(番外編)「ターボは空気を押し込んでいる」という考え方の誤り
ターボもNAも「空気を差圧で吸い込んでいる」ことに違いはありません
●書籍やネット、その他のメディアでもよく見かける言葉に「ターボは空気を押し込んでいる」
という文面を目にします。 しかし、これは表現および考え方として100%間違っています。プロ
も含めこのことにどれだけの人がちゃんと認識しているのかたまに疑問に思います。

↑ターボチャージャーは圧縮機(コンプレッサー)であり送風機(ブロワー)ではありません。
空気を「押し込んでいる」のではなく、空気の「密度(気圧)を高めている」だけです。(アメリカ
かぶれの人などではよくスーパーチャージャーのことをブロワーと表現していることがあるようです
が、これは学術的には明らかに間違いです。コンプレッサーとブロワーは全く違います)
●NA(自然吸気)エンジンは単純にシリンダー内でピストンが吸気行程に入って下降することで
シリンダー内の気圧が下がり、そこに大気中の空気をインテークから「吸い込む」ということは
小学生でも理解できると思います。しかし、その「大気」にも常に1気圧程度の「圧力」がかかって
いることを多くの人はあまりに無視しすぎています。 自然吸気エンジンと言えど、決して真空中
から空気を吸い込んでいるわけではないのです。そこには常に外部から「大気圧」という圧力がかか
っているのです。 極端な言い方をすれば自然吸気エンジンも常に「大気圧によるブースト圧」が
かけられているということになるのです。 高速走行中の動圧、いわゆるラム圧を利用すればさらに
大気圧以上の圧力の空気を吸い込むことさえ可能になります(過給効果による充填効率の向上)。
そして、その圧力によって空気には「密度」が生じています。 とりわけ重要なのは燃焼に必要な
大気中に約21%含まれる酸素の密度です。まずはこれを忘れないでください。

↑空燃比計LM-1の校正画面の表示。 大気中の酸素濃度である約21%を表示しています。 端的に
言えばNAであれターボであれ、この空気中の酸素をいかに多くシリンダーに取り込むことができる
かがエンジンチューニングの基本と言えます。 多くの酸素を取り込んでしまえば、あとはそれに
見合った量のガソリンを吹くことはいくらでもできることですので。
●ターボエンジンは「気圧を高めたNAエンジン」と考える
そこでターボですが、上記のように「大気圧による酸素密度」という概念をもって考えれば簡単に
理解できることなのですが、ターボはこの自然吸気の1気圧をブースト1kg/cm^2なら2気圧、
2kg/cm^2なら3気圧(大気圧1kg/cm^2を含めた絶対圧)に高めているだけなのです。 つまり、
ターボで過給をするということは「大気圧を高める=酸素密度を高める」というだけのことで、
言い方を変えれば「ターボエンジンというのは通常は1気圧の環境下で動いている自然吸気エンジン
を2気圧や3気圧の環境下で動かしているのと同じことなのです」。 つまり、吸い込む空気(酸素)
の「密度」が異なるだけで、自然吸気エンジンもターボエンジンも「空気を吸い込んでいる」ことに
何も変わりはなく、その吸い込んでいる空気の密度が高いだけなのです。 決してターボは空気を
「押し込んでいる」わけではありません。あくまで「吸い込んでいる」のです。
それでもまだ、ターボが空気を押し込んでいるのだと言うのなら、NAエンジンだって「大気圧」で
空気を押し込んでいるという理屈にならないと辻褄が合わなくなってしまいます。 つまりターボも
自然吸気も気圧差でシリンダーが空気を吸い込んでいることになんら変わりはなく、ただその気圧差
がターボはNAよりはるかに大きいだけということになるのです。ご理解していただけるでしょうか。

↑左が自然吸気エンジンの吸い込む空気に含まれる酸素分子の密度、右がターボエンジンの吸い込む
空気に含まれる酸素分子の密度を表現した図です。 要するに、シリンダー内に取り込まれる空気の
体積はNAであろうがターボであろうが同じなわけで、異なるのはその空気に含まれている酸素密度
だということです。 たとえば、ターボによる過給によって2倍の気圧に高めればターボエンジンは
NAに比べて2倍の酸素を吸い込める、当然、空燃比が同じなら燃やせる燃料(ガソリン)の量も2倍
にできる、結果、ピストンにかかる燃焼圧力も2倍になり、出せるトルクやパワーも2倍になる(実際
には単純には2倍にはなりませんが、便宜上そうしておきます)という理屈です。 つまり、吸い込む
空気の「体積」は同じだが、その中に含まれる酸素の「充填率」が違うというわけです。 エンジン
設計の専門書には必ず「体積効率」と「充填効率」という言葉が出てきますので、このあたりは皆さん
も勉強されると理解しやすいと思います。
●では「吸い込む」と「押し込む」の思想の違いで何が変わってくるか
前述したように「ターボは密度の高い空気を吸い込むNAエンジンと同じ」という考え方に徹する
と、吸気系や排気系のチューニングに対する考え方も根本から見直すことができます。 たとえば、
これもよく目にする言葉ですが「ターボは空気を押し込んじゃうんだからNAほどポート研磨の効果は
少ない」という人がいます。 これはまさに「ターボは空気を押し込んでいるという間違った概念の弊害」
そのものです。 こういう誤った考え方でターボエンジンのチューニングをすると細かい部分への配慮
が欠いた大雑把なチューニングとなり、結果としてターボチャージャーに必要以上に頼ることになり
ターボに無駄に負担をかけ、いたずらにブースト圧だけを高めてパワーを無理矢理絞り出すことになる
ため、エンジンのフィーリングも悪化し、無駄な発熱も多くなって大幅に耐久性も犠牲になります。
しかし考え方を「ターボと言えど空気を吸い込んでいる」というふうに変えて考えれば「ターボは密度
の高い空気を吸い込んでいるのだから、NAよりもずっと粘性や質量の高い空気が流れるのでよりポート
研磨や段つき修正をしっかりやらないといけない」というように180度チューニングに対しての考え方が
変わってくるのです。 こういう繊細な考え方でターボエンジンをチューニングしていくと、より効率よく
エンジン本体で無理なく馬力を出すことができ、ターボチャージャーへの負担も軽減され、そんなに無理
したブースト圧をかけなくても目標出力を出すことができ、さらにエンジンのフィーリングも良くなり、
耐久性も燃費も向上するなど、最終的なエンジンチューニングの成果に大きく差が現れてくるのです。

↑ターボエンジンは自然吸気エンジンよりも加圧されて高密度な空気が流れるため、ポート壁面の仕上
がり具合がより重要になってくる場合がありますので、ターボだからといってポート研磨をおろそかには
できません。 液体にたとえるなら、NAはサラサラの水が流れるようなもの、対してターボはドロドロ
のオイルが流れるようなものと考えれば、むしろNAよりもターボのような過給エンジンのほうが抵抗が
少なくなるようにしっかりとポート研磨をおこなうべきであるという意味がわかりやすいと思います。
●エンジンチューニングには「思想」がその結果を左右することもある
以上のような理由からとにかく、「ターボは空気を押し込んでいる」という誤った考え方を根本から
変えていくことが重要だと私は思います。 あくまで今回私が書いたことは「思想論、概念論」です
ので、科学的であるかどうかは微妙なところです。 ようはモノの考え方の違いですからね。
「そんなのただの屁理屈だ」と言う人も多いでしょう。 ですが、エンジンをチューニングしていく
うえで、こういった「思想」の違いで出来上がったエンジンの性能が大きく変わってくることも事実
です。
たとえば、私がよく話をするバイクのレースエンジンのチューナーさんは「ポート研磨をするときは
自分が吸い込まれる空気になったつもりでおこなう」という表現をしていますが、科学的ではない表現
とはいえ、こうした「思想」でチューニングをおこなうことは非常に大切なんじゃないかと思うのです。
これはなにもポートに限ったことではなく、たとえばインマニやエキマニ、マフラーのパイプのカーブ
(曲がり)などにも言えることで、いかにゆるやかなRにして抵抗なく滑らかに流体が流れやすいよう
に自身の頭の中でイメージしながら加工、製作するかということなのです。 こういう細かい点を
おろそかにしない繊細なチューニングの積み重ねが最終的にそのエンジンの出来を決めてしまうこと
に繋がっていくのではないかと私は思います。 この点についてはNAもターボもまったく変わるところ
はなく同じなのです。
●とは言っても現実には最終的には「ターボに頼る」ことになります
ここまで書きましたように理想ではターボもNAと同じ考え方で「繊細なチューニングを」とは言っても
実際は「ここ一番での勝負!」という場面ではやはりターボエンジンは最後は過給圧を大幅に高めて
ターボに負担をかけ、わかってはいてもターボチャージャーに頼ってしまうのは現実には避けられない
でしょう。 実際、レースエンジンでも決勝レースに比べて予選では決勝レースの倍ほどにもブースト圧
を高めて限界までパワーを絞り出しますからね。 まぁ、これを「ターボに頼っている」と捉えるのか、
「ターボを活かしている」と捉えるのかというのもモノの考え方次第ではありますが。
実際に、ターボエンジンは簡単にブースト圧をちょっと高めるだけで大幅にトルク、パワーが上がって
しまうのは事実なので、頭の中ではブースト圧に頼ってはいけないとわかっていつつも、現実には一度
ハイブーストの加速感を味わってしまうと人間、もとには戻れなくなりますから。 ターボチャージャー
はほんとある意味「麻薬」とも言えますから「自制心」を持つことが大切ですね。

↑ターボがその威力を圧倒的に見せつけたのはなんといっても80年代のターボF1でしょうね。 とくに
このホンダRA16EシリーズF1エンジンの高性能はまさに圧巻でした。 とくに予選では限界まで過給圧
を高めてパワーを出していたため、1回タイムアタックするたびにタービンが壊れてしまうため、ターボ
を使い捨てのように交換していたレースも多々ありました。 今では考えられないことですが。

↑この写真は最終型のRA168Eエンジン。 日本の技術力の高さを世界に知らしめた名作エンジンです。
●市販車にとっての理想的なターボエンジンとは
昨今は「排気量ダウンサイジング+ターボ」というのがトレンドとなっていますが、そういう意味では
日本のターボ軽自動車はその「ダウンサイジングターボ思想」の究極の姿とも言えると思います。
そもそも、初期のスポーツモデル、たとえばBMW2002ターボやポルシェ930ターボなどを除けば、
実用市販車におけるターボエンジンの優位性と言うのは本来はハイパワーのためではなく、省燃費の
ためだったのですから。 日本ではじめて市販車でターボを採用した日産のL20ETターボエンジンも
当時の運輸省への申請で「ターボは本来は捨てられてしまう排気ガスの持つエネルギーを回収し、
それにより吸気の充填効率を上げエネルギー効率を高めて省燃費に貢献する」という建前で
認可を得たわけですからね。 しかし、当時のエンジンは現代のエンジンみたいに燃焼効率の良い
4バルブ、ペントルーフ燃焼室ではなく燃焼効率の滅法悪い燃焼室形状でしたので、現実はノッキング
を避けるために圧縮比を大幅に落としたり、燃料冷却(ガソリン冷却)のために空燃比(A/F)を大幅
に濃くしたりする必要があったことから、現実には市販ターボエンジンの燃費は決して良くありません
でした。

↑国産初の市販ターボエンジン、日産L20ET。最大ブースト圧はたった0.4kg/cm^2、圧縮比もたった
7.6:1でした。 最高出力は145PS(グロス値)。 それでも当時の上位エンジン、L28E(155PS)
より実質速かったのです。 ちなみに北米輸出仕様にはL28EにターボをつけたL28ETターボという
エンジン(180PS)もフェアレディZに積まれていました。
その後のターボ時代はすっかりターボエンジン=ハイパワーエンジンというイメージのほうが強くなり、
当初の省燃費思考はどこへやらで、各社続々とハイパワーなターボエンジンを作るようになりました。
とくに1980年代から1990年代前半にかけてはまさにターボの全盛期でしたね。 この時代はほんとに
速くて楽しい車に溢れていました。 ガソリン価格も安かったので燃費性能もあまり重視されなかった
うえ、バブル景気も手伝ってDOHC4バルブが当たり前になりまさにハイパワーターボ車が花盛りでした。
しかし、そのハイパワーターボ時代もひと段落し、とくに2000年代に入ってからは再び省燃費、環境
対策エンジンが脚光を浴びるようになり、とくにガソリンエンジンの筒内噴射(直噴)技術の向上と
あいまってターボでもそれほど圧縮比を落とさなくても良くなり、また、無駄に濃い空燃比にする必要
もなくなったことから、燃費も大幅に改善し、しかも低回転から大きなトルクを出せるようになった
ことから現代のダウンサイジングターボが台頭するようになってきたというわけです。
「よりパワーを出すためのターボ」ではなく「排気量を小さくしてもより大トルクを出すためのターボ」
になったということですね。 まぁ、市販車にとってはこれが本来のターボエンジンのあるべき姿なのだ
とここにきて各自動車メーカーもやっと気づいたのかもしれませんが…

●しかし「優等生すぎるターボエンジン」ばかりではつまらない
でも私には「今どきのターボは乗りやすいけどつまらない!」ですね。 私はどちらかというと高回転
でグワッとくるドッカンターボの方が好きなので、今乗っているこのJA22ジムニーのK6Aエンジン+
アルトワークスRカム+HT07-A/R12スペシャルターボの5000rpmから9000rpmあたりまで一気に
盛り上がってくる小排気量、高回転型ターボ特有の刺激のあるパワーフィールがとても刺激があり楽しく
て気に入っています。 おそらく他の人が私の車に乗ったら「低回転トロいわりに上でドッカンで
乗りにくくて最低な車だな」なんて言われるでしょうけど、映画AKIRAで金田が言ってましたよね
「ピーキーすぎてお前には無理だよ!」って。 私はそういう性格のエンジンのほうが刺激的で長く
乗ってて飽きないのですよ。
こういうことを書くと「それは時代遅れの思考だ」と反論を食らうかもしれませんが、私だって現代
の市販エンジンに求められるトルク特性や環境性能がどういうものかくらいは充分すぎるほど理解して
います。 要は「好き嫌い」で考えるのか「良し悪し」で考えるのかの違いです。

↑これはホンダN-ONEターボエンジンの全開性能曲線図。現代のターボエンジンに求められるトルク
特性というのはこういう低回転から大きく、かつフラットなトルク特性なのでしょう。 これにより、
660ccの排気量でも実質1000ccのNAエンジンを凌駕するトルク特性が得られるわけです。つまり、
ターボの過給圧コントロールをうまく使いこなすことで「排気量という概念を覆すターボマジック」
が可能となるわけです。 まさに「ダウンサイジングターボ」の理想の姿と言えるでしょう。
たとえばレースレギュレーションの例でも過去のグループAレースではシングルターボは排気量×1.4倍、
ツインターボは排気量×1.7倍という「ターボ係数」というものがありました。 スカイラインGT-Rの
RB26DETTエンジンの2568ccという市販車としてはなんとも中途半端な排気量はこのグループAレース
のターボ係数換算から逆算して決められたものだったのは有名な話です。
噂によると、今後、市販車でもこの「ターボ係数」と同じ考え方で、シリンダーの総排気量ではなく、
過給係数を上乗せして排気量区分をする「みなし排気量」で税制を見直すという話も出てきています。
ダウンサイジングによる小排気量車の増加で税収が落ちているのをこの税制により税収増につなげよう
とするいかにも政治家が考えそうななんともキタナイやり方ですが。
ちなみに、「みなし排気量」という意味では、ロータリーエンジンのレシプロの1.5倍の排気量で換算
して課税する「ロータリー係数」というのも私は今でも強引だと感じています。 だったら2ストエンジン
は4ストエンジンの倍の排気量で課税されなければ辻褄が合いませんからね。

↑私のJA22のK6Aエンジンも、発進時や低回転時こそ660ccのトルクの細さは否めませんが、本気で
攻めて走るときは5000rpm以上をキープしていればちょっと軽自動車とは思えないパワーパフォーマンス
を発揮してくれます。 軽自動車などの小排気量なエンジンほどターボによる「擬似排気量(みなし排気量)
の増大」による恩恵は大きいと思いますね。 あとはそれを「低回転から過給効果を出すのか、高回転での
パワーに振るのか」はその人のチューニングの趣味趣向の別れるところですね。 このへんも個性が現れる
ターボエンジンのチューニングの面白いところだと思います。