(番外編)ターボのサージング現象について
まだ私自身はサージングで困ったことはないのですが
●最近はJB23ジムニーのノーマルタービンでも吸排気系パーツの組み合わせによって、あるいは
立ち上がりの良いブーストコントローラーによる「ターボのサージング」が起こるようです。
ひと昔前はあまりこういう現象は起こらなかったのですが、最近の純正ターボやチューニング
ターボはレスポンス性能が向上した結果、ちょっとしたことでサージングに見舞われます。
そもそも「ターボのサージングとはなんぞや?」という話ですが、私は後述するブローオフバルブ
からのバックタービンは別として、まだこのターボチャージャーのサージングという現象を体験
したことがない、というかサージングで悩まされたことはありません。
現在のジムニーのHT07や以前のHT06ノーマルタービンブーストアップでもありませんでしたし
それ以前に乗っていたR32GT-Rのニスモタービン、あるいはパルサーGTi-Rのノーマルタービン
ブーストアップでもサージングなどというものとは無縁でしたので。
●そもそもサージングという言葉の意味を考えると、不整振動や共振などといったもので、有名
なのはバルブスプリングのバルブサージング現象です。 これは高回転になると金属バネのもつ
固有振動数により共振して、カムの動きに関係なくスプリングが勝手に伸縮する「自励振動」の
ことで、バルブの動きの制御が効かなくなることです。 これによりバルブスプリングが座面から
浮き上がってしまうこともあり、最悪はバルブの折損、バルブスプリングの破損につながります。
※バルブスプリングのサージングでたまに「高回転でカムの動きにスプリングがついてこれなく
なる」と説明してる人もいますがこれはバルブジャンプであり、サージング現象とは違います。
●本題の「ターボのサージングとはなんぞや?」ということについてですが、ひとことで言うと
「ターボコンプレッサーが回っているのに過給すべき仕事ができない"空転状態"」という
言葉につきると思います。 つまり、このコンプレッサーホイールが空転状態になる現象を総称
としてサージングと呼んで差し支えないのではないかと考えます。
実際の絶対圧がどうかということではなく、コンプレッサーホイールの吸入側に対して吐出側の
圧力が高くなりすぎてコンプレッサーホイールの羽に沿って空気が流れなくなり、結果として
空気を送り込むことができない=過給ができない状態に陥るということです。
サージングは前述のように「自励振動」ですので、これが元でインペラーが異常振動を発生します
から、サージングを起こしたままで使用を続けることはタービンの寿命を極端に縮めることになり
最悪はタービンブローに繋がります。
というわけでここでは、具体的にどういった状況でサージングが起こり得るのか、またそれへの
対処はどうすればいいのか、という現実的な問題を重視したいと思いますので、学術的なことを
知りたい方は専門書を読むなりして勉強していただくとして、ここでは実際にチューニングに
おいて発生するサージング発生のメカニズムと、それへの対処について書きたいと思います。
●CASE1 バックタービンによるサージング
これがもっとも一般に体感しやすいサージングではないかと思います。 具体的にはある一定の
アクセル開度で運転してるとき、アクセルを踏み込んでブーストをかけ、そこからまたアクセルを
戻すと「ヒュルルル」とか「プシュシュシュ」とかいう音が聞こえます。(ノーマルのエアクリ
ーナーボックスではあまり聞き取れないかもしれませんが、むき出しタイプのエアフィルターに
替えていたり、ブローオフバルブを大気開放にしているとよく聞こえます)この音の原因こそが
サージングそのものです。
どういうことかというと、それまである程度の過給をしていて送り込まれていた空気が、アクセル
を戻すことでスロットルバルブでせき止められ一部はブローオフバルブ(リサーキュレーション
バルブ)からリターンされますが、一部はターボまで戻ってきます。 このことでコンプレッサー
から吸込まれた空気と戻ってきた空気とがぶつかりあい、そこでの圧力が局所的に高くなることで
一時的に過給ができない状態になるわけです。 つまり冒頭で書いた「コンプレッサーが回って
いるのに過給すべき仕事ができない」状態=サージングというわけです。 なお、このとき
コンプレッサーの羽根でぶつかりあった空気によって「ヒュルルル」のような音を出すのです。
これへの対処というか対策ですが、ハッキリ言って何も必要ありません。 適切な容量のブロー
オフバルブがついていて、全開→全閉時にさえせき止められた空気がきっちりと放出されれば
パーシャル状態でバックタービン音が出る程度ではタービンは壊れませんので心配いりません。
ちなみに、よく純正のブローオフバルブは弱くてちょっとブーストアップしただけでも圧が漏れる
傾向にあると言われますが、これはメーカーがこのようなサージングによる悪影響をできるだけ
避けたいため、あえてちょっとしたことでもすぐに開くようリリーフバルブとしての役目を持たせ
弱めに設定しているためです。 安全第一というわけです。
●CASE2 チョーキングによるサージング
これは最近の小型ハイレスポンスターボではけっこう問題になることらしく、ダイハツのコペンなど
でもよくブーストアップでのサージングが問題になっています。 これの発生メカニズムは上記の
パーシャルやハーフアクセルではなく、フルスロットルでの全開加速したときに一気にターボの回転
が上がるわけですが、その回転上昇にともないコンプレッサー入口(サクション部)の空気が
一瞬遅れ、真空状態に近くなることでターボが空気を吸い込めなくなり、結果としてトルクが一瞬
下がってしまい、加速に「息つき」が起きてしまったり、これがくり返されることでハンチングが
起きる(トルクが波打つ)現象です。 これもまさに「コンプレッサーが回っているのに過給すべき
仕事ができない」状態なわけです。これは言わばターボが窒息状態になるわけですので、チョーキング
とも言えます。
これの対策ですが、残念ながら現在のところはネガティブというか消極的な対策しかありません。
要するにターボのレスポンスが良すぎるために起こることですので、対策としてはターボの立ち
上がりを遅くするしかないのです。 具体的にはエアクリーナーや排気のフロントパイプや触媒
でわざと抵抗をつけてやり、とくにハイブースト時のターボの回転上昇を鈍らせる、あるいは
スイングバルブ(ウエイストゲート)の穴を少し大きくしてやってなるべく早くから排気のバイパス
を逃がして過給圧の上昇をゆるやかにしてやる、さらにはタービンハウジング内径を拡げてタービン
ホイールとのクリアランスを広くしてやって排ガスをリークさせる、電子式ブーストコントローラー
のゲインセッティングでブーストの立ち上がりを遅くしてやる、さらには設定ブースト圧そのものを
下げてやる…などです。 いずれも対症療法で、わざとレスポンスを落とすわけですからチューニング
という観点からすると実に不条理な話です。
あとは、ターボ本体の対策として下記のような「ポーテッドシュラウド」という方法があります。

↑ポーテッドシュラウドタービンのコンプレッサー。
これの原理は、前述したようにコンプレッサーホイール直前での気圧が低くなりすぎた際には
ホイール部側面に空いた穴から一部の空気がインデュース部にリターンされることでコンプレッサー
に送り込む空気が減ると同時にサクション部の負圧も軽減してやることで窒息状態を防ぎ、結果と
してサージングを起こさせないようにするというものです。 なお、ブーストが安定してからはこの
ポートの空気の流れが逆になり、周囲の穴からも空気を吸込むことで若干ではありますが効率を上げ
るようになっています。
↑ポーテッドシュラウドタービンの一例。 このような溝状の他に穴状のものもあります。
しかしこれは皮肉なことです。 自動車用ターボチャージャーの進化というのはいかにターボラグ
を減らしレスポンスを向上させるかというものでした。 そのためにボールベアリングタービン、
セラミックタービンホイール、樹脂インペラーなど様々な技術が投入されてきたわけですが、今は
逆にこのレスポンスの良さが仇となってわざわざレスポンスを落とさなければサージングしてしまう
という、なんとも本末転倒な状況になっているというわけです。
上記のポーテッドシュラウドも一見するとサージング領域と高過給領域との両立がなされていて
良さそうに見えますが、これだって結局は本来コンプレッサースクロールに送られるべき空気の一部
をポートからリリーフさせる、つまり本来なら過給されるべき空気をわざと漏らすことでサージング
を防いでいるわけですから、ブーストの立ち上がりを犠牲にしていることには変わりありません。
なんとももったいない話です。 ちなみにVWのTSIシステムでは電子制御のブローオフバルブを使用
することでアクセルオフ時だけでなく、このようなサージング状態になった際にもバルブを開いて
サクション側に過給気をリリーフさせることでサージングを防いでいるようです。 一見、高度な制御
をしているようにも見えますがこれも苦肉の策であることには変わりありません。
立ち上がりのレスポンスを犠牲にせずに高過給でのサージングを防ぐにはコンプレッサーホイールの
ブレード(羽根)形状の進化やコンプレッサーハウジング形状の進化に期待するしかないでしょう。
●CASE3 サチュレーションによるサージング
これはわりと単純です。 空気というのは狭められた空間を通過する際には音速を超えることができ
ないという「音速の壁」というのがありますが、実際には音速に近付くかなり前から通気効率が悪く
なります。 だから高回転でのパワーアップをする際には吸気ポート(バルブスロート)径の拡大や
吸気バルブの拡大をして高回転時の流速が適切になるようにポートチューニングをするわけです。
ターボのコンプレッサーホイールもこれは同様で、コンプレッサーホイールの回転数が次第に高く
なっていくことによってコンプレッサーホイールの羽と羽の間を通過する空気は音速に近付くにつれ
通りにくくなり、最終的にはそれ以上吸い込めなくなる=サチュレート(飽和)するということに
なります。 これも「コンプレッサーが回っているのに過給すべき仕事ができない」状態なわけです。
ただ、実際には際限なくブーストをかけるなんてことはありませんから、適切なサイズのターボを
適切なブースト圧で使用している限りはここまでの領域に足を突っ込むことはないでしょう。
もしこの現象が起きるとしたら、よほど効率の悪いタービンか、小さいターボを無理矢理高過給で
使うときなどではないでしょうか。 たとえばノーマルタービンでブーストアップした際に高回転で
ブーストがタレてくる一因としてこの現象も考えられます。 そのタービンの風量の限界を超えて
しまっているわけです。
ちなみに排気側タービンホイールにはこの心配はありません。 なぜなら排気ガスは吸気に比べて
はるかに温度が高いので音速がずっと速いからです。 それよりも最近の純正ターボチャージャーは
低い回転域から素早くブーストを立ち上げるためにエグゾーストハウジングが小さく高回転ですぐ
排気が詰まり気味にまってしまう傾向にあります。つまりバランスとしてコンプレッサーハウジング
に対してエキゾーストハウジングが小さめとなっており、このことがよりターボのレスポンスを良く
しておりサージングを起こしやすくしている要因にもなっています。 最近のターボ車がちょっと
したブーストアップですぐサージングを起こすのはこうした設計傾向があるためです。
●CASE4 ツインターボエンジンでのサージング
これは複数のターボからの過給を1本にまとめた配管でのターボエンジン(たとえば直6ツインターボ
など)でのケースですが、2つのターボからの合流部で一方のターボからの過給がもう一方からの過給
を邪魔してしまい、その邪魔されたほうのターボチャージャーからの過給が一時的にせき止められて
最悪は逆流してしまうことにより起きるサージングです。
一例で言うと、GT-RのRB26エンジンのツインターボの合流部で、純正のインテークパイプではこの
合流部の形状があまりよろしくないために、リア側タービンからの流れがフロント側タービンの流れを
せき止めてしまうことがあり、このためフロント側タービンだけがサージングを起こしてしまうという
わけです。 これの根本的対策はいちばんいいのはV型ツインターボのように吸気(サクション)部から
サージタンクまでの配管を完全に独立させてしまうのが手っ取り早いのですが、直列エンジンの場合は
そこまでやると大掛かりとなるので、せめて集合部(合流部)の形状を両方のターボからの空気の流れを
均等になるように工夫するくらいではないかと思います。 たとえばインタークーラー入口までは2本で
導き、インタークーラー出口で1本にまとめる、などでしょうか。
●以上ですが、だいたいこんな感じで認識しておけばいいのではないかと考えます。 実際には
サージングは空気の剥離とか振動とか様々な要素がありますので難しい話になるのですが、もっと
探究したい人はクルマのターボだけでなく、飛行機のジェットエンジンや各産業で使用される
コンプレッサーやポンプ、ブロワーの技術書などを読まれると良いと思います。

↑HT07-A/R12タービンのコンプレッサー。 コンプレッサーに対してこのくらいエキゾースト
側が大きいとそれほど鋭いレスポンスでは立ち上がらないため、サージングは起きにくいです。
そういう意味では排気側A/Rの大きいタービンハウジングに換えてしまうというのもサージング
対策には有効な方法ではあります。 それにより高回転でのパワーアップも狙えますし。
せっかくハイレスポンスな立ち上がりの鋭いターボにしても、サージング回避のためにそのレスポ
ンスをスポイルしなければならないというのはなんとももったいない話ですので。
●おまけ● スズキ軽用ボルトオンタービンについて最近私が思うこと
最近思うのですが、そろそろF6AやK6Aエンジンへのボルトオンタービンも「最新のタービン技術」
で設計されたまったく新しいターボチャージャーが欲しいところですね。 現在もっともポピュラー
に使われているIHIのRHB3あるいはRHF3ベース、あるいは日立のHT06、HT07ベースのターボでは
もはや基本設計が古すぎます。 ショップオリジナルで独自バージョンのRHB31やHT07ターボなど
をリリースしているところもありますが、なにせRHB31は20年以上前、HT06/07でも15年以上前の
設計のターボですからいくら改良したところで基本設計の古さは否めません。 モンスタースポーツ
もいまだにスズキスポーツ時代のRHB31FWを売っていますが、これだって20年前のターボですよ。
そう考えるとほんと、F6A/K6A用のボルトオンターボは進化していませんね。
たぶん、最新の技術でゼロから設計されたターボなら、より低回転から過給がかかり、レスポンスも
よく、それでいて最高出力も130馬力程度は余裕で狙えるくらいの性能のものができるのではないか
という気がします。 HKSやトラストなどでそういうの内製で造ってくれないものですかね。
少し前に噂でHKSがJB23用にボルトオンターボキットを開発中であるとかないとか聞いたことがあり
ますが、こういうのに期待したいですね。 コペン用で出ているDX30/DX27ターボキットのような
ボルトオンキットがジムニー/カプチーノ/アルトワークス用で出てくれると嬉しいと思うのですが。

↑私が現在使用中のHT07-A/R12ハイフローです。 昔スズキスポーツが出していたワゴンRワイド
用のタービンキットのものと同等のもので、通常よく流用されるワゴンRワイド用のHT07-4Aよりも
インデュース径がかなり大きいもので、現在となってはまず入手不可能な「超レア物」タービンです。
上で挙げたコペン用のHKSのDX30タービンと比較すると、DX30はインデュース径はφ30mmなのに
対してこの07スペシャルタービンはインデュース径がφ36mmもあります。 また、排気側出口径も
DX30がφ29mmなのに対してこの07タービンはφ35mmありますからボルトオンターボとしては
圧倒的な大きさとなります。
これはつまり、同じ程度の馬力を出すボルトオンターボキットのターボチャージャーでさえ昔よりも
小径化の傾向にあるということで、口径よりも回転数で過給を稼ぐという方向性なのでしょう。
そのため、HKSのDX27/30キットのターボもちょっとしたことですぐサージングを起こすらしいです。
ターボの立ち上がりの速さとハイレスポンス化の技術はサージングとの戦いということになりますね。
ちなみに、レスポンス重視の場合はやはり軸受けはボールベアリングのほうが優れていますが、これも
全域で有利というわけではなく、タービンシャフトの回転数100000rpmあたりまではボールベアリング
のほうが回転抵抗は少ないのですが、100000rpmあたりを超えるとこれがやや逆転してかえって通常の
フローティングベアリング(フルフロートベアリング)のほうが有利になってくることが多いです。

↑<参考>ターボチャージャー用ボールベアリング