<60MHzスペクトラム・アナライザー>

記 2009年05月25日〜  ja3npl

  机上で使い易い、小型のスペアナを作りました。

  製作途上に、沢山の失敗と成功があり、楽しみました。その様子を紹介します。

  本当に欲しいのは、メーカー製のスペアナ中古品だったのですが、大型で重量があります。 集合住宅での生活では、あきらめざるを得ません。 数10Kgのメーカー製スペアナを押入れから運び出して、床面に据えて、3D-2Vケーブルを延ばして来るのは、無理だと考えました。

<追加>
  次は、周波数帯域を、〜150MHzまで拡張したスペアナの製作紹介です。 クリックすると、別ウインドウが開きます。

  1. 出来上がりの状況

      「 60mhz_db_scope Ver 1.2 」です。
      基板;100x150mmのはがきサイズ、組立高;42mm。収納ケース;130Wx180Dx45H (US-130H)。

      右は、裏側です。

    出来上がり状況裏側

      下は、ブロック図です。(クリックすると、より詳しいブロック図を、別ウインドウで表示します。)

    ブロック図

      ダブルスーパー方式ですが、RBW;100Hzのユニットの部分は、増設する構成でトリプルスーパーとなっています。

      局発には、難点があるのを承知で、DDS・AD9951を使いました。
      AD9951については、小型で組込み易いので、あきらめずに、入念に動作を確かめた所、やはり、-55dbc辺りからスプリアスが散発しており、-90dbc辺りからは沢山..です。(データ・シートの通り。)
      一歩譲って、-80dbcの範囲では、数える程のスプリアスになるので、今回は使用することにしました。


  2. 製作記録

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      この項は、別ページにまとめました。 クリックで、別ウインドウ拡大です。


  3. パソコン側ソフト

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      左は画面です。クリックで、別ウインドウ拡大です。
      波形の表示部は、300x300ドット、Y軸分解能は0.33dbx300=100dbです。
      詳しくは、ホームページから、「Visual Basic.Netで手作りソフト」の下、「その6.60MHzスペクトラム・アナライザー用制御ソフト」を参照下さい。


  4. 失敗例

    1. DDSのスプリアス
      DDSのスプリアス

        左は動画です。クリックで、小ウインドウが開き、Windows Media Playerで再生します。時間は、30Secです。

        DDS;AD9951を動作させて、0〜200MHzの周波数範囲をスイープ出力している状態を、スペアナ;HP8590Aで観測したものです。
        これは、T.G.の出力を観測しています。従って、AD9951の出力;-6dbm、150MHzのL.P.F.、-3dbのアッテネータを経た信号です。縦軸は、-9dbm〜-89dbm、横軸は、0〜200MHz。
        信号レベルは、周波数増と共にナイキスト基本波のsin(x)に従って右下がり、150MHzより右では、L.P.F.の効果が加わっていますが、200MHzでも出力しています。
        スプリアスの主なものは、@50MHz出力付近で、右から下がって来て交差する-65dbcの信号、A100MHz付近の-60dbcの信号、B133MHz付近の-55dbcの信号 です。-80dbcの範囲では、さらに、いくつかのスプリアスがみられます。

        1st Lo Oscは、90.7~150.7MHzです。出来るだけ、スプリアスを減らすために、1st Lo Osc用のAD9951の出力には、90〜150MHzのB.P.F.を入れています。


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        左は、このスプリアスのため、残念ながら、不要に表示される状況です。133MHzの出力付近では、1st IF; 90.7MHzを引き算して、42.3MHz付近の受信となります。

        100MHz付近のスプリアスも同じ様に不要表示となっています。100-90.7=9.3MHz付近の受信となります。


    2. D.B.M.のIMD
      不具合回路

        D.B.M.を使う場合に、インピーダンス・マッチングが整っていないと、IMDが劣化する..その対応のために-3dbのアッテネータを挿入しておけば良い..ということで、従来は、問題は起こりませんでした。例えば、前作のAD9851を使った簡易スペアナでは、TUF-2に-20dbmの2信号を加えて、-80dbcのIM3を得ていました。
        しかし、今回、左の回路にしたところ、-65dbcのIM3となり、困ってしまいました。


      改善回路

        原因は、急峻なフィルターが3方にあり、フィルターの帯域外では、オープン状態にあるため、反射が大きくなっていました。

        左の回路として、-80dbcが得られましたが、実験を繰り返し、基板を作り直し、数ヶ月も費やしてしまいました。

        さらに、改善案があります。RF Input側に+20dbのアンプを設けて、バッファーとすれば、より急峻なL.P.F.とアッテネータの組合わせが自在に出来ます。(IFへの通り抜け防止、入力レベル範囲を-120dbm程度まで拡大、測定対象との整合..等。)


    3. 各フィルターのIMD

        RBW;100Hzの場合は、3rd Mix/IF回路が動作しますが、2信号のIM3は-50dbc程度となり、困りました。
        原因は、10.7MHzのXtalフィルター(BW;10KHz)を通った後の信号から分岐して、3rd Mix/IF回路に入力していたためでした。10.7MHzのラダー・フィルターで、信号がこんなに劣化するとは、知りませんでした。

        以下に、色々なフィルターのIMD特性を列挙しますが、空心コイルのすばらしい事を、再発見しました。

      注;ここでは、IM3は、2信号とのレベル差を記しています。さらに、6dbを加えるとIMDとなります。
      FCZFCZFCZ 7mm角 2連B.P.F.、入力0dbm/IM3=-41dbc、 クリックすると測定画面を表示。
      マイクロ・インダクターマイクロ・インダクターマイクロ・インダクターを使った、10MHz L.P.F.、10MHzの肩辺りは入力0dbm/IM3=-64dbc、9MHzで-75dbc、5MHzで-77dbc。
      空心コイル空心コイル90.7MHz、 BW5MHz、B.P.F.、空心コイル(Dia3mm16Turn)x5。入力-20dbm/IM3=-80dbc超。
      リングコアリングコア10.7MHz Diplexer、コアはT25-2、入力-20dbm/IM3=-80db超。Qが低い回路。
      リングコアリングコアT25-2を6個並べた、10.7MHz BW100KHzのB.P.F.、入力-15dbm/IM3=-65dbc。T25-2を2個並べた場合も-65dbc。Qが150程度の回路。
      XtalXtal10.7MHz Xtalx6 ラダー・フィルター BW10KHz、入力-15dbm/IM3=-50dbc。
      空心コイル空心コイル10.7MHz、 BW1MHz、B.P.F.、空心コイル(Dia3mm40Turn)x3。入力-15dbm/IM3=-80dbc超。
    4. 狭帯域(1KHz,100Hz)のXtalラダー・フィルターの怪現象
      回路

        左の様に、8個のXtalを並べて、狭帯域の特性を得ることが出来ました。

        しかし、次の測定画面のように、問題を発見しました。


      2信号特性

        左の画面は、10MHz付近の、1KHz差の2信号とIM3にカーソルを置いて、測定しています。( IFは2.7MHz/BW100Hzフィルター)

        オンマウスすると、250Hz差の測定画面に変わります。

        このように、1KHz差の場合にはIM3は-79dbcなのに、250Hz差になると-66dbcに悪化します。
        10.7MHz/BW1KHzのフィルターでも、この現象が生じています。

        原因は...、入力側のXtal;X1によって2信号が歪んでしまい、後続のX2〜X8の狭帯域でIM3を選出しているものと思われます。 X1を取り替えると、状況が変わるので、良い特性のXtalを選ぶ事になりました。

        今の所、対策なしです。Xtal;1個の選択度を超えて、狭い帯域フィルターを作ることが間違いのようです。BW100Hzのフィルターを作るには、1MHzあたりのXtalを使い、頂部は平坦な特性のBW100Hzフィルターになるのでしょう。

        もう1つ、ヒントが有ります。前作のAD9851を使ったHFスペアナで、同じ様にBW;0.8KHzのフィルターを使っていますが、2KHz差の2信号でもIM3は悪化しないのです。ただ、BW;0.8KHzフィルターへの信号レベルは、+5dbmと、過大と思われるものです。過大信号の為、X1のロスが大きく、歪み方が少ないのかもしれません。


    5. 周波数の変動

        スイッチ・オンの後、約150HzほどQRHします。RBW100Hzの測定時に見えるのですが、このまま使っています。
        DDSのクロックに100MHzのXtal Osc、2nd Osc に80MHzのXtal Oscを使っています。内部の発熱によるQRHなのですが、1st lo osc は上側ヘテロダイン、2nd lo osc は下側ヘテロダインのため、2つの変動の差分になっています。
        次の様に、対策は有ります。
        温度センサーを追設して、マイコンのソフトで、温度とDDSの基準値の関係を制御すれば、補正できます。

    6. 電源の発熱とノイズ

        DC13Vから、+5V(500mA)の電源を導く場合、3端子レギュレータを使うと、4Wもの発熱になります。これを嫌って、DC-DCコンバータを組み込んだのですが、今度は、DC-DCコンバータの発振周波数50KHzに伴うノイズに対処することになりました。

      不具合リアクター

        左の様に、SMDのリアクターを組み込んだのは失敗でした。両面基板にマウントし、0.2tの銅板で囲ったのですが、50KHzの漏れ磁束が止まりません。スペアナの入力に、-50dbmのレベルで入ってきます。
        調べてみると、50KHzでの銅板の表皮深さは0.5mm程度で、-10db弱の低減効果です。基板の銅箔35uや0.2t板は役に立たないと判りました。


      リングコア

        結局、リング・コアにして、-100dbmのレベルまで低減することが出来ました。漏れ磁束は、DC-DCコンバータのIC周りからも出ていますので、銅板シールドを加えました。

        電源は、大容量の平滑コンデンサーや、リップル低減用の3端子レギュレータを備えて、大変な重装備になったと感じています。難しいと思いました。


    7. その他

        D.B.M.のパターン、B.P.F.の方式とシールド、D.B.M.の高調波、LogAmpの入力回路、..等、失敗と共に、知識欲を満足させてくれる事が、ありました。機会があれば、追記します。

  5. 測定例

    1. 受信機のイン・バンド特性

        測定要領は、次の通りです。
        2信号は、10MHzと、500Hz差の2信号で、-20dbmとする。合成電力は-20+6=-14dbmとなり、ほぼ、S9+60dbに相当する。
        受信機へこの信号を入力し、2信号が帯域内の中央に入る周波数に調整し、SPジャックからAF信号を出力する。出力レベルは、受信機のボリュームで、0dbmに調整し、スペアナ入力とする。

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        左は、TS-50Sの測定例です。

        2信号の左側のIM3は-20dbcなので、IMDは、6dbを加えて、-26dbcです。
        TS-50Sは、どうもS9+60dbの強信号は想定していないと思われます。   レベルを下げてS9+30db以下を入力し、AIPやATTをONとした場合が本来の受信の仕方と思われ、この場合、IMDは、-40db-6db=-46dbcとなります。


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        左は、IC-756PROの測定例です。

        2信号のIM3は-64.9dbcなので、IMDは、6dbを加えて、-70.9dbcです。
        NR(ノイズ・リダクション)はONにしています。これをOFFにすると、ノイズ・レベルが、-50dbmになって、IM3が見えなくなります。
        -70.9dbcの値は、すばらしく良い性能だと思います。取説を見ると、2SK1740x4のミキサー、64MHzのXtal BPF、2SK1740のアンプ、455KHzのセラミックBPFが使われています。
        今回、スペアナを自作して得た知識から判断して、Xtal BPFや、セラミックBPFで-65dbc超が得られるあたりがすばらしいと思います。おそらく、段間コイルは、コアを排除した物が使われているのでしょう。

        IC-756PROよりも新しい機種は、さらに、この性能が改善されているとの事、どこまで良くなっているのでしょうか。S9+60dbと、S1のレベル差(Sひとつが3dbピッチとして) 90dbcを期待したいところです。ダイナミック・レンジが100db表示のスペアナと同等の性能になってしまいます。


        しかし、イン・バンドのIMDは、-40dbc程度あればよく、これを超える性能は要らないのでは..との疑問を持ちました。  BW2.4KHzの内では、混変調の程度は、音質を保てばよく、2信号を選択分離する事は無いので。

        そこで、BW2.4KHzのフィルターよりも前段でのIMDが、より重要であると気付き、これを測定しました。
        スペアナは使わずに、10KHz差の2信号とIM3を、受信機のダイアルを回して見つける方法です。レベルは、Sメータ表示での読取りですが。結果は次の通りでした。
        入力信号は、10MHzの10KHz差の2信号/-20dbm(S9+60db)、TS50Sの場合、IM3はS9+35db、つまり、-25dbc程度となりました。IC-756PROの場合、IM3はS9とS8、つまり、-60dbc余となりました。イン・バンドでの測定結果と同じでした。結局、BW2.4KHzのフィルター、キャリア・ミキサー、AF回路では、IMDに影響する信号劣化は無かったという事になります。これも、すばらしいと思いました。

        せっかく、イン・バンドの特性を測ったのに、スペアナを使わない測定でも良かったのだ..という事でした。
        せめての収穫は、受信機のつまみの調整に従って、どのように特性が変わるかを会得したことでした。従来は、感じていた性能を、数値で、2次元画面で、捕らえました。

    2. 受信機の感度、S/N比の観測

        測定要領は、次の通りです。
        10.010MHzの単信号で、-20dbmの強信号、-145dbmの弱信号を入力し、AF出力をスペアナに入れる。強信号の時のAF出力を-20dbmにAFボリュームで合わせる。
        AGCの効き具合、信号とバック・グランド・ノイズの関係を見る。

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        左は、TS-50Sで、-20dbm(S9+60db)の場合です。
        1,467Hzの高調波が見えますが、-40dbcより下なので、可聴範囲外で、支障無しです。


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        続いて、TS-50Sで、-145dbmの場合です。
        ノイズより、わずかに、3db程度のレベル差です。そして、1KHz以下のノイズと同じレベルです。 CWの場合は、AFフィルター追加で改善できることがうかがえます。


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        左は、IC-756PROで、-20dbmの場合です。
        ノイズ・リダクションはON、P.AMPはOFF、1,500Hzの高調波は、見えないレベルで、AF回路の歪の少ないことが判ります


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        続いて、IC-756PROで、-145dbmの場合です。
        ノイズ・リダクションはON、P.AMPはOFF。1,500Hzの信号は、見えません。明らかに、感度不足です。


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        続いて、IC-756PROで、-145dbmの場合です。
        ノイズ・リダクションはON、P.AMPを入れて、P.AMP2としました。
        1,500Hzの信号が、6db程度抜けて見えます。しかし、フィルター・エッジのヒス・ノイズのレベルよりは低い状態です。AFフィルターを追加すれば、改善できそうです。


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        続いて、IC-756PROで、-145dbmの場合です。
        ノイズ・リダクションをOFFとしました。P.AMP2です。
        1,500Hzの信号は、見えると言うより、ノイズと同じレベルです。この、N.R.のない条件では、TS-50Sの方が優れています。
        AGCの効き具合は、両者-56dbmで、同じでした。-20dbm//-145dbmの125db差が、-20dbm//-56dbmの36db差に圧縮されています。


        IC-756PROで、P.AMPがOFFの場合に、感度不足と言うことで、仕組みが判りました。
        TS-50Sは、常時P.AMPが入っている状態..と考えれば良いのでしょう。2信号特性の比較では、TS-50SにA.T.T.を追加して調べるのが、両者に公平だった様です。

  6. ・・ヒント・・

    1.   今回製作品は、ダイナミック・レンジが80dbcでしたが、100dbcが可能かもしれません。アンプは出力レベルを下げる、ノイズレベルが増、ユニット毎のシールド、DDSのスプリアスをソフトで処理..が課題です。
        一方、ダイナミック・レンジを60dbc程度にすれば、より簡単に、部品を選ばずに製作できます。
    2.   今後は、ダイレクト・コンバージョン方式の受信機が、普通になってくるのでしょう。スペアナに、DC方式のヒントが沢山有るように思います。
    3.   今後は、FFT方式のスペアナが、普通になってくるのでは。今回製作品の様な、アナログ方式は、作られなくなるのでしょう。今の内に、作っておこうと思いました。

以上

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