(番外編)低粘度エンジンオイルと有機モリブデンについて
低温側の粘度はそのエンジンの指定粘度を守ったほうがいいと思います
●現在はハイブリッド車やアイドリングストップ車などの環境対策エンジン向けに「0W-20」
などの超低粘度のエンジンオイルが売られています。
ですので、中には「こうした低粘度オイルを10W-30が標準指定のジムニーなどのF6AやK6A
エンジンに使用すれば摩擦抵抗が減ってエンジンのフリクションロスが減り、パワーアップや
燃費向上するのではないか」という考えをもつ人もいるかと思います。
しかしこれは危険なことで、こうした「0W系」オイルは「油膜が切れることを前提とした」
成分配合がなされているので、エンジンの寿命を考えると安易に使っていいものではありません。
とくにチューニングしてパワーアップしているターボエンジンに使うのは考えものです。
よく言われているようにエンジンオイルには「潤滑作用」「緩衝作用」「冷却作用」「清浄作用」
「防錆作用」「気密作用」などがありますが、とくにチューンナップしてパワーが上がった
エンジンには「緩衝作用」が重要になってきます。 この作用は読んで字のごとく、たとえば
クランクシャフトやコンロッドメタルが燃焼時の圧力で叩かれたり、ピストンにシリンダーが
叩かれたりしたときの衝撃をオイルの油膜でやわらげてやる作用のことです。 チューニングして
パワーやトルクが上がったエンジンでは当然これらの衝撃力や圧力がノーマルより高くなります。
オイルの粘度が下がることはイコール油膜が薄くなるということですので、この「衝撃力」を緩和
する能力(クッション作用)が落ちてしまうので、それだけメタルなどにかかるダメージが大きく
なる危険があります。 この言ってみれば「衝撃吸収作用」がやわらかすぎるオイルになると不足
することになり、最悪は油膜が切れて金属同士が直接接触しあい、カジリや焼きつきの原因になった
りします。
同じ程度のパワーでもNAエンジンならばまだトルク自体が低いのでギリギリ問題にならないこと
もありますが、トルクの大きいターボエンジンの場合はかなりトラブルのリスクが高くなります。
なので、私は仮に高温側の粘度が同じ40番であっても低温側が0WのオイルはK6AやF6Aターボ
には(とくにチューニングしたエンジンには)使用すべきではないと考えています。
ところでオイルの粘度についてですが、たとえば同銘柄の「5W-30」のオイルと「10W-30」のオイル
があるとします。 当然ながら低温時は5W-30のオイルのほうが抵抗(フリクションロス)が少なくなり
ますが、高温側の粘度には差は出ないはずです。 しかしオイルというのは面白いもので、高温側の粘度
が同じでも、より低温側粘度の低いほうが結果として全温度域で軟らかいという性質があるのです。
つまり理屈の上ではエンジンが暖まって、油温が100度前後になってしまえば5W-30も10W-30も違いは
ないはずなのですが、実際は10W-30よりも5W-30のオイルのほうが高温域でもやや軟らかい(柔らかい)
のです。 変な言い方ですが、高温側の粘度が低温側の粘度に引きずられて全体に軟らかめになると考えて
います。 そういう意味でも低温側(W側)の粘度が低すぎるオイルはたとえ高温側の粘度は満たしていて
もハイパワーなターボエンジンには使用は控えたほうがいいと考えます。
世の中には「0W-50」などという超ワイドレンジのオイルもありますが、こういうオイルは初期のうち
こそその粘度性能が維持できても、ある程度距離走ったり、一度でも高熱に晒されると高温時の粘度が極端
に低下することが多いので私は信用しておりません。
●さて冒頭で「0W系オイルは油膜が切れることを前提とした成分配合がなされている」と書きました
のでその意味を書きたいと思います。 このような超低粘度オイルの特徴として「有機モリブデン」系
の添加剤が摩擦調整剤として配合されているという点があります。 以下はそのことについて書きます。
●この「有機モリブデン」系の添加剤ですが、これはとくに最近の0W-20や0W-30などの「0W」
系の粘度の低いオイルにははじめから添加されているものが多いです。 これはメーカー純正オイル
でも同様です。(そのためもあって0W系のオイルは他のオイルに比べやや価格が高いのです)
この有機モリブデンと似たものに「二硫化モリブデン」というのもありますが、この2つは決定的に違い
ます。 そのもっとも大きな違いは、二硫化モリブデンは「個体潤滑剤」であって、オイルの中では
細かい粒子として存在しているわけですが、これはエンジンオイルにとっては「異物」でしかないの
です。 ですのでオイルフィルターで濾されてしまったり、沈殿物として下の方に溜まってしまったり
して実際は有効に働く量はごく少ないことも多いのです。
なので、二硫化モリブデン配合オイルや添加剤はそういった分量を見越して必要以上に多量のモリブデン
を添加しているわけですが、ハッキリ言って無駄です。
また、メーカーによっては二流化モリブデンのような固体潤滑剤はターボのオイルラインを詰まらせたり
してかえって有害であるという意見もあるようです。 ですので、ターボエンジンには二流化モリブデン
系の添加剤は避けたほうが安全かもしれません。
これに対して有機モリブデンは「液体潤滑剤」であって、エンジンオイルの中で液体として溶け込んで
存在していますので、沈澱することもなく異物としても扱われません。 そして、通常の良好な流体
潤滑状態が維持されているときには有機モリブデンは何の効果も発生しません。 この有機モリブデン
がその効果を発揮するとき、それはエンジンにマルファンクション(オーバーレブや極度の過重、局部
的に焼き付き一歩手前になった際などの危険な状態)が生じた際で、一瞬油膜が切れて境界潤滑状態に
なったときです。 こういった金属と金属が直接接触して摩擦するとき、この間に入り込んでいた液体
の有機モリブデンが極圧と温度によって固体化し、そこではじめて二硫化モリブデン皮膜へと変化して
金属同士の直接摩耗を防ぎ、減摩作用を発生してエンジンを摩耗、摩擦による焼きつきなどのダメージ、
アクシデントからから守ってくれるのです。
このように有機モリブデンはエンジンに「万が一」の状態(これらの状態をマルファンクション=異常
事態と言います)が起こったときに摩擦部を守ってくれる有能な添加成分といえます。
ですので、ハードチューンをして大幅にパワーアップしたエンジン、高回転化したエンジンにとっては
有機モリブデンは焼きつきを防いでくれる非常に頼もしい存在となります。
また、チューニングエンジンではなくてもアイドリングストップするようなエンジンの場合もこの有機
モリブデンは摩耗軽減に有効で、ハイブリッド車やアイドリングストップ機構つき車の場合はエンジン
の停止、始動のたびに油膜が切れて境界潤滑状態となりますので、そのままでは金属摩擦によって摩耗が
多くなってしまいます。 このような場合に有機モリブデンは皮膜を形成してメタルなどの摩擦部の摩耗
を軽減してくれるわけです(なので最近の環境対策エンジン用オイルには有機モリブデンが配合されて
いるのです)。
●このように有用な添加成分である有機モリブデンですが、前述のようにそのエンジンオイルにすでに
有機モリブデンが配合されている場合は追加で添加する必要はありません。 もしそのオイルに有機モリ
ブデンが配合されていない場合は、「適切な量の」有機モリブデンを添加することは有効でしょう。
オイル添加剤はどんなものでもそうですが、必要量以上に入れると無駄なばかりかかえってスラッジや
デポジット(いわゆるゴミ、カス)の元となるためエンジンに有害となります。これについては有機モリブ
デンも同様で、二硫化モリブデン皮膜に変化したあとは剥がれて固体となってオイル中を浮遊することに
なります。 だからこそメーカー純正オイルにも必要最低限の含有量を入れているのです。
有機モリブデンは通常時は液体であるとは言え、極圧下では二硫化モリブデンとなって個体化しますので、
役目を終えたモリブデン成分はその後はエンジンオイル内に異物が混入したのと同じ状態になってしまい
ますので、多すぎる添加量はかえってエンジン内部を汚損することになりますので量には注意が必要です。
●世の中にはさまざまなオイル添加剤が売られています。
基本的に私は「添加剤に金かけるくらいならそのぶん高い良いエンジンオイルを使う」という
スタンスなのであとから何かしらの添加剤を入れることには疑問を感じます。 添加剤の成分に
よっては、オイルシールやパッキンなどのゴム部品を膨脹、劣化させたり、個体潤滑剤などは
沈澱やオイルフィルターを詰まらせたり、回転部のオイルシールなどを摩耗させたりする原因にも
なりかねません。 よく添加剤を入れて「エンジンの回転が軽くなった」なんて感じることがある
ようですが、それもただ単に入れた添加剤によってオイルの粘度が低下してしまっただけのことも
よくあります。 さらにタチが悪いのは、一部の添加剤では金属表面をミクロレベルで「溶かして」
表面を滑らかにしてフリクションを減らす作用をするものもあるらしいですが、これはたとえば
慣らしのできないレース用エンジンではいいかもしれませんが、長く使いたい街乗り用のエンジン
ではかえって寿命の低下になってしまうので、使うのは考えものです。
バイクレースなどではZOILやGRPなどの添加剤を使用することがありますが、これはあくまでも
「少しでも摩擦ロスを少なくして1馬力でも損をしたくない」という目的から使用するものです
ので、あくまでも短期間でのパワーロス、フリクションロス低減効果を狙ったものであり、決して
「長期間におけるエンジンの保護」を目的としたものではありませんので、ストリートメインで
使用するチューニングエンジンでは私は必要性はないと考えております。 レースなど限られた
時間や距離しか使わないオイルに求められる性能と、市販のように数カ月や数万キロという期間
エンジンを護らなければならないオイルに求められる性能とを一緒に考えるべきではないのです。
そもそも市販のエンジンオイルはそれ自体が添加剤のかたまりとも言ってよく、オイルメーカー
や自動車メーカーが本当に有効かつ必要な添加剤をブレンドして作られているわけで、専門の
メーカーが技術力を結集して作ったエンジンオイルの性能をあとから素人が添加剤を追加しただけ
で簡単にその性能を超えられるとは考えにくいですし、あとから何らかの添加剤を混入することで
かえって成分のバランスを崩してオイルの総合性能を低下させてしまったり、添加剤によっては
そのオイルと相性の合わない場合もあります。
私は「安いオイル+高い添加剤」ではなく、「高いオイル+目的に応じた必要最低限の添加剤」を
使うのが賢明だと考えています。 総じてなぜかオイル添加剤に金かける人に限って、エンジン
オイルそのものは安売りのオイルを使っていることが多い気がします。 添加剤の前に、オイル自体
でもエンジンのフィーリングは大きく変わることを知ってもらいたいです。 →参考ページ
人間で言えば「主食=エンジンオイル」で「サプリメント=添加剤」とたとえることができます。
つまり、健康にはやはり普段の食事で良いものを食べて、不足する栄養素を最小限のサプリメントで補う
のが正しいやり方です。 それが普段の食事がジャンクフードばかりでサプリメントばかり高いものを
摂取したって健康になんかなれません。 安オイル+高い添加剤というのはまさにこれと同じなのです。
怪しい添加剤にこだわる前に、まずエンジンオイルそのものの質、性能にこだわるべきだと私は考えます。
●なおここではモリブデン系の添加剤について書きましたが、よく売られているPTFE(テフロン)系の
添加剤については私は有効な効果があるとは考えていません。 それに比べて有機モリブデンは自動車
メーカーも純正オイルに採用し、古くからレースエンジンでも用いられているため実績のある添加物だと
言えます。 あとは、この有機モリブデンと同様の働きをする有機チタン配合のオイルや添加剤もあり
ます。この「有機◯◯」と呼ばれる類の添加成分のものは基本的にこの有機モリブデンと同様の作用を
すると考えていいと思います。 なので実績のある有機モリブデンが信頼性では一番だと思われます。
また大切なこととして、その添加成分が固体化したときに「硬くなりすぎない」ことが重要です。
このモリブデンのようなものは固体化しても適度な硬さなので、エンジンの母材表面を削ることがない
ため有用なのです。 ですが、たとえば一部のセラミック系の添加剤などではそのセラミックの粒子自体
が非常に硬いため、まるでヤスリのようにエンジンの母材表面を磨耗させてしまう危険性があります。
また、まだ実績は浅いですが最近は「フラーレン」などと呼称される新しい添加成分も注目されている
ようです。 ただ、くり返しになりますがどんな添加剤でも入れすぎは禁物です。
●おまけ
最近「ルブリチェック」なる製品が出たようです。
詳しくは →http://gigazine.net/news/20111206-lubricheck/

これは要するにエンジンオイルの「劣化具合」を判定し、交換時期を教えてくれる機械です。
エンジンオイルの交換時期は一般的に走行距離か使用期間で判断しますが、厳密に言えばたとえば
同じ5000kmでも街乗りの5000kmと、高速道路移動が多い5000kmではエンジンにかかる負担や
オイルの劣化具合が変わってきます。 もちろんメーカーはそれらの使用条件の中で「最悪のケース
を考えて」推奨交換時期の目安を決めていますので、一般的にはそれに従っていれば問題ないわけ
です。 さらに言えば、このページを見てくださっているユーザーは車を趣味としているわけですの
で、おそらく多くの人がこのメーカー推奨期間よりも早めにオイル交換をしている人がほとんどだと
思いますのでさらにこんなものは必要ないと思います。
ですが、車を趣味としていない一般の人は「もしまだ使えるのならギリギリまで交換を延ばしたい」
と考える人も多いはずです。 この「Lubricheck」はそうしたユーザーに向けた製品と考えたほうが
いいでしょう。 お財布や環境のことを考えて無駄にオイル交換をしたくない、と考える人向けだと
思います。
ただ、この製品が何を根拠に交換時期を知らせているのかは不明ですが、おそらくは「酸化度合い」
ではないかと思われます。 エンジンオイルを劣化させる最大の要因はブローバイガスによるもの
ですので、水分による酸化度合いやガソリン希釈による劣化具合を見ているのだと思われます。
そういえばメルセデスベンツのエンジンなどでも純正でオイル交換時期を知らせてくれるシステムが
あるようですね。 ただ、私に言わせればオイル交換時期くらい自分で判断させてくれよと言いたい
ですが。