ロールセンターアダプターの製作(失敗編)
リアのロール軽減を狙って製作したのはよかったのですが…
●ロールセンターアダプターと言うと一般的にはストラット等の独立サスのアーム角度を
補正するスペーサーを連想すると思いますが、ジムニーは3リンクのリジッドサスですので
ロールセンターを決める要素は2本のリーディング(トレーリング)リンクのピポット部
位置とラテラルロッドのピポット部の位置関係で決まります。
それで今回装着するパーツはラテラルロッドのホーシングピポット部を変更するもので、
市販で売られている「ラテラルアップブラケット(ラテラル補正ブラケット)」と基本的に
同様なものとなります。 通常、これは車高アップした際のラテラルロッドジオメトリーを
補正するために使われるものですが、私の車は車高はノーマルのままです。
なのになぜこれを付けようかと考えたかというと、ひとことに舗装路、とくに高速道路での
走行安定性アップのためです。
具体例で言うと、東名高速下りの大井松田〜御殿場間の右ルートはR300〜R600程度の
カーブが連続しているのですが、ここをずっとメーター振り切りっぱなしのスピードで走ろう
とするとちょっとしたステアリング操作でけっこう車体がフラつくことが気になるのです。
フロントはまだスタビライザーを強化してあるので良いのですが、リアはスタビがないこと
もありこのへんの収まりが悪く、ときにはヒヤッとすることがあります。
ですので本来はリアにも細いスタビを入れれば良いのでしょうが、それだと車体側にも熔接
なり穴あけなり加工を加えなければならず大工事になりそうですし、いろいろと試行錯誤を
くり返さないとならないので、今回はもっと基本的なサスのジオメトリー部分に手を入れて
改善することでその変化を見ようと考えたわけです。
●ロールセンターアダプター(ラテラルアップブラケット)の原理について
まずはなぜこれでロール低減になるのかを簡単に説明したいと思います。
これはジムニーを後ろから見た概略図です。

車がロールするとき、ロールの中心となるロールセンターに対して重心位置(重心高さ)
がどのくらい離れているかでその絶対ロール量が決まります。
(なお、この図で書いたロールセンター位置は単純にするためにラテラルロッドについて
のみ書いたもので、現実には前後アームの支点位置も絡んできますのでやや複雑になります)
わかりやすく喩えると、音楽で使うメトロノームを思い浮かべてください。
メトロノームの振り子の棒の揺動支点がロールセンター、振り子の錘が重心点となります。
このとき、振り子の錘の位置を高くする、つまりロールセンターと重心点の距離が離れる
と振幅、つまりロールは大きくなると同時に揺動速度はゆっくりになります。
逆に振り子の錘の位置を低くする、つまりロールセンターと重心点の距離が短くなると
ロールは小さくなり揺動速度は速くなります。 これを車のロールに置き換えても同じこと
が言えるのです。
このことからロールセンター〜重心点の距離を短縮することがロール量を減らし、なおかつ
クイックに動くようになることが解ると思います。 つまりロールセンターを補正(上げる)
することは単純にロール量が減るだけではなく、スラローム走行のような切り返しの際の車体
のロールするスピード(レスポンス)も素早くすることができるということです。
メトロノームの場合は錘(重心点)の高さを変えることでこの距離を変えますが、車の場合は
揺動支点の高さを変えてこの距離を変えます。(もちろん重心高さを低くする改造もあります)
これがロールセンターアダプター(ラテラルアップブラケット)によるロール低減の原理です。
ですが、本当ならばホーシング側を上げたらそのぶんフレーム側のピポット位置も上げたほうが
理想なのですが、それはお手軽にできる改造ではないので今回はホーシング側のみの対処です。
ちなみに、このロールセンターと重心点が同じ高さになると、まったくロールしない、いわゆる
ノンロールカーになります。
<蛇足かもしれませんが補足>
一般に車高アップしたジムニーのラテラル補正には「ラテラルアップ」と「ラテラルダウン」の
2つの方法が存在します。
上記の説明でもわかると思いますが、この場合、ラテラルアップのほうが安全な方法と言えます。
ラテラルアップブラケットならば車高を上げたぶんラテラルロッドのホーシング側支点の高さを
上げてやることで、理論的にはノーマルとほとんど変わらないロールに収めることができます。
しかしラテラルダウンブラケットではフレーム側のピポットを下げるため、上図にあるロール
センター〜重心距離がノーマルよりさらに伸びてしまう(つまりロールセンターが下がる)ことに
なり、結果としてロール量の増大になるために走行安定性の悪化を招くことになるのです。
またこのことは当然、危険回避の際の急なステアリング操作での転倒のリスクも大きくなります。
これは何もオンロード走行に限ったことではなく、低速競技のオフロード走行でも車体が傾いた
状態での走行時に転倒のリスクが大きくなることには変わりありません。
ですので私個人としてはラテラルダウンブラケットについてはあまり感心しない改造なのです。
また、同じことは前後のサスアーム(リーディングアームとトレーリングアーム)のボディ側支点
を下げるブラケットにも言え、これもロールセンターが下がるためリスクを伴う改造と言えます。
多くの人はラテラルロッドの角度をとりあえず水平に近くもっていくことばかりを考えているよう
ですが、重要なのはそれに伴うロールセンター高さの位置がどう変化するのかをよく考えて行う
ということです。 重心の高いジムニーだからこそロールセンターは過度に低くならないように
しなければなりません。
●製作したロールセンターアダプター
と言ってもベースは市販品です。 数社から出ている「リア用ラテラル補正ブラケット」に以下で
説明する理由により改造を加えたものになります。
これは同じ製品がいくつものショップから出ているようですので製造元は1つだと思いますが、以下
の改造理由および内容を見て購入先からクレームが来ると嫌なのでどこから購入したかは書きません。

↑購入したブラケット。 JA22/JA12/JB32用で、リアのラテラルのピポットを上方に40mm、
左側(後方より見て)に60mmずらすように出来ています。
しかし問題なのはこの「左側に60mmずらす」というのが余計なのです。 これの目的は
「サスストロークに伴う円弧運動する際の横方向への変位量を純正より長いラテラルロッドを
使用することにより抑えたい」のだという考え自体は解るのですが、それをおこなうならば
このブラケットだけでなくフレーム側のピポットも同じ寸法だけ反対側に移動させないと、車体
中心に対して左右均等にならないため、ラテラルロッド自体がただ全体に左側にずれた状態になる
ため、ロールセンターの左右方向の中心そのものが左側に60mmずれてしまうことになるのです。
このことは即ち、同じスピードで同じRのカーブを曲がった際、右側にカーブするよりも左側に
カーブしたときのほうがロールが大きくなってしまうことになり、左右のロールバランスを
狂わせることになってしまうのです。 ましてや1名乗車の際には車の右側が重たくなります
ので、なおさら左カーブ時のロールが増大します。 これはたいへんお粗末な設計と言えます。
独立サスで言えば、左右のサスアームの長さが60mmも違ってしまっているのと同じことなのです。
これは理論的に絶対に間違っていますので、私はどうしても納得いきません。
サスペンションリンクのピポット位置変更は車の基本部分に手を加えることになりますので、慎重に
メリット、デメリットを考えておこなわなければならないもので、安易に「ただ伸ばせばいい」と
いうものではないのです。
ですので、上記の問題点を修正するため純正長さのラテラルロッドをそのまま使用できるようにする
ための改造をすることになります。
●それともう1点、品質面で気になったのは、以下の折り曲げ終端部です。

↑ここの溝が鋭く「切れ込み」状になっているため、応力の集中によりここからクラック(ひび)の
発生が起きるのではないかという心配があります。 素材はおそらくSS400相当だと思いますので
炭素鋼ほど切り欠き感受性は高くないと思いますが、この部分は補強リブの終端部と取り付けボルト
穴に挟まれた部分であり、横Gがかかった際には非常に大きな力がかかる箇所ですのでこれでは不安
を感じます。 やはりきちんと応力を分散させるようにR溝処理していただきたいところです。
●改造プロセス
この改造についてはいくつか方策を考えました。 このブラケットをそのまま活かし、アダプター
を作成してやる方法と、このブラケットの熔接を一旦剥がして、位置をかえて再度熔接しなおす
方法と2つ考えましたが、アダプターを作るやりかたでは無駄な重量増に繋がるため、ここは後者
の方法をとることにしました。

↑まずは熔接ビード部をディスクサンダーで取り除いて本体とブラケットを分割したところ。

↑次に純正位置までブラケットをずらし(つまり60mm)再度全周を熔接し、最後にサンドブラスト
を全体にかけたところ。サンドブラストをかけることで若干の金属疲労への耐性効果も期待できます。

↑問題のクラック(ひび)の起点となりかねない切れ込み部はドリルで穴をあけてR状にしました。
これだけの加工で応力が分散されますのでクラック発生の危険性はぐっと減ります。

↑最後に表面処理として「タフトライドSQ」をかけて終了です。
サンドブラスト+タフトライドSQと2重に残留圧縮応力を付加する処理をすることで疲労破壊に
対する耐久性アップと表面硬化による部品自体の剛性アップを狙います。
このタフトライドSQというのは通常のタフトライドが持つ「表面硬化、耐疲労性向上」に加え
「防錆(防蝕)性能」を付与させたもので、通常のタフトライドが灰色なのに対して黒色の表面
をしています。 このタフトライドSQは一般的なクロームメッキや亜鉛メッキ等よりも錆に強く、
またメッキのように剥がれたりする心配もないため強度部品に使うには適した処理と言えます。
(ちなみにこの製品にもともと施されていた黒い表面処理は亜鉛メッキの黒クロメートです)

↑このように純正ピポット位置の真上にブラケットを移動させました。 これによりノーマル
長のラテラルロッドが使用可能になります(微調整は必要になりますが)。 熔接はもともとの
製品よりもよりガッチリと強固に熔接してあります。
●取り付け
ですが、ここで大失敗となってしまいました。
仮組みしてみてわかったのですが、組み込みそのものは問題なくできるものの、私の車は車高が
ノーマルのため、これをつけるとラテラルロッドとマフラーのパイプとのクリアランスが15mm
程度しかなくなってしまうのです。
これではリアサスがちょっと沈んだだけでマフラーとラテラルロッドがぶつかってしまいます。
改造前に一度確認しておけばよかったのですが、ここまできてなんとも悔しい結果に。
結局、泣く泣く取り付けは断念しました。 ここまでしっかり手間をかけて作っただけに非常に
残念ですがすべて無駄になりました。
やはりこのパーツは最低でも40mm〜50mm程度は車高を上げたジムニーでないと無理ですね。
●というわけで今回は「大失敗」となったわけで、せっかく手間ひまかけて作ったこの部品は
お蔵入りとなってしまいました。 アイデア自体は良かったと思うんですが残念です。
※問い合わせがくるかも知れないので先に断っておきますが「パーツは自分で購入するのでこれと
同じ改造をしてほしい」という依頼はお断りいたします。 熔接部の切断がけっこう大変なのでもう
やりたくないのです。申し訳ありません。
(なお、今回製作したこのブラケットそのものが欲しいという方がいましたら価格応談にてお譲り
してもいいですが、改造部品につき完全ノークレーム、自己責任でというのが条件となります)