| ま え が き | 今回はミュージシャンの人生についてのお話をしましょう。 といっても重たい話ではなく、いろいろな元ミュージシャンの落ち着く先についての分析です。 ひとことでミュージシャンといっても中身は様々ですが、ここでは過去50数年の自分の人生を振り返り、私の上を通り過ぎた、もとい私の横を走りぬけた(もしくは並んで歩いた)3288名のミュージシャン仲間達をいくつかのタイプに分類し、彼らのその後のなれの果て、もとい落ち着き先を考えてみようという主旨で話を進めます。 あなた自身や音楽仲間の方々に照らし合わせてお楽しみください。 さて、ここでいうミュージシャンとは、音楽を演奏する人間という意味ですから、某音楽教室の幼児科で、指についたチョコレートのどろどろをピアノの鍵盤に塗りたくっているガキから、ジャンクフードのみの摂取によって得られるなけなしのパワーを、ひたすらパンクロックにぶつける兄ちゃんロッカー、さらには毎週1度電車で3時間かかる都会まで、親が汗して稼いだ大枚の金子を月謝として払うためだけに著名音楽家のもとへとレッスンに通う音大志望少女まで、あらゆるジャンルの音楽演奏者がここには含まれますが、テーマの設定上、プロとして活動しているミュージシャン及び音楽を教えることを生業とする指導者は含まないものとします。 いうまでもなく、ここで取り上げているテーマは、過去にミュージシャンであった人達のなれの果て、もとい行きつく先であって、それは何らかの理由で職業音楽演奏者(指導者)となることを断念した人達だからです。 また私自身がそうだから言うわけではありませんが、更にいえば、どういうわけかそういうドロップアウト組が圧倒的に高い比率で集まっている業界が楽器業界なのです。 これは何故でしょうか? ご存知のように音楽を商品として扱う音楽産業には、楽器業界の他にも、レコード(CD)業界、楽譜出版社、音楽プロダクションからライブハウスに至るまで多くの人達が暮しています。 もちろんこうした業界の中にだって、元ミュージシャンはたくさんいるでしょう。しかし比率としてみれば、それは楽器業界には敵いません。 例えば、楽器は演奏しないが、膨大な数のCDを所蔵し、あらゆるジャンルの(又は特定の)音楽に詳しい、いわゆるマニアック・リスナーが楽器業界へ就職する確率は高くありません。むしろそういう人の行き着く先は大型CDチェーン店か、レコードメーカーの宣伝部員などです。 また、ある一定の時期にレコードも出し、音楽活動をしていたミュージシャンが転身して音楽プロデューサーやプロダクションの経営者となったりもしますが、このように一度はミュージシャンとして世の中に広く認められた、いわば"成功者"も本論の範疇には入れないものとします。 ここで云々する対象はあくまでも、世の中に出ることのないままにプロ演奏者としての人生に区切りをつけてしまった"ミュージシャン崩れの社会人"であり、私の経験からいうと、そういう人達が最終的にたどり着く世界が楽器業界であるというわけです。 これは、ひとつには、楽器という音楽を演奏するための道具に愛着を感じる余り、片方で音楽自体をあきらめることに至った場合、なんとしても音楽に関係のある生活に身をおいていたい、という切なる願いが頭をもたげた結果であると私は思うのです。 音楽を演奏して生活の糧を得ることが出来ないのならば、せめて楽器を作りたい、修理したい、売りたい、そしてもっと世の中に楽器を普及させたい、という衝動の奔流が彼らをして楽器業界へ走らせることになるのです。 またもうひとつの理由は、楽器を扱う業界に暮していれば、現役の有名ミュージシャンと対等におつきあいが出来るというメリット感にあるのではないかとも思われます。 楽器を間に挟んで一流ミュージシャンとサシで音楽の話が出来、時には議論さえも許される。こういう幸福感に浸りながら、自分が(音楽的に)一流と同格になったかのように感じてしまう勘違い人間もたくさんいます。 しかし現役ミュージシャンとは言葉を換えて言えば成功者なのであり、非成功者である彼らにとって、現役とのおつきあいは、ともすれば毎日のようにコンプレックスを感じていなければならない状況のことを言うのであって、そう考えていくと、彼らの中でこれはもしかすると、増大する"自虐"という負の意識の裏返ったものなのかも知れません。 そうした彼ら元ミュージシャン達の屈折した潜在意識の堆積が、ある日素晴らしい楽器の誕生をもたらす、という仮説もあながち捨てられないのです。 さて、ややもすると話が"プロジェクトX"的感動秘話方面へ流れそうになりますので、ここで本論へ突入いたします。 楽器業界へ落ち着いた人達は、当然のことながら皆が一緒の経歴をたどってきたわけではなく、千差万別の経歴の持ち主ばかりなのですが、そこにはある法則性のようなものが存在することに私は気づきました。 すなわち、(表立っては言わないものの)緻密な情報処理能力と状況分析力を誇り、なおかつ天才的なひらめきにも恵まれ、はたまた飽くことなき真実への探求心旺盛な私は、ある日のこと、にごり酒をちびりちびりやりながら突然に、彼らの経歴と演奏してきた音楽ジャンル、そしてなれの果て、もとい落ち着き先との関係の間に、何種類かの類型を発見するに至ったというわけなのです。 さぁ、ゴタク並べはこのくらいにしていよいよその類型をご紹介します。 言うまでもなく文中のイニシャル人名には特定のモデルはおりません。 登場する各々の人物像は、過去に私の人生と交叉した数々の元ミュージシャンに特徴的な様々な"部分"を、都合よく再構成したものであるにすぎないからです。 2.吹奏楽部で部長を経験したB男 3.大学ジャズ研の部室で4年間すごしたC太郎 4.高校を中退してパンクバンドを結成したD介 |