(番外編)ローテンプサーモスタットについて
街乗り主体ではまず必要のないものです

●よく市販で純正より開弁温度を低く設定したローテンプサーモスタットが売られています。
その謳い文句はオーバーヒートを防ぐとか、真夏の熱対策になどと書かれていることが多い
ですが、はっきり言ってしまうと多少チューニングしてあるエンジンでも、ストリート主体
で使用している場合はまず必要のないもので、それどころかローテンプサーモをつけることに
よってメリットよりデメリット(弊害)を生むことも多いことをよく考える必要があります。
●わりと気にする人が多いのですが、普段の街乗りで水温が100度前後にまで上がることを
水温が高すぎると思っている人が多いようですが、近年の排気対策エンジンは燃焼効率の向上
や触媒の活性化のため、昔のエンジンに比べて水温が高めとなっていて、95度〜105度あたり
まで上がることはごく当たり前であり、この程度はまったく気にする必要はありません。
これを気にしてサーモスタットをローテンプなものに変えて普段から水温を低めにしてしまう
と、燃料の霧化の低下による燃焼への悪影響によりカーボンの発生量が増え、燃焼室をはじめ
エンジン自体の汚損に繋がること、また、ピストンが正しい熱膨張温度にならないことから
ブローバイガスの吹き抜けが増え、これらはオイルを希釈、劣化、汚損することになりますの
でオイルの寿命を低下させます。 さらに上記の燃料の霧化の悪化は燃費の悪化にも繋がります。
いわゆるオーバークール状態となるわけです。 「エンジンに良かろう」と思ってしていること
がかえって悪さをすることに繋がるのです。
正直なところ、普段の街乗りで水温をメーカーが設定した値より低く保ってもエンジンにとって
は「百害あって一利なし」です。
メーカーは標準サーモスタットの温度域でエンジン性能をベストに発揮できるように設計して
いるのですから。 もちろん私の車のサーモスタットもノーマルの78度のままです。
では、なぜ多くの人が「宣伝文句に踊らされて必要もないのにローテンプサーモをつけるのか」
という理由について考えると、おそらく多くの人が「普段からこんなに水温が高いのだから、
フルパワーを出すような激しい走りをしたときにオーバーヒートしてしまうかもしれない」と
危機感を抱いてのことだと推測します。 しかし、それはローテンプサーモをつけたところで
何も解決しません。
たとえば暖機運転を終えて水温が「適温」の95度に上がったとします、この時点ですでに純正
の82度のサーモスタットでもローテンプの72度のサーモスタットでももうともに全開なのです
から、そこから上の温度上昇は同じです。 ローテンプサーモにしたところで冷却能力向上には
何の貢献もしないのです。
(サーモスタットには「開弁温度」と「全開温度」があります。 開弁温度とはサーモスタット
が開き始める温度で、全開温度は文字どおり弁が全開になる温度です。 通常この温度差は10度
程度で、たとえば開弁温度82度のサーモだと全開になるのは92度〜95度程度になります)
水温にとってもっとも大切なことは「どんなときでも一定の温度で安定させる」ということです。
たとえば、人間の体温におきかえて考えてもらえるとわかりやすいですが、仮に平熱が36.5度の
人の体温が1度上がったり逆に1度下がったりするだけでも体調は悪化します。 これはエンジン
も同じなのです。あくまでもメーカーが設定した温度域で最高の状態になるように設計、テスト
されているわけですので、それより高すぎても低すぎても問題が生じます。
これがもし、過激なスポーツ走行などをした際に水温が危険粋に達してしまうとしたらそれは
単純にラジエーターの放熱カロリーが不足しているということであり、サーモスタットの問題では
ありません。
要するに「エンジンの発生する熱量>ラジエーターの放熱熱量」の関係を逆転させない限りは
サーモスタットを低温型に替えようがオーバーヒートは防げないのです。
本当に過激な走りをしたときのオーバーヒートを防ぎたいのであればラジエーターそのものを
見直さない限り(あるいはラジエーターの通風を見直さない限り)はローテンプサーモをつけよう
が、ハイプレッシャーラジエーターキャップをつけようがまったく無意味です。
よく「真夏のオーバーヒート対策に!」などと宣伝してローテンプサーモやハイプレッシャー
ラジエターキャップを売っていることがありますが、これは現実にはほとんど意味がありません。
※ラジエーターキャップについての私の考えは過去のこちらのページで詳しく書いています。
●それでは、ローテンプサーモの存在がまったく意味がないのかというとそうではありません。
私が言いたいのはあくまでもストリート主体での使用においては無意味(というかむしろ弊害を
生むという意味では前述のように逆効果と言ってもいい)ということで、たとえばサーキットでの
スポーツ走行や競技使用などの際には効果的なことがあります。
競技で使用する際にはやはりパワー最優先ということになりますが、この際、水温が高いという
ことは当然エンジン本体、とくにヘッドまわりの温度も高いということになりますので、結果
として吸気温度も高くなってしまいます。 吸気温度が高いということは酸素密度が低下します
ので、パワー的には不利となります。 また、吸気温度が高く、燃焼室周辺の温度も高いという
ことは、それだけノッキングが起こりやすくなることも言えます。
ですので、こういった場合には街乗りよりも水温を10度〜15度程度下げて、たとえば80度とか
85度とかになるようにサーモスタットを設定してやることでノッキングを防止でき、それだけ
点火時期を進めたり、ブースト圧を上げたりできるのでパワーアップ効果を発揮できるのです。
ただし、この場合も前述したように「ラジエーターの放熱カロリーがエンジンが発生する熱カロリー
を上回っていることが大前提」です。でないとクーラントの温度はどんどん上昇し続けますので
ローテンプサーモをつけた意味はなくなります。
このように、極めて限定された使用状況でのみローテンプサーモスタットが有効に使えるのです。
もし、ラジエーターの放熱カロリーが低いままでローテンプサーモをつけた場合、効果があった
としてもせいぜい、低い水温のときにスタートして、水温が高くなるまでの「わずかな時間稼ぎ」
ができる程度にしかなりません。 ですので、たとえばごく短時間の競技、たとえばゼロヨンとか
ジムカーナとかそういう場面でしか意味がないでしょう。
しかも、通常より水温が低い状態はラジエーターおよび冷却系内の圧力がまだ充分上がっていない
状態となりますので、圧力が低いために沸点が下がり、こうした状態で急激な加熱(とくにターボ
では排気系やタービン周辺からの)が加わると、局部的に急激に沸騰する部分ができることで、
かえって冷却性能が低下してトラブルの元になりかねません。 このように低い水温はかえって
弊害をもたらすことをよく考えないとなりません。
水温は高からず低からず、そのエンジンにとって「適温」に維持しなければならないのです。
<参考> 純正流用によるローテンプサーモ化
なお、エンジンによってはわざわざ社外のローテンプサーモスタットにしなくても適度な水温の
低下をさせることができる場合があります。 それは「純正流用のローテンプサーモ化」です。
たとえば同じエンジン形式でも、そのエンジンがデビューした頃と現在とではサーモスタットの
設定温度が変わっている場合があります。 K6Aエンジンで言えば、私のJA22のサーモスタット
は開弁温度が78度であるのに対し、現行JB23(何型以降かは知りませんが)のK6Aエンジンの
サーモスタットでは開弁温度が82度とわずかに高くなっています。この理由は冒頭で述べた通り
で、現在の環境対策エンジンとしての傾向です。
ですのでたとえば現行JB23ジムニーのK6AエンジンにJA22のK6Aエンジンの純正サーモを流用
すればそれだけで「適度なローテンプ化」が図れるというわけです。これにより、オーバークール
まではならずに適度な水温の低下がなされますので、いわゆる「熱ダレ」が軽減できる可能性
があります。 K6Aに限らず、同一形式のエンジンで長い期間製造されているエンジンではこの
ような裏技が使える場合があるかもしれないので、調べてみるといいかもしれません。
●もうひとつの温度制御としてラジエーターファン(電動ファン)のON/OFF温度を変えるという
手法もあります。
ただこの方法も、低速走行では効果はあるものの、ある程度の速度の出る競技や、高速道路など
ではまったく意味はありません。
クーリングファンというのはあくまでもアイドリング時や渋滞時などの低速走行時など、充分な
走行風が得られないときにラジエーターを冷却するためについているものですので、ある程度の
スピード(たとえば60km/h)が出ている状態では不要なものです。
ましてや時速100km/h以上などの高速になると走行風による冷却でも充分になるので、かえって
ラジエーターファンやシュラウドは通風の抵抗でしかなく邪魔な存在となります。
(ですから常に高速で走るレーシングカーにはファンもシュラウドもついてないのです)
ちなみに、最近の乗用車はラジエーターの厚みがどんどん薄くなっていますが、私の乗っている
JA型ジムニーなどは比較的厚めのラジエーターがついています。
これは、車の性格的に比較的低い速度で最大出力を出すような使い方をされることを考慮して、
低いスピードでも大きな放熱カロリーが得られるように設計されているためです。 商用車や
本格的なオフロード車ではこういった傾向があります。
なお、ラジエターを大型化する場合、通常は「面積そのものを大きくする」か「多層化する」の
2つの方法がありますが、冷却効率の向上という意味では面積を増したほうが有効です。
多層化(たとえば1層のものを2層、3層にするなど)は一見すると冷却水容量も増えて効率が良さ
そうですが、実際はそれほど効率は上がりません。 なぜなら2層目、3層目のコア(フィン)に
当たる風はすでに1層目で温められた風があたりますので、思ったほど熱を奪ってくれないのです。
さらにラジエターが厚くなることでその間を通過する空気の流速が落ちることも効率低下の要素に
なります。 仮に1層のものをそのまま3層にしても30%〜50%程度放熱効率が上がればいいほう
でしょう。多層化は見た目ほどは効率が上がらないものなのです。 ですので車体側の寸法が許す
のであればできるだけ1層のままで風が当たる面積を増やしたほうが冷却効果は上がります。
また、ラジエーターの材質もアルミ、銅、真鍮(しんちゅう、黄銅)製などがありますが、純粋に
熱伝導率から言えば銅がいちばんです。真鍮は実際のところ熱伝導はアルミと大差ありませんので、
ただ重くなるだけです。 なので総合的には重量を考えるとアルミが最適ではないかと思います。
ラジエーターは通常、車のフロントオーバーハングにつきますので、鼻先は軽くしたいですので。

↑私の車には水温計については社外のものはつけていません。 もちろん正確な温度管理のため
にはあっても良いのですが、基本的に水温と油温はシンクロしているため、油温だけわかって
いれば水温もある程度推測できるというのがあります。 大雑把に油温100度〜120度程度に
於いては「油温マイナス10度〜20度」程度がそのときの水温の目安になると考えています。
ちなみに、私の車では最高速域になると、ラジエーターの冷却能力が強すぎて水温はかなり下がり
ます。 ごく普通に街乗りしているときは純正の水温計は真ん中よりやや下ですが、最高速を出す
ときは下から1/3、冬場などは下から1/4くらいまで下がります。
これは逆に都合が良く、最高速度を出すときは当然負荷が高くフルパワーを出している状態です
のでノッキングも起きやすくなるのですが、その状況で水温が下がることはヘッドの温度が下がる
ということですので最終的な吸気温度も下がり、パワーも出るうえにノッキングも起きにくくなる
という一石二鳥な状態なわけで、じつに好都合なのです。
●サーモスタットの位置(取り付け場所)の違い
最後に、サーモスタットはその取り付け位置の違いによる温度制御特性の違いがあります。
市販車には「出口サーモスタット」式と「入口サーモスタット」式とがあります。
ジムニーの場合で言えば、F6Aエンジンが出口サーモ、K6Aエンジンが入口サーモとなって
います。
出口サーモというのは標準的なサーモで、普通にラジエーターのアッパーホースのエンジン
側付け根にあるもので、エンジンからの水の出口にサーモスタットがついているものです。
対して入り口サーモというのは、最近増えてきた方式で、ラジエーターのロアーホースの
エンジン側付け根、エンジンに水が入ってくる部分にサーモスタットがついているものです。
両者の違いについてですが、出口サーモ式は「ラジエーターに入る水温を一定にする」のに
対して、入口サーモ式は「エンジンに入る水温を一定にする」ということになります。
出口サーモ式は、エンジンから出るときの水温は一定でも、ラジエーター出口での温度、
つまりエンジンに入る際の水温はそのときの走行状態や気温などで大きく変動してしまいま
すが、入口サーモ式では常にエンジンに入ってくる水温を制御していますので、速度や気温
に関係なく一定の水温の水をエンジンに送ることができるというメリットがあります。
つまり、エンジンにとっては入口サーモ式のほうが温度変動(ハンチング)が少なく、安定
した温度管理ができるので、最近の環境対策エンジンにはこちらが多くなってきています。
とくにアルミブロックのエンジンでは温度変動による熱膨張の寸法変動が鋳鉄ブロックよりも
大きいため、それを安定させるためにも入口サーモのほうが適していると言えます。
ただ、レースなど競技の際はより冷えた水を積極的に取り込むことができる出口サーモ式の
ほうが有利なことがあります。
なお、この両者のサーモ位置の違いからサーモスタットの開弁温度も異なり、当然ながら
入口サーモ式のサーモスタットのほうが開弁温度は低めになっています。
●サーモスタット外しについて
究極の方法としてはサーモスタットを外してしまうという荒技もあります。 サーモスタットは
冷却経路では結構な水の流れの抵抗となっており、これを外すことでより冷却水の循環量を増やす
ことができる場合があります。 もちろんサーモを外すことによる弊害はローテンプサーモの比
ではないので割愛しますが、これもただ外せば良いというわけではありません。
前述した「出口サーモ式」のエンジンの場合は通常はただサーモを外すだけで目的は達成できます
が、「入口サーモ式」の場合は注意が必要です。というのも入口サーモの場合は「3方向切替え型」
のサーモスタットの場合があり、このタイプは出口サーモタイプよりもバイパス通路が太いため、
ただサーモを取り外しただけだとラジエーターよりもバイパス通路のほうへ多く冷却水が流れて
しまい、結果としてラジエーターへ循環する水量が減ってしまうことから、サーモを外したことで
かえってオーバーヒートしてしまう可能性があるからです。 ですので、このタイプのサーモを
外す場合はこのバイパス通路を塞ぐか、オリフィスで絞ってやらないとなりません。
その他の冷却水の循環量を増やす(抵抗を減らす)方法としては、もし純正のサーモスタットより
開弁全開時のストローク量の多いサーモスタットが使えればそれに交換するという方法も有効です。