これまでのあらすじ
 会社の仲間と東北の温泉にスキーに来た十萬田新一は、土産に買ったまんじゅうを食べたことから、女の子に、さらにはまんじゅうになってしまうというとんでもない体験をすることになってしまう。(温泉まんじゅうこわい)
 そして失踪してしまった新一の消息を追って、妹の初音も温泉を訪れたが、不思議なマントの力によっ初音もマントと化してしまう。(赤いマント)
 その後初音は温泉の伝説の八仙人の子孫であるアイニス、佐登静、吉兎守の活躍によって元の体に戻ることができた。しかし、新一は結局元の体に戻ることができず、小学生の女の子の体になってしまいそのまま温泉に留まることになってしまったのだった。(青いマント)
 そしてゴールデンウィーク、留まった兄に会うために再び温泉を訪れた初音は、兄新一共々秘術を駆使した八仙人の争いに巻き込まれてしまう。(初音再び)

(これまでの話を詳しくお読みになりたい方は、下記の作品をご覧下さい)

 第1話「温泉まんじゅうこわい」・・・夢幻館まんじゅう企画に投稿)or TS解体新書
 第2話「赤いマント」     ・・・TS研究所まんと企画に投稿)or TS解体新書
 第3話「青いマント」     ・・・TS研究所まんと企画に投稿)or TS解体新書
 第4話「初音再び」      ・・・こうけい。オルグ       or TS解体新書
 





 八仙人が二派に分かれての戦いが終わった後、山の社には再び数人の人影が集っていた。 

「お前達、何を悠長なことをしておる」

「すみません。挨拶代わりにと思ったのですが、少し遊びが過ぎたようです。あいつらもさすが八仙人」

「ばかもの、わしは一刻も早い自らの肉体の復活を望んでおるのだ。あの初音という娘こそわしの真の寄代となる身、必ず成功させるのだぞ」

「わかりました。我らあなた様の命に従う者。今度こそ成功させましょう」

「うむ、頼むぞ」






十萬田兄妹と温泉の八仙人 −黄金週間の悪夢−


作:toshi9





 翌日の朝、新一と初音は連れ立って佐登の研究所にやってきていた。

 ゴールデンウィークに入り世間は休日だ。しかし修行を行う者にとって休みはない。特に少しでも早く元の体に戻りたい新一にとっては尚更だ。だがこの日はさすがに何時も通りに修行服に着替えることを躊躇していた。

「兄さん、あたしも修行について行っていいかな」

「ばか、これは遊びじゃないんだ。お前はここで待ってろ」

「ええ〜、ねぁ静さんいいでしょう」

「いいですよ。アイニスは朝は女将の仕事で忙しいから、あたしたちと一緒にいたほうが安心ですしね」

「おいおい、佐登さん」

「あら、新一さんいいじゃない。修行の成果を初音さんに見せてあげたら?」

「成果はいいんだが、けど……」

 新一はもじもじしている。言葉使いはともかくその姿は小学生の女の子そのものであり、とってもかわいらしく見える。

「さあさあ早く着替えて行きましょう」

「……それが問題なんだよ」

「ははぁ……でも時間が無いんですから、恥ずかしがっていては駄目ですよ」

「けどなぁ、ううう」

 新一は仕方なくタンスから修行服を取り出すと、着ていたブラウスとデニムのスカートを脱いで着替え始めた。

 彼が着たもの、それは白い半袖の体操シャツと紺のブルマーだった。

「ぷっ! 兄さんその格好」

「だ、だからいやだったんだ」

 新一は着ている体操シャツの裾を両手で押さえて穿いているブルマーを隠すと顔を真っ赤にした。その仕草がまた一段とかわいい。

「あら、兄さんとってもかわいいわよ。うん活発な小学生の女の子って感じね。ほんとこれが兄さんだなんて誰も信じないだろうなぁ。でもその体操服ってどうしたの」

「あたしのお古なんですよ。今の新一さんに合う修行のできる活動的な服といったらこれしかなかったもので」

「ねえ佐登さん、本当にこのブルマーの他に無いんですか」

「うん♪」

「初音、街でショートパンツ買ってきてくれよ」

「駄目よ新一さん。それかわいいんだから」

「あ〜やっぱりおかしい」

「うふふふ、さあさあ行きましょう」

「兄さん、あたしカメラ持ってきてるんだ。撮ってもいいよね」

「ば、ばか、やめろ」

「「あっははは」」

 初音と佐登の笑いが研究所の中に響いた。

 そう、それはまだ静かな、平和な朝であった。






 その頃、吉兎の家にはある訪問者が訪れていた。

「おい、吉兎」

「お、佐為じゃねえか、お前昨日はよくも」

「まあ待て待て、いいもん見せてやろうか」

「何だよ、それよりアイニスがかんかんだぞ」

「いいさ、あんな化け猫、怒らせておけば。そんな事よりほら、これなんだと思う」

「何だ……え! それってまさかアイニスの……」

「吉兎、お前これ被ってみたくないかい」

「お、お、お、俺がそんなことする訳ないだろう」

「そうかな、声が震えているぞ。お前昔アイニスのことが好きだっただろう。これを被ればお前はアイニスになれるんだ。あいつの体を自分の思い通りにできるんだぜ」

「・・・・・・・・・」

「今ここには俺たちしかいないんだから。このことは他の仙人には内緒にしておいてやるぜ」

「・・・・」

「そうか、興味ないか。わかったよ、じゃあこれは処分しよう」

「ま、待て、それ、か、貸してくれ。どういう感じなのかちょっと着てみるよ。でもお前何か企んでいるじゃないのか」

「いや、何も無いさ。俺たちは元はといえば仲間じゃないか。折角作ったこの皮をすぐに処分するのも勿体無いと思ったんでな。お前のことを思い出したというわけさ」

「そうか、ありがとう。佐為、お前本当はいい奴なんだなぁ」

「ははは、じゃあ服脱ぎな。早速被ってみなよ」

「ああ、でも何かどきどきするなぁ」

 吉兎は、荒い息で佐為の前で服を全部脱ぐと、佐為が手渡したアイニスの皮の背中にあるファスナーを開いてそこからその中に潜り込み始めた。足を入れ皮を腰まで引き上げると、彼の下半身は艶かしいラインを描く女性のそれになっていた。

「おお、これってアイニスの太もも、アイニスのお尻、アイニスの腰、はぁはぁ」

 吉兎は思わず自分のすべすべになった脚から腰にかけて撫で回してみたが、下半身だけ皮を着込んだ彼を見詰める佐為の視線に気が付くと危うくそれ以上の行為に堪えた。そして上半身、さらに腕を皮の中に潜り込ませ、最後に頭にアイニスの頭の皮をすっぽりと被せた。目鼻の位置を調節していると、佐為はすかさず背中のファスナーをシャっと引き上げた。

「ふふふっ、かかったな」

 小さく呟いた佐為の声は興奮しきって鏡の前に立っている吉兎の耳には届かなかった。

「吉兎、気分はどうだい」

「おお! この皮を被ると本当にアイニスになれるんだなぁ。声も何か変わっているぞ・・・あたし、アイニスよ。吉兎くん、あたしきれい?」

 吉兎の目の前の鏡には裸のアイニスが映っていた。そして吉兎はしきりに鏡に向かって腰をくねらせてポーズを取った。それをにやにやと見詰めている佐為。

「ほらレオタードもあるぞ」

「おお! あの時の赤いレオタードとスパッツ。これ着てみてもいいのか」

「ああ、そのままじゃ俺も目のやり場に困るしな」

 アイニスの皮を被ってアイニスの姿になった吉兎はその裸の体にレオタードとスパッツを身につけていった。

「あ、あぁ、これが俺なのか、はぁはぁ、このレオタード姿の色っぽいアイニスが」

「そうだよ。今のお前はアイニスさ、この俺のな。ふっふっふっ……アイニス!」

「はい何でしょうか、ご主人様(え?)」

「俺の前にひざまずけ」

「はいかしこまりました(え? え?)」

 佐為の前にゆっくりとひざまずく吉兎。

「お前は俺の何だ」

「あたしは佐為様の下僕でございます。何なりとお言いつけ下さいませ(体が勝手に……どうしたんだ、動かせない。それに何だ、口が……俺が佐為の下僕だぁ?)」

「よし、じゃあ俺の靴を舐めな」

「はい喜んで(うわぁ、佐為の靴を、やめろ……駄目だ、いやだぁ)」

 吉兎はひざまずいたまま顔を佐為の靴に向かって下ろすとぺろぺろと舐めた。

「ははは、よしよし、いい子だ」

(何で俺が佐為の靴を、ううう)

 うれしそうに佐為を見上げる吉兎。その顔は恍惚としていたが、彼の心は泣いていた。

「さて、アイニス、俺の言うことを良く聞け」

「はい、何でございましょうか(くそう、佐為め、だましやがったな…………駄目だ、何もできねぇ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 佐為の能力、それは皮を被って他人に成りすますだけではなかった。彼が一度着た皮を被った人間を、彼の下僕として自在に操ることができるのだ。まんまとその罠にかかってしまった吉兎。さて佐為はアイニスの姿になった彼をどうしようというのか。

「よし、さあてそれじゃあ俺も準備しなくちゃな」

 佐為はもう一枚の別な皮を取り出すと、自分もそれを被り始めた。






 さて、その頃修行場では新一の修行が終盤に差しかかっていた。

「さあ、新一さんもっと呼吸を整えて」

「はぁはぁ、ちょっと待ってくれ」

「修行した後正しい呼吸法で気を整えると、体の中に気がどんどん溜まっていくの。溜まった気は必ずあなたの体を修復してくれる。がんばってね」

「はぁはぁ、しかし修行がしんどくって」

「ふふっ、だいぶ慣れたでしょう」

「でも苦しいよ」

「兄さん、がんばって」

「初音……そうだな、よし」

 初音の言葉に励まされ、静かに呼吸を整える新一であった。






 夢幻館の隣には「伊奈薬局」という看板を掲げた薬局がある。その店主風太郎がその日の朝店のシャッターを上げていると、目の前を彼の良く知っている二人の人物が通り過ぎていった。

「おや、二人ともおはよう。しかしアイニスさん、なんだい朝からその格好は。」

 しかし二人ともその言葉を無視するように無言で通り過ぎると、夢幻館の中に入って行った。

「???? はて、二人ともどうしたんだ」




 夢幻館では、朝の仕事を一段落させたアイニスが自室で一服していたが、そこにある人物が入ってきた。

「……アイニス」

「あら静ちゃん、もう朝の修行は終わったの?」

「うん……ねえアイニス。ちょっとあなたに会ってもらいたい人がいるんだけれど」

 アイニスの後ろにゆっくりと回りこみながら話しかける佐登。

「え? 誰」

「さあ、入っていらっしゃい」

 部屋に入ってきた人物、それは……

「え! あたし?」

 アイニスの目の前に現れたのは、レオタードを身につけたもう一人のアイニスだった。

「ちょ、ちょっと静ちゃん、これどういう、ぐふっ!」

 振り向いたアイニスに当て身を当てる静。

「ふふふ、騙されたね、アイニス。さあてと」

 そう、この佐登静は佐登の皮を被った偽者だった。勿論中身は佐為だ。彼はアイニスの服を手早く脱がすとアイニスに別な皮を被せた。それは子猫の皮。小さなその皮の中にアイニスはすっぽりと入り、その体はみるみる小さくなってしまった。

「どうだいアイニス、本当に猫になった気分は。さあてお前は早くその服を着ろ」

「はい、ご主人様(くそぅ)」

「これで今日からお前が夢幻館の若女将アイニスだ」

「はい、うれしゅうございます(アイニス、アイニスが、くそぉ)」

「ニャォ、ニャー」

 目が覚めて自分の体が子猫になってしまったことに気が付いたアイニスはじたばたとあばれた。しかし背中を偽佐登に掴まれていては、成す術も無かった。






 それからしばらくの後、修行を終えた新一と初音が夢幻館に帰ってきた。

「アイニスさん、ただいま」

「二人ともお帰りなさい(違う、俺はアイニスじゃない。初音さん、これは偽者だ)」

「お帰り」

「あれ? 静さんもいるんですか? さっき別れたのに何処で追い越されたんだろう」

「ニャオ、ニャオ」

「あら、かわいい子猫。どうしたんですか」

「迷い猫よ。さっきから泣いてばかりでうるさいったら」

「まあ、かわいそうに」 

「ねえ初音さん、新一さん、これからみんなで一緒に山の社に行きません?」

「ええ? またあそこに? それに今帰ってきたばかりなのに」

「あら、行きましょうよ初音さん(行っちゃ駄目だ、気が付いてくれ初音さん、罠だ)」

「まあ、アイニスさんまで、ひっ!」

「え? どうした初音」

 突然、初音は背中にぞくりとするような冷気を感じた。そしてそれはじわりと背中から彼女の中に入っていく。

「あ、ああ、いやっ、ううう、ふぅ、い、いや何でもない。何でもないよ」

 突然ぶるぶる震えだして顔を伏せた初音は、すぐに顔をあげると佐登を見てにやりと笑った。

「佐登さん、私は一緒に行ってもいいよ。兄さん、ねぇみんなで行こうよ」

 初音は自分の胸元に視線をやり、にやーっと笑いながら佐登の意見に賛同した。

「そうか、うーん初音がそう言うんだったら」

 新一は初音、佐登、アイニスの言動に違和感を覚えながらも、皆がそう言うならと一緒に行くことにした。ちょっと怪訝そうな新一を先頭に、彼以外の3人は、にたにたと笑いながら夢幻館を出て行った。最後に玄関を出た初音に至っては、歩きながら時折自分の胸を弄ってはにやーっと口元を緩ませていた。






 夢幻館の隣には「伊奈薬局」という看板を掲げた薬局がある。その店主風太郎が店の前で水打ちをしていると、丁度4人が店の前を通り過ぎていった。

「おや、みなさんお揃いで」

 新一はちらっと風太郎のほうを見るとこくっと会釈をしたが、他の3人は彼を無視してそのまま通り過ぎて行った。

「???? はて、アイニスさんも佐登さんも今日は一体どうしたんだろう」

 そしてしばらくすると、再び佐登が歩いていった方向とは別な方角から歩いてきた。

「佐登さん、今日は忙しそうだね」

「ええ? あ、ああ、風太郎さん、おはようございます。それってどういうことですか」

「だってさっきから行ったり来たり、これで3度目ですよね」

「私ここを通るの今日初めてですよ」

「おっかしいなぁ。じゃあさっきのは誰だったんだ」

「それってもしかして!」

 佐登は慌てて夢幻館に駆けていった。

「……ほんと忙しい人だなぁ」





 夢幻館に飛び込んだ佐登だったが、アイニスの姿も新一や初音の姿も見当たらない。

「誰もいないの、アイニス、新一さん、初音さん」

「ニャオ、ニャオ」

「ん? どうしたんだろうこの子猫」

 部屋には誰もいなかったが、部屋の机には子猫が紐で繋がれていた。

 がりがり

「こらこら、ひっかかないで。あれ? お前泣いているの」

 子猫は佐登をじっと見詰めて涙をこぼしていた。

「うーん、何か様子が変ね」

 子猫は畳に前足で何かを書いている。

「え? お前字が書けるの? 何々、ア・イ・ニ・ス……アイニスが何処に行ったか知ってるの?」

 子猫はぷるぷると首を横に振った。

「ワ・タ・シ……え? まさか……あなたアイニス」

 子猫がこくこくと首を縦に振る。

「サ・イ・ニ・ヤ・ラ・レ・タ……何ですって!」

「フ・タ・リ・ガ・ア・ブ・ナ・イ……まさか新一君と初音さんが」

 またこくこくと首を縦に振るネコ。

「さては山の社ね。よし、行きましょう」

 佐登はアイニスネコの紐を解いて引っ掴むと夢幻館を飛び出した。






 夢幻館の隣には「伊奈薬局」という看板を掲げた薬局がある。その店主風太郎が店の前に商品を出していると、またまた佐登が駆けてくる。

「あれぇ? 佐登さん、ほんと忙しいね」

「ごめん、話している暇ないの!」

 駆け去る佐登の後姿を伊奈風太郎は呆然と見詰めていた。

「一体何なんだ。うーん」





 さて、その頃山の社に着いた4人が中に入ると、その本殿には一人の人物が静かに座っていた。それは杜氏九郎丸、いや喜生迦神だった。

「……きたな」

 その前にすっと進み出る初音。

「喜生迦神さまぁ、どうぞあたしを抱いてください」

「え!」

 驚く新一の目の前で初音はスカートを両手でゆっくりと持ち上げていった。そしてさらにショーツに手をかける。

「初音、やめるんだ。お前おかしいぞ、いったいどうしたんだ」

「兄さん、あたしわかったの。あたしの役目は喜生迦神に抱かれて愛されることだって」

「佐登さん、アイニスさん、初音を止めてくれ」

「ふふふっ、新一さん、良く見ているのよ。あなたの妹と喜生迦神が愛し合う様を」

「ええ? そんな、どうしたんだアイニスさん。佐登さんお願いだ、止めてくれ」

「あたしたち、やっぱり喜生迦神に従うことにしたの。ふふふ。そうだ、あなたもあたしたちが気持ち良くしてあげようか」

「や、やめてくれ」

 思わず後ずさる新一に向かってへらへら笑いながら佐登とアイニスがじりじりと近づいてくる。

「嘘だ、こんなことって、いやだ!」

 一方喜生迦神は初音に抱きかかっていた。

「さあ、初音よ、わしの精を授けよう。そうしてお前はわしと一体になるのだ」

「はい。ありがとうございます。喜生迦神と……ああ、楽しみ」

 初音はそのままショーツを脱ぎ捨てた。その顔は普段の初音からは想像もできない淫猥な表情に満ちている。

「初音、やめてくれ」

 妹の痴態に思わず目を背ける新一の後ろから彼の方に手が掛かる。佐登だった。

「あなたもどうかしら。新一さん」

 彼の顔を覗き込み、にやっと笑う佐登。

 こんな、信じられない。あの佐登さんが。

 新一は悪夢を見る思いだった。

「佐登さん、アイニスさん、正気に戻ってくれ。二人ともおかしいよ。二人がこんなことするはずがない」

「所詮八仙人はわしに協力するためにあるのだよ。佐登もアイニスもな。お前はもう一人ぼっちだ。大人しく妹がわしと交わるところを見ておるのだ」

「そんな、そんな。嘘だ。アイニスさん、佐登さん」

「あっははは、私たちは喜生迦神を助けるための存在。喜生迦神が初音を所望されるなら、私たちは彼女を差し出すまで。それに何よりも彼女自身がそれを望んでいるしね」

「ひどい、そんな、何かの間違いだ」

 しかし佐登もアイニスもにやにやと笑うばかりだった。初音のほうは喜生迦神に抱きしめられ恍惚の表情を浮かべている。

「黙って現実を受け入れることだな」

「そんな、ひくっ、ひくっ」

 拳を握り締めた新一の目から涙が溢れ、頬を流れ落ちる。それは床にぽたぽたと滴り落ちた。



(……初音さん)

「え?」

(初音さん、くぅ)

「誰?」

「どうしたの、アイニス」

 佐登がアイニスに声をかける。何時の間にかアイニスは笑うのを止めていた。そしてその顔は段々紅潮していく。

「あなた……あなたの主人はわたし。そうでしょうアイニス」

「はい、わたしは佐為さまのしも……ち、ちが、ちがう。俺は……俺は……うぉぉぉ〜!」

「ま、まさか、俺の術が」

「うぉぉぉぉ〜〜〜」

 アイニスの体の中から一筋、二筋と光がほとばしる。やがてアイニスの体は全身光に包まれ、それはアイニスの体、いや皮を粉々に弾き飛ばした。

「あ! アイニスさん、いや違う」

 粉々の皮の中から現れたのは、裸の吉兎守だった。

「はぁはぁ、くそっ、佐為、お前よくもよくも」

「え? 佐登さんが佐為?」

「くそう、まさか俺の術が破れるとは。吉兎、お前もやっぱり八仙人の一人だな」

「能書きはたくさんだ。それ以上佐登の姿をしていたら許さんぞ。早く元の姿に戻れ」

「ほう、そんな格好でどうしようっていうんだい」

「こういうことだ。うぉ〜〜〜」

 再び守の体が光に包まれた。そしてその光は守の両手に集まってくる。

「いっけぇ!」

 守は光の塊を佐登、いや佐登の皮を被った佐為に投げつけた。

「ぎゃっ!」

 光の塊は佐為にぶつかると、佐登の皮を粉々に吹き飛ばした。その中から現れる佐為。そして再び守の手に光が集まる。

「よ、よせ」

「初音さんをこんな目に……そして俺がどんなに屈辱的な思いを味わったか、アイニスが辱められたか。決して許さんぞ」

「悪かった、俺が悪かったよ」

 守の怒りに気押される佐為。

「弾けろ、俺の結界!」

 さっきよりもさらに大きくなった光の玉を吉兎が再び佐為に向かって投げつける。

「ぐはぁ!」

 佐為はその光の玉に包まれる。

 ぴかっ!

 光の玉はやがて一層明るくきらめくと、そこで爆発した。

 しゅぅしゅぅ〜〜〜

 光のきらめきが治まった時、そこには意識を失った佐為が倒れていた。





 その時、佐登と一匹の子猫が本殿に飛び込んできた。

「みんな、大丈夫」

「おお、遅いぞ佐登」

「え? きゃっ、なんで吉兎くん裸なのよ」

「そんなことより、早く初音さんを助けてくれ」

「え? え! どうしたの初音さん」

「あたし? あたしは喜生迦神に抱いてもらうのよ」

 喜生迦神に抱かれた初音は、佐登を見てにやりと笑いながら喜生迦神の胸に顔を埋めていた。

「どうしてそんな………待てよ……そうか、あなた鄭羅ね。初音さんがそんなこと言うわけがない。初音さんに乗り移って何てことを。」

「え? さあてね。あたしは初音だもん。ふふっ、ねえ喜生迦神さまぁ」

「さあ、来い」

「はい、喜生迦神さま」

 脚を喜生迦神の体に絡めようとする初音。

「や、やめなさい」

 佐登は神剣を抜いた。

「そんなものわたしには効かんぞ。じゃがここでは落ち着かん。場所を移すとするか」

 そう言ったかと思うと、喜生迦神と初音の体は陽炎のように揺らめいて、その場から消え去ってしまった。

「しまった!」

「佐登さん、初音は」

「喜生迦神と一緒に何処かに……」

「そんな、初音……」

「大丈夫、あたしたちが必ず探し出す」

「ニャオ、ニャオ」

「おい、その猫」

「ああ、吉兎くん、この子猫ってどうもアイニスみたいなの」

「佐為は倒してるから、もしかして元に戻れるんじゃないのかい」

「そうか、よし」

 佐登は神剣を子猫に向かって一閃した。

 ぺろっと左右に切り裂かれる子猫の皮。そして中からアイニスが現れると、元の大きさに戻っていった。

「ああ、ひどいめにあった。全く佐為の奴ったら許せない」

「佐為ならそこで伸びているぜ」

「あら」

「まあ当分目を覚まさないだろう。それよりアイニス」

「え?」

「人のことは言えないが、何か着たらどうだ……と言ってもここには何もないのか。ひひひ」

「あ! きゃぁ! もういやだぁ」

 胸を抱えてうずくまるアイニス。そんなアイニスを見てにやける守。

 どかっ!

「う、うーん……」

「全くデリカシーのない奴。しばらく死んでなさい」

 佐登の神剣の柄で思いっきり殴られた守は頭に大きなたんこぶを作ってのびてしまっていた。

「佐登さん、アイニスさん、二人とも」

「ええ、あたしたちは間違いなく本物よ。新一さんごめんね、こんな目にあわせてしまって」

「俺はいいんだ。それよりも早く初音を」

「そうね、ぐずぐずしていると喜生迦神が」

「ええ、急ぎましょう」

 守がのびているのを見てすっくと立ち上がるアイニス。その体は白い毛に覆われていた。そして頭とお尻からは猫の耳と尻尾が生えてくる。

「決戦だニャァ」





(取り敢えず了)

                             2003年10月27日脱稿





後書き

 inaxさん10万ヒットおめでとうございます。お忙しいでしょうが、これからもサイトの運営がんばってくださいね。
 さて、この作品はサイトの10万ヒット記念連作として書いている「十萬田兄妹と温泉の八仙人」シリーズの5作目になります。10万ヒットというキーワードでサイトを越えて連載という試みですが如何でしたでしょうか。
 今回は前回こうけいさんの所に投稿した作品の続きになりますが、ちょっとダークな趣きになってしまいました。ちょっと「WindShear」の雰囲気に合わなかったかもしれませんね。次回は何とか完結させたいなぁと思っているのですが、さてどうなりますやら。
 それではお読み頂きました皆様、どうもありがとうございました。

 toshi9より感謝の気持ちを込めて。




 
付録:八仙人の子孫(前回より少しバージョンアップしています)

十萬田兄妹擁護派
 「佐登静」  :さとしずか。神剣の使い手。神剣を自在に呼び出し使いこなす。
 「愛爾e壬翔」:あいにすみか。通称アイニス。動物霊使いで自ら変身する。猫霊を好んで使う。
 「指五六郎」 :さしごろくろう。拳法の達人。得意技は「輝指弾」。
 「吉兎守」  :よしとまもる。結界の達人。今回結界を凝縮し攻撃に用いる技を身に付ける。

『喜生迦神』派
 「杜氏九郎丸」:としくろうまる。神降ろし。『喜生迦神』を降ろし強力な術を使うようになった。
 「鄭羅志郎」 :ていらしろう。幽体離脱師。修行を積んで憑依師にレベルアップしたらしい。
 「佐為啓介」 :さいけいすけ。符術師。最近写真機を駆使する皮師にジョブチェンジしたらしい。
 「狭霧達彦」 :さぎりたつひこ。式神使い。自ら描いた絵を式神として様々に使いこなす。


そして八仙人ではありませんが、今回の特別出演です(笑)
 「伊奈風太郎」:いなふうたろう。佐登の高校時代の同級生。伊奈薬局の若店主。


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