど過酷な条件ではありませんので、一般的な無給油ピロボールで充分です。

余裕をみてアキシャル方向荷重で500kgf以上あれば問題はないでしょう。

なお、ピロボール内径の両側はR面取りをしておきます。 これはシャフトの上下微動の際の慴動を

少しでも滑らかにするためです。

ワッシャーはシャフトとの接触を考慮して銅ワッシャーを採用、ゴムブッシュと接着としました。

 

●見ただけでは「これで何が変わるのか?」と疑問に思うかもしれませんので、以下のCAD図で解説

します。

↑ピロブッシュアダプターを組み込んだときのフロントショックアッパー部の断面図です。

左が垂直時、右がサスがストロークしてショックが揺動したときの角度がついた時です。

この図で解ると思いますが、まず、このピロボールでショックのシャフトの同芯を支持します。

シャフト側はピロボールのボール内径で、外側(フレームの穴)側は製作したアウターレースの「首」

の部分を勘合させて支持します。

これによって、上下のゴムブッシュにはまったく同芯の仕事はさせることが必要なくなりますので

理論上、これでフレーム側の穴とショックのシャフトが接触することはなくなります。

 

次に、揺動時ですが、揺動はピロボールを中心にしておこなわれることになりますので、今まで負担

の多かった上側ブッシュは揺動運動は負担することがなくなり、純粋に上下方向に押さえ付ける力

しかかからなくなります。

逆に、下側のブッシュには上下方向とピロボールの揺動に伴う揺動の力も負担することになりますが、

こちら側は上側にくらべるとはるかに負担の少ないブッシュです(ショックアブソーバーは縮み側の

ほうが伸び側よりも減衰力がはるかに小さいので、縮み側の力しか負担しない下側ブッシュはもともと

上側に比べて負担は半分程度しかないのです)ので、まったく問題はありません。

仮にこの下側ブッシュがヘタったり穴が広がったりしたとしても、同芯は前述しましたようにピロで

支持しているので、ショックのシャフトセンターがずれることはありません。

 

これがピロボールアッパーブッシュアダプターの動作原理と対策原理です。

なお、取り付け時にもこのパーツの利点はあり、取り付けも上側のブッシュ側のみの作業であるため

ジャッキアップしたりサスを外したりする必要もなく、エンジンルーム側からの作業のみで取り付け

られるという作業上の簡単さもあります。

 

それと、気がつく方もいるかと思いますが「この構造ならば上側のゴムブッシュは不要ではないか」

と感じられる方もいるかも知れません。

たしかに、揺動運動だけを考えれば上側のブッシュは不要です。 しかし、このブッシュはショック

がストロークする度に、上下方向の緩衝作用も受け持っていますので、ほんの1mm程度ですが、常に

上下にも伸縮しているのです。

この際、サスの伸び方向ならばたしかに上側のブッシュは不要なのですが、サス縮み方向の場合は上側

のブッシュがないと、下側のブッシュが縮むとピロボールブッシュアダプターの上下に隙間が生じること

になるので、サスが動作する度に「コツコツ音」が生じることになるので、それを防ぐために上側から

「押さえ付ける」バネ作用が必要なのです。 それを上側のブッシュが担います。

 

↑実際に組み込み順はこのようになります。

 

●ピロボールブッシュアダプター本体について

この本体の材質についてはさして極端な力のかかるわけでもなく、単純に上下のゴムブッシュに

挟まれて揺動運動しているだけですので、何でもいいのです。

しかし、もし「万が一」過大な傾斜などでシャフトが接触するようなことがあった場合のことを

考えると、「相手材を傷つけず、磨耗させず」にしかもこれ本体はそれなりの機械的強度を確保

したいというのがあります。

単純に耐摩耗性だけを上げるのであればS45Cあたりで製作してタフトでもかければ充分なのですが

そうすると、万が一ショックのシャフトが接触した場合、シャフトの材料のほうが負けてしまい、

シャフトを削ってしまう可能性があります。

(ショックのシャフトはロッド部は表面の硬さは上げてありますが、ネジ部などは折損を防ぐために

基本的に熱処理はされておらず、意外と柔らかいのです)

いろんな要素をふまえた結果選んだのがC6191(ALBC)という青銅系の材料で、これはレース用

エンジンの吸気側バルブガイドなどにも使用することのある材料で、銅合金の中でも耐摩耗性と機械的

強さ、摩擦抵抗の小ささなどのバランスの良い合金です。

この材質は車以外の機械関係でも私は昔から使用しているものであり、無給油状態での厳しい条件での

使用実績を信頼しての選択です。

その他では、よく使用されるPBC(りん青銅)などよりも強度が高く、無潤滑環境での耐摩耗性に

優れていますし、Be-Cu、いわゆるベリリウム銅が考えられますが、今回は基本的に無潤滑状態での

微動時の耐摩耗性を優先してALBCを選択しました。

これによりもし不測の事態でシャフトとの接触があっても、本体の磨耗の促進は最小限に抑えられる

とともに、シャフトやフレームの鋼鈑が削れられることのない組み合わせとしました。


●組み込んだ状態。

取り付けは写真の通りです。

このパーツの取り付けはボンネットを開けてすぐに作業できます。

ジャッキアップして下に潜ったりショックを外したりする必要はありません。

取り付けはノーマルと交換するだけですが、ピロボール内径はショックのシャフトと擦れることを

前提にして予めグリス(普通のグリスではなく銅粉末混入のブレーキグリスを使用しました)を

塗布、充填しておきます。

なお、このショックシャフトとピロ内径部分の接触による磨耗については、ノーマルのリテーナー

に比べてはるかに接触面積が大きいこと、ボールが揺動の動きを自由に許容することから、かかる

負荷はノーマルのリテーナーに比べてはるかに少なくなりますし、なお且つグリスの充填します

のでほとんど気にする必要はなくなると考えております。

 

また、間にピロボールブッシュアダプターを挟みますので、そのぶんナットの固定位置も上に

ずらします。 具体的には純正位置よりも17mm上の位置でロックナットでロックします。

なお、この締め込み加減で、ブッシュの潰し代をコントロールできますので、やや強めに

締めれば、強化ブッシュと似たような効果が得られます。 ただしそのぶんブッシュのヘタリ

も早くなりますので、ほどほどにしないといけません。

私の場合は標準よりも2mmほど締め込みました。


ちなみに、ここに使用するブッシュ(図の15)はスタビライザーのブッシュと同じものですので

スタビ用の強化ブッシュを使用することも可能なのですが、ここを強化するとサスペンションの

ストロークに伴うショックアブソーバーのシャフトの揺動を阻害することになりますので、あまり

強化するとショックのシャフトに偏った曲げ方向の力が働き、動きが悪くなったりショック内部の

シールやブッシュによけいな力がかかることからショックの寿命を縮めることがありますので、

安易な強化はお薦めしません。

また、とくに私が使用しているような減衰力調整式のショックの場合は、このシャフトの中心に

調整用のロッドが通っており、このことでシャフトの断面積が減っている上に、減衰力もアップ

していますので、強化ブッシュにするとそのことによるサスペンション伸縮時の瞬間的な力の

増加によって、ナットの部分に大きな力がかかりますので、場合によってはシャフト先端のネジ

部が疲労によってちぎれる可能性もあります。 こうなるとショックがオシャカになります。

また、フレーム側のプレートのほうも、あまり強度的に余裕がありません。

この車のフロントサスは一見するとストラットユニットのように見えますが、実際にはスプリング

のアッパーシートとショックのアッパーマウントの位置は別々になっています。

ですので、このショックアッパー部分はあくまでショックの力しかかからないので、局部的に車重

を支えるほどの強度的余裕は与えられていません。

ですので、強化ブッシュにすることでショックの上下方向の運動の変動時にマウント部にかかる

力が増しますので、これによってマウント部の変型や穴の縁からクラックが入ったりする原因に

なりかねません。

もし強化ブッシュにする場合はこのへんのデメリットをよく考慮しておこなうことです。

ですので、私は今回あえて上下のブッシュはあくまで純正を使用し、強化品は使用しておりません。


●実際の効果

はじめに断っておきますが、今回はあくまでも実験的な要素が強いです。

本当に良好な結果が得られるかどうかは長い距離を走ってみないことにはわかりません。

また、私のようにノーマル車高の車ならば全く問題はないですが、車高が上がるサスペンション

に換えている車両などではサスストロークの増大に伴い、ショックの揺動角度がノーマルより

大きくなっているものもあるかと思いますので、それに対応できるかどうかも不明です。

とはいえ、現時点では狙い通りの効果を出しており、異音の発生もなく成果はかなり良好

といえると思います。

また、標準より多少ブッシュを締め上げているせいもあり、ショックの減衰の立ち上がり

が早くなったため、よりクイックな印象になりました。

 

●この型のジムニーに乗ってる方へのアドバイス

とりあえず、この型の車両(JA12/JA22/JB32)のオーナーの方は、いちおうチェックだけ

してみて、干渉している場合は該当の部品を新品パーツに交換して、擦れる箇所にグリスを

塗布して組み付けると良いでしょう。

どうせならパーツリスト図の15、16、17のすべてを新品に交換したほうが良いと思います。

とくに距離を走ってる車両(50000km以上)、および前オーナーがどんな使い方をしたのか

わからない中古で入手された方、すでに音が出ている車両は要チェックだと思います。

これからこの型の車両を中古で買おうと考えている方は、車齢を考えると中古車屋で実際に

確認させてもらうくらいのほうがいいと思います。

酷い場合はリテーナーだけではなく、フレーム側の穴も削られて広がってしまっている場合も

あるかと思いますので、そうなると大掛かりな修理が必要になってくる場合もあるからです。

ショック頭部のナットを外して、上側のリテーナーとブッシュを外せばチェック自体はわり

と容易にできますので。(ただ、ネジが錆びついているとちょっと厄介です)

それと、とくに前後方向にアタリが強い場合は、ショックユニットに無理な力がかかったまま

組まれている可能性があるので、このショック先端にかかっている偏った力を少しでも

キャンセルさせるために、1G状態でショック下側のホーシングとの取り付け部分のボルトを一度

緩め、ブッシュをフリーにして再度締めてやることも有効だと思います。

とくに社外ショック交換などをした際に、ジャッキアップ状態で本締めしてしまうと、1G状態

では常に偏った方向に力がかかっていることがあります。

これを緩和するだけでもかなり変わってくるはずです。


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~