(番外編)ステンレスメッシュフィルター類について
度を越した効率化はかえってエンジンを傷めます
●先日、「ステンレスメッシュ製オイルフィルターについてどう考えますか?」という質問がありました。
最近、エアクリーナー(エアフィルター)でも従来からの濾紙やコットン、スポンジ(ウレタンフォーム)
などの繊維ではなく、金属のステンメッシュのみを使用したフィルターがいくつか市販されていますし、
オイルフィルターでも純正タイプの濾紙のもの以外にステンレスメッシュのみの製品もいくつかあります。
しかし、私はこの種のステンメッシュフィルターをストリートチューンのエンジンに使用することは正直、
あまりお勧めはできません。
その理由はまず、なによりステンメッシュだけのフィルター(スクリーン)では目が粗すぎて細かいゴミ、
ホコリ、砂などの粒子が濾過(ろか)できず、エンジン内部に入ってきてしまい、エンジン各部を汚し、
摩耗させてしまい、結果としてエンジンの寿命を大幅に縮めてしまうおそれがあるからです。
具体的に書くと、メーカー純正のエアフィルターやオイルフィルターの濾紙の目の粗さはだいたい10〜20
ミクロンくらい、つまり0.01mm〜0.02mmという細かいゴミ、ダストまで捕えて濾過してくれます。
これに対して、市販のステンメッシュオイルフィルターの目の粗さは30〜40ミクロンとかなり粗いのです。
つまり、単純に言って純正のフィルターの倍以上の大きさのゴミ、異物を通してしまうのです。
これを補うためにオイルフィルター内にマグネットをつけているフィルターもありますが、エンジンの摩耗粉
は必ずしも磁石にくっつくものばかりではありません。 表面硬化のためのクロームメッキ層や窒化焼入れ層、
最近ではDLC層などの摩耗粉は非磁性で磁石につかないためマグネットでもキャッチできませんし、カーボン
や固体化したスラッジ、さらに外部から入ってきた微細な砂粒や石粒などもマグネットではキャッチできない
ためフィルターの目を通過してエンジン内部をぐるぐると循環してしまい、メタルなどの各部を確実に傷つけ、
摩耗させていくことになります。 所詮はマグネットなどただの気休めでしかないのです。
<具体的な製品の1例>

↑K&Pエンジニアリング製ステンメッシュオイルフィルター。
35ミクロンのステンレスメッシュフィルタースクリーンとマグネットによって濾過するようになっています。

↑キノクニ(RUN-MAX)ステンメッシュオイルフィルター。
30ミクロンのステンレスメッシュフィルタースクリーンとマグネットによって濾過するようになっています。
代表的な上記2品ですが、たしかにオイルの流路抵抗、圧力損失(圧損)は純正タイプより減りますし、分解して
パーツクリーナーで洗浄するだけで何度も再使用ができて一見、経済的ではありますが、これらは前述した理由の
ように、目の粗いフィルター材と実質無意味と言っていいマグネットという構造ですので、メーカー純正フィルター
のペーパー(濾紙)フィルターや不織布フィルターに比べ確実にオイルの濾過性能、異物除去性能は落ちることは
覚悟のうえ使用してください。
個人的には「エンジン保護、エンジン寿命第一」に考えるならこの類のステンメッシュフィルターの使用はストリート
での一般使用はお薦めできません。 どうしても純正フィルターよりエンジンの寿命を短くするリスクが高くなります。
●オイルフィルターの抵抗が減ってもオイルポンプの抵抗が減るわけではない
この種のステンメッシュオイルフィルターを使っている人でたまに勘違いしている方がいるのですが、オイルフィルター
をステンメッシュの低抵抗のものに変えることによってオイルポンプの駆動抵抗が減りパワーロス低減になると考えて
いる方が一部にいるようですが、これは大きな間違いです。 これはオイルポンプの構造を理解していれば簡単に解る
ことですが、オイルポンプを出たオイルは直後にあるプレッシャーレギュレーターバルブによって油圧を一定に調圧され
余分なオイルはその時点でリリーフポートからオイルパンに戻されますので、その段階でオイルポンプにかかる負担は
決まってしまうのです。 ですのでそれより下流についているオイルフィルターの抵抗が高かろうが低かろうがオイル
ポンプによるエンジンのパワーロス(機械損失)は変わりません。 このへんは勘違いなされないようにしてください。
<参考> →(番外編)大容量オイルポンプについて
●私が継続使用しているオイルフィルター

↑私がもう10年近くずっと使い続けているレイル(Beatrush)製のスーパーオイルフィルター。 フィルター材
に濾紙を使用していながら比較的低抵抗(低圧損)のフィルターです。 メーカーのコメントでは25000kmまで
は純正フィルターと同等の濾過性能を維持できるらしいです(もちろん、オイル交換ごとの交換が基本です)。
個人的にはストリートでは上記で挙げたようなステンメッシュの特殊なフィルターより、こういうスタンダードな
ノーマルタイプのフィルターのほうが安心して使用できると思います。
このフィルターはダイハツコペン純正サイズの薄型(低高)タイプで、高さ50mmしかないのでコンパクトです。
●さらに、エアクリーナーについてはもっと酷く、以下に挙げるような、某有名一流チューニングパーツメーカー製の
ステンメッシュのエアクリーナーでは200メッシュというとんでもなく目の粗いフィルターを使用しています。
この200メッシュというのは、1インチ(25.4mm)あたり200の目があるという意味で、その粗さは実に127ミクロン、
つまり0.127mmとコンマ台の大きな砂粒を通してしまうくらいに粗いのです。 これではまさに「ザル」です。
エンジンのシリンダーとピストンのクリアランスがだいたい0.04mm〜0.05mm程度ですから、その倍以上もある大きな
ゴミを通してしまうのです。これではもはやフィルターとは呼べません。 こんなに大きなゴミを吸い込んではエンジン
内部を#240番くらいのサンドペーパーでガリガリと削っているようなもので長期的にはダメージを与えかねません。
ユーザーからすればステンメッシュ製のエアクリーナーは「汚れたらパーツクリーナーで洗えばいくらでも再使用できる
からメンテナンスが楽でいい」と簡単に考えるのでしょうが、エンジンにとっては決して好ましくないわけです。
<具体的な製品の1例>

↑ブリッツ(BLITZ)製 サスパワー コアタイプ エアクリーナー。
上面150メッシュ(170ミクロン)、側面200メッシュ(127ミクロン)と非常に粗いフィルターなので、かなりの
ゴミを通してしまうため、正直ストリートチューニングには向きません。 短時間のサーキット走行専用だと考えた
ほうがいいです。 メーカーでは「1000馬力以上対応!」とか謳っていますが、そりゃこれだけ目を粗くすれば
低抵抗になるのでパワーだけは出せるでしょうが、ストリート用としては肝心のダストフィルターとしての性能を
犠牲にしすぎです。

↑HPI製メガマックスエアクリーナー ステンレスタイプ。
この製品も上記ブリッツ製と同程度のメッシュの粗さのフィルターです。 メーカーでは「オンロードのみに使用
し、オフロードでは使用しないでください」といちおう警告はしてありますが、私はオンロードであってもこの
ステンメッシュタイプはストリートではお薦めできませんので、ストリートで使うなら同社のラインナップにある
コットンタイプのほうをお薦めいたします。
エアフィルターにはこのブリッツ製やHPI製以外にもステンメッシュフィルター製のものがいくつかありますが、
目の粗さはどれも同じ程度なので、やはりストリートでの長期使用には向いているとは思えません。
それでもどうしても使いたいのであれば、エンジンの寿命は確実に短くなることを覚悟の上で使用することです。
●私が現在使用しているエアフィルター

↑キノクニ(RUN-MAX)製エアクリーナー。 これももう8年ほど使用しています。 もちろん、定期的に洗浄
してメンテナンスはしています。 コットン不織布によるフィルター材を両面ステンレスメッシュにて補強してある
タイプです。 かなりの低抵抗な高性能フィルターで、HKSのパワーフローなどよりも吸気抵抗は低いと思います。
個人的にはやはりストリートではステンメッシュのみのタイプよりもこのような不織布タイプ(K&Nなど)やHKSの
パワーフローのようなスポンジタイプのほうがエンジンには優しいので街乗りには適していると思います。
●以上のような理由から、オイルフィルターでもエアフィルターでも、基本的にステンレスメッシュだけのフィルター
は「スポーツ走行」や「レース専用」それも「スプリントレース向き」だと考えたほうがいいでしょう。
レースでは走行距離や時間が限られていますし、厳密に管理された状態でエンジンを使用しますから可能な限り抵抗の
少ないフィルターを使用したいですし、ステンレスメッシュの強度、剛性の高さから圧力に対する変形を防ぎたいと
いう明確な目的があるからこそステンメッシュ製のフィルター類を使用できるのです。
上記のブリッツのものは「F1でも使用されているフィルター材」なんて宣伝文句を使っていますが、今まで書いたよう
にF1エンジンをはじめとしたレーシングエンジンは厳格に管理された状態で使用されますし、使用時間や走行距離も
決まっていますので、ギリギリ持てばいいという考えの元でこうした粗いフィルターの使用が許されているわけです。
それに対してストリートでは、もっと長い年月、長い走行距離走りますし、ホコリの多い環境や、ときにはオフロード、
不整地など様々な環境で走りますので、その長い間、フィルターはエンジンを守らなくてはならないのです。 なので
いくらチューニングとはいえ、最低限のフィルターとしての濾過性能、集塵機能を満たした製品を使用するべきです。
実際、レースでも長時間の耐久レースではエアフィルターはステンメッシュではなくウレタンフォームや不織布タイプの
エレメントを使用することも多いようです。ステンメッシュでは長時間の走行ではトラブルの元になりかねないからです。
ですのでストリートにおいては、オイルフィルターならばやはり純正採用されているペーパータイプが無難だと思います
し、エアフィルターもコットンなどの不織布やスポンジタイプ(とくに乾式よりもビスカス式)のほうが、たとえ若干の
圧力損失(パワーロス)があったとしてもエンジンに優しく街乗りでは安心して使用できます。
なお、スポンジフィルター、とくに乾式のものを何度も洗浄再使用する方がいますが、まぁ、1度くらいならいいと思い
ますが、あまり何度も再使用はしないほうがいいです。 というのも、スポンジの素材であるウレタンフォームは空気中
の水分によって次第に脆くなっていく「加水分解性」という性質があり、次第に弱くなって最後はボロボロになって
しまうのです。 なので、あまり長期間は使わずにせいぜい1年ごとくらいには新品に交換したほうがいいと思います。
●具体的なエアフィルターによるパワーロス(吸気抵抗による損失馬力)について

↑参考までにHKSのパワーフロー(200φ)は600PSのエンジンでだいたい15PS程度のパワーロスだそうで、率にする
と約2.5%のロスとなりますが、エンジン保護のためにはこの程度の馬力損失は仕方ないでしょう。 この率で計算すると
現在の私のJA22ジムニーのK6Aエンジン程度にチューニングされた軽自動車のエンジンパワー(約130馬力程度)では
パワーフロー装着で約3PSのパワーロスということになります。 このへん、K&Nなど他のフィルターとの比較もして
みたいところではあります。 よくいろんなエアフィルターのメーカーがフローテストで自社のフィルターの低抵抗性能
の比較をしているのを見ますが、そういう比較よりも具体的に「何馬力のロスがあるのか」というデータのほうが私と
してはありがたいです。
ちなみに、このパワーフロー(スーパーパワーフロー)のフィルター材には乾式とビスカス式(湿式)がありますが、
どちらが優れているかという点では微妙です。 基本的には乾式のほうが吸気抵抗は少ないはずですが、乾式は3層の
フィルター材となっていて抵抗が大きく、ビスカス式は濾過性能を上げるための粘着オイルによる抵抗が大きい反面、
2層構造なのでフィルター本体としては抵抗が少なくなっています。 つまり、どっちもどっちということで、結果と
して吸気抵抗によるパワーロスは乾式もビスカス式も同程度ではないかと考えることができます。
なのでエアフロの汚れが気になるLジェトロには乾式、圧力センサーのDジェトロには湿式という選択でもいいでしょう。
●エアフィルター材の粗さと濾過性能のトレードオフの関係

↑HKSの本に載っていたパワーフローに使用されるスポンジフィルターとメーカー純正フィルターとの比較グラフ。
(E)が純正の紙フィルターですが、ダストを当てるとすぐに詰まってしまいますが、その代わりダストの濾過率は99.5%
とほとんどエンジンにゴミを通しません。 (D)がパワーフローに使用される湿式のスポンジフィルターに相当しますが、
純正フィルターに比べ通気抵抗は半分以下ですが、その代わりにダストの濾過率は71.1%と純正フィルターよりもゴミ
を多く通してしまいます。 その他のフィルター材についても抵抗が低くなるほどダストの濾過率が落ちていくのが
よくわかります。 とくに(A)のフィルター材はまったく通気抵抗が増加していませんが、これは即ちダストをほとんど
素通ししてしまっているということで、ほとんどフィルターとしての役目をなしていないということになります。
いくら抵抗になるとはいえ、ストリートで使用するには最低でも純正比70%以上の濾過率は確保しておきたいところです。
さらに、ジムニーのようなオフロード、未舗装路走行が多い車ではパワーフローのダスト濾過率71.1%でもちょっとダスト
を通しすぎな気がしますので、やはりノーマルフィルターがいちばんでしょう。 図で見てもわかるように純正は99.5%
とほぼパーフェクトな清浄効率なのですからほとんどのゴミを通さないのでエンジンに優しいです。 ただし、それだけ
ダストを捕捉するということはすぐに目が詰まってしまうということですので、純正フィルターは頻繁に交換する必要が
あることは留意しておくべきです。 オフロード走行の多い人は純正フィルターエレメントをこまめに交換する使い方が
エンジンにとっては最善でしょう。 なんでもかんでも社外パーツのほうが優れているというわけではないのです。
参考までに、春になるとよく話題になる「黄砂」ですが、この黄砂の粒の大きさはだいたい4ミクロンくらいのものが
中心ということなので、さすがに純正のエアフィルターでも捕捉できません。 それほど黄砂の粒子径は小さいのです。
<参考> パワーフローの湿式2層フィルターと乾式3層フィルターとの集塵効果の違い

↑HKSによると、パワーフローの「乾式3層フィルター」は従来の湿式2層に比べて50%も集塵効率が高いとのことです。
つまり、単純計算で湿式2層の71.1%に対して96.3%まで高められているというわけで、これは純正フィルターの99.5%
に迫る高いダスト捕獲効果と言えます。 ですので、ジムニーでオフロードを走る人でパワーフローを使いたい場合は
湿式2層フィルターではなく、この乾式3層フィルター(ドライフィルター)を使用されることをお薦めいたします。
ただし、純粋に吸気抵抗の少なさで比較すれば湿式2層のほうが通気抵抗が少なくパワーは出しやすいです。
ちなみに、現在販売されている「スーパーパワーフローリローデッド」に標準でついてくるフィルターはすべてこの
乾式3層フィルターとなっています。
●追記:HKSスーパーパワーフローリローデッドはかなり偽物、コピー品が出回っていますのでご注意ください。
<参考>→HKSスーパーパワーフローリローデッドの本物と偽物の比較
●まとめ
喩えるならば、ステンメッシュだけのフィルターは「茶漉し」みたいなものなので、お茶の葉のクズがある程度通過して
しまいます。 対してペーパーや不織布フィルターは「コーヒーのドリップ紙フィルター」のようなものなので、コーヒー
粉のほぼすべてを濾過し、液体だけを通してくれるというわけです。 これをオイルフィルターやエアフィルターに置き
かえて考えれば、どちらのほうがエンジンに優しいかはもうお解りですね?
もちろん「自分はどうせ2〜3万キロでエンジンをオーバーホールするから別に気にしない」「自分はとにかく1馬力でも
ロスを少なくしたい。そのために多少エンジンの寿命が短くなっても構わない」というスタンスであればステンメッシュ
の目の粗いフィルターでも問題ないとは思います。 ですので、最終的な判断はユーザーごとにわかれるところです。
●どんなチューニングパーツでもそうですが、くれぐれも「レースで使用されているからストリートでも高性能など
と思わないでください」。 レーシングユースとストリートユースでは求められる要素の優先順位が全然違うのです。
せっかくの愛車、せっかくのチューニングエンジンを大切に末長く使いたいのなら、度を越したチューニングパーツは
長期的に見れば逆にデチューンにしかならないことをよく考え、メーカーやショップの宣伝文句に踊らされないようよく
見極めることが大切です。
また、チューニングパーツメーカーやチューニングショップはきちんとそのパーツのメリットと同時にデメリットも正直
にユーザーによく説明する「啓蒙活動」も積極的にするべきだと思います。
<関連記事> →エアクリーナーについて