ターボチューニングにおける「過給圧」と「風量」について

ターボは単純にブースト圧を上げれば上げただけパワーが出るものではありません


●ターボエンジンでパワーアップを図ろうとする場合に、多くの人がまず手っ取り早くおこなわれるのが

「ノーマルタービンブーストアップ」です。 要するに過給圧、つまり吸気中の酸素密度を上げてそのぶん

燃料(ガソリン)を燃やせる量を増やして、結果、シリンダー内の燃焼圧力を引き上げる(=トルクアップ)

ものです。 たしかに、この方法で「ある程度までは」トルクアップ、パワーアップは可能になりますが、

あるところで「頭打ち」になります。それは何故でしょうか?


重要なのは「圧」ではなくシリンダーに取り込まれる「混合気の量」にある

私は以前の記事で「ターボは空気を押し込んでいるのではなく、密度を高めた空気を吸い込んでいると

考えるべきである」と書きました。

<参考> →「ターボは空気を押し込んでいる」という考えの誤り

 

結局、どんなにブースト圧力を高めて酸素密度を高めても、最終的にその空気(混合気)がシリンダー内に

「どれだけ多く取り込めるか」が最終的にそのエンジンが発生するパワーを決めてしまうのです。つまり、

ここで重要なのが「押し込む」ではなく「吸い込む」という考え方なのです。 いくら強引にブースト圧を

高めて空気を押し込もうとしても、シリンダーがそれを「吸い込んでくれなければ」パワーを上げることは

できません

少々汚い表現ですが、人間で言えば、口の中が食べ物でいっぱいなのにそこにさらに食べ物を押し込もうと

しても飲み込めないのと同じです。 無理矢理ブースト圧をかけるのはこれと同じことです。

たとえは何でもいいのですが、F6AやK6Aエンジンのノーマルタービンのブースト1.2kg/cm^2ではどんなに

頑張ってもせいぜい90PS程度がいいとこです。ですが、ワンサイズ容量の大きなタービンに換えて同じ

ブースト1.2kg/cm^2をかけると一気に110PS程度は出ます。 この違いはどこにあるでしょうか?

※もちろんこれは吸排気系のチューニングや適切なセッティングが施されていることが前提での比較です。

 

その違いは「風量の差」にある

詳細な説明をしようとすると難しくなるので、なるべく簡潔にその違いを比較すると、小さなタービンでも

たしかに「圧」を上げることはできます。が、「量」を送り込むには限度があります。 逆に、大きな

タービンでは無理して「圧」を上げなくても「量」を送り込むことができます。結果として、シリンダー内に

「吸い込まれる空気の量」が大きく違ってきて、当然、大きなタービンのほうがより多くの空気、つまり酸素

をシリンダーに供給できるわけですから、それに見合った量のガソリンを燃焼させればそれだけパワーが出る

という簡単な理屈なのです。 つまりですね、大事なのは「圧」ではなく「量」なのですよ

ターボチューンと言うと二言目には「ブースト圧、ブースト圧」と圧力のことしか考えてない人にはこの点を

よく理解して勉強していただけると幸いです。と言うよりもこれを理解できないとターボチューンを語ること

はできません。これは電気で言えば「電圧」だけを考えて「電流」を考えてないのと同じです。

 

↑左がHB21SアルトワークスRタービン(HT06-4B)、右が純正タービン(HT06-3E)です。

コンプレッサーホイールの見えるインデュース内径の羽根の部分の大きさの違いが判るでしょうか?明らかに

ワークスRタービンのほうが径が大きく、それだけ「大風量」を送り込むことができるというわけです。

これは吸気側だけではなく、排気側にも同様にサイズに大きな違いがあります。本来ならここでトリムサイズ

の違いとかA/R比の違いを説明すべきなのでしょうけど、とりあえずは「キャパシティー(容量)の違い」と

簡単に考えておいていただければそれで結構です。 K6A標準のタービンよりワークスRタービンのほうが

圧倒的に多くの「風量」を吸い込み、シリンダーに送り込むことができるのです。

 

これは電気に置き換えて考えるとわかりやすいかも?

ブースト圧を電圧、風量を電流(アンペア)と置き換えてみてください。たとえば静電気。静電気は何千ボルト

という高電圧ですが、アンペアが非常に小さいため電気エネルギーとしては極小なので、まず感電しても人が

死ぬことはありませんよね。 対して、家庭用の100ボルト電源はどうでしょうか。電圧としては静電気の

わずか1/30程度しかありませんが、アンペアが非常に大きいため、感電すると最悪は人間を死亡させてしまう

ほどの強いエネルギーを持っています。 そう、重要なのはこの「エネルギー量」なのです。ターボエンジン

にとってもそのパワーの源となるのは「圧×量」の総エネルギー量なのです。 なので、いたずらに「圧」だけ

を高めたところで「量」がなければ出せるパワーなどたかが知れてるというわけなのです。 大切なのは量、

「風量」なのです。

↑これはホンダS660のメーカー公表のパワー&トルクカーブ。S660のS07Aエンジンは他のNシリーズの

エンジンよりも小さい容量のターボチャージャーなため、2000rpmを少し超えた時点ですでに風量のピーク

に達してしまうため、それ以降の回転数では風量不足からトルクは落ちる一方となります。 これはECUを

リセッティングしてどうなるものではなく、メカニカル、ハード的な限界なので、これを改善するにはターボ

チャージャーそのものを風量の大きなものに交換するしか方法はありません。

そしてここでもうひとつ重要な役割をするのが大きなサイズのタービンとともに「カム」の存在なのです。


最終的にシリンダーに取り込む空気量を支配するのは「カム」である

ご存知の通り、4サイクルエンジンでは吸気、排気の量およびタイミングを制御しているのはカムシャフトの

カムプロファイルです。 つまり、どんなにターボの過給圧を上げて空気をシリンダーに「押し込もうと」

しても吸気バルブが開いていなければシリンダーには空気は入ってくれません。当たり前ですよね。そのため

にバルブを開く時間やリフト量を増やしたカムシャフト、いわゆる「ハイカム」を組んでより多くの空気を

シリンダーに吸い込ませるわけです。 同じことは排気側にも言うことができ、多くの排気ができなければ

多くの吸気ができませんし効率良くタービンを回すこともできません。以下にK6Aエンジンの例を挙げます。

↑これは旧規格K6Aエンジンの純正カムとワークスRカムのリフトカーブの比較グラフ。黒い線で囲まれた

範囲が純正カムが吸い込み、排気できる量です。それに対して、赤い線で囲まれたひとまわり広い範囲が

ワークスRカムが吸い込み、排気できる量です。 どうですか?この図を見て比較してもノーマルカムに

対してワークスRカムのほうがより多くの量の吸気、排気ができることが一目瞭然ですね。

つまりワークスRカムはそれだけ多くの量の空気(混合気)を吸い込み、燃焼させ、排気させることができる

わけで、結果としてパワーが出せるというわけです。 人間で言えば、ノーマルカムが肺活量の小さい人、

ワークスRカム(ハイカム)が肺活量の大きい人、とたとえればわかりやすいかと思います。

ちなみに、このリフトカーブで囲まれた面積を専門的には「時間面積」と呼称します。この面積が広いほど

多くの吸排気ができるカムということができます。つまり「同じ排気量のエンジンでもカムが変われば

実質的に吸気、排気できる量が大きく変わってくる」ということです。

↑HB21SアルトワークスR純正カムシャフト。 ビッグタービンによる大風量をさらにハイカムにより活かす

ことでより多量の混合気をシリンダーに吸い込み、排気させることで大幅なパワーアップが可能になるのです。

当然、それに見合った吸気系、排気系のチューニングも併せておこなわないとその性能を引き出せません。


だから「ブースト圧を倍にしたからパワーも倍になるわけではない」

↑この漫画に書かれていることはたしかに「すべてが間違っているわけではありません。しかし正解とも言え

ません」。 結局、今まで説明した通り、ブースト圧というのは単にインテーク内部の圧力でしかなく、その

圧力で密度を高められた空気すべてがシリンダーに取り込まれるわけではないことに注目してください。

なので、たとえば660ccのエンジンにブースト圧1kg/cm^2をかけた場合、理屈のうえでは大気圧1kg/cm^2

にブースト圧1kg/cm^2を加算した量の空気を吸い込むわけですから、単純に排気量が倍の1320ccの自然吸気

(NA)エンジンと同じパワーが出せるということになります。ということは、倍の2kg/cm^2のブースト圧を

かけたら3倍の1980ccと同じパワーになるかと言ったらそう話は単純にはいきません。その理由にはいくつも

要素はありますが、一例としてターボコンプレッサーで加圧すると当然ながら断熱圧縮によって空気の温度は

上がります。通常、ブースト1.5kg/cm^2でおよそ150度、ブースト2kg/cm^2になると200度にもなります。

それをインタークーラーで冷却するわけですが、その冷却後の空気温度はブースト圧が上がれば上がるほど高く

なります。 当然、シリンダー内に取り込まれ圧縮された際の混合気温度も高くなるわけですから、ノッキング

の危険性が非常に高くなります。もちろん、インタークーラーを大型化するなどして吸気温度そのものは下げる

ことは可能ですが、今度はその密度の高い酸素量に見合った量の燃料を燃焼させた際に発生する熱量が問題に

なりノッキングの原因になります。それを回避するため、燃料冷却(ガソリン冷却)により濃い空燃比(A/F比)

にしなければならなくなったり、点火時期をリタード(遅角させる)などの安全マージン対策が必要になるわけ

で、結果として本来のベストなセッティングからは外れてしまい、そのぶんパワーは下がってしまうわけです。

さらに場合によっては圧縮比そのものを下げなければならないケースも出てきますが、そうすると熱効率のロス

が出ます。こういった様々な理由で、ターボは過給圧を上げれば上げたぶんだけ「排気量×ブースト圧」で

「NA何千cc相当のパワーが出る」という単純な考えなどは通用しないということになってくるのです。ターボ

エンジンはブースト圧を高めれば高めるほど加速度的にあらゆるリスクが高くなっていくので、チューニング

やセッティングにも高度な技術が求められるわけです。ここにチューナーの「腕」が試されるわけです。

つまり逆に言えば、うまくバランスよくチューニングさえすれば「排気量×ブースト圧以上のパワー」

を引き出すことも十分可能なわけです。これができてこそまさに「ターボマジック」と言えるのです。


まとめ「ブースト圧ばかりに気をとられないこと」が大切

とりあえず私が今回言いたかったことは、ターボは「圧」だけを見ていてはダメということです。 大事なのは

どれだけの「量」をシリンダーに供給できるのかということです。そういう視点から見るためにもやはり「ターボ

は加圧した空気を押し込んでいる」のではなく「ターボは酸素密度を高めた空気を吸い込んでいる」という考えに

改めないとならないわけです。 そういう思想に頭を切り換えてターボエンジンをチューニングするだけでもターボ

チューンの根本から見直すことが可能になります。 いつまでも「ターボは空気を押し込んじゃうんだから」なんて

言っているようではいつまでたってもハイレベルなターボチューニングはできません。 くり返しますがターボは

「ブースト圧」だけにとらわれてはいけないのです。

 

エンジンオーバーホール時の私のエンジンのターボチャージャー周辺

↑これは2010年にオーバーホール兼ファインチューンした際の私のJA22ジムニーのK6Aエンジン。 現在とは

若干、仕様が違っているパーツもありますが、タービンなど主なパーツは変更ありません。カムもHB21Sアルト

ワークスRカムシャフトを使用しています。

 

私の使用しているスペシャルHT07タービン(HT07-4ベース、排気側A/R12カットバックあり)

↑左がごく一般的なHT07ラージコンプレッサータービン、右が私のSPL HT07タービン。 コンプレッサー

ホイールの羽根のサイズ(径)の大きさが全然違うのがわかるでしょうか。 標準的なHT07のインデュース

径はφ32程度ですが、私のタービンはφ36もあります。 それだけ大風量を送り込むことができるのです。

ポテンシャル的にはIHIのRHF4とほぼ同等のコンプレッサー容量があります。 このSPL HT07タービンは

現在となってはまず入手不可能な「超レア」なターボチャージャーです。

<参考> →私の使用しているHITACHI SPL HT07ターボチャージャーについて


えんいー! ヽ(´ー`)ノ~~~