ターボエンジンの全開走行時の空燃比(A/F比)セッティングについて
NAエンジンの空燃比の考え方をターボエンジンにそのままあてはめることはできません

↑私のジムニーのK6Aエンジンは全開走行時の空燃比はだいたい10.5:1程度、排気温度はMAXで860度
ほどでセットしてあります。
●少し前に「アホにもほどがある」と思える内容の相談メールがきました。 実際にあったケースで、
ストリートメインのジムニー(F6Aエンジン)に必要もないのにIHI RHF5なんてどう考えてもオーバー
サイズなターボをつけ(というより、なかば強引にそのショップのチューナーの言いなりにつけられて
しまったらしい)、さらにブースト圧1.7kg/cm^2とか無謀としか思えない過給圧をかけ、それだけ
でも異常なのに「全開走行時の空燃比を12.0から12.5でセッティングしろ」と言われたとのこと。
私としては、もはや呆れてものも言えない…このチューナーは真性のバカなんじゃないかと。

その人は不安ながらもチューナーの言うとおりにe-manageを使いその空燃比を目安に連続全開走行を
くり返してセッティングしたらしいのですが、案の定、エキマニは割れ、排気バルブは溶け、ピストン
も一部溶けてエンジンブローしてしまったそうです。 これは当然の結果です。排気温度計もつけずに
空燃比計の数値だけでターボでNAエンジンと同じパワー空燃比(出力空燃比)で全開すれば燃料冷却
(ガソリン冷却)がほとんどできないわけですから、こうなることくらい経験と学識のあるチューナー
なら「やる前から結果は見えていたはず」。 私にはとても信じられないのですが、悲しいかな現実に
こういう低脳、低レベルなチューナー、チューニングショップが実際にあるんです。(それとも、わざ
とわかっててやって、壊れたら適当に理由をつけて責任逃れをして修理費をボッタクろうと企んでいた
のか?)皆様もこういった「学も技術もない無能なチューニングショップ」の「いいカモ、餌食」には
ならないよう、チューニングショップ選びは慎重にしてください。

↑本当ならこのバカなショップの名前を書きたいくらいですが、さすがにそれは自重しておきます。
●まずは基本である「理論空燃比」(ストイキ領域)を基準に考えてみる

よく書籍やネットの記事、その他のメディアでも「理論空燃比は14.7:1(あるいは14.6:1)」と書か
れています。これは噴射されたガソリンと酸素が無駄なく燃え尽きたときのまさに「理想的な燃焼」を
した際の比率として一般的に知られています。 つまり、混合気はこの14.7:1の比率のときにもっとも
無駄なく燃焼圧力、つまりパワー、トルクを取り出せるわけです。 しかし、これはあくまで理論値で
あり、現実にはNA(自然吸気)エンジンではもっともパワーの出る「出力空燃比」は12.0:1から12.5:1
前後になります(ターボエンジンも基本は同じ)。 この理由は、まさに「理想と現実の違い」で、
実際にガソリンが100噴射されてもそれが100%燃焼に寄与するわけではなく、バルブオーバーラップ中
に吹き抜けたり、ブローバイガスとして吹き抜けたり、未燃焼のまま無駄になってしまう燃料分などの
「ロス分」があるためで、それを見越して予め理想より多め(濃いめ)のガソリンを噴射する必要がある
ためです。 ちなみに、これも理論値ですが、この理論空燃比である14.7:1付近で燃焼温度も燃焼圧力
も最大になりますのでもっともエネルギー効率は高くなりますが、同時に「排気温度」も最高になります
ので、ターボエンジンではここが耐久性(耐熱性)という意味で非常に重要な問題になるのです。
●なので、ターボエンジンではNAと同じ考えは通用しない
これも一般的に認知されていることで、ターボエンジンの全開走行時の空燃比はおよそ10.5:1から11:1
前後とされています。 そう、NAエンジンよりもはるかに濃い空燃比にしなければならないのです。
その理由はターボエンジンは同じ容積のシリンダーでNAの倍以上の量(密度)の混合気を燃焼させるため、
当然、発生する熱量もNAの倍以上になるわけですのでそのままではエンジン各部(ピストン、排気バルブ、
エキマニ等)がその熱に耐えられず溶けてしまうため「本来、燃焼に必要な量以上のガソリンを供給し、
その余分を気化潜熱や最高燃焼温度の低下に利用し、各部の冷却を促進させるため」です。これを一般に
燃料冷却(ガソリン冷却)と呼びます。 ハイパワーターボエンジンの最高燃焼温度は2000度以上にも
達すると言われています。対して、ピストンやシリンダーヘッドの素材であるアルミ合金の溶解温度は
約660度程度しかありません。 ここで疑問に感じる方も多いと思いますが「2000度にも達するガスが
触れるのになぜアルミは溶けないのか?」という理由ですが、これは正常燃焼をしている状態では燃焼
ガスとピストンなどの表面にはごく薄い「境界層」という膜のようなものが存在し、その高温のガスが
直接触れないようになっているから大丈夫なのです。 ただし、これはあくまでも正常に燃焼している
場合の話で、異常燃焼、たとえばノッキングやデトネーションといった現象が起きるとこの境界層が破壊
されて、しばしばピストンが溶けたりするトラブルに見舞われます。 ですので、エンジンをバラして
みてピストントップや燃焼室を見れば、ノッキングを起こしていたかどうかを確認することができます。
なお、このアルミの溶解温度は鋳造ピストンであろうが鍛造ピストンであろうが変わらず同じなので、
鍛造ピストンだからといってノッキングに強いなんてことはありません。 このへんは過信および勘違い
しないようにしてください。 鍛造ピストンでもヘビーノックを起こせば一発で逝きます。

↑ピストンには鋳造と鍛造がありますが、たしかに強度そのものは鍛造のほうが上ですが、素材としての
耐熱性は鋳造も鍛造も同じですので、鍛造だからといって過熱状態で使えばやはり溶解しブローします。
鍛造ピストンが鋳造ピストンより強いのはあくまでも「正常燃焼状態」での運転条件のもとでの話です。
ちなみに、ここで挙げた10.5:1や11.0:1という空燃比はあくまでも「全開全負荷走行時」の目安となる
数値であり、ターボでも加速時、とくに加速初期などの過渡期の空燃比はNAと変わらず、もっともパワー
が出る12.5:1や13:1くらいにセットするのが一般的で、点火時期もこの領域ではかなり進めます。その先、
どの程度のブースト圧、回転数、アクセル開度などの条件で次第に濃くしていくのか、また点火時期も
どの程度リタードさせるのかがまさにチューナーのセッティング腕の見せどころで、こういうところで
チューナーの腕が試されるというわけです。 逆に言うと単純に全開時のセッティングだけなら実は楽な
ことで、本当に難しいのは様々な加速条件下(過渡期)での空燃比および点火時期セットなのです。
こういうところをどこまで追い込むかによってトルクの出方とかレスポンス、燃費など大きく差が出ます。

●とにかくターボエンジンは「排気温度をしっかり管理する」

おそらくこれを見て「またかこいつは」と思ってる人も多いと思いますが、やはりターボエンジンの
連続限界走行のセッティングに於いては、空燃比計と排気温度計は絶対にセットで必須なものです。
これは今も昔も変わりません。
排気温度を知ることによって、許容される燃焼温度の目安を知ることができるので、それでどの位の
空燃比にすれば良いかがわかるのです。 排気温度を管理せずに空燃比だけで追い込んでいくと、冒頭
に書いた相談例のメールのように即エンジンブローにつながります。 逆に、排気温度計をしっかり
管理しながら慎重に空燃比とのバランス、ノッキングの発生に注意しながらセッティングしていけば
エンジンを壊すリスクはぐっと減ります。ストリートチューンではとにかく安全マージンを充分にとり、
極限まで追い込まないこと、余裕をもったセッティングにすることが重要です。そういうポイントさえ
しっかり押さえていれば、ハイパワーターボエンジンのセッティングもそう恐いものではありません。
<参考> →排気温度について
●しかし、レージングエンジンではターボエンジンでも特殊な空燃比で使用されるケースもある
たとえば、市販のエンジンを改造したターボエンジンでも、ゼロヨン、いわゆる短距離のドラッグレース
では400Mの距離さえ持てばいいわけですから、NAと同じ出力空燃比でセッティングすることもあります。
さらに、市販のエンジンをチューニングしたものではなく、0から純粋なレーシングエンジンとして作ら
れたエンジンでは、その材料や構造などすべてが市販エンジンとは比べものにならない耐熱性および冷却
性能を持たせてあるため、長距離のレースでも「希薄空燃比」でもまったく問題なく走れるようになって
いるのが常識です。

↑1980年代のホンダF1ターボエンジン、RA16Eシリーズ。 燃料総量規制のある中でも可能な限りパワー
を出すため、決勝レースではほぼ理論空燃比の14.7:1前後で走っていたと言われています。 こんな空燃比
でのフルパワー走行は市販チューニングターボエンジンでは絶対に持ちません。さすがは純粋なレーシング
エンジンだけのことはあります。

↑1990年代の日産VRH35Zエンジン。 これも耐久レースで燃料総量規制のある中で「燃費のいいパワー」
を出すことに日産の技術を注ぎ込んだエンジン。 800PSを超えるターボエンジンでありながら決勝レース
ではなんと16:1とも17:1とも言われるほどの「超希薄空燃比」で走ったと言われています。普通のエンジン
ならばミスファイヤーの嵐でマトモに回ってくれないほどの薄い空燃比です。 そのような薄い空燃比でも
しっかりとパワーが出せ、耐久性も確保できるほど、徹底的に燃焼効率を追求した燃焼室形状をはじめとした
各部の設計がなされていたわけです。 市販のチューニングエンジンとは技術レベルがまるで違うのです。
以上のように、本格的なレーシングエンジンでは、パワーと同時に燃費も両立しなければならないため、
市販のターボエンジンをチューニングしたような「冷却のために無駄にガソリンをバカ食いさせる」濃い
空燃比では通用しないのです。 そのため、燃焼室をはじめ、ピストン、排気バルブ、ターボなどが非常
に高温に晒される(排気温度は1100度以上)のですが、それでも充分に耐えられるだけの耐熱性の高い
材質、効率的な冷却ができる構造設計、製造がされているわけです。 そういう意味では私は「純粋な
レーシングエンジンは究極のチューニングエンジン」であると思っています。
●これからの「燃費ターボエンジン」とチューニング
これまで書きましたように、市販のエンジンをチューニングしてパワーを出そうとするとどうしても
冷却のために無駄にガソリンを食わせるため、燃費にはある程度妥協しなければならないわけです。
しかし、現在、世界の市販ターボエンジンは「直噴(筒内噴射)」が主流となりつつあり、これに
よって今までのポート噴射エンジンよりも無駄なガソリンを消費することなく、また、ノッキングも
起きにくいため圧縮比も高く熱効率が上がったため、従来の「ターボエンジン=燃費が悪い」という
概念が塗り変わってきています。これは「一般論では」良いことだと言えます。
ただ、ことチューニング、改造してパワーアップとなると直噴エンジンというのは構造上厄介で、
インジェクター選択の自由度のなさやECUの制御プログラムの複雑化など克服しなければならない
技術レベルの高いハードルが数多くあります。 現時点ではハイパワーターボチューンのベースには
直噴エンジンはあまり向いていないと言わざるをえないと思います。

↑やはりチューニングするとなると現在のところは従来のポート噴射式エンジンのほうが制御しや
すいです。 とくに最近のこの12ホール式に代表されるマルチホールインジェクターは燃料の霧化が
促進され、より気化潜熱によるガソリン冷却に優れるためノッキングが起きにくく、パワー、トルク
が出しやすいので、まだしばらくはこれがターボチューニングの主流となるのではないでしょうか。
●おまけ● 一般的な市販エンジンベースのチューニング時の空燃比
あくまでも参考となる空燃比の目安は以下のようになると思います。
1) アイドリング〜軽負荷のO2センサーフィードバック領域…14.7:1前後
2) アクセル中開度程度の加速時…12.5:1〜13:1前後
3) アクセル全開加速時…12.5:1前後(NA) 11.5:1前後(ターボ)
4) アクセル全開連続走行時…12.5:1〜12:1(NA) 11:1〜10:1(ターボ)
5) アクセルオフ(エンジンブレーキ時)…0(燃料噴射カット)
※あくまで目安ですので、とくにターボは排気温度とのバランスで適宜そのエンジンに合わせて
マッチングをとってください。 たとえば、空燃比10.5でも排気温度がMAX950度を超えてしまう
ようであれば(点火時期が遅れすぎていないことを確認したうえで)10.0くらいまで濃くすること
も必要になるかもしれません。 このあたりはエンジンの個体差も大きいので臨機応変な対応が
必要です。 ちなみに、点火時期によっても排気温度は大きく変わり、進角させていくと排気温度
は下がりますがノッキングのリスクが高くなり、遅角させていくとまだ燃えきっていない燃焼ガス
が排気されるため、排気温度が上昇します。 このあたりも頭に入れながら「現在、燃焼室で何が
起こっているのか」を常に考えながらセッティングする必要があります。
当然、点火時期や最大ブースト圧によってノッキング限界も変わってくるのでご注意を。 もし、
全開走行時に少しでも「チリチリ…」という高速ノッキングの兆候を感じたら点火時期を2度〜3度
ほどリタードさせたほうが安全です。 ただ、パワー的にはこの高速ノッキング音が若干出るあたり
が一番パワーが出るポイントで、レーシングエンジンでは若干のトレースノックが生じるくらいに
セッティングするのが常識となっています。
いずれにしても、ストリートチューンではあまり無理して限界まで追い込まないほうが安全です。

↑私が使っているワイドバンド空燃比計LM-1。 これもだいぶ古いモデルなので、今なら下記で紹介
しているPLXなどのもっと高性能でコンパクトなモデルを選ぶのが良いと思います。

↑PLXの最新型のワイドバンド空燃比計「PLX1607」。私も今もし買うとしたらこれにするでしょう。
現在はほんとに高精度で処理速度の速い空燃比計が安くなりましたよね。 しかし、何度も書きますが
ハイパワーターボエンジンのセッティングはあくまでも排気温度計とセットでおこなうことを忘れずに。