軽自動車の合法エンジンチューンでいかに馬力を上げるかを基本から考える
少ない排気量からいかにパワーを引き出すかをエンジンチューニングの基本に立ち返って考えてみる
●チューニングによるエンジンパワーを上げる方法は基本的には今も昔も変わることはなく、「いかに
多くの空気(酸素)を吸い込み、それに見合った量の燃料(ガソリン)を噴射し、可能な限り高い圧縮比
で圧縮し、確実に点火させ、ノッキングを起こす間を与えずに一気に急速燃焼させるか」という一連の
プロセスに集約され、これがうまくいけばトルクアップをもたらします。
さらにこのプロセスを「一定時間内にどれだけ多くの回数燃焼させるか」即ち「いかに高回転でそれを
可能にするか」ということが馬力(最高出力)を上げることにつながるわけです。

●まずはいかに多くの空気をシリンダーに吸い込むかが大きなテーマ
これの一番手っ取り早いチューニング方法は「排気量を上げることです」。 ですが、今回のテーマは
あくまで「軽自動車の合法チューン」ですから、ボアアップやストロークアップによる排気量の増大と
いう方法は除かれます。 そうなると、一定の排気量のシリンダーにより多くの空気を取り入れる方法と
しては吸気慣性を利用する「慣性過給効果の活用」、NAエンジンなら走行中の動圧を利用するいわゆる
「ラム圧効果の活用」、そして微々たるものですが「吸気脈動効果の活用」が考えられます。
また、「吸気を考えるにはまず排気から」と言われるように「慣性排気効果の活用」や「排気流速向上と
排気抵抗低減」、「イジェクター効果やアスピレーター効果の活用」によって燃焼の終わった排気ガスが
積極的にシリンダーから引き出される、つまり排気行程でピストンの上昇によって排気ガスをシリンダー
から追い出すのではなく、排気ガスが自らのもつ質量と慣性で排気管を通して大気に引き出され出て行く
ようチューニングをするのです。しかし、これらの自然現象に頼った方法だけでは一定容積のシリンダー
に吸い込める空気量(空気密度)はせいぜい130%程度が限界です。
●そこで過給器(ターボチャージャー、スーパーチャージャー)の活用
このページはJA22ジムニーのページですので、メインは「K6Aターボエンジン」です。ですので、やはり
限られた容積のシリンダーにより多くの「高密度(高い気圧)の空気を積極的に取り入れる最善の方法は
ビッグサイズのターボチャージャーで過給してやる」ということになります。

↑私のSPL HT07-A/R12ハイフローターボチャージャー
純正より大きなサイズのターボチャージャーで過給をかけてやれば、カムが同じならNAではせいぜい130%
程度の空気を吸い込むのが精一杯のところを、200%、300%の空気を取り入れることができ、当然それに
見合った量のガソリンを噴射し燃焼させることで、同一排気量のNAエンジンの2倍も3倍ものパワーを簡単に
引き出すことが可能になります。 つまり、見かけ上の排気量(これをみなし排気量と呼びます)が2倍、3倍
となるわけです。理屈としては非常に単純すぎますが、もっとも基本的なチューニングとなります。

↑同じシリンダー容積内にターボで密度を上げた空気を吸い込むことによって、実際の排気量の2倍、3倍に
相当するトルク、パワーを発生させることが可能になるわけです。 これを逆手にとって排気量を減らしても
トルクやパワーは落とさないようにしたのが最近のいわゆるダウンサイジングターボになるわけです。
●もちろん、ターボによる過給には「限界」があるのでそれを見極めることが重要
ターボエンジンはそれだけ簡単にパワーを上げることが可能になる反面、負うリスクも多くなります。 まず、
燃焼面ではどうしてもノッキングが起きやすくなるため、いかにノッキングが起きにくい燃焼室形状にするか
ということ、次に発生する熱量がNAの2倍にも3倍にもなるため、クーリング、即ち冷却をしっかりしないと
オーバーヒートをはじめ、排気系パーツにトラブルを起こしやすくなること。 あとは、発生するピストンに
かかる燃焼圧力、つまりトルクが強大になるため、油圧アップや必要に応じエンジン各部(たとえばヘッド
ガスケットやピストン、コンロッド、各部メタルなど)を強化しないと物理的に破損しやすくなって、最悪は
いとも簡単にエンジンブローするという結果になってしまうということです。

↑ターボエンジンはチューニングしてハイブーストをかけることにより簡単に高出力、大トルクが出せる反面、
調子に乗って限界を超えるとこのようにいとも簡単にエンジンブローしてしまう「諸刃の剣」なのです。 その
見極めがターボチューニングの難しい点であると言えるでしょう。

●次に「いかに高回転化を可能にするか」というチューニングテーマについて
ご存知の通りエンジンの1馬力は75kg-m/secです。つまり「単位時間当たりの仕事量」ですので、一定の時間
(たとえば1分間)にどれだけ多くの回数燃焼させることができるかで出せる馬力が決まってきます。 つまり、
「同じトルクならいかに高回転で発生させることができるか」が高出力エンジンの基本的な考え方です。たとえば
同じ20kg-mのトルクを4000rpmで発生させるより8000rpmで発生させれば馬力は2倍になるということです。
ここでは「カム」が大きな役割を果たします。いわゆるハイカムにすることで「より多くの混合気を吸入し、排気
することができる」ようになるわけです。

↑私が使用しているHB21SアルトワークスR純正カムシャフト。言わば「メーカー純正ハイカム」です。 いくら
大きなターボチャージャーをつけてもカム開度およびリフト量が小さければ効率の良い吸排気はできません。
より高回転でトルクを出す(=パワーを出す)ためにはハイカムシャフトは必須となります。 これについては
後日また詳しく記事にして説明します。
●クルマを動かすのはトルクではなく「馬力」である!
よく雑誌やネット、各種メディアでも「クルマを動かしたり、体感的に感じる加速感は馬力ではなくトルクである」
などと書かれているのを見ますが、これは力学的には大きな間違いです。クルマを動かすことができるのはトルク
ではなく馬力なのです。
たとえば「75kg-m」というトルクがあったとします。しかし、これには「時間」が含まれていません。 つまり
「トルクがかかっていても静止しているだけの状態」でしかないのです。これだけではクルマを動かすことはでき
ません。 しかし、このトルクにエンジン回転数、つまり時間を与え「75kg-m/sec」という「馬力」にしてやる
ことではじめてエンジンは回転することができ、結果、クルマを動かすことができるようになるのです。 そう、
つまるところ「トルクだけではクルマは動かない。馬力となることではじめて車は動き、加速することができる」
ということなのです。 つまり、我々ドライバーがクルマで走って感じる加速感はすべて「トルクではなく馬力」
ということなのです。ここをよく理解しておいてください。これは物理の基本中の基本です。 これを全く理解
していないアホどもがプロ、アマともに本当に多すぎます。とくに雑誌のアホ評論家やアホライターに多いですね。
自動車評論家(モータージャーナリスト)でも工学系出身の人は正しく理解していますが、そうじゃない大多数の
評論家連中は読者をミスリードするようないい加減なことを書いている輩が多く、非常に腹立たしく思います。
力学で言うところのトルク(力のモーメント)と馬力(仕事量)はまったく違うものなのです。 エンジンを語る
ならこの程度の基本的なことくらいはちゃんと勉強し理解してから論じていただきたいものです。

↑これはとある漫画の1コマですが、解釈が間違っています。正しくは「静止状態でペダルにかかる力がトルク」
で、「その力で一定時間内に何回転回すことができたかが馬力」となるのです。たかが漫画とはいえ専門的内容
に言及している以上、読者に誤った知識を与えないためにも正しい力学的表現をしていただきたいものです。
●だから馬力を上げるためには高回転化が必要になる
要するに馬力というのはトルクと回転数の積算となるわけですから、大きなトルクを低回転で出しても、低い
トルクを高回転で出しても同じ馬力にすることができます。前者は大排気量エンジン、後者は軽自動車のような
小排気量エンジンとなる訳です。 だからこそ排気量の限られた小さいエンジンほど「高回転で大きなトルクを
出す」ことが最高出力を上げる唯一の方法となるのです。 極端な例で言うと、F1のエンジンはピーク時には
最高20000rpmを超えるほどにまで高回転化が進みましたが、これも限られた排気量から少しでも高出力を出す
ためにここまで高回転化が進化したのです。
ちなみに、馬力とトルクには一定の関係がありますので、その計算式は以下のようになります。
<馬力(PS)>=トルク(kg-m)×0.0014×エンジン回転数(rpm)
<トルク(kg-m)>=馬力(PS)÷(0.0014×エンジン回転数(rpm))
つまり、馬力を知りたければトルクとその時のエンジン回転数を、トルクを知りたければ馬力とその時のエンジン
回転数がわかれば計算で導き出せるわけです。
●では最後に、スズキK6Aエンジンはどこまで使用回転数を上げることができるか?

↑JA22Wジムニーの旧規格K6Aエンジンのレッドゾーンは8500rpmですが、最高出力回転数はノーマルでは
6500rpmとなっています。 これを私はハイカム(ワークスRカム)、ポート研磨、HT07 SPLタービン、
吸排気系などのチューニングをして、現在はおよそ7500rpmあたりまでピークが引き上げられています。
そのため、加速時に引っ張った時は8500rpmを楽に超え9000rpmのレブリミッターに当たるまでフルに使う
ことができます。これはただ回っているという意味ではなく、そこまでパワーがついてくるという意味です。
ですが本音を言えばバルブスプリングのサージングの危険性さえなければあと500rpmほどレブリミッターを
引き上げたいくらいですが。 ただ、エンジンにとってはトップエンド付近のこの「わずか500rpm」の違い
が耐久性に大きく響いてくるほど大きな差で、以前に聞いたとあるF1レーシングエンジンの設計者の話では
「レブリミットをあと500rpm引き下げれば耐久性は4倍にできる」というくらいのレベルの大きな差なのだ
そうです。たかが500rpm、されど500rpmなのです。

↑K6Aエンジンの実用上の回転数上限はバルブスプリングが強い旧規格エンジンなら9000rpmから9500rpm
あたり、バルブスプリングが弱くされた新規格エンジンでは8000rpmから8500rpmくらいが限度でしょう。
(旧規格K6Aエンジンに対し、新規格K6Aエンジンのバルブスプリングは約70%まで弱くなっているのです)
ただし、腰下は平均ピストンスピードやベアリングビームの剛性の高さから12000rpmあたりまでは可能な
ポテンシャルを持っています。なので、動弁系の軽量化やバルブスプリングの強化など、シリンダーヘッド側
の高回転対策さえすれば短時間であれば12000rpmまで使えるチューニングも可能ではないかと思います。

↑Ti-6Al-4V高力チタン製バルブスプリングリテーナー。 純正のスチール製から換えるだけでも約40%の
軽量化になります。写真のリテーナーはバルブスプリングのカジリ防止と疲労破壊限向上のため、タフトライド
(イソナイト)処理がしてあります。

↑K6Aはラッシュアジャスターのないソリッドリフター直打式なのでF6Aより高回転に強いのですが、ノーマル
ではこのアウターシムが重く、オーバーレブさせると脱落するおそれがあるため、いっそリフターごと新造して
最近の主流である「シムレス式」に改造することで動弁系の大幅な剛性アップと軽量化を図ることができます。

↑参考までに左側がアウターシム式のバルブリフター。右側がシムレス式のバルブリフター(タペット)。
シムレス式のほうは一見するとインナーシム式リフターと形状は同じですが、シムを用いず、このリフター
の厚さの違いのみでバルブクリアランスを調整します。ですので、バルブステムとカムとの間にはリフター
しか挟まないため、高回転でのシムの脱落の心配もなく、また、バルブ駆動の剛性も高くなるため、高回転
エンジンには理想的な構造となります。 ちなみに、スズキのR06Aエンジンもシムレス式です。

↑K6Aエンジンのヘッドのバルブ周りのパーツはまだまだ高回転化を可能にするポテンシャルをもっています。
F6A(DOHC)のようなラッシュアジャスター+ロッカーアームという複雑な構造ではなく、ソリッドリフター
直動式というその構造のシンプルさゆえに上記で挙げたような動弁系のチューニングを施せば、条件次第では
12000rpmをレブリミットとすることも可能だと私は考えています。
<おまけ> 私の考える究極のターボエンジン「HONDA RA16EシリーズF1エンジン」

↑80年代の1.5リッターターボF1の最高潮だった頃のホンダF1エンジン、RA166E。1500cc 80度V6にIHI製
ツインターボを装着、最高ブースト圧6Bar、圧縮比11:1、最高回転数14000rpmで、予選では1500PS以上を
発生した「F1史上最強の究極のターボエンジン」です。そのあまりに天井知らずに上がっていくパワーにFIA
は恐れを感じたため、ブースト圧や燃料使用量にさらなる規制を設けましたが、ホンダの強さは変わらず、87年
のイギリスGPの1-2-3-4フィニッシュ、翌88年の全16戦中15勝など、RA16Eシリーズエンジンは当時まさに
無敵の強さを誇り、ホンダエンジンとIHIターボチャージャーの圧倒的な強さと技術力を世界中に見せつけました。
それに比べ、現在のF1エンジンはレギュレーションで技術開発ががんじがらめに縛られてしまい、正直、見ていて
面白くないですね。