天使のトレカ
作:inax
気持ちよく晴れた秋の午後、雑然としたデザイン部のオフィスの中では鈴木主任と山口君がにらみ合っています。いったいどうしたんでしょう?
「よおぉっし、この勝負もらった!
魔力源を4使用して『雷電妖精』を召還! そのまま『緑の女神』に攻撃!
これで、『緑の女神』はなすすべなく墓場行きだな? その上で『エルフの射手』の能力を使うぞ、効果は、、、
<守備するクリーチャーが無い時に限り任意のクリーチャーまたはプレイヤーに2点のダメージを与える>
んだな。そーれプレイヤーに2点ダメージだ。死んだろ?」
「ががーん、主任〜、『雷電妖精』を持ってるなんて読めませんでしたよ。参りましたぁ」
「けっけっけ。もっと精進したまえよ。自社製品で一般プレイヤーに負けたらわりと恥ずかしいからな」
どうやらこの2人、うちの会社で今度発売する新手のトレーディングカードゲーム「エンジェル・ザ・ガーディアン」のテストプレイをやってたようですね。発売されたらみんな買ってね。あ、宣伝しちゃいましたね。
ところで、トレーディングカードゲームってご存知ですか? アメリカ生まれのMt:Gっていうゲームがルーツで、、、まあ、歴史の話は置いといて、ゲームの手順を簡単に言うと、こんなのです。
たくさんの種類の中からランダムに選ばれたカードのパッケージを買ってきて、それを組み合わせて手札の組(デッキ)を作ります。カードにはモンスター(クリーチャー)とか呪文とか魔力源とかいろいろな種類があるんですけど、それぞれのカードに書かれた能力を使って相手のプレイヤーの生命力を先にゼロにしたほうが勝ち。
ルールは単純なんですけど、カードの文面にバリエーションを持たせられるんで、いろんな戦術が楽しめるんですよ。若い人には将棋やチェスよりも人気ですからね。それに、カードがランダムにしか手に入らないからカードをたくさん買わないと思ったようなデッキができないんですよ。だから、ハマッちゃった人はカードを何箱も買ってくれて。。。と、これで発行元が”うはうは”になるわけですね。
日本ではK波っていうライバル社が出してるU戯王とかいうゲームが流行ってて、業績がうちとはだいぶ差が付いちゃったんですね。それでうちの社長が焦って開発を命じたのが「エンジェル・ザ・ガーディアン」なんです。そのままでははっきり言って、二番煎じですよね。じゃあ付加価値を付けようってことになって考えたのが、ホログラフィーをカードに埋め込むというアイデアなんです。台座のついたOHP(オーバー・ヘッド・プロジェクタ)みたいな専用の投影機の上で対戦(デュエル)をやると立体映像が動画で投影機の上に浮かびあがるんですよ。U戯王の漫画の見過ぎって感じ〜ですよね。でも、結構出来がいいんですよ。ほら、動いてるでしょ? って、見えないか。
ということで、さっき、配達されたばかりの投影機の試作1号機を私、千秋ちゃんが2人のところにお届けするところなんですよ。すいません、前置きが長くなりましたね。では、、、
「主任さん〜、投影機の試作品が届きましたよ〜」
「おっ、千秋ちゃん、サンキュー。すげぇ重厚感のある投影機だなぁ、こんなん作っててうちは採算取れんのかよ(笑)さーて、山口。もういっぺんこいつを使ってデュエるぞ!」
「わかりましたよ、主任。今度は負けませんからね」
早速、2人はデッキを組みなおし始めました。鈴木主任は白と黒の魔力源を使った天使と悪魔の混成デッキですね。対する山口君は緑と赤の魔力源を使った動物大暴れ+燃やしちゃえデッキというわけですか、なかなか面白い対戦になりそうです。
「よし、先行は僕からやらせてもらいますよ。まずは緑の魔力源を展開! それを使って『猫娘』を召還します!」
宣言とともに山口君は投影機の上にカードを置きました。すると、カードに組み込まれたホログラフィーから『猫娘』の立体映像が立ち上がります。全体の3分の1のカード――もちろん、この『猫娘』も――を一人でデザインした山口君は感極まって叫びました。
「うほーーー!僕の猫耳メイランちゃんだぁ!メイランちゃんが動いてるようぅぅ」
「(笑)なんだよ、そのメイランちゃんってのは。それにしてもすんばらしい品質だな」
私にも、2人が感動するのが納得いきます。猫娘はまるで本当にそこにいるかのように見えますし、さらには肉球の付いた自分の手を舐めて、顔まで洗っているではないですか!
「すげーよー、これ絶対売れるよ。キャッチフレーズは一家に一台、猫耳の居る生活、だな」
しょうもないことをいいながら鈴木主任は黒の魔力源を展開し、『とんがり小悪魔』を召還しました。角の生えた黒くて小さい娘悪魔ですが、あんまりかわいくないなあ。
「さて、ボクのターンですね。まずは赤の魔力源を展開! それからメイランちゃんで攻撃です」
「じゃあ、『とんがり小悪魔』で防御するぞ」
2人の宣言が終わると『猫娘』が『とんがり小悪魔』に襲い掛かりました。『猫娘』は『とんがり小悪魔』の顔を引っかき、首に噛み付いて1ダメージを与えました。『とんがり小悪魔』も『猫娘』に頭突き攻撃で1ダメージです。どちらも倒れません。
しかし戦闘が終了した後、立体映像を見た鈴木主任は驚きの声を上げました。
「おおっ、俺の小悪魔に猫の耳が生えてるぞっ」
「ははは、メイランちゃんの特殊能力なんですよ、カードには
<ダメージを与えた対象に猫娘カウンターを乗せる。カウンターが1個のとき対象には猫耳が生える、カウンターが2個のとき対象には猫しっぽが生える、カウンターが3個になるとカウンターを取り除き、対象は完全に猫娘となる。>
ってありますからね。普通は『晴天竜』なんかの強いクリーチャーを『猫娘』にされたら困るでしょ? 僕は嬉しいですけどね」
「お前は、デザインに自分の趣味を入れすぎなんじゃ!」
「とりあえず、今は『小火球』の呪文で猫耳小悪魔には消えてもらいましょうか、残念だけど、ばいばい」
山口君に『小火球』の呪文をぶつけられた小悪魔ちゃんは燃え尽きて消えてしまいました。
次のターン、鈴木主任は守備用のクリーチャーを召還することができず、魔力源だけ展開しておしまい。山口君はほくそえみました。
「主任〜、守備クリーチャーがいないと主任に攻撃が当たっちゃいますよ〜、それっ」
山口君の指令で『猫娘』は鈴木主任に襲い掛かります。ばりばりと顔を引っかいて1ダメージ。
「うげぇ、リアルすぎて痛みさえ感じそうだぜ。あれ、なんだ俺の頭になんか付いてるぞ?」
「うわ、主任の頭に猫耳が付いてますよ! この投影機すごいですね、プレイヤー側にも投影できるんだ!!」
「主任さん〜、結構かわいいですよ」
「よせやい、照れるぜ。ま、どうせただの立体映像だからついてても構わんけどな」
山口君は『鳥娘』を召還してそのターンを終えました。しかし次のターンも鈴木主任は魔力源を出せたのみ。よっぽどカード運がよくないようです。山口君はもちろん『鳥娘』と『猫娘』で攻撃をかけます。主任さんにはついにしっぽも生えてしまいました。さらに次のターン、鈴木主任はしっぽをぴこんぴこんと上下させながらうなります。
「ぐわーっ、引きが悪すぎる! 今回もまた魔力源だけだ」
「じゃあ『雷電妖精』を呼んで、3人で攻撃しますね」
『鳥娘』は上空から石を落とし、『雷電妖精』は体をくねらせて放電しています。そしてついに『猫娘』の3回目の攻撃が鈴木主任に命中しました。
ぴか!
その瞬間、鈴木主任の体がぴかりと光ったかと思うと、鈴木主任のいたところには一人の、いや一匹の猫娘がいるだけなのでした。
「あ、あれ。主任・・・ですか? 」
「あたりまえじゃねぇか。他に誰だっていうんだ?」
「でも、どう見てもメイランちゃんにしか見えないんですが。。。」
「ああ、つくづくすげえホログラフィーだなぁ、俺の体じゃねぇみてぇに見えるぞ。手にも肉球だぜ。ま、いいか、ゲームを続けるぜ」
私には信じられませんでした。近づいて見ても肌理の細かいお肌には一片のノイズも見られません。それに主任の体はもっと大きかったはずなのに、あの猫娘はせいぜい身長140cmくらいでしょうか。大きいものを小さく見せるようなホログラフィーがあるわけ無いじゃないですか!
それでも当の主任はただの映像だと信じているので、全く気にしていないようです。自分の手札とにらめっこしています。しかし、鈴木主任のライフポイントはもう1しか残っていません。ようやく手に入った召還クリーチャーを呼んでも、次の山口君の攻撃をすべて止めることはできません。それに、山口君のライフポイントはまだ満タンの10ポイントもあるのです。手札には呪文カードがいくつか。逆転できるんでしょうか。
「見えたっ! うりゃ、こうだ! まずは『フェラの天使』を召還! そして、『フェラの天使』を生け贄にささげて、呪文を使うぞ!」
鈴木主任が勢い良く投影台に叩きつけたのは『変身』のカードでした。えーと、効果は何でしたっけ。
<コスト:魔力白1、クリーチャーを一体生け贄にささげる。
効果:対象を生け贄にささげたクリーチャーと同じ姿に変える。攻撃力、ライフポイントも同一となる>
「それで、この呪文の対象となるのは君だよ。山口君!」
「え、え、僕、このカードのテキスト書いたときは対象を任意のクリーチャーに限定したはずなんですけどー。プレイヤーがクリーチャーになっちゃったらお話にならないでしょ?」
「あー、そうか誤植なのか。でもそれは言い訳にならないよ、誤植をしたのは君だし、原則的にはテキストの記述どおりに処理するものだからね」
「そんな、殺生な・・・」
「ということで、『変身』、発動〜」
ぴか!
またもや投影機から光が放たれ、山口君の体全体が光りました。目もくらむような閃光だったので私はとっさに目を閉じ、、、おそるおそる目を開けるとそこに居るのは女の子? いや、ただの女の子ではありません、長い金髪、憂いを含んだ青い瞳、そして背中に生えた純白の大きな翼と金色に光る頭上の輪は『フェラの天使』のデザイン画と寸分足りとも違いありません。
「よし、変身したな。じゃあ、呪文、『生命吸収』2ポイントだ。これで俺の勝ち!」
投影機がゲーム終了を告げるファンファーレを鳴らしました。投影ランプの電源が切れ、投影機上の立体映像も薄れて消えていきました。
・
・
・
「あれ、ゲームが終わって投影機も落ちてるのに、主任の姿まだメイランちゃんのまんまですよ?」
「そういう君こそフェラ天の姿だぞ?」
「おかしいなあ。電源が落ちてないのかなぁ。。。声もおかしい感じだし」
「なんかじゃまそうだからその羽をはずしたらどうかね?」
「あ、そうですね。って、ホログラフィーなんだからつかめるわけ無いじゃないですか」
しっか
背中の羽はしっかりと掴めてしまうのでした。
「あ、あれ、触れるよ、この羽。。。引っ張ると痛いし。。。」
主任も自分の耳としっぽをいじりまわしていました。
「山口君、これ、取れないぞ」
二人はさらに自分の胸を見つめます。ちょん、ちょん、くにょくにょ、と触ってみると胸からはなんともいえない、今まで感じたことの無い不思議な心地よさが伝わってきました。
二人ははたと顔を見合わせ、、、
「「うぎゃーーーーーーーーーーーーーー!」」
天使と猫娘は声をそろえて悲鳴をあげたのでした。
・・・
「千秋さーん。メーカーさんから投影機の試作品が届きましたよー。配達が遅れてすみませんって平謝りでしたよ」
「え、それってどういうこと?試作品ならさっき確かに受け取って・・・」
テーブルを見るとその上にあったはずの投影機はどこにも見当たらないのでした。これが本当の試作品ならさっきの投影機はなんだったのでしょうか?? 結局、最初の投影機はどこを探しても見当たりませんでした。
その後、他のテストプレイヤーが何度も”本物の”投影機を使ってプレイしましたが、プレイヤーが変身することはありませんでしたし、山口君も鈴木主任も何度もプレイを繰り返したのですが、元に戻るようなことはなかったのです。
・・・
開き直った山口君と鈴木主任は天使と猫娘の姿でマーケティング活動に奔走しました。「天使のデザインしたトレーディングカードゲーム!」のキャッチフレーズで大々的に売り出しまして、販促会場でも握手会なんかしたものだから大評判。天使と猫耳のペアが出演するTVCMも大好評をはくし、テレビ局には問いあわせの電話がひっきりなしにかかってきたようです。2人ともアイドルデビューしないか、なんてオファーもあったらしいですよ。もちろん、新商品「エンジェル・ザ・ガーディアン」は売れまくってしまいましたとさ。
ほら、ここにも大きなお友達からのファンメールがたくさん届いています。
>その翼本物なんですか?
>猫耳タン萌え〜
>あなたの天使の輪で僕を絞め殺してくださいぃ
>にくきぅ〜〜〜〜
>フェラ天様(´Д`)ハアハア
>猫娘になりたいので僕に噛み付いてください
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しばらくはうちの会社も”うはうは”が続きそうですよ。
TSシステムエンターテイメント株式会社
デザイン部付秘書 田代 千秋
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